フランスは、住宅の省エネ性能表示「DPE」(Diagnostic de performance énergétique)で使う電気の一次エネルギー換算係数を、2027年1月1日に1.9から1.7へ下げます。 もとは2.58で、2021年に2.3、2026年に1.9へ下がっており、2021年から2027年までの間に3回動くことになります。 建物に手を加えなくても、係数が変わるだけで電気を使う住宅の計算上の一次エネルギー消費量は減り、一部の住宅ではDPEの等級も上がります。政府は、約30万戸が下位のF・G等級から外れると試算しています。 日本の建築物省エネ法の計算では、電気は9.76MJ/kWhのままです。一方で省エネ法(工場・事業場)は2023年度の改正で8.64MJ/kWhに改めました。 フランス政府の資料と、国土交通省の小委員会の資料を読み、係数が変わると日本のBEIがどう動くかを整理しました。
① 電気の一次エネルギー換算係数は、建物で使った電気1kWhを「発電所で投入されたエネルギー」に置き換える係数。建物の性能ではなく、国の発電の構成と政策で決まる数字。 ② フランスのDPEの係数は 2.58 → 2.3(2021年)→ 1.9(2026年1月1日)→ 1.7(2027年1月1日)。1.9は、EUのエネルギー効率指令が省エネ量の換算用に定める既定値をフランスがDPEに採用したもの。1.7は、フランスの電源構成の特性と「電化計画」を理由にそれより下げた値。 ③ 政府の例では、電気だけの住宅で最終エネルギー100kWh/㎡なら、一次エネルギーは190→170kWh/㎡。評価が悪くなる住宅は1戸もないとされ、既存のDPEは新しい等級の証明書を無料でダウンロードできる。 ④ 日本の建築物省エネ法は9.76MJ/kWh(kWhどうしの比にすると約2.71)。省エネ法は2023年度の改正で8.64MJ/kWh(同2.4)に見直した。建築物省エネ法は、2025年4月の全面義務化を現行の係数で施行すると2023年1月に決めた。 ⑤ 国交省の試算では、8.64にするとBEIは設計によって良くも悪くもなる(太陽光などの差し引きがなく電気の係数だけを変える場合、BEIの計算に入る一次エネルギー〔その他一次エネルギー消費量を除く〕のうち電気の分の割合が、基準より大きい設計は良く、小さい設計は悪くなる方向。当社の計算)。給湯を電気ヒートポンプにした住宅は0.04程度良く、ガスの床暖房の住宅は0.02程度悪くなる。太陽光で差し引く量は小さくなる。 ⑥ 日本の見直しの時期は、当社が確認した範囲では公表されていない。ただ、係数が動けば給湯や暖房でガスと電気のどちらを選んだかがBEIの結果に効いてくるので、今のうちに仕組みを知っておく価値がある。
省エネ計算では、電気・ガス・灯油など種類の違うエネルギーを、同じ物差しで足し合わせる必要があります。そのとき電気は、建物で使った電気そのものの熱量(1kWh=3.6MJ)ではなく、その電気をつくるために発電所で投入されたエネルギー(発電と送電のロスを含む)に置き換えて数えます。この置き換えに使う数字が、電気の一次エネルギー換算係数です。
フランス政府のFAQも同じ説明をしています。一次エネルギーで数えるとは「電気の消費量に、発電所で使われたエネルギーと送電網で失われたエネルギーを反映した係数を掛けること」であり、木・ガス・灯油のように変換を経ずに届くエネルギーの係数は1とされています。
大事なのは、この係数が建物の性能では決まらないことです。原子力・再生可能エネルギー・火力の比率や、どの範囲の電源の平均をとるかという決め方で値が変わります。フランスはまさに、その決め方を変えることで係数を下げてきました。
フランスの係数は、kWh(一次エネルギー)÷kWh(最終エネルギー)の比で表します。たとえば1.9は「家で1kWhの電気を使うには、一次エネルギーで1.9kWhを使ったとみなす」という意味です。DPEで使われてきた値は次のとおりです。
表1|フランスのDPEで使う電気の一次エネルギー換算係数
| 係数 | 時期 | 根拠・説明(政府のFAQによる) |
|---|---|---|
| 2.58 | もとの値 | 「A l'origine(もともと)」の値 |
| 2.3 | 2021年 | 国の係数。最後の算定は、国のエネルギー計画(PPE2)をもとに行ったもの |
| 1.9 | 2026年1月1日から | EUの既定値(FAQは「欧州レベルで定められた既定値」と説明)を採用。EUの指令では、この値は省エネ量を一次エネルギーに換算するための既定値として定められている。根拠は2025年8月13日の省令(arrêté du 13 août 2025) |
| 1.7 | 2027年1月1日から | 2026年8月19日の省令(arrêté du 19 août 2026)。電化計画の第1の柱に沿って建物での電気の利用を後押しし、フランスの電源構成の特性をよりよく反映するため。2025年の省令は2027年1月1日に廃止される |
出典:フランスの建物のエネルギー・環境規制の公式ポータル「FAQ DPE - Modification du facteur de conversion en énergie primaire de l'électricité」(2025年7月17日公開・2026年8月26日更新)。省令の本文は当社では確認できていません(フランスの法令データベース Légifrance へのアクセスが制限されていたため)。表の省令名と日付は、このFAQの記載とFAQからのリンク先の識別子によります。
FAQの書きぶりで注意したいのは、1.9は「欧州レベルで定められた既定値」であり、それまでの2.3は「国の係数」だったという区別です。2026年1月の引き下げは「EUの値に合わせた」もので、2027年1月の引き下げは、EUの既定値より低い国の値を自ら選んだものです。理由も変わっています。
DPEには、エネルギーのラベル(一次エネルギー消費量で決まる)と温室効果ガスのラベルの2つがあり、悪い方の等級が最終的な等級になります。エネルギーの方は、暖房・給湯・冷房・照明・補機の5つの用途について最終エネルギーを計算し、電気の分にだけ係数を掛けて一次エネルギーにします。
政府のFAQが挙げている例は分かりやすいものです。電気だけの住宅で、最終エネルギーが100kWh/㎡なら、一次エネルギーは改正前190kWh/㎡、改正後170kWh/㎡。建物は何も変わっていません。
表2|1.7への引き下げで何が変わるか(政府のFAQの要点)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 等級への影響 | 一次エネルギー消費量は必ず下がる。暖房・給湯に電気を使う住宅(ヒートポンプ、ヒートポンプ給湯機、電気温水器、電気ヒーターの暖房など)ほど効く。エネルギーのラベルが1等級、まれに(小さな住宅で)2等級上がりうる。ただし温室効果ガスのラベルは変わらないので、最終的な等級が上がるとは限らない。等級が下がる住宅はない |
| 住宅全体への影響 | 2025年1月1日時点の数字で、主たる住居のうちF・G等級の約320万戸のうち約30万戸(主に電気で暖房する住宅)が、F・G等級(passoire énergétique)から外れる |
| 新しく作るDPE | 2027年1月1日以降に作るDPE・省エネ診断は、すべて1.7で計算する |
| 作成済みのDPE | 有効期間(10年)のうちはそのまま使える。売買・賃貸では、2021年7月1日より後、2027年1月1日より前に作られたDPEが有効なものとして扱われる。2027年1月1日から、ADEME(環境・エネルギー管理庁)の「Observatoire DPE-Audit」でDPEの番号を入れると、新しい等級の公式の証明書を無料でダウンロードでき、専門家に作り直してもらう必要はない。証明書は元のDPEと同じ有効期間で、売買・賃貸に使える |
| 補助金の手続き | 2027年1月1日より前に作ったDPE・省エネ診断も法的に有効なままで、改修の補助(MaPrimeRénov' など)の書類に使える。旧係数・新係数・証明書のどれを出すかは申請者が選ぶ |
| 改修への効き方 | ガス・灯油で暖房する住宅をヒートポンプに替えたときのDPEの改善幅が大きくなる。一方、今回の変更がガス・灯油の暖房から電気ヒーター(convecteur)への交換を大きく促すことはないと政府は見ている。電気ヒーターの購入費は安いが、住む人の光熱費が大きく、その額は物件広告に載せる必要があるため |
出典:前掲の政府のFAQ。表は当社の要約です。
FAQによれば、フランスでは年に400万件のDPEが作られ、主に住宅を売る・貸すときに使われています。売買・賃貸には有効なDPEが必要です。そのため係数の数字ひとつが、売買や賃貸の場面での住宅の評価に直結します。政府が「等級が下がる住宅はない」「証明書をダウンロードできる」とていねいに書いているのは、そのためだと考えられます。
1.9という値は、EUのエネルギー効率指令(指令 (EU) 2023/1791、2023年9月13日)の第31条に出てきます。もともとは、加盟国が省エネ量を一次エネルギーに換算して数えるための係数です。条文は「電気のkWhで表した省エネ量について、加盟国は一次エネルギーでの省エネ量を正しく計算するための係数を使う。既定値は1.9とし、正当な国内事情に基づいて別の値を定めることもできる」という趣旨です。フランス政府のFAQも「各国はEUの既定値(1.9)を使ってもよいし、国の係数を使ってもよい」と説明しています。
指令の前文(146)には、1.9の決め方も書かれています。2024年と2025年の値の平均をとり、「将来を見た係数の方が、過去の実績よりも適切な指標になる」としています。発電の効率は、燃料を燃やさない再生可能エネルギーを100%(地熱発電は10%)、原子力を33%として計算しています。さらに第31条(7)は、欧州委員会に対して2026年12月25日までに、その後は4年ごとに、実績のデータに基づいて既定値を見直すよう求めています。
一方、2027年の1.7への引き下げについて、政府のFAQは政策とフランスの電源構成の両方を理由に挙げています。政府は「電化計画(plan d'électrification)」で化石燃料からの脱却と電化を急ぐとしており、1.7への引き下げはその第1の柱に沿って建物での電気の利用を後押しするもの、と説明しています。あわせて、フランスの電源構成(mix électrique)の特性をよりよく反映すること、省エネ改修の努力を、温室効果ガスを最も多く出している住宅(化石燃料で暖房する住宅)に集中させるねらいもあるとしています。
つまりフランスでは、係数は「発電の実態を表す数字」であると同時に、「どの設備を選ばせたいか」という政策の道具として扱われています。2026年はEUの共通の算定方法による1.9を採用し、2027年は自国の電源構成と電化政策を理由に、それより低い1.7を自ら選んだ、という流れです。
日本の建築物省エネ法の計算では、電気1kWhを9,760kJ(9.76MJ)として換算します。建築研究所の技術情報(住宅)第二章第一節の付録Bは「告示の別表1に定める数値とし、1キロワット時につき9760キロジュールを使用する」としています。国土交通省の小委員会資料は、この係数を火力平均係数と呼んでいます。
一方、工場や事業場が国に定期報告をする省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)では、2023年度の改正で、係数を全電源平均係数の8.64MJ/kWhに改めました。国交省の資料によれば、8.64は「直近3年間の全電源平均の平均値」で、見直しの周期は「エネルギーミックスの進捗を踏まえて適切に対応する」とされています。
表3|日本の電気の一次エネルギー換算係数(制度別)
| 制度 | 係数 | 内容 |
|---|---|---|
| 建築物省エネ法(省エネ計算・省エネ適判・BELSなど) | 9.76MJ/kWh(火力平均係数) | 告示の別表1に定める数値。住宅では、住戸のすべての設備の消費電力量を夜間買電(22時〜翌日8時)と昼間買電(8時〜22時)に区分できる場合、設計一次エネルギー消費量の計算で昼間9.97MJ/kWh・夜間9.28MJ/kWhを使ってもよい |
| 省エネ法(工場・事業場の定期報告など) | 8.64MJ/kWh(全電源平均係数) | 2023年度(令和5年度)の改正で9.76から見直し。エネルギーの定義も「非化石エネルギーを含むすべてのエネルギー」に広がった |
出典:建築研究所「平成28年省エネルギー基準に準拠したエネルギー消費性能の評価に関する技術情報(住宅)」第二章第一節 Ver.13(2024.12)付録B/資源エネルギー庁「省エネ・非化石転換法の手引き 工場・事業場編(令和8年度改訂版)」/国土交通省 建築物エネルギー消費性能基準等小委員会(2023年1月25日)資料4 スライド5・11(PDFの6・12頁)。住宅の昼夜の係数は付録Bでは kJ 単位(9970・9280kJ)で書かれています。資料4 スライド6によると、省エネ法の定期報告では、2024年度報告(2023年度実績)のエネルギー消費原単位について旧係数による指標を使い、新係数による指標も併記する経過措置がとられ、2025年度報告(2024年度実績)からは新係数で算出するとされています。
では建築物省エネ法はなぜ9.76のままなのか。国交省の社会資本整備審議会 建築環境部会の建築物エネルギー消費性能基準等小委員会(2023年1月25日)の資料4は、次の4点を挙げています。
資料4は原案のとおり承認されました。議事要旨には、「全面義務化への対応として現行の換算係数を維持する建築物省エネ法の対応方針に賛成。」という意見と並んで、「2025年以降の換算係数の取扱いについては、早めに議論を開始し、十分な議論期間・周知期間の確保が必要」「電気やガスといったエネルギーの選択が基準の適否に影響するルールの見直しも検討いただきたい」という委員の意見が記録されています。
当社が確認した範囲では、その後、建築物省エネ法の係数を改める時期や値は公表されていません。2026年10月15日に当社が確認した時点で、建築研究所の住宅のページに掲載されている技術情報(住宅)第二章第一節は Ver.13(2024.12)で、9,760kJ/kWhのままです。
資料4には、係数を9.76から8.64に見直した場合の影響の試算が載っています。電気の分の一次エネルギーは8.64÷9.76=0.89倍になり、ガスの分は変わりません。BEIは「設計値÷基準値」の比なので、係数を下げたときにBEIがどちらに動くかは、BEIの計算に入る一次エネルギー消費量(家電などのその他一次エネルギー消費量を除く)のうち電気の分の割合が、設計と基準のどちらで大きいかで決まります(太陽光などの差し引きがない場合の、電気の係数だけを変えたときの当社の計算)。設計の方が電気の分の割合が大きければBEIは良くなり、小さければ悪くなります。給湯や暖房でガスと電気のどちらを選ぶかは、この割合を大きく変える要因の一つです。
表4|係数を8.64に見直した場合のBEIへの影響(国交省の試算)
| 区分 | 基準 | 設計 | BEIへの影響 |
|---|---|---|---|
| 住宅 ① | 暖冷房:エアコン(電気)/照明:白熱灯(電気)/換気:第3種(電気)/給湯:ガス給湯器(6地域の例) | 暖冷房:エアコン(電気)/給湯:ガス給湯器 | 変わらない |
| 住宅 ② | 暖冷房:エアコン(電気)/給湯:電気ヒートポンプ給湯器 | 良くなる(モデルケースで0.04程度)。基準と比べて給湯分のエネルギー消費が小さくなるため | |
| 住宅 ③ | 暖房:床暖房(ガス)/給湯:ガス給湯器 | 悪くなる(モデルケースで0.02程度)。基準と比べて空調分のエネルギー消費が変わらないため | |
| 非住宅 ① | 空調:空冷ヒートポンプ(電気)/照明:Hf蛍光灯(電気)/換気・昇降機(電気)/給湯:ボイラ(ガス等)(事務所・病院・学校の例) | 空調:パッケージエアコン(電気)/照明:LED/給湯:ボイラ(ガス等) | 変わらない |
| 非住宅 ② | 空調:パッケージエアコン(電気)/給湯:電気ヒートポンプ | 良くなる(病院の例で0.02程度) | |
| 非住宅 ③ | 空調:ガスヒートポンプ/給湯:ボイラ(ガス等) | 悪くなる(学校の例で0.05程度) |
出典:国土交通省 建築物エネルギー消費性能基準等小委員会(2023年1月25日)資料4 スライド13(住宅)・スライド14(非住宅)(PDFの14・15頁)。住宅の照明は設計側を「白熱灯等」、換気は基準・設計とも第3種換気(電気)。非住宅は、設計②③も照明はLED、換気は送風ファン、昇降機はVVVF方式(いずれも電気)です。表は当社の要約で、原資料は矢印の図で示されています。どの設計でも、太陽光発電で差し引く創エネ量は小さくなるとされています(現行は自家消費分に9.76MJ/kWhを掛けて差し引いている)。
読み方を整理します。住宅①・非住宅①は、基準と設計で使うエネルギーの種類の組み合わせが同じで、国交省の資料は「変わらない」と整理しています。ただし資料には消費量の内訳は載っておらず、設備の種類が同じというだけで建物全体のBEIがまったく動かないとまでは言えません。住宅②は、給湯を電気に替えたので、設計側の一次エネルギー消費量の減少率が基準側より大きくなり、BEIが良くなります。住宅③は逆に、暖房をガスにしたので設計側の減少率が基準側より小さくなり、BEIが悪くなります。
つまり、国交省の掲載例では、係数を下げると給湯を電気にした設計が有利になり、暖房・空調をガスにした設計が不利になる。フランスが1.7への引き下げで狙っていることと、向きは同じです。違うのは、フランスのDPEは一次エネルギー消費量などに基づいて等級を判定するのに対し、日本のBEIは基準値との比なので、基準側も同時に動き、BEIの変化の向きが、設計と基準の電気の分の割合の大小関係で決まることです。変化の大きさは、変更前のBEIやそれぞれの割合にも左右されます。
表5|日本とフランスの係数を同じ単位で並べる
| 制度・時期 | 原典の表記 | kWh÷kWh に直した値(当社の換算) |
|---|---|---|
| 日本 建築物省エネ法(現行) | 9.76MJ/kWh | 約2.71(9.76÷3.6) |
| 日本 省エネ法(2023年度の改正後) | 8.64MJ/kWh | 2.4(8.64÷3.6) |
| フランス DPE(もとの値) | 2.58 | 2.58(MJにすると約9.29MJ/kWh) |
| フランス DPE(2021年〜) | 2.3 | 2.3(同 約8.28MJ/kWh) |
| フランス DPE(2026年1月〜)=EUの既定値(省エネ量の換算用) | 1.9 | 1.9(同 約6.84MJ/kWh) |
| フランス DPE(2027年1月〜) | 1.7 | 1.7(同 約6.12MJ/kWh) |
1kWh=3.6MJで当社が換算した値です。日本の火力平均・全電源平均と、フランスやEUの係数とでは、平均をとる電源の範囲や原子力・再生可能エネルギーの扱いなど、決め方が違います(EUの決め方は指令 (EU) 2023/1791 前文(146))。数字の大小だけで発電の効率を比べることはできません。
同じ単位に直すと、日本の建築物省エネ法の約2.71は、フランスがもともと使っていた2.58よりも大きいことが分かります。もちろん電源の構成が違うので、どちらが正しいという話ではありません。ここで言えるのは、日本の建築物の計算では、電気が相対的に重く数えられているということです。
フランスの例から読み取れることを、当社の整理として3つ挙げます。
1. 係数は「物理定数」ではない。BEIやDPEの等級は、断熱や設備の性能だけで決まるわけではありません。電気の換算係数という国の決め事が変われば、建物が同じでも結果が変わります。フランスでは2021年から2027年1月の予定分までに3回動くことになり、2027年の変更では約30万戸がF・G等級から外れると政府は試算しています。
2. 影響を見る鍵は、設計と基準の電気の割合。BEIは比なので、第6節の前提では、影響の向きは設計と基準の電気の分の割合の大小関係で決まり、大きさは変更前のBEIやそれぞれの割合にも左右されます。給湯や暖房で基準と違う種類のエネルギーを選ぶことは、その割合を大きく変える要因の一つです(国交省の試算の住宅②③・非住宅②③)。基準値ぎりぎりでガスの床暖房やガスの空調を選んでいる計画では、係数の扱いが変わったときに影響が出る可能性があります。また、太陽光で基準を満たしている計画では、差し引く量が小さくなる方向です。
3. 見直しの時期は、当社が確認した範囲では公表されていない。建築物省エネ法の係数を改める時期や値は、本記事で参照した資料からは分かりません。小委員会でも「早めに議論を開始し、十分な周知期間を」という意見が出ていました。いつ変わるかを予想して設計を変える段階ではなく、係数が変わりうる数字であることを知ったうえで、余裕のある計画にしておくのが現実的です。
なお、BEIの「基準」がどの年の設備を前提にしているかは「日本と海外の省エネ基準を比較する」で、フランスが新築のガスボイラーを排出量の閾値で止める規制は「フランスは新築のガスを「79g/kWh」で止めます」で整理しています。
変わりません。今回の変更はフランスの住宅の省エネ性能表示(DPE)と省エネ診断(audit)で使う係数の話で、日本の省エネ計算・省エネ適判・BELSの手順や基準値には関係しません。日本の建築物省エネ法の計算では、建築研究所の技術情報(住宅)第二章第一節の付録Bのとおり、電気1kWhを9,760kJとして換算しています。
当社が確認した範囲では、見直しの時期は公表されていません。国土交通省の建築物エネルギー消費性能基準等小委員会(2023年1月25日)の資料4では、省エネ法と整合的に対応することが基本としつつ、2025年4月の省エネ基準への適合の全面義務化は現行の換算係数で施行する方針が示され、原案のとおり承認されました。議事要旨には、2025年以降の換算係数の取扱いについて、早めに議論を始めて十分な議論期間・周知期間を確保すべきという委員の意見が記録されています。
設計の内容によって、良くなる場合も悪くなる場合もあります。BEIは設計値を基準値で割った比なので、太陽光などの差し引きがない場合で考えると、BEIの計算に入る一次エネルギー消費量(家電などのその他一次エネルギー消費量を除く)に占める電気の分の割合が、基準より設計の方で大きければ良くなり、小さければ悪くなります(電気の係数だけを変える場合の当社の計算)。国土交通省の資料4の試算では、住宅で給湯をガスから電気ヒートポンプ給湯器に替えた設計はBEIが0.04程度良くなり、暖房をガスの床暖房にした設計は0.02程度悪くなるとされています。非住宅でも、病院の例で0.02程度良くなる設計、学校の例で0.05程度悪くなる設計が示されています。
現行の計算では、太陽光発電の自家消費分に9.76MJ/kWhを掛けて差し引いています。国土交通省の資料4は、係数を8.64に見直した場合、差し引く創エネ量が小さくなると説明しています。なお同じ資料は、自家発太陽光については自家消費分を差し引く現行の取扱いを維持する方針を示しています。
使えます。建築研究所の技術情報(住宅)第二章第一節の付録Bでは、9,760kJ/kWhを原則としたうえで、住戸のすべての設備の消費電力量を夜間買電(22時から翌日8時)と昼間買電(8時から22時)に区分できる場合は、昼間を9,970kJ/kWh、夜間を9,280kJ/kWhとしてもよいとしています。フランスや省エネ法の見直しとは別の規定です。
本記事で参照したフランス政府のFAQは、DPEと省エネ診断の係数について説明したもので、新築の基準であるRE2020の係数の扱いは書かれていません。当社はRE2020の係数が変わるかどうかを一次資料で確認できていないため、この記事ではDPEの話に限って書いています。
DOEの費用対効果の計算方法の見直しと、IECCの基本版・上乗せ版への分割。
PUEと水の効率をA〜Gの7段階で表示。日本の電算機室の扱い・PUE1.3基準との比較。
水準は据え置き。変えたのは壁の熱橋の数え方。
燃料を名指ししないボイラー規制と、日本のBEIとの違い。
窓のU値・BEIの基準年・気候区分・義務化範囲。
2030/31年度に18%へ上げる案と、日本の給湯器の新制度。
メーカーが化石エネルギー消費量の目標を定める日本の新制度。
住戸と共用部の計算の組み立て。
住宅・非住宅の省エネ計算から適合判定の申請まで。
Sources — 出典・参考資料
フランス 建物のエネルギー・環境規制の公式ポータル「FAQ DPE - Modification du facteur de conversion en énergie primaire de l'électricité」(2025年7月17日公開・2026年8月26日更新。表1・表2と第1節〜第4節のフランスの記述はこの資料によります)
Légifrance「Arrêté du 19 août 2026」(電気の換算係数を1.7とする省令)/「Arrêté du 13 août 2025」(2.3→1.9の省令)。当社は本文を確認できていません。上記のFAQからリンクされている官報の識別子として掲げます
EU官報「Directive (EU) 2023/1791 of the European Parliament and of the Council of 13 September 2023 on energy efficiency (recast)」(OJ L 231, 20.9.2023。第4節の第31条(3)(7)と前文(146)の記述はこの指令の英語版本文によります)
国土交通省 社会資本整備審議会 建築分科会 建築環境部会 建築物エネルギー消費性能基準等小委員会(2023年1月25日)「資料4 (1)省エネ法改正に伴う対応について」(全16頁。表3の一部・表4と第5節・第6節の記述はこの資料によります)、「議事次第」、「議事要旨」
資源エネルギー庁「省エネ・非化石転換法の手引き 工場・事業場編(令和8年度改訂版)」(省エネ法の8.64MJ/kWhへの見直し)
国立研究開発法人建築研究所「技術情報(住宅)第二章 住宅部分の一次エネルギー消費量 第一節 全般」Ver.13(2024.12)付録B(9,760kJ/kWhと昼夜の係数)
※表5のkWh÷kWhへの換算と、第6節・第7節の読み取りは当社の整理です。