日本では、建物を売る・貸す事業者に省エネ性能の表示を求める制度があります。英国(イングランドとウェールズ)はその先を行っていて、省エネ性能証明書(EPC)の等級が基準に届かない賃貸住宅や貸しビルは、規制の対象となる物件であれば原則として貸すことができません。この「賃貸の省エネ最低基準」をMEES(Minimum Energy Efficiency Standards)といいます。 現行の下限はEPC Eです。政府はこれを、住宅は2030年10月1日からEPC C、1,000㎡を超える貸しビルなどの非住宅は2031年からEPC Bに引き上げる方針を示しています。そして2026年11月4日、守らせる仕組みを強くする法案が議会に提出されました。住宅の罰金の上限を5,000ポンドから3万ポンドに上げ、非住宅には立入検査の規定を加える内容です。 政府回答と法案の条文から中身を整理し、最後に日本の省エネ性能表示制度との違いをまとめます。
① 英国(イングランドとウェールズ)では、MEESの対象となる民間の賃貸住宅・賃貸の非住宅のうち、EPCがE未満のものは、有効な免除を登録しない限り貸すことができない(住宅は2020年4月から既存の契約も、非住宅は2023年4月から既存の契約も)。
② 住宅は2030年10月1日からEPC Cに引き上げる方針(2026年1月21日の政府回答)。外皮の性能をまず満たし(または免除を登録し)、次に暖房設備かスマート対応のどちらかを満たす2つの指標で判定する。改修費の上限は1物件1万ポンド(現行3,500ポンド)。
③ 非住宅は2031年から、1,000㎡超の賃貸建物にEPC B(費用対効果がある範囲で)を求める意向(2026年6月18日の中間回答)。1,000㎡未満はEPC Eのままで、2027年にEPC Cとする中間目標は撤回した。
④ 2026年11月4日に下院に出たEnergy Independence Billの附則9は、住宅の罰金の上限を5,000ポンド→3万ポンドに上げ、シェアハウス型の住宅(HMO)への適用、非住宅の立入検査、家主が義務を果たすまで賃貸の募集を止める規則、情報のデータベースを、規則で定められるようにする。法案は第1読会を終えた段階で、成立していない。
⑤ 引上げ後の住宅のEPC Cは、2つの新しい指標(外皮性能と、暖房設備かスマート対応のどちらか)で判定する。その指標を載せた新しいEPCの開始は、2027年後半に延期されている(2026年3月9日)。
⑥ 日本の省エネ性能表示制度は、販売・賃貸時の表示の努力義務で、既存の賃貸物件に性能の下限はない(当社の確認範囲)。英国の例は、表示の仕組みが「貸せる・貸せない」の線に使われるところまで進んだ姿として読める。
英国のEPC(Energy Performance Certificate)は、建物の省エネ性能を等級で示す証明書です。イングランドとウェールズでは、賃貸に出すときにEPCが法律上必要な建物のうち所定の賃貸借によるもの(住宅は assured tenancy・regulated tenancy・domestic agricultural tenancy の3種類)について、エネルギー効率規則(Energy Efficiency (Private Rented Property) (England and Wales) Regulations 2015)がMEESを定めています。中身は単純で、EPCの等級がE未満の物件は、有効な免除を登録しない限り貸してはいけない、というものです。
ただし「どんなに費用がかかっても直せ」という仕組みではありません。住宅には改修費の上限(cost cap)があり、上限まで手を尽くしても届かなければ、免除を登録して貸し続けられます。非住宅には、7年で元が取れない改修は求めない「7年回収テスト」があります。免除は国の登録簿(PRS Exemptions Register)に登録し、だれでも検索できます。
表1|現行のMEES(イングランドとウェールズ)
| 項目 | 住宅(domestic) | 非住宅(non-domestic) |
|---|---|---|
| 下限 | EPC E | EPC E |
| 適用の始まり | 2018年4月1日以降の新規の賃貸。2020年4月1日から既存の契約も | 2018年4月1日から新規・更新・延長の契約。2023年4月1日から契約の変更がなくても |
| 費用の歯止め | 改修費の上限3,500ポンド(付加価値税込み)。2017年10月1日以降の改修費を算入できる | 7年回収テスト(7年分の光熱費の削減見込みが費用に届かない改修は求めない) |
| 罰金(上限) | 3か月未満の違反2,000ポンド、3か月以上4,000ポンド、登録簿への虚偽1,000ポンド、遵守通知に従わない2,000ポンド。1物件の合計は5,000ポンドまで | (本記事では扱っていません) |
| 執行する機関 | 地方自治体(local authority) | 地方の計量・度量衡の担当機関(Local Weights and Measures Authorities) |
出典:DESNZ「Domestic private rented property: minimum energy efficiency standard - landlord guidance」「Non-domestic private rented property: minimum energy efficiency standard - landlord guidance」(いずれもGOV.UK)。非住宅のMEESは、原則として、当初の期間の定めが6か月を超え99年未満の賃貸借が対象です(6か月以下でも、更新・延長の条項がある場合などは対象になります。同ガイダンス)。要旨は当社の訳です。
英国政府がMEESを引き上げる理由として挙げているのは、まず燃料貧困(fuel poverty)です。政府回答によると、イングランドの民間賃貸住宅は住宅の種類の中で燃料貧困の割合がいちばん高く、2024年はこの区分の世帯の22%が燃料貧困とされ、これはイングランドの燃料貧困世帯全体の36%に当たります。賃借人は建物に手を入れられず、光熱費を払わない家主には断熱に投資する動機が乏しい。この「ねじれ」を規制で埋めるのがMEESの考え方です。
民間の賃貸住宅については、政府が2026年1月21日に意見募集(2025年2月7日〜5月2日)への政府回答を出し、方針を確定させました。柱は次の4つです。
1つめは期日です。意見募集では「新規の契約は2028年から、すべての契約は2030年まで」の段階案でしたが、2030年10月1日の1本にまとめました。それまでは現行のEPC Eが続きます。
2つめは判定のしかたです。引上げ後の基準は、いまのEPCの等級(Energy Efficiency Rating)ではなく、改革後のEPCに載る新しい指標で判定します。まず外皮の性能(fabric performance)の基準を満たすか、満たせない部分の免除を登録し、次に暖房設備(heating system)かスマート対応(smart readiness)のどちらか一方の基準を満たす、という2つの指標の方式です。どちらを選ぶかは家主の判断です。外皮では空洞壁や屋根裏・床下の断熱、すきま風の対策、複層ガラスが、スマート対応では太陽光発電・蓄電池・スマートメーターが、暖房設備ではヒートポンプや低炭素の熱供給への接続が例に挙げられています。政府は「ヒートポンプへの交換を義務づけるつもりはない」と明記し、動いているガスボイラーを替えずにスマート対応の側で満たす道を残しました。
3つめは費用の上限です。意見募集では1物件1.5万ポンドの案でしたが、1万ポンドに下げました。上限まで改修しても基準に届かなければ、10年有効の免除を登録して貸し続けられます。影響評価の推計では、基準に届いていない物件の平均の支出は5,400ポンドです。
4つめは移行の扱いです。2029年10月1日より前に、いまの指標(Energy Efficiency Rating)でC以上のEPCを取った物件は、そのEPCの期限が切れるか差し替わるまで、新しい基準に適合しているとみなします。早めに手を打った家主が損をしないようにするためです。
表2|民間賃貸住宅のMEESの引上げ(2026年1月21日の政府回答)
| 項目 | 意見募集の案(2025年2月) | 政府回答で決めたこと |
|---|---|---|
| 期日 | 新規の契約は2028年から、すべての契約は2030年まで | 2030年10月1日の1本(新規の契約だけ早める期日は設けない) |
| 判定の指標 | 改革後のEPCの新しい指標を使う案 | 外皮性能の基準を満たすか有効な免除を登録し、次に暖房設備かスマート対応のどちらか(家主が選ぶ) |
| 改修費の上限 | 1物件1.5万ポンド | 1万ポンド(2つの指標の合計)。2025年10月1日以降の、EPCや専門家が推奨する改修の費用を算入(2025年10月1日〜2029年9月30日に、現行のEPC〔RdSAP〕が推奨する改修に使った費用は、化石燃料の暖房の設置費を除く)。国の補助など第三者の資金も算入できるが、ヒートポンプの補助(Boiler Upgrade Scheme)は除く。上限は5年ごとに見直し(初回は2030年10月1日の後) |
| 上限に届いたときの免除 | 免除の期間を10年に延ばす案 | 「cost cap」免除は10年有効 |
| 低価格の物件 | 負担能力に応じた免除を検討 | 評価額10万ポンド未満の物件は、上限を評価額の10%に下げる |
| 移行 | 現行のEPCでC以上の物件を認める案 | 2029年10月1日より前のEPCでC以上なら、そのEPCの期限が切れるか差し替わるまで適合とみなす |
| EPCの取り直し | 改修の前に新しいEPCを取る案 | 移行の扱いで適合とならず、新しい指標で適合させるために改修する物件は、改修の前と後に新しいEPCを取る。その費用は、法令で定める範囲で上限に算入できる |
| 短期の貸し出し | 対象にするかを質問 | 当面は対象外(将来対象にできる権限は法律で求める)。ここでいう短期の貸し出しは、主に占有許可(licence to occupy)による宿泊などで、契約期間が短いという意味ではない |
| 罰金 | — | 1物件・1違反あたり最大3万ポンド(そのために法律の改正が必要) |
出典:DESNZ「Improving the energy performance of privately rented homes: government response」(2026年1月21日)の Executive summary・Summary of final policy・各設問への回答。影響評価の推計として、2030年までに最大41.5万世帯が燃料貧困から抜け出し、約175万戸が改修を受けるとしています。要旨は当社の訳です。
表2の「外皮性能」「暖房設備」「スマート対応」は、改革後のEPCに載る新しい指標です。政府は2026年1月21日、住宅のEPCの見出しの指標をエネルギー費用・外皮性能・暖房設備・スマート対応の4つにすると決め、計算方法を現行のSAPからHome Energy Model(HEM)に替えるとしました。ただ、どの値でC等級とするかの線引きは、HEMの開発を終えてから確定するとしています。政府回答の時点では新しいEPCを2026年10月から出すことを目指していましたが、2026年3月9日に、開始を2027年後半に延ばすと公表しました。英国の住宅の計算方法の切替(SAPからHEMへ)は、当社の記事「英国の住宅の省エネ計算方法の切替」でも扱っています。
非住宅のMEESの引上げは、長く宙に浮いていました。政府は2019年の意見募集で「2030年にEPC B」を提案し、2020年のエネルギー白書でこの方向を確認、2021年には実施方法の意見募集をしています。その最終的な答えが出ないまま、2026年6月18日に中間回答が出ました。
中身は、対象を大きな建物に絞ったことです。2031年から、イングランドとウェールズの1,000㎡を超える民間の賃貸建物は、費用対効果がある範囲でEPC Bを満たす必要がある、という提案です。1,000㎡未満は現行のEPC Eのままで、それより上げる期限は設けません(ちょうど1,000㎡の扱いは中間回答に書かれていません)。中小企業や商店街の小さな物件の家主には、時間をかけて改修できる柔軟さを与える、と説明しています。以前に提案していた2027年のEPC Cの中間目標は採りません。7年回収テストと免除の仕組みはそのまま残します。
効果の見込みとして、大きな賃貸建物のテナントの光熱費が2031年に最大年3.6億ポンド減るとしています。ただし、EPC Bへの引上げは二次立法が議会を通ってはじめて効力を持つとされ、1,000㎡の線をどう運用するかの詳細は、これから出る政府回答で示すとしています。なお、EPCの改革で見出しの指標が4つに増えるのは住宅で、非住宅のEPCは今の見出しの指標を続けると政府は決めています(2026年1月21日の部分回答)。
表3|非住宅のMEESの方針の移り変わり
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 2018年4月/2023年4月 | EPC E未満の賃貸を禁止(新規・更新の契約→すべての契約) |
| 2019年〜2021年 | 意見募集で「2030年にEPC B」を提案。2020年のエネルギー白書で方向を確認し、2021年に実施方法の意見募集 |
| 2026年6月18日 | 中間回答:2031年から1,000㎡超はEPC B(費用対効果がある範囲で)。1,000㎡未満はEPC Eのまま。2027年のEPC Cの中間目標は撤回。7年回収テストと免除は維持。二次立法の議会通過が条件 |
| 2026年11月4日 | 法案のファクトシートで、2031年・1,000㎡超・EPC Bの方針を改めて確認。法案自体は、検査・データ・執行機関の権限を加えるもので、「新しい基準や費用を課すものではない」と説明 |
出典:DESNZ「Minimum Energy Efficiency Standards (MEES) in the non-domestic Private Rented Sector: interim response」(2026年6月18日)、同「Non-domestic Private Rented Sector minimum energy efficiency standards: EPC B implementation」(意見募集のページ)、法案ファクトシート「Non-domestic Private Rental Sector Minimum Energy Efficiency Standards enforcement」(2026年11月4日)。3.6億ポンドは、DESNZのモデルによる推計で、今後精査するとされています。
2026年11月4日、エネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)はEnergy Independence Billを下院に提出しました(Bill 176、第1読会)。法案は、電力・ガスの市場と料金、北海の石油・ガスの新規鉱区の停止、送電網の整備なども扱っており、建物の省エネに関わる規定はその一部です。そのうち第173条と附則9が、MEESの根拠になっているエネルギー法(Energy Act 2011)の第1部第2章を改正します。
政府が法改正を必要とする理由は、規則だけでは執行の権限が足りないことです。住宅のファクトシートは、自治体での試行や評価の結果、規則(二次立法)だけでは足りず、一次立法で執行の権限を整える必要があると分かった、と書いています。非住宅のファクトシートは、権限がないまま執行が弱いと、各カーボンバジェットでこの政策の炭素削減効果が推計26%目減りするとしています。
表4|法案の附則9がエネルギー法(2011年)に加えるもの
| 項 | 見出し | 内容(要旨) |
|---|---|---|
| 2 | 住宅:占有許可 | 「占有許可(licence to occupy)」による住まいも、規則の対象にできるようにする。政府は、短期の貸し出しへの適用は当面行う予定はないとしている |
| 3 | 住宅:HMO | シェアハウス型の住宅(住宅法2004年のHMO)に規則をどう当てはめるかを、規則で定められるようにする。建物の一部も「物件」に含める |
| 4 | 住宅:評価 | 適合を示すための評価(EPCの取得など)を、規則が定める目的では「改修」として扱えるようにする(政府回答の「EPCの費用を上限に算入」に対応) |
| 5 | 住宅:罰金の上限 | 第45条(3)の「5,000ポンド」を「3万ポンド」に置き換える |
| 6 | 非住宅:立入検査 | 規則が物件に適用されるか、家主が守っているかを確かめるための立入検査を規則で定められるようにする(検査する人、検査の理由、日時、家主に立入りを認めさせることなど) |
| 7 | 賃貸の広告 | 家主がMEESの義務を果たすまで、だれもその物件を「貸し出し中」として売り込めないようにする規定を、規則で置けるようにする(住宅・非住宅とも) |
| 8 | 情報の提供と利用 | 規則の要件に関する情報をデータベースに提供・保管させ、規則が定める目的に使えるようにする(住宅・非住宅とも) |
| 9 | 執行する機関 | 執行の主体を「執行機関(enforcement authority)」とし、自治体のほか、国務大臣が適当と認めて規則で定める者も含める(住宅・非住宅とも) |
出典:Energy Independence Bill(Bill 176 2026-27, as introduced)第173条・附則9(第10項は用語の参照先の更新のため省略)。法案ファクトシート(住宅・非住宅のMEES)。要旨は当社の訳です。法案の第185条(4)は、第173条と附則9を、第185条(3)(s)で別に施行される部分を除き、法律の成立から2か月後に施行すると定めています。
表4で目を引くのは第7項です。家主がMEESの義務を果たすまで、貸し出しの募集そのものを止める規定を規則で置けるようになります。ただ、2026年1月の政府回答は、仲介業者や不動産ポータルに適合物件だけを広告させる義務は、データが整うまで「現時点では実施しない」としています。法案は規則を作るための権限を定めたもので、その規則をいつ作るか、仲介業者などへの義務をいつ始めるかは、今回確認した資料には書かれていません。
罰金の3万ポンドは、改修費の上限1万ポンドより大きくなるよう決めた額だ、と住宅のファクトシートは説明しています。「直さずに罰金を払うほうが安い」状態をなくすという設計です。現行の上限5,000ポンドは改修費の上限3,500ポンドより大きいものの、差はわずかでした。
英国のMEESは、法律(一次立法)が権限を与え、規則(二次立法)が中身を決める二段構えです。今回の法案は前者で、2030年のEPC Cや2031年のEPC Bそのものは、後から出る規則で決まります。政府が示している主な日付を並べると、表5のとおりです。
表5|英国の賃貸のMEESの日程(政府が示している範囲)
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 2025年10月1日 | 住宅:この日以降の、対象となる省エネ改修の費用を1万ポンドの上限に算入できる(条件は表2) |
| 2026年11月4日 | Energy Independence Bill を下院に提出(第1読会)。成立はまだ |
| 成立から2か月後 | 法案の第173条・附則9(第185条(3)(s)で別に施行される部分を除く。罰金上限の3万ポンドへの引上げ、立入検査・広告・データベースなどを規則で定める権限)が施行(法案の規定)。立入検査などの具体的な中身は、その後の規則で決まる |
| 2027年 | 住宅:引上げのための規則の改正の施行を目指す(政府回答) |
| 2027年後半 | 新しい指標を載せた住宅のEPCの開始(2026年3月9日に延期を公表。具体的な日は業界・自治政府と調整) |
| 2029年10月1日 | 住宅:この日より前のEPCで、いまの指標(Energy Efficiency Rating)がC以上なら、そのEPCの期限が切れるか差し替わるまで新しい基準に適合とみなす |
| 2030年10月1日 | 住宅:MEESの対象となるすべての民間賃貸住宅にEPC C(新しい指標による判定、移行の扱い、または免除)。引上げ後の基準について、自治体による執行の開始 |
| 2031年 | 非住宅:1,000㎡超の民間賃貸建物にEPC B(費用対効果がある範囲で)。二次立法が条件 |
出典:政府回答(2026年1月21日)の Figure 2「Timeline」と Next steps、非住宅の中間回答(2026年6月18日)、Energy Independence Bill 第185条(4)、「Reforms to the Energy Performance of Buildings regime」の更新(2026年3月9日)。政府回答の日程は「議会の承認などを条件とする」とされています。
まだ決まっていないことも多くあります。住宅については、新しい指標でどの値を「C」とするかはHEMの開発を終えてから確定する、とされています。非住宅については、1,000㎡の線の運用の詳細はこれからの政府回答待ちです。法案も議会の審議で変わり得ます。本記事の数字は、2026年11月5日時点で確認できた政府の文書と法案の提出時の条文によるものです。
日本にも、建物を売る・貸すときの省エネ性能の制度があります。建築物省エネ法の省エネ性能表示制度です。建物の販売・賃貸を事業として行う事業者に、省エネ性能を表示するよう努める義務があり、2024年4月からは国土交通大臣が表示の事項と方法を告示で定め、告示に従っていない事業者に勧告・公表・命令ができる仕組みが加わりました。アパートやマンションのオーナー、貸し事務所ビル・貸しテナントビルも対象になり得ます(詳しくは当社の記事「省エネ性能ラベルと住宅省エネ2026キャンペーン」)。
ただ、日本の制度が求めるのは「表示すること」です。表示した性能が低いからといって貸せなくなるわけではありません。また、告示どおりの表示が求められるのは主に2024年4月以降に建築確認を申請した新築で、既存の建物は告示どおりの表示ができなくても勧告の対象にはなりません。省エネ基準への適合義務は、2025年4月から原則すべての新築・増改築にかかるようになりましたが、建てたときや増改築のときの義務です。当社が確認した範囲では、既存の賃貸物件に省エネ性能の下限を定めて賃貸を制限する国の制度はありません。
表6|英国のMEESと日本の省エネ性能表示制度
| 項目 | 英国(イングランドとウェールズ) | 日本(建築物省エネ法) |
|---|---|---|
| 表示の仕組み | EPC(賃貸に出すときに必要な建物がある) | 省エネ性能ラベル・評価書(販売・賃貸事業者の努力義務。告示に従った表示を求めるのは主に2024年4月以降に申請した新築) |
| 性能の下限 | あり:EPC E未満は原則貸せない。住宅は2030年からC、1,000㎡超の非住宅は2031年からBの方針 | なし(既存の賃貸物件について。当社の確認範囲) |
| 費用の歯止め | 住宅:改修費の上限(現行3,500ポンド→1万ポンド)と免除。非住宅:7年回収テストと免除 | — |
| 守らせる仕組み | 自治体などによる罰金(住宅は上限5,000ポンド→法案で3万ポンド)、免除の登録簿の公開。法案で立入検査・広告の規制・データベースの権限 | 告示に従った表示をしない事業者への勧告・公表・命令(勧告は、当面、社会的影響が大きい場合などを対象に運用) |
| 性能の計算 | 住宅はSAP(今後HEMに切替)。新EPCでは外皮・暖房設備・スマート対応などの指標 | WEBプログラム等でエネルギー消費性能を評価。住宅はUA値・ηAC値による断熱性能も表示。自己評価または第三者評価(BELS) |
出典:英国側は第1〜5節の出典。日本側は国土交通省「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度 ガイドライン(第2版 改定)」(2024年8月)など、当社の記事「省エネ性能ラベルと住宅省エネ2026キャンペーン」に示した資料。表の整理は当社によるものです。
英国の歩みを並べると、①売る・貸すときにEPCを示させる → ②下限(E)を置く → ③下限を上げる(C・B) → ④守らせる権限を強めるという順番です。日本はいま①の段階を整えているところで、ラベルの発行が補助事業の要件に組み込まれるなど、表示は広がりつつあります。日本が英国と同じ道をたどるかどうかは、本記事では判断できません。当社は、日本で同じ仕組みの導入が公表されたことを確認していません。ここからは当社の実務上の提案です。
1. 賃貸物件のオーナーは、物件ごとに省エネ性能の記録を残しておく。新築時の省エネ計算の結果、省エネ性能ラベル、改修した窓や給湯器の記録は、いまは表示のための資料ですが、将来、評価や表示の求めが強まったときに、そのまま説明の材料になります。英国政府は、MEESに適合させるために改修の前後で取るEPCの費用も、法令で定める範囲で改修費の上限に算入する方針を示しています。
2. 改修の順番は「外皮が先」。英国の政府回答は、外皮の性能を先に満たすか免除を登録し、その後に設備かスマート対応、という順番で改修を求める方針を示しています。暖房を効率のよい設備に替える前に建物の熱の逃げ道をふさぐ、という考え方は、日本の改修の計画を立てるときにもそのまま使えます。
テトでは、新築の省エネ計算、BELSなどの性能評価、東京都の建築物環境計画書を、図面からお引き受けしています(省エネ計算 代行/BELS・性能評価 代行)。
はい。イングランドとウェールズでは、エネルギー効率規則(2015年)により、MEESの対象となる民間の賃貸住宅(所定の賃貸借で、EPCが法律上必要なもの)は2020年4月1日から、既存の契約を含めてEPCがE未満の物件を貸すことができません(有効な免除を登録した場合を除く)。非住宅も、2018年4月1日から新規・更新の契約で、2023年4月1日からは契約の変更がなくてもEPC E以上が求められています。今回の動きは、この下限を引き上げ、守らせる仕組みを強くするものです。
政府は2026年1月21日の政府回答で、民間の賃貸住宅の下限を2030年10月1日からEPC Cにする方針を確定させました。ただし、実際の義務は規則(二次立法)の改正で定まり、政府回答も、この文書に示した法令の改正は議会の承認を条件とすると書いています。政府は規則の改正を2027年に施行することを目指すとしています。
適用されていません。住宅の罰金の上限を5,000ポンドから3万ポンドに引き上げる規定は、2026年11月4日に下院に提出された法案(Energy Independence Bill)の附則9にあります。法案は第1読会を終えた段階で、成立していません。法案の規定では、この部分は原則として法律の成立から2か月後に施行されます。なお、具体的な罰則の運用は、規則の改正の中身と施行時期もあわせて確かめる必要があります。
政府は2026年6月18日の中間回答で、2031年から、イングランドとウェールズの1,000㎡を超える民間の賃貸建物に、費用対効果がある範囲でEPC Bを求める意向を示しました。1,000㎡未満は現行のEPC Eのままで、以前に提案していた2027年のEPC Cの中間目標は採らないとしています。7年回収テストと免除の仕組みは残ります。EPC Bへの引上げは、二次立法が議会を通ってはじめて効力を持ちます。
当社が確認した範囲では、国の制度にはありません。建築物省エネ法の省エネ性能表示制度は、建物を販売・賃貸する事業者に省エネ性能の表示を努力義務として求めるもので、2024年4月からは告示に従わない事業者への勧告などの仕組みも加わりましたが、性能の下限を定めて賃貸を禁じるものではありません。省エネ基準への適合義務は、新築や増改築のときにかかるものです。
日本で同じ仕組みの導入が公表されたことは、当社は確認していません。そのうえで当社の考えとしては、新築時の省エネ計算の結果や省エネ性能ラベル、改修した部位の記録を物件ごとに残しておくと、将来、表示や評価の求めが強まったときにも説明しやすくなります。英国の例は、表示の仕組みが整うと、それが性能の下限の線として使われ得ることを示しています。
日本の省エネ性能表示制度と、新築・既存のラベルの使い分け。
部位別のU値、評価の枠組み、BELSとEPCの違い。
SAP 10.3とHome Energy Model(HEM)の併走と経過措置。
ボイラーメーカーに課す販売比率の制度(CHMM)。
改正EPBDの期限と違反手続、既存の非住宅の最低性能基準。
省エネ性能の第三者評価の取得を、計算からお引き受けします。
Sources — 出典・参考資料
英国議会「Energy Independence Bill」(法案のページ)/「Energy Independence Bill (Bill 176 2026-27, as introduced)」(2026年11月4日・第173条・第185条・附則9)
DESNZ「Energy reforms to cut bills and put power back in people's hands」(2026年11月4日)
DESNZ「Energy Independence Bill: factsheets」(2026年11月4日・住宅/非住宅のMEESの執行)
DESNZ「Improving the energy performance of privately rented homes: 2025 update」(意見募集と政府回答・2026年1月21日)
DESNZ「Non-domestic Private Rented Sector minimum energy efficiency standards: EPC B implementation」(意見募集と中間回答・2026年6月18日)
DESNZ「Domestic private rented property: minimum energy efficiency standard - landlord guidance」/「Non-domestic private rented property: minimum energy efficiency standard - landlord guidance」
DESNZ「Reforms to the Energy Performance of Buildings regime」(部分回答 2026年1月21日・更新 2026年3月9日)
国土交通省「建築物の省エネ性能表示制度」特設サイト。日本側の資料(ガイドライン等)は、当社の記事「省エネ性能ラベルと住宅省エネ2026キャンペーン」の出典欄に示しています。
※ 法案・政府文書の訳、表1〜表6の整理、第4節の第7項の読み方、第6節の実務の提案は当社によるものです。法案は2026年11月5日時点で第1読会を終えた段階で、内容は議会の審議で変わり得ます。