2026年9月18日、米国エネルギー省(DOE)は連邦官報に短い通知を出しました。工場生産住宅(マニュファクチュアド住宅)の省エネ基準を定めた2022年の最終規則は、法的効力を持たないという内容です。 理由は、2か月前の7月11日に成立した住宅法(21st Century ROAD to Housing Act)です。その第301条は、連邦機関が作った工場生産住宅の省エネ基準は、住宅都市開発省(HUD)が合意形成の手続で採用するまで効かないと定め、HUDに2027年7月11日までの採用と、その後3年以内ごとの更新を義務づけました。 今回の通知は規則の撤回ではありません。法律が省エネ基準の効力を、住宅の役所の採用に結びつけた話です。どの役所が案を作っても、住宅の役所が採用しなければ効かなくなりました。では日本の省エネ基準は、誰が書き、誰が計算方法を決め、どこで審議しているのか。原典を読み、並べて整理しました。
① DOEは2026年9月18日、工場生産住宅の省エネ基準(2022年5月31日の最終規則・10 CFR Part 460)は法的効力を持たないと通知した(91 FR 59048)。効力がない以上は執行しないとし、規則を法律に合わせる手続きを始める意向も示した。
② 根拠は2026年7月11日成立のROAD法(Pub. L. 119-101)第301条(d)(2)。連邦機関が作った基準は、HUDが合意形成の手続(42 U.S.C. 5403(a)(2))で採用するまで効力を持たない。HUDは2027年7月11日までに最低限の基準を採用し、以後3年に1回以上更新する。
③ DOEの基準は、違反を取り締まる執行手続が整わないまま効力を失った。適合の期日は2023年5月31日から、執行手続の最終規則の公表に連動する形へ先送りされ(Tier 1は公表後60日、Tier 2は公表後180日)、その最終規則は出ていない(当社確認)。
④ HUDの諮問委員会(MHCC)は2026年7月23日、2022年に出した省エネの勧告を再確認した(HUDの行動計画)。ただし10月27日・28日の会議の告示された議題に、省エネ基準は載っていない。
⑤ 日本の省エネ基準は経済産業省と国土交通省の共同省令で、算出方法は「国土交通大臣が定める方法」(告示)。地方公共団体は条例で基準に付加できる。米国のHUDコードは逆に、連邦の基準と同じ性能の項目について、州・自治体が連邦と同一でない基準を定めることを連邦法で禁じている。
⑥ 実務の教訓は2つ。「基準値」「計算方法」「プログラム」のどの層が変わったのかを見分けること、そして「発効」と「適合の義務」は別の日であること。
通知は1頁だけの文書です。種別は「Notification of legal effect(法的効力に関する通知)」で、規則の改正でも撤回でもありません。DOEが、法律の変更によって自分の規則がどういう状態になったかを、官報で知らせたものです。
DOEは、ROAD法第301条(d)(2)(B)を引用したうえで、通知の時点でHUDは法律の要件を満たす最低限の省エネ基準を採用していない、したがって2022年5月31日の最終規則は法的効力を持たない、というのがDOEの立場だと書いています。続けて、規則を法律に合わせるための規則制定を始める意向であること、効力がないので執行しないことを明記しました。
なお、この通知の発出元は「Office of Critical Minerals and Energy Innovation(旧 Energy Efficiency and Renewable Energy)」と表記されています。省エネを担当してきたDOEの局(EERE)の名前が変わっています。
表1|2026年9月18日の通知の要点
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 文書 | Energy Conservation Program: Energy Conservation Standards for Manufactured Housing(91 FR 59048、FR Doc. 2026-19154、10 CFR Part 460、ドケット EERE-2009-BT-BC-0021) |
| 種別 | Notification of legal effect(法的効力に関する通知)。規則の改正・撤回ではない |
| 対象 | 2022年5月31日の最終規則(87 FR 32728)=2007年エネルギー自立・安全保障法(EISA)に基づく工場生産住宅の省エネ基準 |
| DOEの立場 | HUDがROAD法第301条(d)の要件を満たす基準を採用していないので、最終規則は法的効力を持たない |
| 今後 | 規則を法律に合わせる規則制定を始める意向。効力がないので執行しない |
| 日付 | 署名 2026年9月16日/官報掲載・適用 2026年9月18日(追って通知するまで有効) |
出典:DOE「Energy Conservation Program: Energy Conservation Standards for Manufactured Housing」Notification of legal effect(Federal Register Vol.91 No.180、p.59048、2026年9月18日)。
当社は2026年9月14日に「米国の連邦庁舎の省エネ基準の停止」を書きました。あちらは連邦政府の庁舎の基準(10 CFR Part 433・435)を、DOEが行政の判断で止めた話です。今回は工場生産住宅の基準(10 CFR Part 460)の効力を、議会が法律でHUDの採用に結びつけた話で、対象も仕組みも別物です。
米国の「マニュファクチュアド住宅(manufactured home)」は、工場で造って現地へ運ぶ住宅のうち、連邦の基準(通称HUDコード、24 CFR Part 3280)で造られるものを指します。DOEの2022年の最終規則は、州や地方の建築コードで造られる現場施工の住宅やモジュール住宅は、HUDコードの対象から外れると説明しています。
連邦法の定義(42 U.S.C. 5402(6))には「恒久的な車台(permanent chassis)の上に造られる」という要件がありました。ROAD法第301条(a)はこれを「車台の有無を問わない」に書き換えました。HUDの行動計画は、この車台の撤廃を「とりわけ重要」と位置づけ、設計・輸送・基礎・据付け、多層の建設などに新しい可能性を開くとしています。
HUDコードのもう一つの特徴は、連邦の基準が州・自治体の基準に優先することです。42 U.S.C. 5403(d)は、連邦の基準が有効な間、州や自治体は同じ性能の項目について連邦と同一でない基準を定めたり維持したりできないと定め、この優先は「広く、柔軟に解釈する」と書いています。州に残されているのは、住宅を安定・支持する仕組みと基礎の基準(製造者の設計と整合することが条件)などです。ROAD法第301条(f)も、この優先の範囲を狭めるものではないと念を押しています。
表2|米国の工場生産住宅の2つの型
| 項目 | マニュファクチュアド住宅 | モジュール住宅 |
|---|---|---|
| 準拠する基準 | 連邦のHUDコード(24 CFR Part 3280) | 設置先の州・地方の建築コード |
| 地方の基準との関係 | 連邦の基準が優先。同じ性能の項目について、州・自治体は連邦と同一でない基準を定められない(42 U.S.C. 5403(d)) | 各モジュールが設置先の州・地方のコードに適合する(ROAD法第302条の定義) |
| 車台 | 2026年7月11日から有無を問わない(ROAD法第301条(a)) | — |
| 省エネ基準の決め方 | 2022年はDOE(HUDと協議)→ ROAD法で、HUDの採用が効力の条件に | 州・地方(多くはモデルコードのIECCを採用) |
出典:ROAD法 第301条(a)(f)・第302条(a)(2)、42 U.S.C. 5403(d)、DOE 最終規則 87 FR 32728(2022年5月31日)の概要。モジュール住宅の欄の「多くはIECCを採用」は、米国の省エネ基準の一般的な仕組み(当社の記事「米国の省エネ基準と費用の物差し」参照)による当社の整理です。
DOEが工場生産住宅の省エネ基準を作ることになったのは、2007年のエネルギー自立・安全保障法(EISA)です(42 U.S.C. 17071)。条文は、基準を最新のIECCに基づいて定めること、ただし工場生産住宅の価格への影響とライフサイクルの費用を考えること、そしてHUD長官と協議すること(HUDはMHCCの助言を求めることができる)を求めていました。
検討は長くかかりました。2010年に事前の規則案の告知、2016年に規則案、2021年に「価格で2段階に分ける」修正案を経て、2022年5月31日に最終規則が出ています。最終規則の説明によると、2016年の案に対しては、協議の中でHUDが工場生産住宅の買いやすさへの悪影響を懸念していました。
最終規則は2021年版IECCを基にした2段階の基準です。Tier 1は1つの箱で運ぶ住宅(シングルセクション)が対象で、外皮の要求を価格の上昇が750ドル未満に収まる部位・水準に絞りました。Tier 2は複数の箱をつなぐ住宅(マルチセクション)が対象で、2021年版IECCの現場施工の住宅の水準を当てはめています(気候区分2・3の外壁は、工場生産の構法を考えてR-21の代替を用意)。外皮は、仕様で満たすルートのほか、外皮全体の熱貫流率(Uo)で満たす性能ルートも選べます。
表3|DOEが見込んだ1戸あたりの費用と効果(全国平均・2020年ドル)
| 項目 | Tier 1(シングルセクション) | Tier 2(マルチセクション) |
|---|---|---|
| 価格の上昇 | 660ドル(1.2%) | 4,222ドル(3.9%) |
| 年間の光熱費の削減 | 177ドル | 475ドル |
| 単純回収年 | 3.7年 | 8.9年 |
| ライフサイクルコストの削減(30年) | 1,594ドル | 3,573ドル |
| ライフサイクルコストの削減(10年) | 720ドル | 743ドル |
出典:DOE 最終規則 87 FR 32728(2022年5月31日)表I.1〜I.3。比較の相手は、現行のHUDコードの最低限の要求で造った住宅です。価格の上昇は試験や適合確認の費用を含みません。
この基準は2022年8月1日に発効し、適合の期日は2023年5月31日とされていました。ところがDOEは、違反をどう調べて取り締まるかの手続き(執行手続)をまだ定めていませんでした。そこで期日を2度動かしています。
表4|DOEの基準の経緯と、適合の期日の動き
| 日付 | 文書 | 内容 |
|---|---|---|
| 2007年 | EISA(Pub. L. 110-140) | DOEに工場生産住宅の省エネ基準の制定を指示(42 U.S.C. 17071) |
| 2022年5月31日 | 最終規則(87 FR 32728) | 2021年版IECCを基にしたTier 1/Tier 2。発効 2022年8月1日、適合の期日 2023年5月31日 |
| 2022年10〜11月 | MHCC会議(告示 87 FR 57711) | HUDコードをDOEの基準に合わせる改正案を審議する会議を告示(両者が完全には一致していなかったため) |
| 2023年5月30日 | 最終規則(88 FR 34411) | Tier 1は執行手続の公表後60日、Tier 2は2025年7月1日に変更 |
| 2023年12月26日 | 規則案(88 FR 88844) | 執行手続の規則案 |
| 2025年7月2日 | 最終規則(90 FR 28873) | Tier 2を執行手続の公表後180日に変更(Tier 1は据え置き)。この規則の効力発生は2025年7月2日 |
| 2025年9月3日 | 情報提供の求め(90 FR 42544) | 基準の一部の見直しと、費用・便益の分析について意見を募集。基準の枠組みの再構築の土台にもなりうると記載(意見は2025年12月2日まで) |
| 2026年7月11日 | ROAD法(Pub. L. 119-101) | 第301条(d)(2):基準の効力をHUDの採用に結びつけ、HUDに採用を義務づけ |
| 2026年9月18日 | 通知(91 FR 59048) | 2022年の最終規則は法的効力を持たない |
出典:連邦官報の各文書(10 CFR Part 460 の文書一覧、HUDのMHCC会議告示)。執行手続の最終規則は、2026年10月30日に当社が連邦官報の10 CFR Part 460の文書一覧を確認した範囲では出ていません。
表4を見ると、DOEの基準は、2022年8月1日の発効後、執行手続が整わず、適合の期日が先送りされ続けたまま効力を失ったことが分かります。Tier 1もTier 2も最終的には期日が「執行手続の公表後」に結びつけられ、その執行手続が最終化されなかったからです。なお、Tier 2の期日だった2025年7月1日は、延期の規則が効力を持った7月2日の前日にあたります。
ROAD法の第3編は「Manufactured Housing for America」で、第301条は「Housing Supply Expansion Act(住宅供給拡大法)」と名づけられています。省エネ基準の部分は第301条(d)(2)の3項目だけです。
(A) この項の「マニュファクチュアド住宅」は、改正後の42 U.S.C. 5402の定義による。
(B) いかなる連邦機関が作ったマニュファクチュアド住宅の省エネ基準も、HUDが42 U.S.C. 5403(a)(2)の合意形成の基準・規則策定の手続に従って採用するまで、法的効力を持たない。
(C) HUD長官は、(i) この法律の成立から1年以内に最低限の省エネ基準を採用し、(ii) 採用後は3年に1回以上、更新しなければならない。
(B)は「DOEの」ではなく「いかなる連邦機関の」と書いています。今後どの役所が基準を作っても、HUDの手続を通らなければ効かない、ということです。条文は、他の役所が基準を作ること自体を禁じてはいません。効力の条件を、HUDの採用にしたのです。その手続の中心が、HUDの諮問委員会MHCC(Manufactured Housing Consensus Committee)です。
表5|HUDの合意形成の手続(42 U.S.C. 5403(a))
| 項目 | 条文の定め |
|---|---|
| 委員の構成 | 議決権のある委員21名=製造者・販売者7名/利用者(消費者団体・居住者など)7名/一般・公務の委員7名。ほかにHUD長官を代表する議決権のない委員1名 |
| 運営 | 米国規格協会(ANSI)の合意形成の手続に従う。会議は官報で事前に告知し、公開 |
| 見直しの頻度 | 基準の改正を2年に1回以上検討する |
| 提案の要件 | 委員の3分の2の賛成で、経済分析を付けた規則案としてHUD長官に提出 |
| 官報への掲載 | HUD長官は受け取ってから30日以内に官報に載せ、原則として意見を募る。提案を却下する場合は、却下した案・理由・推奨する修正を官報に載せる |
| 長官の判断 | 提出から12か月以内に措置をとる。採用なら最終命令を、却下なら理由を官報に載せる。修正なら修正案と理由を官報に載せて意見を募る。期限内に最終の措置をとらないと、長官は議会の委員会に出向いて理由を説明しなければならない |
出典:42 U.S.C. 5403(a)(2)〜(6)(National Manufactured Housing Construction and Safety Standards Act of 1974 第604条)。要約は当社によるものです。
EISAのもとでは、DOEが基準を書き、HUDは「協議を受ける」立場でした。ROAD法は、省エネ基準の効力を、HUDコードと同じ合意形成の手続による採用に結びつけました。この手続では、製造・販売の側と利用者の側と一般利益・公務の側が7名ずつ座る委員会(MHCC)が3分の2の賛成で改正案を出し、HUD長官が採用・修正・却下を判断します。あわせて、採用後も3年に1回以上更新する義務が法律に明記されました。
HUDは2026年7月8日の官報で、7月23日に省エネ基準だけを議題にしたMHCCの会議を開くと告示しました。目的は「工場生産住宅の省エネ基準と、その費用・便益を含む技術的な分析を詰めるため」とされています。
その結果は、HUDの「Next Generation Manufactured Housing Action Plan(次世代の工場生産住宅の行動計画)」に書かれています。7つの行動の1番目が「省エネ基準の更新」で、MHCCは2026年7月23日の会議で、2022年に出した省エネの勧告を再確認したこと、HUDの担当部署(OMHP)がその勧告に沿ってHUDコード(24 CFR Part 3280)を改める規則づくりを行うこと、政策研究部門(PD&R)が外部の支援を受けて規則案に必要な規制影響分析を準備していることが示されています。
「2022年の勧告」は、表4の2022年10〜11月の会議のものと考えられます(行動計画と2022年の告示を直接結びつける記述は見当たらず、当社の推定です)。このときHUDは、DOEの基準とHUDコードが「完全には一致していない」として、HUDコードをDOEの基準に合わせる改正案をMHCCに諮っていました。ただし、勧告の具体的な数値は、当社が読んだ公開資料には書かれていません。
一方、2026年10月27日・28日のMHCCの会議について10月14日に告示された議題は、ROAD法の概要説明のほか、車台の撤去に伴う基準の変更と州の認証・再認証の枠組みで、省エネ基準の議題は載っていません。HUDの期限(2027年7月11日)まで、残りは約8か月です。期限に間に合うかどうかは、現時点の公開資料からは判断できません。
米国の話を「基準の書き手」という目で見ると、日本の仕組みもはっきりします。
建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律)は、省エネ基準を「経済産業省令・国土交通省令で定める基準」と定めています(第2条第1項第3号)。実際の基準は「建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令」(平成28年経済産業省・国土交通省令第1号)で、エネルギーの役所と建築の役所の共同の省令です。国土交通大臣が定める基本方針も、経済産業大臣との協議が条件です(第3条第4項)。
一方、一次エネルギー消費量や外皮平均熱貫流率の算出方法は、この省令の中で「国土交通大臣が定める方法」とされ、告示(平成28年国土交通省告示第265号)で定められています。その計算を実際に行うのが、建築研究所が公開している計算プログラムです。
つまり日本は、基準値は経産省・国交省の共同省令、算出方法は国土交通大臣の告示、計算の道具は建築研究所のプログラムという3層になっています。米国が今回、基準の効力を住宅の役所の採用に結びつけたのに対し、日本は最初から両方の役所が共同で書く形です。
表6|基準の書き手と手続の比較
| 項目 | 米国の工場生産住宅 | 日本の住宅・建築物 |
|---|---|---|
| 基準を書く | 2022年:DOE(HUDと協議)→ ROAD法でHUDが採用するまで効力なし | 経済産業省・国土交通省の共同省令(建築物省エネ法 第2条第1項第3号) |
| 算出方法 | 2021年版IECCを基に、仕様ルートと性能ルート(Uo) | 「国土交通大臣が定める方法」=告示。計算は建築研究所のプログラム |
| 合意形成・審議の場 | MHCC(21名、3分の2で提案)。会議は公開 | 社会資本整備審議会 建築分科会 建築環境部会の審議を経た答申(直近は2026年1月29日の第四次答申) |
| 見直しの周期 | HUDは採用後3年に1回以上更新(ROAD法)。MHCCは2年に1回以上検討(42 U.S.C. 5403) | 基準を何年ごとに見直すという条文は、当社が法の条文を確認した範囲では見当たらない(附則に、施行後一定期間を経た時点での検討条項がある) |
| 地方の上乗せ | 連邦の基準が優先。同じ性能の項目について、州・自治体は連邦と同一でない基準を定められない(42 U.S.C. 5403(d)) | 地方公共団体は条例で必要な事項を付加できる(建築物省エネ法 第2条第2項) |
| 工場生産住宅 | 連邦のHUDコードで別に扱う | 工場生産であることを理由に別の体系にはならない。用途・規模・建築行為に応じて同じ法律・省令が適用(建築物省エネ法 第2条第1項第1号ほか) |
出典:ROAD法 第301条、42 U.S.C. 5403(a)(d)、DOE 最終規則 87 FR 32728、e-Gov法令検索「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」第2条・第3条・附則、「建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令」第1条〜第4条(いずれも2026年10月30日に当社確認)。第四次答申については当社の記事「住宅の省エネ基準のZEH水準への引き上げ」で一次資料とともに整理しています。表の整理は当社によるものです。
表6でいちばん対照的なのは地方の上乗せです。米国のHUDコードは、連邦の基準と同じ性能の項目について、州や自治体が連邦と違う基準を定めることを連邦法で禁じています(条文は、州や地方のばらばらな要求が基準の統一性を損なわないよう、この優先を広く解釈するとしています)。日本の建築物省エネ法は逆に、地域の事情で国の基準だけでは足りないときは、条例で基準に付け加えることを認めています。
米国の工場生産住宅の基準が、日本の案件に直接効くことはありません。それでも、日々の省エネ計算の仕事に引き寄せると、次の2点は役に立ちます。
1. 「基準値」「計算方法」「プログラム」のどの層が変わったのかを見分ける。日本の省エネ基準は、表6のとおり3層で動きます。たとえば住宅の計算プログラムは2026年10月1日にVer.3.11.0が公開されましたが、プログラムの更新は、基準値の引き上げとは別の層の話です。逆に、国が進めている省エネ基準のZEH水準への引き上げは、基準値の層の話です。お知らせを読むときに「どの層が、いつから変わるのか」を最初に確かめると、建築主への説明がぶれません(当社の考えです)。
2. 「発効」と「適合の義務」は別の日だと考える。DOEの基準は2022年8月1日に発効しながら、適合の期日が執行手続に結びつけられて先送りされ続け、執行手続が整わないまま効力を失いました。日本でも、基準や評価方法が変わるときは経過措置が置かれることが多く、「いつの申請から新しいルールか」は文書ごとに確かめる必要があります(例:基礎の線熱貫流率の旧評価方法の経過措置)。
もう一つ、自治体の上乗せにも目を向けておきたいところです。日本では、建築物省エネ法が条例による付加を認めているほか、東京都の建築物環境計画書制度(都の環境確保条例に基づく制度)のように、自治体が独自の制度で国の基準より厳しい水準を求める例もあります。都内の一定規模以上の計画では、国の基準と都の基準の両方を設計の初期に整理しておくと手戻りが減ります。
テトでは、住宅・非住宅の省エネ計算と、東京都の建築物環境計画書の手続きを、図面からお引き受けしています(省エネ計算 代行/東京都 建築物環境計画書 代行)。
今回のDOEの通知は、規則を撤回・廃止するものではありません。ただしDOEは、2022年の最終規則には法的効力がないとし、執行しないとしています。根拠は、2026年7月11日に成立した住宅法(21st Century ROAD to Housing Act)第301条で、連邦機関が作った工場生産住宅の省エネ基準は、住宅都市開発省(HUD)が合意形成の手続で採用するまで法的効力を持たないと定めました。同じ条文はHUDに、成立から1年以内(2027年7月11日まで)に最低限の省エネ基準を採用し、その後は3年に1回以上更新することを義務づけています。条文はDOEが基準を作ること自体を禁じてはいませんが、効力の条件をHUDの採用にしたので、基準を最後に決める役所はHUDになったと当社は読んでいます。
DOEは2026年9月18日の通知で、通知の時点でHUDが法律の要件を満たす基準を採用していないため、2022年5月31日の最終規則は法的効力を持たないという立場を示しました。あわせて、効力がない以上は執行しないこと、規則を法律に合わせる手続きを始める意向であることも書いています。
DOEは、違反を調べて取り締まる手続き(執行手続)を最終化しないまま、適合の期日を先送りしてきました。2022年の最終規則では2023年5月31日が適合の期日でしたが、2023年の規則でTier 1を執行手続の公表後60日に、Tier 2を2025年7月1日に改め、2025年7月2日に効力を持った規則でTier 2も執行手続の公表後180日に改めています。執行手続は2023年12月に規則案が出たものの、連邦官報の10 CFR Part 460の文書一覧を当社が確認した範囲では、最終規則は出ていません。
法律上の期限は2027年7月11日です。HUDの行動計画(2026年10月7日作成のPDF)によると、HUDの諮問委員会(MHCC)は2026年7月23日の会議で、2022年に出した省エネの勧告を再確認しました。HUDはそれに沿ってHUDコード(24 CFR Part 3280)を改める規則づくりを行い、規制影響分析を準備するとしています。ただし2026年10月27日・28日のMHCCの会議について告示された議題は、車台(シャシー)の撤去と州の認証が中心で、省エネ基準は載っていません。期限に間に合うかは、現時点では分かりません。
建築物省エネ法は、省エネ基準を「経済産業省令・国土交通省令で定める基準」と定めています(第2条第1項第3号)。実際の基準は、経済産業省と国土交通省の共同の省令(建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令)です。一次エネルギー消費量や外皮の値の算出方法は、その省令の中で「国土交通大臣が定める方法」とされ、告示で定められています。日本は、エネルギーの役所と建築の役所が共同で基準を書く形です。
建築物省エネ法の「建築物」は、建築基準法の建築物と同じ定義です(第2条第1項第1号)。工場で部材を造る住宅だからといって、別の省エネ基準の体系になることはありません。現場で建てる住宅と同じく、用途・規模・建築行為に応じて、同じ法律と省令が適用されます。米国のように、工場生産住宅だけを別の連邦のコードで扱う仕組みは、日本の省エネ基準にはありません。
DOEが行政の判断で止めた、連邦庁舎の基準(10 CFR 433・435)。
DOEの費用対効果の計算方法と、IECCの基本版・上乗せ版への分割。
ASHRAE 90.1・IECCの版と、各国の義務化・認証制度。
部位別のU値、評価の枠組み、義務化の範囲の違い。
国の方針と、まだ示されていない施行日・経過措置。
住宅・非住宅の省エネ計算を、図面からお引き受けします。
Sources — 出典・参考資料
米国エネルギー省(DOE)「Energy Conservation Program: Energy Conservation Standards for Manufactured Housing」Notification of legal effect(Federal Register Vol.91 No.180、p.59048、2026年9月18日、FR Doc. 2026-19154)
「21st Century ROAD to Housing Act」Public Law 119-101(2026年7月11日。第301条は140 Stat. 888〜891)
42 U.S.C. 5403「Construction and safety standards」(Cornell Law School LII の掲載本文)
DOE 最終規則「Energy Conservation Program: Energy Conservation Standards for Manufactured Housing」(87 FR 32728、2022年5月31日)
DOE 最終規則「Energy Conservation Standards for Manufactured Housing」(90 FR 28873、2025年7月2日。2022年・2023年の経緯の記述を含む)
DOE「Public Input on Energy Conservation Standards for Manufactured Housing」Request for information(90 FR 42544、2025年9月3日)
HUD「Notice of Federal Advisory Committee Meeting(s); Manufactured Housing Consensus Committee」(87 FR 57711、2022年9月21日/91 FR 42210、2026年7月8日/91 FR 65251、2026年10月14日)
HUD「Next Generation Manufactured Housing Action Plan」(全3頁。PDFの作成日 2026年10月7日)
e-Gov法令検索「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」(平成27年法律第53号)/「建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令」(平成28年経済産業省・国土交通省令第1号)
※ ROAD法の条文の訳、表5・表6の整理、第5節の「2022年の勧告」の特定、第7節の整理は当社によるものです。DOEの通知は規則の改正・撤回ではなく、DOEの立場を示したものです。当社が確認した資料には、HUDが採用する具体的な基準値は示されていません(2026年10月30日時点)。