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英国の省エネ計算 SAP 10.3 から HEM へ。2026年3月24日にSAP 10.3のみを承認、最短3か月後にHEMを追加承認、そこから24か月以上は併走、6か月前予告のうえHEMへ一本化
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英国は計算プログラムの切替をこう決めた|
SAP 10.3とHEMの24か月併走

英国の新しい省エネ基準「Future Homes and Buildings Standards」が2026年3月24日に公表され、2027年3月24日に施行されます。ただ、日本の実務者にとって面白いのは基準の中身より切替の作法のほうです。英国は新しい計算エンジン HEM に置き換えるつもりでしたが間に合わず、旧来のSAPの更新版だけで発進しました。そのうえで、いつから併走し、いつ一本化するかを年数と予告期間で明文にしています。日本も2026年10月にVer.3.11.0へ改定されます。並べて読むと、日本に「無いもの」がはっきりします。

この記事の要点

① 英国は2026年3月24日にFHBSを公表、施行は2027年3月24日。② 新エンジンHEMは間に合わず、承認された計算方法はSAP 10.3のみで発進した。③ HEM承認は諮問回答の公表から最短3か月後、その後最低24か月の併走、廃止は6か月前に予告。④ どの版が承認されているかは「Notice of Approval」という日付つきの文書で管理されている。⑤ 日本には、技術情報のどの版で審査するかを定めた一律のルールが見当たらない——ここが最大の違い。

012027年3月、英国の省エネ基準が変わる

2026年3月24日、英国の住宅・コミュニティ・地方自治省(MHCLG)がFuture Homes and Buildings Standards(以下 FHBS)を公表しました。同じ日に建築規則の改正令 S.I. 2026/335 が議会に提出され、法定指針である Approved Document L と F の2026年版も公開されています。

日本の読者に向けて対応関係を言い換えると、Approved Document L が日本の告示・技術情報にあたる法定の技術指針で、住宅版(Volume 1)と非住宅版(Volume 2)に分かれています。今回はその両方が改訂されました。

制度の目標は、MHCLGの通達(Circular)の言葉を借りれば「これらの基準で建てられた建物は、電力系統が脱炭素化していけば、使用時にゼロカーボンにするための改修を必要としない」ようにすることです。

細かい仕様の水準——外壁や窓のU値がいくつか——については、当社の日本と海外の省エネ基準を比較する記事で東京の水準と並べて扱っています。この記事では重複を避け、計算方法の切替だけを追います。

3行でいうと

いつから:2027年3月24日施行(高リスク建築物は2027年9月24日)。公表は2026年3月24日で、ちょうど12か月前。
一番効くのは:計算方法の切替。新エンジンHEMが間に合わず、SAP 10.3だけで発進しました。
日本との違い:どの版がいつまで使えるかを、英国は年数と予告期間で明文にしています。

表1|FHBS の日付(すべて一次資料に明記のあるもの)

日付何が起きるか出典
2026年3月24日諮問回答・改正令 S.I. 2026/335・Approved Document L / F 2026年版を公表。承認通知(Notice of Approval)も同日付MHCLG 通達(Circular)1・2項
2027年3月24日施行(高リスク建築物以外)。この日までに届出・申請を出していれば従前の Part L で完成できる通達 1・15・16項
2027年9月24日高リスク建築物(HRB)向けの施行日。規則3・4・6・7・8・9がこの日から適用通達 1・17項
2028年3月24日経過措置の期限。前記の届出・申請をしていても、この日までに着工していなければ新基準が適用される通達 16項/諮問回答 13.6

「高リスク建築物(HRB)」は諮問回答 13.7 の定義で、高さ18m以上または7階以上で住戸を2つ以上含む建物、ケアホーム、病院。2022年10月から厳格な建築確認手続の対象になっています。

02計算方法は2つ。ただし今は1つしか承認されていない

Approved Document L 2026年版 Volume 1 は、規則24の解説でこう書いています。新築住宅の性能を計算するために開発された方法は次の2つである、と。

a. Home Energy Model(HEM)/b. 政府の Standard Assessment Procedure(SAP)。

そして続けて、それぞれの方法の有効期間は Notice of Approval に記載され、gov.uk で公開されるとしています。ここが日本と決定的に違うところなので、後でもう一度触れます。

では実際の Notice of Approval には何が書かれているか。2026年3月24日付の通知を読むと、承認されている計算方法は次の2つだけです。

新築住宅は SAP バージョン10.3、住宅以外は NCM(非住宅の国家計算方法)2026年版。HEM の名前はこの通知に出てきません。

この通知は2025年6月15日付の通知に取って代わるもので、「SAP が 10.2 から 10.3 に更新されたことを反映して発行した」と発行理由まで書かれています。本記事の執筆時点(2026年8月25日)で、gov.uk のこのページに更新履歴は追加されておらず、公表日は2026年3月24日のままです。日本側でプログラム改定をまたぐ計算のご相談は、省エネ計算 代行のページに業務範囲と進め方をまとめています。

確認できていないこと

HEM がいつ承認された計算方法になるか(あるいは既になったか)は、本記事の執筆時点で確認できていません。諮問回答は「本回答の公表から最短でも3か月後」としか書いておらず、具体的な日付を示していません。当社が確認したのは「2026年3月24日付の Notice of Approval に HEM が載っていないこと」だけです。実際の状況は gov.uk の Notice of Approval の最新版でご確認ください。

表2|英国の2つの計算方法(Approved Document L 2026年版 Volume 1 の記載から)

項目SAP 10.3HEM
承認の状況2026年3月24日付 Notice of Approval に記載あり同通知に記載なし
仮想住戸の仕様書SAP 10.3 仕様書 附録RThe Future Homes Standard 2026: dwelling notional buildings の表1・表3
仮想住戸のヒートポンプ全住戸一律 COP 2.5(住戸ごとの最適容量設定ができないため)住戸に合わせて最適容量のヒートポンプを設定できる
界壁の扱いSAP 10.3 の 3.7節の値を使う表2.1 で構造ごとに熱損失の有無を選ぶ
承認ソフトの一覧住宅は bregroup.com/sap/sap10/、非住宅は uk-ncm.org.uk(Notice of Approval 4項)

ヒートポンプのCOP 2.5 は諮問回答 3.9、界壁は Approved Document L 2026年版 Volume 1 の 2.12 および表2.1 に基づきます。

評価する指標は3つで、日本のBEIのような1本の総合指標ではありません。Approved Document L 2026年版 Volume 1 の 1.4 が単位まで定めています。目標一次エネルギー率(kWhPE/㎡・年)、目標排出率(kgCO2/㎡・年)、目標外皮エネルギー効率率(kWh/㎡・年)。前2つは外皮と燃料に、3つ目は外皮だけに左右されます。

そして日本の「基準一次エネルギー消費量」と同じ発想で、実際の住戸と同じ大きさ・形の仮想住戸(notional dwelling)に標準的な外皮と設備を与えて目標値を出します(1.1〜1.2)。この考え方自体は日本と共通です。

03新エンジンが間に合わなかった

ここからが本題です。諮問回答の第12章は、英国政府が当初「HEM で適合を示す」方針を諮問にかけたところから始まります(12.3)。ところが回答ではこうなりました。

政府は2025年5月の時点で、SAP の更新版である SAP 10.3 を FHBS で使えるようにすると決めて公表していました。HEM への移行が業界にとって大きな変化であるという住宅供給事業者・ソフト開発者・エネルギー評価者からの声を受けたためです(12.12)。

そのうえで、12.13 にこう書かれています。2025年5月に併走の決定をして以降、HEM のエコシステムが、FHS の政令が議会に提出される時点までに十分な水準で完成・検証されないことが明らかになった、と。

結果として FHS は SAP 10.3 だけで発進し、HEM は承認された計算方法に求められる要件を満たした時点で代替として承認される、という段取りになりました(12.14)。

大事なのは、それでも英国政府が期間を数字で約束したことです。

表3|英国が明文にした切替のルール(諮問回答 第12章)

決めたこと内容項番
HEM の承認時期諮問回答の公表から最短でも3か月後。事前に業界へ通知する12.14
併走期間HEM が使えるようになってから24か月を下回らない12.15
SAP 10.3 の最低寿命政令が議会に提出されてから24か月12.15
廃止のしかた建築規則の通常の経過措置と同様。一定日以前に建築確認図書を提出した案件、一定日までに着工した現場のEPCでは使える。24か月を大きく越えて SAP 10.3 のEPCが出続ける見込み12.15
廃止の予告HEM が十分に定着したのち、6か月前に予告してから SAP 10.3 での提出を締め切る12.16
最終的な姿HEM を唯一の方法にする方針は維持。24か月の併走のあと、可能な限り早く移行する12.11・12.13

12.16 は「最終的な廃止日は、業界が HEM へ問題なく移行できると確信できた時点で確定する」としており、廃止日そのものはまだ決まっていません。

04同じ建物でも、エンジンが違えば扱いが違う

「どちらを使ってもよい」と言われると、結果も同じだろうと思いたくなります。ところが一次資料は、そうではないことを正直に書いています。

まず仮想住戸のヒートポンプ。諮問回答 3.9 は、仮想住戸の仕様を SAP と HEM の両方が受け取れる形式で用意した結果、いくつか差が出ざるを得なかったとしています。とくに、HEM は住戸に最適な容量のヒートポンプを仮想住戸の中に作れるのに対し、SAP ではその機能を簡単には入れられない。そこで SAP の仮想住戸のヒートポンプは全住戸一律で COP 2.5 に設定されました。目標値そのものの前提が方法によって違う、ということです。

次に界壁。Approved Document L 2026年版 Volume 1 の 2.12 は、SAP を使う場合は SAP 10.3 の 3.7節の値を、HEM を使う場合は表2.1 から構造ごとに条件を選ぶよう指示しています。表2.1 では、充填のない空洞で端部の気密処理がない界壁は「熱損失あり」、充填された空洞で端部が適切に処理されているものは「熱損失なし」といった具合に、構造で振り分けられます。

そして気象データ。12.25 で英国政府は、ヒートポンプの容量設定に地域の気象を使う案を見送ると決めました。理由のひとつがこれです——併走期間中に SAP 10.3 と HEM の整合を保つため。つまり、2つのエンジンを並走させること自体が、基準の高度化にブレーキをかけています。

ですから英国の Approved Document L は、方法を混ぜないよう明確に釘を刺しています。2.1 は、目標値と実際の住戸の値を同じ承認済み計算方法で算定しなければならないと定め、2.2 は着工前(設計値)と完了時(実施値・実測の気密性能を含む)の両方を同じ方法で算定するよう求めています。

日本の実務に引きつけると

日本でも、2026年10月のVer.3.11.0で「同一の開口部に対して暖房期と冷房期で異なる評価方法を用いることはできない」という制約が技術情報 第三章第四節に書き加えられます(当社のVer.3.11.0の記事で扱いました)。選べる幅を広げるときは、同時に混ぜられない範囲を決める——この作法は日英で共通しています。

05業界は何を言ったか

諮問回答には、寄せられた意見がそのまま載っています。新しい計算方法への移行が現場に何をもたらすかを、これほど率直に書いた公的文書は日本ではあまり見かけません。

まず作業量です。12.8 に、HEM を使った評価は、いま SAP でかかっている時間の3倍かかったという指摘があったと記録されています。HEM は現時点では複雑すぎる、という声としてまとめられています。

次に人です。12.9 では、SAP 評価者が業界を離れて別の職種に移り始めているという実感が複数の回答者から寄せられたこと、HEM のリリースに合わせて業界全体のスキルアップが必要になることが指摘されています。

さらに12.6では、HEM への支持と善意は強いものの、現状のままでは実務者が信頼するまでにまだ作業が残っているとされ、12.7 では精度への懸念も挙がっています。

そして、いま読むと予言のようになっているのが 13.4 です。経過措置を長めにとるべきだと主張した回答者の理由の筆頭が、HEM の準備状況への強い懸念と、基準の施行までに HEM が出てこなかった場合の混乱でした。そこにはこう書かれています——2021年の Part L 引き上げのときに起きた SAP10 の更新の遅れを繰り返さないことが重要だ。

結果として、英国政府は経過措置を長いほうの案(Option 2)で設定し(13.5)、そして HEM は実際に間に合いませんでした。

06経過措置は建物単位で引かれている

経過措置の作り方も参考になります。諮問回答 13.5 は、経過措置は敷地全体ではなく建物ごとに適用されると明記しています。建築規則が個々の建物に適用されることを反映したもの、という理由づけです。日本でも大規模な開発で「どこまでが従前の基準か」が問題になりますから、この線引きの発想は分かりやすいと思います。

具体的な条件は次のとおりです(通達16・17項、諮問回答13.6〜13.8)。

一般の建物(非HRB):2027年3月24日より前に、当該建物について building notice・initial notice・詳細図書つきの建築確認申請のいずれかを所管の当局へ提出し、かつ2028年3月24日より前にその建物の工事に着手していること。この2つを満たせば従前の Part L で完成できます。

高リスク建築物(HRB):2027年9月24日より前に有効な Gateway 2 申請を提出し、それが最終的に承認されること。承認の判断がその後に出ても構わず、条件付き承認も含まれます。着工期限が別に設けられていないのは、1984年建築法32条により Gateway 2 提出から3年以内の着工が既に義務づけられているためです。なお2027年9月24日を過ぎてから再提出した場合は、新しい基準が適用されます。

興味深いのは、Notice of Approval にもまったく同じ経過措置が書かれていることです。基準の経過措置と計算方法の経過措置が同じ日付で揃えられているので、「基準は従前だが計算方法は新版」というねじれが起きません。

07日本のVer.3.11.0と並べてみる

日本でも2026年10月1日に、住宅版の計算プログラムが Ver.3.10.0 から Ver.3.11.0 へ改定されます。窓の付属部材を冷房期と暖房期で切り替えられるようになり、建築研究所の変更概要には「当該変更の前後で評価結果が変わる場合があります」と明記されています(詳しくはVer.3.11.0の記事)。

つまり日英とも、いま同じ問いの前にいます。いつから、どの版で計算するのか。

表4|版の切替をどう扱っているか(日英の対照)

論点英国(FHBS)日本(Ver.3.11.0)
どの版が有効かNotice of Approval に大臣名義で明記。旧通知を明示的に置き換える(2025年6月15日付 → 2026年3月24日付)一律のルールを定めた公表資料を当社は確認できていない
公表から施行まで12か月(2026年3月24日 → 2027年3月24日)変更概要の公表から改定日までは数か月。ただし次期更新版の章別PDFは改定日前から公開されている
新旧の併走HEM 承認後最低24か月はどちらでも可版の併走という枠組みは設けられていない
廃止の予告6か月前に予告該当する定めを確認できていない
経過措置の単位建物ごと(敷地単位ではない)床面積の端数処理については「2026年12月末までに申請するもの」という申請時期での線引き
項目ごとの扱い方法全体で一括項目ごとに違う。端数処理には経過措置があるが、付属部材の季節切替には示されていない

日本側の「確認できていない」は、当社が公表資料を調べた範囲でそうした定めが見当たらない、という意味です。存在しないと断定するものではありません。床面積の端数処理の経過措置は当社の記事で扱っています。

この表でいちばん見ていただきたいのは1行目です。英国は「どの版が有効か」を専用の文書で日付つきに管理し、旧版の通知を明示的に置き換えている。日本にはこれに相当する仕組みが見当たりません。だから当社は、Ver.3.10.0の記事以来ずっと「どの版で審査されるかは提出先の取扱いによります。事前にご確認ください」と書き続けています。それは慎重を期しているのではなく、一次資料に書いていないから書けないというだけのことです。

逆に、日本が英国より優れている点もはっきりしています。建築研究所は次期更新版の章別PDFを改定日より前に公開しています。おかげで改定の中身を数値レベルで先に読めます。英国の HEM は、承認前に仕様書の一部が公開されてはいるものの、いつ使えるようになるかが分からない状態が続いています。

08日本の実務者が持ち帰れること

英国の建築規則がそのまま日本の実務に効くわけではありません。ただ、次の3つは日本の案件でもそのまま使える視点だと思います。

1つめ。版の切替は「日付」ではなく「期間」で考える。英国が明文にしたのは施行日だけでなく、併走24か月・予告6か月という幅です。日本でも、改定日(2026年10月1日)の一点だけを見るのではなく、設計から確認申請、着工、完了検査までが改定日をまたぐかどうかで整理すると判断しやすくなります。

2つめ。設計時と完了時で計算方法を揃える。英国は Approved Document L 2.1・2.2 でこれを明文の義務にしています。日本でこれに相当する明文は確認できていませんが、設計時と完了時で違う版を使えば、書類同士が合わなくなるのは同じです。2026年秋をまたぐ計画では、どちらの版で通すかを先に決めておくほうが安全です。

3つめ。分からないことは提出先に聞く、が正解であり続ける。英国のように明文があれば読めば済みますが、日本にはありません。であれば、省エネ適合性判定機関や所管行政庁に事前に確認するのが唯一の確実な方法です。「他社はこうしている」で決めないほうがよい領域です。

当社にご相談いただけること

当社は住宅・共同住宅・非住宅の省エネ計算を一級建築士が直接お引き受けしています。2026年10月の改定をまたぐ計画については、提出先の取扱いを確認したうえでどちらの版で計算するかを決めています。改定前後で結果が動きうる物件の事前検討もご相談ください。お見積り・ご相談はこちら/省エネ計算 代行のご案内

09よくあるご質問(FAQ)

英国の HEM は、日本の住宅版WEBプログラムと何が違うのですか。

位置づけは同じ「国が承認した計算方法」ですが、置き換えの規模が違います。HEM(Home Energy Model)はSAP を置き換えるために新しく作られた計算エンジンで、英国政府は Approved Document L 2026年版の規則24の解説で、新築住宅について HEM と SAP の2つの方法があると書いています。日本の Ver.3.10.0 → Ver.3.11.0 は同じプログラムの版が上がる改定で、エンジンそのものを入れ替える話ではありません。つまり英国のほうが変更の幅は大きく、その分だけ移行に時間をかける設計になっています。なお、HEM の計算時間や刻み幅といった内部仕様については、本記事が確認した一次資料に記載がないため触れていません。

併走期間中は、SAP と HEM のどちらを選んでもよいのですか。

諮問回答(12.15)は、HEM が承認された計算方法になれば「どちらの方法でも適合を示せる」併走期間に入るとしています。ただし Approved Document L 2026年版 Volume 1 の 2.1 に制約があり、目標値(target)と実際の住戸の値(dwelling)は同じ承認済み計算方法で算定しなければならないとされています。さらに 2.2 で、着工前の設計値と完了時の実施値の両方を同じ方法で算定するよう求めています。したがって「案件ごとに選ぶ」ことはできても、1つの住戸の中で混ぜたり、途中で乗り換えたりはできない読み方になります。

同じ建物なら、SAP でも HEM でも同じ答えが出るのですか。

一次資料に、同じ建物でも扱いが違う箇所が明記されています。ひとつは基準となる仮想住戸(notional dwelling)で、諮問回答 3.9 は、HEM は住戸に合わせて最適容量のヒートポンプを設定できるが SAP ではそれができないため、SAP 側の仮想住戸のヒートポンプは全住戸一律で COP 2.5 に固定したと書いています。もうひとつは界壁の扱いで、Approved Document L 2026年版 Volume 1 の 2.12 は、SAP なら SAP 10.3 の 3.7 節の値を使い、HEM なら表2.1 で構造ごとに熱損失の有無を選ぶ、と方法ごとに別の手順を示しています。また 12.25 では、地域気象データの採用を見送った理由のひとつとして「併走期間中に SAP 10.3 と HEM の整合を保つため」を挙げています。

「Notice of Approval」とは何ですか。日本にも同じものはありますか。

英国で、どの計算方法が承認されているかを大臣名義で示す文書です。Approved Document L 2026年版は規則24の解説で、各方法の有効期間はこの Notice of Approval に記載され gov.uk で公開されると書いています。実際、2026年3月24日付の通知は2025年6月15日付の通知に取って代わる形で出され、SAP が 10.2 から 10.3 になったことを反映したものだと明記されています。日本では、技術情報のどの版で審査するかについて一律のルールを定めた公表資料を当社は確認できていません(当社の Ver.3.10.0の記事 以来、同じ書き方を続けています)。そこが英国との一番わかりやすい違いです。

英国の経過措置は、日本の「軽微な変更」と同じようなものですか。

別のものです。日本の軽微な変更は、確認後に計画を変えたときに再申請が要るかどうかの話です。英国の経過措置は、新しい基準が適用されるかどうかの線引きで、しかも敷地単位ではなく建物単位で判定されます(諮問回答 13.5)。非高層の一般の建物は、2027年3月24日までに所定の届出・申請を出し、かつ2028年3月24日までに着工していれば従前の Part L で完成させられます。高リスク建築物(HRB)は別で、2027年9月24日より前に有効な Gateway 2 申請を出しておく必要があります。

この英国の動きは、日本で省エネ計算をしている実務に直接影響しますか。

直接は影響しません。英国の Building Regulations はイングランドの建築物にのみ適用され、日本の建築物省エネ法の手続や計算方法が変わるわけではありません。この記事を書いたのは、日本でも2026年10月1日に住宅版の計算プログラムが Ver.3.11.0 へ改定され、「いつからどの版で計算するのか」が実務の関心事になっているためです。同じ問題に先に直面した国が、期間と予告をどう明文にしたかは、提出先と話をするときの材料になります。

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Sources — 出典・参考資料

英国 住宅・コミュニティ・地方自治省(MHCLG)「The Future Homes and Buildings Standards: Summary of responses received and Government response」(2026年3月・全145ページ。第12章 pp.103–116、第13章 pp.117–123、第3章 p.18)
MHCLG 通達「Housing, Communities and Local Government Circular — The Building Regulations etc. (Amendment) (England) Regulations 2026 (S.I. 2026/335)」(2026年3月24日・全9ページ)
英国政府「Approved Document L (Energy and Greenhouse Gas Emissions), 2026 edition」Volume 1: Dwellings(2026年3月24日公表・全120ページ。規則24の解説、1.1〜1.5、2.1〜2.2、2.12・表2.1)
英国政府「Methodologies of calculation of the energy performance of new buildings to demonstrate compliance with the Building Regulations 2010 in England: notice of approval (24 March 2026)」(承認された計算方法の一覧・経過措置・承認ソフトの所在)
国立研究開発法人 建築研究所「2026年10月における評価方法の変更等の概要」(令和8年10月1日)
※本記事の英国側の記述は、上記の一次資料を当社が直接読んで作成したものです。項番(12.14 など)は諮問回答の段落番号です。訳語は当社によるもので、公式な日本語訳ではありません。
※HEM が承認された計算方法になった日付は、本記事の執筆時点で確認できていません。当社が確認したのは、2026年3月24日付の Notice of Approval に HEM が記載されていないことです。最新の状況は gov.uk の同通知でご確認ください。
※日本側について「確認できていない」と書いた事項は、当社が公表資料を調べた範囲で該当する定めが見当たらないという意味であり、存在しないと断定するものではありません。
※本記事は2026年8月25日時点の公表資料に基づいています。実際のご判断にあたっては各公表元の最新版と、計画地の所管行政庁・省エネ適合性判定機関の取扱いをご確認ください。

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