外皮は住戸ごと、一次エネルギーは共用部を含む住棟全体。この評価単位の違いが、共同住宅の組み立て方を決めます。そして同じZEH-M Orientedでも、温水床暖房を入れるかどうかで、設備も断熱も必要な水準が変わります。本記事では、同一計画で床暖房あり・なしの両方を組んだ比較と、実際に検討した3つの仕様パターンを並べて、設備と外皮のトレードオフを整理します。
一次エネルギー消費量の側に絞っています。外皮の仕様基準と性能基準の比較は共同住宅の外皮|仕様基準と性能基準にまとめました。数値は6地域・鉄筋コンクリート造の共同住宅を前提としています。
共同住宅の省エネ評価でまず押さえておく必要があるのが、外皮と一次エネルギーで評価の単位が違うということです。外皮性能は2022年11月の改正で単位住戸ごとの評価に一本化されました。一方、一次エネルギー消費量はZEH-Mの判定において、共用部を含む住棟全体で行われます。
この違いが実務にどう効くかというと、専有部だけを見て組み立てた計画が、共用部を足した瞬間に届かなくなるという形で現れます。内廊下の空調や換気、昇降機、共用部照明の消費は、住棟の規模によっては無視できない量になります。基本設計の段階から共用部込みで試算しておかないと、後半で取り返せません。
表1|ZEH-Mシリーズの区分(削減率)
| 区分 | 一次エネルギー消費量の削減率 | 再エネの算入 |
|---|---|---|
| 『ZEH-M』 | 100%以上 | 含む |
| Nearly ZEH-M | 75%以上100%未満 | 含む |
| ZEH-M Ready | 50%以上75%未満 | 含む |
| ZEH-M Oriented | 20%以上(BEI 0.8以下に相当) | 含まない |
ZEH-M Orientedは、多雪地域(垂直積雪量100cm以上)または住宅用途部分が6層以上の高層の住宅が対象です。あわせて強化外皮基準(断熱等性能等級5相当、6地域でUA≦0.60)を満たす必要があります。2027年4月には、断熱等級6かつ35%以上削減へ引き上げたGX ZEH-M Orientedが適用されます。
表2|評価の単位 — 外皮と一次エネルギーで違う
| 区分 | 対象 | 評価の単位 |
|---|---|---|
| 専有部の一次エネ | 暖房/冷房/換気/給湯/照明 | 住戸ごとに算定し、住棟に積み上げる |
| 共用部の一次エネ | 共用廊下・階段の照明/内廊下の空調・換気/昇降機/給水ポンプ など | 住棟全体の評価に含まれる |
| 外皮 | 断熱・開口部 | 単位住戸ごと |
外皮は住戸ごと、一次エネルギーは住棟全体。この評価単位の違いが、共同住宅の設計を組み立てるうえでの前提になります。外皮側の考え方は共同住宅の外皮|仕様基準と性能基準にまとめています。
分譲共同住宅では、温水床暖房が販売上の訴求として求められることが少なくありません。ただし省エネ計算の側から見ると、床暖房を採用するかどうかは暖房設備の一項目という以上の意味を持ちます。床暖房のぶんを他のどこかで取り返す必要があるため、給湯や照明、そして外皮の水準まで連動して変わるからです。
同じ計画について、床暖房ありとなしの両方で仕様を組んだ結果が次の表です。どちらもZEH-Oriented水準(UA≦0.60)を満たしています。
表3|温水床暖房の有無で、仕様がどう変わるか(同一計画・ZEH-Oriented水準・性能基準)
| 項目 | 床暖房あり | 床暖房なし |
|---|---|---|
| 温水床暖房 | セーブモード付 1室(LD) 一部住戸は従来型2室 | なし |
| エアコン | 非実装 または 実装(は) | 非実装 または 実装(は) |
| 節湯水栓 | 浴室 A1+B1/流し台 A1+C1/洗面 C1 | 浴室 B1/流し台 C1/洗面 C1 手元止水機構を省ける |
| 浴槽 | 高断熱浴槽 | 高断熱浴槽 |
| 照明 | 全てLED+玄関センサー | 全てLED+玄関センサー |
| 天井(全面断熱) | t20〜35 | t20 |
| 外壁(妻側・中間階) | t40〜50 | t35〜40 |
| 外壁(中住戸・中間階) | t40 | t30〜35 |
| 窓(サッシ+ガラス) | U=2.97〜2.65 | U=2.97 |
| 最下階の床 | t60〜90 | t60〜90 |
6地域・RC造・地上14階・46戸・二重床の共同住宅を想定した検討例です。単位はmm。床暖房をなくすと、節湯水栓のグレードを下げられ、天井と外壁の断熱も薄い側で成立しました。数値は当該計画の条件によるもので、他の計画にそのまま当てはまるものではありません。
ZEH-M Orientedの達成の仕方は一通りではありません。実際に検討した3つのパターンを並べます。いずれも同じ水準を満たしていますが、力の入れどころがまったく違います。
表4|ZEH-M Orientedを満たす3つの仕様パターン(設備側)
| 項目 | パターン1 | パターン2 | パターン3 |
|---|---|---|---|
| 床暖房 | 2室(LD+洋室) | 1室(LD) | 1室(LD) |
| 床下地 | 二重床 | 二重床 | 直床 |
| エアコン | 非実装 コンセント+スリーブ | 実装(ろ 中級機種) または(い 最上位機種) | 実装(い 最上位機種) |
| 節湯水栓 | 浴室 A1+B1/流し台 C1/洗面 C1 | 浴室 A1+B1/流し台 A1+C1/洗面 C1 | 浴室 A1+B1/流し台 A1+C1/洗面 C1 |
| 浴槽 | 高断熱浴槽 | 高断熱浴槽 | 高断熱浴槽 |
| 照明 | 全てLED+玄関センサー | 全てLED+玄関センサー | 全てLED+玄関センサー |
(い)(ろ)(は)は、仕様基準で定められた暖冷房設備の区分です。(い)が最も高い水準にあたります。
表5|同じ3パターンの外皮側 — 設備を軽くすると外皮が厚くなる
| 部位 | パターン1 | パターン2 | パターン3 |
|---|---|---|---|
| 屋根 | 硬質ウレタン2種1号 t50 /押出3種 t60 | 同左 | 同左 |
| 天井(全面) | t20〜30 | t25〜35 | t25〜35 |
| 外壁 | t40〜50 | t40〜50 | t50〜55 |
| 床 | t45〜90 | t60〜120 | t60〜120 |
| 窓サッシ | 1重アルミサッシ+ Low-E複層ガラスG12〜16 アルゴンガス入り | 2重サッシ(外アルミ/内樹脂) 外 Low-E複層A1/内 単板 | 2重サッシ(外アルミ/内樹脂) 外 Low-E複層A1/内 普通複層A6 |
| 熱橋補強 | 床上下・界壁・下階壁梁 L=450 | 床上下・界壁・下階壁梁 L=450 | 床なし 界壁・下階壁梁 t20 |
単位はmm。パターン1は床暖房を2室入れるかわりにエアコンを非実装とし、窓は1重サッシで成立しています。パターン2はエアコンを実装するかわりに窓を2重サッシへ、床の断熱を厚くしました。パターン3は直床として床の熱橋補強を省けるかわりに、外壁をさらに厚くしています。
パターン3は床下地を直床としたことで、床上下の熱橋補強が不要になりました。熱橋補強は界壁と下階の壁・梁だけで済みます。そのかわり外壁の断熱をt50〜55まで厚くしています。二重床か直床かは天井高や設備配管の納まりにも直結しますので、省エネの都合だけで決められるものではありません。ただ、この選択が外皮の必要水準まで動かすということは、早い段階で共有しておく価値があります。
共同住宅の一次エネルギー消費量では、給湯が大きな割合を占めます。工事費に対して効きやすいのは、まず節湯水栓と高断熱浴槽です。照明を全てLEDとし、玄関に人感センサーを設けるのも定番の組み合わせで、3つのパターンすべてで採用しています。
表6|節湯水栓の区分
| 区分 | 機構 | 主な採用箇所 |
|---|---|---|
| A1 | 手元止水機構 | 浴室シャワー水栓/台所水栓 |
| B1 | 小流量吐水機構 | 浴室シャワー水栓 |
| C1 | 水優先吐水機構 | 台所水栓/洗面水栓 |
給湯は共同住宅の一次エネルギー消費量のなかで大きな割合を占めます。水栓の選定と高断熱浴槽は、工事費に対して効きやすい打ち手です。
住戸にエアコンを設置せず、スリーブとコンセントだけを設けておく設計は、分譲共同住宅では一般的に行われています。この場合、省エネ計算上は冷房設備を設置しないものとして扱われます。パターン1が床暖房2室という重い条件で成立しているのは、この扱いによるところが大きいです。
ただし、実際には居住者が入居後に設置することが前提ですので、計算上の評価と実際の使われ方には差が生じます。また、完了検査では計画のとおりに設置されていないことが確認されます。工事の途中で設置する方針に変わった場合は変更の手続きが必要になりますので、販売計画と評価の両面から判断されることをお勧めします。
専有部の仕様をどれだけ積み上げても、共用部で相殺されることがあります。特に効くのが空調のある内廊下です。外廊下であれば空調も換気も不要ですが、内廊下とすると住棟全体の消費に上乗せされます。昇降機、共用部照明、給水ポンプも同様です。
共用部の打ち手としては、内廊下の空調方式と運転時間の設定、共用部照明のLED化と人感センサーによる制御、昇降機の機種選定などがあります。いずれも意匠や管理計画に関わりますので、省エネ担当だけでは決められません。基本設計の段階で、共用部込みの試算を一度出しておくのが、結果的にいちばん早い進め方です。
実務としては、販売計画に直結する設備から決めて、外皮で調整するという順序が現実的です。床暖房の室数やエアコンの実装は、後から変えると販売資料や価格設定まで巻き込みます。断熱材の厚さであれば、図面と計算のなかで調整できる余地があります。
ただし外皮側にも限界があります。断熱を厚くすれば納まりが苦しくなり、梁底や段差スラブ、ユニットバスまわりで衝突します。求められる厚さが納まりの限界を超えると、設計が破綻します。ですので、設備案が固まりきる前に、案ごとの必要断熱厚さを試算しておくのが安全です。納まりの制約は外皮の記事にまとめています。
設備案を複数いただければ、それぞれについて外皮の必要水準を出してお返ししています。3つのパターンのように並べて比べられる状態にしてから、販売と工事費の判断をしていただくのが、いちばん手戻りの少ない進め方です。
外皮とは扱いが違います。外皮性能は2022年11月の改正で単位住戸ごとの評価に一本化されましたが、一次エネルギー消費量はZEH-Mの判定において共用部を含む住棟全体で行われます。つまり各住戸が個別に基準をクリアしていても、内廊下の空調や換気、昇降機、共用部照明の消費が大きいと、住棟全体では届かないということが起こります。専有部だけを見て組み立てると、後半で共用部のぶんを取り返せなくなりますので、基本設計の段階から共用部込みで試算しておくことが大切です。
暖房設備として計上されますので、その分は評価に乗ります。実務上重要なのは、床暖房を採用するかどうかで他の項目に求められる水準まで変わってくるという点です。同じ計画について床暖房ありとなしの両方で仕様を組んだところ、床暖房をなくした場合は節湯水栓のグレードを下げられ、天井や外壁の断熱厚さも薄い側で成立しました。逆に床暖房を採用するのであれば、そのぶんを給湯や照明、外皮のどこかで取り返す必要があります。販売上の訴求として床暖房を残したいというご要望は多いので、何を代わりに引き上げるかを早い段階で決めておくと、後戻りが減ります。
住戸にエアコンを設置せず、スリーブとコンセントだけを設けておく設計は、分譲共同住宅では一般的に行われています。この場合、省エネ計算上は冷房設備を設置しないものとして扱われます。ただし、実際には居住者が入居後に設置することが前提ですので、計算上の評価と実際の使われ方には差が生じます。また、完了検査では計画のとおりに設置されていないことが確認されますので、工事の途中で設置する方針に変わった場合は、変更の手続きが必要になります。採用するかどうかは、販売計画と評価の両面から判断されることをお勧めします。
節湯水栓の機構の区分です。A1が手元止水機構、B1が小流量吐水機構、C1が水優先吐水機構を指します。浴室のシャワー水栓では手元止水機構と小流量吐水機構を、台所と洗面では手元止水機構と水優先吐水機構を組み合わせて採用することが一般的です。給湯は共同住宅の一次エネルギー消費量のなかで大きな割合を占めますので、水栓の選定は費用のわりに効きやすい打ち手です。高断熱浴槽とあわせて検討すると、設備側で確保できる削減量が見込みやすくなります。
決まりません。同じZEH-M Orientedでも、床暖房を何室に入れるか、エアコンを実装するか、床下地を二重床とするか直床とするかで、外皮に求められる水準が変わります。実際に組んだ3つのパターンでは、床暖房を2室入れる案はエアコンを非実装として窓を1重サッシで成立させ、床暖房を1室に減らした案はエアコンを実装するかわりに窓を2重サッシとし、床の断熱を厚くしています。直床とした案では床の熱橋補強が不要になる一方、外壁の断熱をさらに厚くしています。どれが有利かは、販売上の訴求と工事費、そして納まりの制約で決まります。
販売計画に直結する設備から決めて、外皮で調整するという順序が現実的です。床暖房の室数やエアコンの実装は、後から変えると販売資料まで巻き込むことになりますが、断熱材の厚さは図面と計算の中で調整できます。ただし外皮側にも限界があり、納まりが成立しない厚さまで求められると設計が破綻しますので、早い段階で設備案ごとに必要な断熱厚さを試算しておくのが安全です。設備案を複数いただければ、それぞれについて外皮の必要水準を出してお返ししています。
東京の壁・屋根・窓を、英国・ドイツ・韓国と同じ単位で並べる。
2026年4月改定で変わった9項目と、差し替えられた技術情報。
住戸分類と断熱厚さの実例、納まりの制約まで。
住戸タイプの整理から共用部、住棟の一次エネルギーまで。
2027年4月適用。等級6×35%削減を図解で解説。
断熱ラインの決め方と記載項目、指摘されやすい点。
外皮計算・一次エネルギー消費量計算・BEI算出を一級建築士が直接。
表示や等級の取得を、省エネ計算と一体で。
Sources — 出典