経済産業省は2025年9月26日、集合住宅向けの新しいZEH基準「GX ZEH-M」の定義を公表しました。2027年4月以降、マンション・共同住宅で最も取得件数の多い「ZEH-M Oriented」は「GX ZEH-M Oriented」へと置き換わり、要求水準が大きく引き上げられます。本記事では、新旧基準の違いから、空調のある内廊下(共用部)が判定の足を引っ張るという実務上の落とし穴まで、省エネ計算の実務者の視点で図解します。
GX ZEH-M(集合住宅版の新ZEH)は、経済産業省 資源エネルギー庁が2025年9月26日に公表した集合住宅向けの新しいZEH定義です。2030年に新築住宅でZEH基準水準の省エネ性能が義務化される方針を踏まえ、「2030年代後半に広く普及が期待される住宅」の水準として、従来のZEH-Mから要件が一段引き上げられました。
シリーズ構成は、太陽光発電などの再生可能エネルギー(以下、再エネ)による削減率に応じた5段階。従来の4区分に、最上位の「GX ZEH-M+」が新設されました。全区分に共通する土台が「全住戸の断熱等性能等級6」と「省エネのみ(再エネを除く)で35%削減」で、その上に再エネでどこまで上積みするかで区分が決まります。
図1|GX ZEH-Mシリーズ 5区分の削減率(住棟単位)
実務で最も関わりが深いのが、再エネの搭載を必須としない「GX ZEH-M Oriented」です。屋根面積が限られる中高層マンションでは、現行制度でも「ZEH-M Oriented」が取得の中心であり、GX ZEH-M Orientedはその後継区分にあたります。要件は次の2つです。
ポイントは、外皮(等級6)は「住戸ごと」に全戸クリアが必要で、省エネ(35%削減)は「共用部を含む住棟全体」で判定される、という二段構えになっていることです。妻側住戸・最上階住戸など外皮の不利な住戸が1戸でも等級6を割れば不適合ですし(角住戸の時限例外を除く・後述)、各住戸が優秀でも共用部が重ければ35%に届きません(こちらも後述)。
また、再エネ導入は必須ではないものの、Orientedの認定取得では推奨事項として建築士から建築主への「再エネ導入検討に必要な情報の説明」(太陽光発電の種類・容量など)が求められています。敷地内に駐車スペースがある場合のEV充電・V2H充放電設備の導入検討に関する説明も、シリーズ共通の推奨事項です。
現行のZEH-M Orientedと比べると、外皮・省エネの両方で要求水準が引き上げられます。断熱は「ZEH水準の強化外皮基準(等級5相当)」から「等級6」へ、削減率は「20%以上」から「35%以上」へ。体感的には「ワンランク上」ではなく「ツーランク上」に近い引き上げです。なお、住棟単位と住戸単位(専有部のみ)の両方で評価する枠組みは、従来どおり引き継がれています。
図2|現行 ZEH-M Oriented → GX ZEH-M Oriented の引き上げ幅
| 項目 | 現行 ZEH-M Oriented | GX ZEH-M Oriented(2027年4月〜) |
|---|---|---|
| 外皮性能 | ZEH水準の強化外皮基準 (断熱等性能等級5相当・全住戸) |
断熱等性能等級6(UA値・ηAC値) 全住戸で達成(角住戸の時限例外あり→後述) |
| 一次エネ削減率 (再エネ除く) |
20%以上 | 35%以上 |
| 判定範囲 | 共用部を含む住棟全体 | 共用部を含む住棟全体(変更なし。住戸単位の評価も従来どおり併存) |
| 再エネ導入 | 不要 | 不要(ただし導入検討の情報説明が推奨事項に) |
| 対象となる建物 | 限定なし(階数に応じた「目指すべき水準」として6階建以上に位置づけ) | 多雪地域(垂直積雪量100cm以上)または住宅用途部分が6層以上の住宅に限定(適用条件を新設) |
| 評価対象設備 | 暖冷房・換気・給湯・照明・昇降機 | 暖冷房・換気・給湯・照明・昇降機(「その他」は除く) |
合同会社テト作成。制度の詳細は必ず一次資料(記事末尾の出典)をご確認ください。
GX ZEH-Mの適用は2027年4月以降です。一方で現行ZEH-M定義の新規取得は2028年3月まで可能で、約1年間は新旧が並走します。すでに取得済みの現行定義は2028年4月以降も引き続き使用できます(2028年3月までに建設された住宅の改修は、以降も現行定義で新規取得が可能です)。
共同住宅は企画から竣工まで数年かかるのが普通です。いま基本設計中の物件が竣工・販売を迎える頃には「GX ZEH-M世代」が市場の物差しになっている——そう考えると、対応の検討は今期からが現実的です。
図3|GX ZEH-Mをめぐるスケジュール
ここからは、省エネ計算を日々扱う立場から、いちばん重要だと感じている実務ポイントをお伝えします。
GX ZEH-M Orientedの省エネ判定は「共用部を含む住棟全体」で行います。実は、各住戸(専有部)だけなら35%削減はそこまで高い壁ではありません。特に上下左右を住戸に挟まれた中住戸は外皮に接する面が少なく、高効率給湯器と高断熱の組み合わせで大きく削減できます。
ところが、空調のある内廊下(共用廊下)を持つグレードの高いマンションでは、この共用部が住棟全体の削減率を大きく引き下げます。共用部は非住宅計算法で算定され、内廊下の暖冷房・換気に加えて昇降機・共用照明もすべて評価対象。専有部で稼いだ削減分が、共用部でじわじわ食い潰されていく構図です。現行の20%でも内廊下型は苦戦しがちでしたが、35%となると「専有部は余裕でクリア、なのに住棟全体では未達」というケースが今後さらに増えると見ています。
図4|「専有部はクリア、住棟全体で未達」が起きる構図(モデルイメージ)
「全住戸で等級6」に対しては、救済措置も用意されています。外皮の3面以上が外気等に接する(各面の2/3以上が外気等に面する)角住戸等に限り、最長2030年までの時限措置として断熱等性能等級5以上とすることが認められます。
ただし条件付きです。全住戸のUA値の面積加重平均が等級6の基準値を満たすこと、そして等級6未満の住戸については販売主から購入者へその旨を説明することが求められます。妻側・最上階まわりの断熱納まりに悩む物件では使いどころのある規定ですが、2030年までの時限措置である点には注意が必要です。等級6を満たす外皮仕様の検討と一次エネルギー消費量計算は、省エネ計算の代行としてお引き受けしています。
合同会社テトでは、共同住宅の省エネ計算・BELS・住宅性能評価・省エネ適合判定を通じて、基本設計段階からの「住棟全体での成立性検討」をお手伝いしています。内廊下型で共用部がネックになりそうな物件こそ、早めにご相談ください。
経済産業省が2025年9月26日に公表した集合住宅向けの新しいZEH基準「GX ZEH-M」シリーズの一区分です。住棟内の全住戸が断熱等性能等級6(UA値・ηAC値)を満たし、再生可能エネルギーを除き、共用部を含む住棟全体で基準一次エネルギー消費量から35%以上削減することが要件です。再エネ設備の導入は必須ではありません。
GX ZEH-Mは2027年4月以降に適用されます。現行ZEH-M定義での新規取得は2028年3月まで可能で、既に取得した現行定義は2028年4月以降も使用できます。
①外皮性能が「強化外皮基準(等級5相当)」から「断熱等性能等級6」へ、②一次エネルギー削減率(再エネ除く)が「20%以上」から「35%以上」へ、それぞれ引き上げられます。判定が共用部を含む住棟全体で行われる点は変わりません。
GX ZEH-M Orientedでは必須ではありません。ただし推奨事項として、建築士から建築主へ、太陽光発電設備の種類・規模など再エネ導入検討に必要な情報の説明を行うことが求められています。
多雪地域(建築基準法で規定する垂直積雪量100cm以上の地域)に建築された住宅、または高層(住宅用途部分が6層以上)の住宅に限られます。住宅用途部分の占める面積が半分未満となる階層は階数に算入しません。
難しくなる傾向があります。判定は共用部を含む住棟全体で行うため、各住戸が基準をクリアしていても、内廊下の空調・換気や昇降機・共用照明の消費が大きいと住棟全体で35%に届かないことがあります。基本設計段階から共用部込みで試算し、共用部設備の高効率化や専有部側での上積みを検討することが重要です。
集合住宅のZEH水準を段階的に定めたZEH-Mシリーズのうち、高層の住棟に向けて設けられた区分です。強化外皮基準(断熱等性能等級5相当)を満たしたうえで、再生可能エネルギーによる削減量を除いて、基準一次エネルギー消費量から20%以上削減することが要件とされています。対象は多雪地域(垂直積雪量100cm以上)または住宅用途部分が6層以上の高層の住宅に限られます。階数が多い住棟では屋根面積に対して住戸数が多く、太陽光発電で大きな削減量を確保しにくいため、再エネを除いた省エネ性能で評価する区分が用意されている、という位置づけです。なお2027年4月には、これを引き上げたGX ZEH-M Orientedが適用されます。
削減率の水準と、再生可能エネルギーを算入するかどうかが違います。『ZEH-M』は再エネを含めて基準一次エネルギー消費量から100%以上削減する最上位の区分で、Nearly ZEH-Mが75%以上100%未満、ZEH-M Readyが50%以上75%未満と続きます。これに対してZEH-M Orientedは、再エネによる削減量を除いて20%以上削減する区分で、シリーズの入口にあたります。対象となる階層も異なり、『ZEH-M』からZEH-M Readyまでが比較的低層の住棟を想定しているのに対して、ZEH-M Orientedは6層以上の高層が対象です。どの区分を狙うかで外皮と設備に求められる水準が大きく変わりますので、補助事業の要件や販売上の訴求と照らして、設計の早い段階で決めておくことをお勧めします。
Sources — 出典・参考資料
経済産業省 ニュースリリース「「GX ZEH」及び「GX ZEH-M」を定義しました」(2025年9月26日)
経済産業省「GX ZEH・GX ZEH-M 定義<戸建住宅・集合住宅>(令和7年9月・PDF)」
※本記事は2026年8月7日時点の公表資料に基づいています。制度・補助事業の最新情報は各公表元をご確認ください。
2027年4月はまだ先のようでいて、共同住宅の設計スケジュールで考えれば「いま企画している物件」の話です。等級6と35%削減、そして共用部という新しいハードル——早めの成立性検討で、慌てない移行を。