オーストラリアの建築基準(NCC)を作るABCB(オーストラリア建築基準委員会)は、2026年7月22日、建物のエンボディドカーボン(建材の製造・輸送、施工、改修、解体など、建物の運用以外で出る温室効果ガス。CO2に換算して数える)を測り、開示し、減らすための手引きを公表しました。評価制度NABERSと共同で作った全51頁の資料です。 位置づけははっきりしていて、NCCの要求事項ではない任意の手引きです。2024年には「NCC 2025に任意の算定ルートを入れ、NCC 2028で最低基準を調べる」という方針が示されていましたが、2025年10月の建築大臣会合で、NCCの外の手引きとして出すことになりました。 ただし、中身はゆるくありません。EPDや製品のカーボンフットプリントは第三者が検証したものに限り、EPDは現場に搬入した時点で有効なもの、業界平均のEPDは最悪値で数え、オフセットは差し引きません。日本は2028年度に義務の届出制度を始める予定で、算定ルールの素案は2026年11月から議論されます。原典を読んで、両国の違いを整理しました。
① ABCBのEmbodied carbon handbook(2026年7月22日公表・NABERSと共同作成)は任意の手引き。NCCには今、エンボディドカーボンの要求事項・規定・適合義務がないと明記している。
② 経緯:2024年6月の建築大臣会合はNCC 2025に商業建築物の任意の算定・報告ルートを入れ、NCC 2028での最低基準を調べるよう求めた。2025年10月の会合は、NCC 2025で安全・品質に欠かせないものを除いて住宅関係の変更を止めることにあわせ、任意の規定はABCBの手引きとして公表するとした。
③ 対象は新築の共同住宅の共用部分・Class 3・Class 5〜9。算定の中心はアップフロントカーボン(A1〜A5)で、排出量は豪州積算士協会(AIQS)の方法による総床面積(GFA)で割って比べる。
④ 付録Cに、州・準州が取り込んだり参照したりできる、条文の形の規定を置いた。取り込めば、その地域では義務になり得る。
⑤ 原単位はEPD・Climate Active認証製品・製品カーボンフットプリント・NABERSの既定値の4つ。EPDは第三者検証済み・発行から最長5年・現場搬入時に有効、業界平均のEPDは最悪値、カーボンニュートラル製品はオフセットを除いた値。既定値は分類の中で成績の悪い側の値に不確実性の係数をかけて決める。
⑥ 算入の範囲は、敷地の準備・下部構造・上部構造・外皮・建築設備が最低限で、さらに建物のアップフロントカーボンの1%を超えると見込まれる部材はすべて算入。元の状態で使う残置・再使用の部材は0(場外から運ぶ分の輸送は算入)。
⑦ 日本は義務の届出(5,000㎡以上の事務所が例)だが、自己評価でよく、第三者レビューのないCFPや国のデフォルト値も使える方向。豪州の手引きが示す認証の経路は任意だが、検証の条件は厳格。制度の組み立てが対照的になっている。
ABCBは、連邦・州・準州の政府と業界の共同の組織で、オーストラリアの建築基準NCC(National Construction Code)を作っています。日本にあてはめると、建築基準法の技術基準と省エネ基準の両方にあたる内容を書いている組織です(当社のたとえです)。NCC 2025を採用するかどうかは、州・準州それぞれが判断します(2025年10月の建築大臣会合の声明)。
今回の手引きは、そのABCBが「NCCで規制していない分野」について出す手引きのシリーズの1冊です。前書きは、エンボディドカーボンは今のNCCでは扱っていないので、この手引きは適合のための要求事項や強制規定を定めないと書いています。公表のお知らせも、NCCにはエンボディドカーボンについての要求事項・規定・適合義務が今はなく、手引きはNCCへの適合に必要なものではない、と念を押しています。
表1|手引きの概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称・版 | Embodied carbon handbook(Print version 1.0、2026年7月)。PDFは全51頁 |
| 公表 | 2026年7月22日(ABCBのお知らせ) |
| 作成 | ABCB。NABERS(建物の環境性能の格付け制度。NSW州政府が運営)と共同で作成 |
| 位置づけ | 任意の手引き。NCCの要求事項・適合義務・強制規定を新しく設けるものではない |
| 対象の建物 | 新築。Class 2のうち住戸を除く部分(共同住宅の共用部分)、Class 3、Class 5〜9(NCCの建物分類) |
| 算定の中心 | アップフロントカーボン(A1〜A5)=建材の製造(A1〜A3)、輸送(A4)、施工時の廃棄物・エネルギー・土地利用の変化(A5) |
| 床面積 | 総床面積(GFA)。豪州積算士協会(AIQS)の測定方法に従うことが必須 |
| 測定・開示の経路 | NABERSの2つの契約(Commitment Agreement/Agreement to Rate)と、Green Starの格付け。竣工後に契約なしで格付けを受ける方法もある |
出典:ABCB「Embodied carbon handbook」p2〜p4・p8・p11・p18〜p24・p38、ABCB「Understanding embodied carbon: New handbook for practitioners」(2026年7月22日)。頁は紙面に印刷された番号です。
使用段階(B)と解体段階(C)は、将来の想定に頼るので不確かさが大きく、竣工時に出す新築の格付けには通常入らない、と手引きは説明しています。それでもライフサイクル全体のCO2は測って減らすべきだ、という書き方です。リサイクルなどによる建物の外の効果(モジュールD)は、エンボディドカーボンの定義から外しています。
声明の文面を見るかぎり、手引きが任意になったのは、NCCの住宅関係の改正を止める政策判断の流れで決まったものです。連邦・州・準州の建築担当大臣が集まる建築大臣会合(Building Ministers' Meeting)の声明を並べると、流れがわかります。
表2|エンボディドカーボンをめぐる経緯
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 2024年6月21日 | 建築大臣会合。NCC 2025に、商業建築物がNABERSの方法でエンボディドカーボンを測って報告する任意のルートを入れることで合意。あわせて、NCC 2028で将来の最低基準を取り入れる方法と費用の手当てを調べるようABCBに求めた |
| 2025年8月24日 | 連邦政府が、NCC 2025の確定後は、安全と品質に欠かせないものを除き、2029年半ばまでNCCの住宅関係の変更を行わないと発表 |
| 2025年10月22日 | 建築大臣会合。住宅関係の変更の停止に合意。NCC 2025では安全と品質に欠かせない変更以外の住宅関係の変更を行わず、「これにより、任意のエンボディドカーボンの規定はABCBの手引きとして公表する」。EV充電の規定と住宅の省エネの変更も今回は導入しない。一方、商業建築物の省エネの強化(敷地内の太陽光発電の義務化を含む)はNCC 2025に入れる |
| 2026年5月1日 | ABCBのお知らせ「NCC 2025 released」(2025年10月の声明では、2026年2月1日までに公表し、州・準州は5月1日から採用を検討できるとしていた) |
| 2026年7月22日 | ABCBが手引きを公表 |
出典:Building Ministers' Meeting: Communiqué June 2024(産業・科学・資源省の掲載。オーストラリア国立図書館の保存版 2024年9月13日)、Meeting communiqué: Building Ministers' Meeting, October 2025(財務省・2025年10月22日)、ABCBのお知らせ(「NCC 2025 released」2026年5月1日/手引きの公表 2026年7月22日)。
2025年10月の声明は、エンボディドカーボンの扱いを、住宅関係の変更を止めるという文の続きで書いています。手引きの対象は共同住宅の共用部分と非住宅なので、住宅の規制の話だけではありません。声明の文面から読めるのは、NCCの改正を絞り込む方針のなかで、エンボディドカーボンは「NCCに入れる任意のルート」から「NCCの外の手引き」に移ったということです。2024年に調べるよう求めたNCC 2028の最低基準がどうなったかは、2025年10月の声明には書かれていません。
同じ声明は、NCCの簡素化として、AIによる使いやすさの改善、業界の規制の負担の軽減、将来のNCCの改正の間隔の検討を挙げています。商業建築物の省エネの強化は進めつつ、住宅関係の要求を足していく流れには、いったんブレーキがかかったのが2025年のオーストラリアです。
この手引きで実務的に効いているのは、付録Cです。ここには、NCCの要求事項ではない任意の規定が、NCCと同じ「目的・機能・性能・検証」の形で書かれています。付録Cは、州・準州がこの規定を自らの規制や政策に取り込むか参照することを選べ、取り込んだ地域では、特定の建物の種類や事業について義務になり得るとしています。第4章にも、一部の州・準州がすでに任意のエンボディドカーボンの規定を導入している、という注があります(どの州かは手引きに書かれていません)。
つまり、国は義務にしなかったが、州が取り込むときに使える条文の形の規定は、先に示しておいた、という設計です。
表3|付録Cの任意の規定(要約)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 目的 | 建物に関わるエンボディドカーボンの排出を減らすこと |
| 機能の要求 | 建物は、(a) エンボディドカーボンを測定・開示し、(b) 最小化するように設計・施工しなければならない |
| 性能の要求 | Class 2の住戸とClass 4の部分を除く建物は、(a) 測定・開示し、(b) アップフロントカーボンを、①建物の設計の改善、②材料の効率の改善、③エンボディドカーボンの少ない建材の選択によって最小化するように設計・施工しなければならない |
| 検証 | (a) 次のいずれかを取得:①NABERSのCommitment Agreementによる格付け、②Agreement to Rateによる認証、③NCC 2025 第1巻 J1V2に適合するGreen Star Buildingsの格付け。かつ (b) その登録・格付け・認証が、GBCAかNABERSのウェブサイトで公開されていること |
出典:ABCB「Embodied carbon handbook」付録C(p47〜p48)。要約は当社によります。
性能の要求には、数値の上限がありません。求めているのは「測る」「公開する」「減らす工夫をする」ことで、検証は第三者の格付け・認証と公開で行います。3つの経路のうち、NABERSのCommitment Agreementは、設計段階で目標の星の数(=カーボンの予算)を決め、独立した設計レビューを受け、竣工時に設計段階のモデルを作った人とは別の認定評価者が格付けし、監査を経て公開データベースに載せる、という流れです。Agreement to Rateは目標を決めず、竣工後の認証だけを約束します。Green Starの経路は、基準とする建物に比べて最低10%、上の等級では20%または40%(登録日と版による)のアップフロントカーボンの削減を求めます。
エンボディドカーボンの計算は、基本的に「建材の数量×原単位(1単位あたりの排出量)」の積み上げです。手引きは、NABERSの計算で受け入れる原単位の出所を4つに限り、それぞれに条件を付けています。数え方の手順より、どの数字なら使ってよいかのほうが細かく書かれているのが、この手引きの特徴です。
表4|NABERSの計算で受け入れる原単位と条件
| 出所 | 主な条件 |
|---|---|
| EPD(環境製品宣言) | ISO 14025と、EN 15804またはISO 21930への適合を明記/第三者検証済み/有効な登録番号と有効期限があり、現場に搬入された時点で有効で、搬入された製品と一致/EPDプログラムでオンライン公表/製品固有のEPDは製品名かコードで特定できること。有効期間は発行から最長5年。製品固有のEPDも業界平均のEPDも使えるが、業界平均のEPDは、そのEPDが示す最悪の値を使う(平均値に最大の変動幅を掛けるなどの計算が要る場合がある) |
| Climate Active認証製品 | 国のカーボンニュートラル認証。材料固有の製品認証で、購入した年の有効な公開開示書(毎年更新)があること。算入はオフセット前の化石由来の排出量で、オフセットは除外 |
| 製品カーボンフットプリント | ISO 14067またはPAS 2050に適合/境界がEN 15804またはISO 21930と同等/製品名かコードで特定/第三者検証済み/製品の最終搬入前5年以内の日付 |
| NABERSの既定値 | 公表されたEPDを材料の分類ごとに集め、分類の中で成績の悪い側(worst-in-class)を基にし、データの確かさに応じた不確実性の係数をかけて決める。上の3つが無いときに使う。毎年更新 |
出典:ABCB「Embodied carbon handbook」5.5(p27〜p30)。NABERSの既定値以外の原単位を使うときは、その原単位を確認できる認証の情報と、製品の購入の証拠を保管することが求められます(6.4、p34)。
この条件から読み取れる考え方は3つです。
1. 「いつの数字か」を問う。EPDは発行から最長5年で、判定の基準日は現場に搬入した日です。設計時に使ったEPDが、工事中に期限切れになることもあり得ます。
2. 特定できない数字は不利に扱う。業界平均のEPDは最悪値、既定値は分類の中で成績の悪い側に不確実性の係数を上乗せした値です。手引き自身、既定値は低炭素の材料を代表する値ではないと書いています。メーカー固有の検証済みのデータを出したほうが有利になる、という誘導です。
3. 買ってきた削減は数えない。カーボンニュートラル認証の製品でも、オフセットは差し引きません。木材などに貯蔵された炭素も、アップフロントカーボンの計算には入れません。NABERSの証書には、こうした除去量を「炭素除去の指標(Carbon Removal Indicator)」として別に表示しますが、星の格付けや排出量の値は変わりません。
手引きは、NABERSの方法として建物を7つの部分に分けて見るよう勧めています。敷地の準備、外構、下部構造、上部構造、外皮、内装、建築設備です。事務所や中規模の集合住宅の典型的な内訳として、新築では下部構造と上部構造でアップフロントカーボンの50%を超えることが多いと書いています。
算入の範囲の決め方は、次の2段です。
あわせて、既存の建物の扱いも決めています。
数量の裏づけも求めています。NABERSとGreen Starの認証は通常、竣工時か竣工から2年以内に行われます。いずれの方法も、現場のデータや購買の記録で裏づけた竣工時の数量を使います。設計段階の数量は、納品書・請求書・メーカーの最終確認で置き換えていきます。
日本では、2026年7月に公布された改正建築物省エネ法で、ライフサイクルカーボンの評価の結果を届け出る制度ができました(この評価は、法律上「建築物通算炭素排出量評価」と呼ばれます)。国土交通省の検討会資料では、5,000㎡以上の事務所の新築・増改築(政令で規定予定)の建築主が、着工の14日前までに国土交通大臣へ評価の結果を届け出る形で、制度の開始は2028年度が前提です。2026年10月5日の第8回検討会では、算定ルールの骨子案が示されました(制度の全体像は「ライフサイクルカーボンの届出が義務になります」で整理しています)。
オーストラリアと並べると、豪州の手引きが示す認証の経路は「任意だが、検証は厳格」、日本の届出制度は「義務だが、入口は広め」と、組み立てが対照的です。
表5|オーストラリアの手引きと日本の制度(検討中)の比較
| 項目 | オーストラリア(ABCBの手引き・NABERSの方法) | 日本(改正建築物省エネ法・検討会の資料) |
|---|---|---|
| 位置づけ | 任意。NCCの外。州・準州が取り込めば義務になり得る | 届出は義務(5,000㎡以上の事務所が例)。評価結果が著しく不十分なら勧告 |
| 数値の上限 | なし(付録Cは測定・公開・最小化を求める)。Green Starの経路は基準の建物から10%以上の削減 | 用途別の定量基準値をライフサイクルカーボンで作る方向(素案は第10回) |
| 算定の範囲 | アップフロントカーボン(A1〜A5)が中心 | ライフサイクル全体。評価期間60年、単位はkg-CO2e/㎡・年 |
| 割る面積 | AIQSの方法による総床面積(GFA) | 建築基準法の延べ面積(増改築では原則として増改築の部分。免震層の扱いは検討中) |
| 第三者の確認 | NABERS・Green Starの認証を受ける場合は必須。NABERSは認定評価者の格付けと監査、Green Starは独立した評価を経て認証。EPDも第三者検証済みに限る | 届出は自己評価で可。登録機関の第三者認証(建築主の判断基準に適合する場合に限る)を受けて提出すると、届出期限が着工の3日前(予定)に短くなる |
| 使える原単位 | EPD(第三者検証)、Climate Active認証製品、製品カーボンフットプリント(第三者検証)、NABERSの既定値 | EPD、CFP(第三者レビューあり)、CFP(第三者レビューなし)、国が定めるデフォルト値 |
| データの期限 | EPDは発行から最長5年、現場搬入時に有効であること | 製品データは少なくとも5年ごとに更新することが望ましい(当面の方針) |
| 業界平均の扱い | 業界平均のEPDは最悪値を使う | 業界代表データは業界平均値が原則。個社データの作成を促す等の事情があれば平均より大きく設定してもよい |
| 既定値の決め方 | 分類の中で成績の悪い側の値に、不確実性の係数をかける。毎年更新 | 既存の個社データを勘案し、業界代表データ等に一定の係数を乗じる等により設定(作成方針は第9回) |
| オフセット・炭素貯蔵 | オフセットは除外。木材などに貯蔵された生物由来の炭素はアップフロントカーボンに算入せず、NABERSの証書に別の指標で表示 | 敷地外での再エネ、GX価値、炭素固定、炭素貯蔵は、建物の性能とは別の「第2評価軸」として評価・表示する方向。炭素貯蔵量は、ほかの削減効果と合算せず区別して表示する案 |
| 1%ルール | 建物のアップフロントカーボンの1%を超えると見込まれる材料・部材はすべて算入 | ― |
| 再使用部材 | 元の状態で使うなら0(場外からの輸送は算入) | 削減措置のチェックリスト案に「既存躯体・仕上げ等の再利用」「リユース・リサイクル材の採用」がある。排出量を0とする算定の規則は確認できなかった |
| 既存の建物の解体 | 新築では数えない/部分建て替え・改修では数える | 改修工事(届出の対象外)の算定では、改修工事の解体段階を対象とする案。新築での既存の建物の解体の扱いは確認できなかった |
出典:オーストラリア側はABCB「Embodied carbon handbook」(p11・p13・p18〜p31・p36・付録C)。日本側は国土交通省 建築物LCA制度検討会 第8回(2026年10月5日)資料2(3頁の骨子案の表)・資料3(右下の番号で5頁・9頁・10頁・11頁・17頁・27頁・31頁・33頁)、中間とりまとめ 別添2「建材・設備CO2等排出量原単位整備に係る当面の方針」(2026年1月28日。p9・p13)。日本側の対象・算定方法・運用の詳細には、検討中の案を含みます。「―」は、当社が確認したこれらの資料に該当する記述を見つけられなかった項目で、日本で扱わないと決まったという意味ではありません。
日本の検討会資料は、制度開始後の当面の間は参加しやすさを重視し、第三者のレビューを受けていない簡易なデータも使えるようにする、と書いています(当面の方針 p7・p8)。建材メーカーのデータがそろっていない段階で義務の届出を始めるための、現実的な判断と読めます。一方、オーストラリアの手引きは任意ですが、示している経路はどれも、第三者の格付け・認証と公開で数字を比べられるようにするものです。
どちらが正しいという話ではありません。ただ、オーストラリアの条件表は、日本の算定ルールの素案(第9回・2026年11月9日)で原単位の条件がどこまで書き込まれるかを見るときの、よい物差しになります。
手引きは任意で、NCCの要求事項ではありません。付録Cの規定も、州・準州が取り込んだ場合に限って義務になり得るもので、手引きはどの州が取り込んだかを示していません。また、表5の日本側のうち、対象・算定方法・運用の詳細は検討会の骨子案と当面の方針によるもので、政令・省令・告示で決まったものではありません。
オーストラリアの手引きは、日本の制度とは別のものです。それでも、届出の対象になりそうな計画や、認証の取得を考える計画では、次の点が効いてきます。
1. 原単位は「どの製品の、いつ時点の、誰が確かめた数字か」まで確認する。オーストラリアでは、EPDの期限は現場搬入の日で判定します。日本の条件はこれから決まりますが、主要な建材について、EPDやCFPの有無、第三者の検証・レビューの有無、発行日をメーカーに確かめておくと、どのルールになっても使える情報になります。
2. 数量は「拾った数量」から「入った数量」へ。NABERSは、竣工時の数量を現場のデータや購買の記録で裏づけることを求めます。日本の骨子案では、届出用の排出量を着工前の図面や見積内訳書に基づいて算定し、着工13日前以降の変更には再届出を求めず、竣工時の算定結果は任意で提出を受け付ける案です。それでも、納品書や数量の記録を残せる段取りにしておくと、後から説明しやすくなります(当社の考えです)。
3. 「グリーンな調達」の効き方を分けて説明する。カーボンニュートラル認証の建材のオフセットは、オーストラリアでは排出量から差し引きません。日本の骨子案は、敷地外での再エネやGX価値などを、建物の性能とは別の評価軸で扱う方向です。建築主には、建物の数字を下げるもの(低炭素の材料・数量の削減)と、数字を下げないもの(オフセット)や、別に表示されるもの(豪州の炭素除去の指標、日本の第2評価軸のGX価値など)を分けて説明するのが誤解を生みません。
テトでは、省エネ計算・省エネ適合性判定の申請代行、CASBEE評価、東京都の建築物環境計画書の手続きを日常的に扱っています。東京都の計画書制度でも、2028年度からライフサイクルカーボンの算定・届出の義務化が改正案として示されています。「この計画は届出の対象になりそうか」といった段階のご相談もお受けしています(CASBEE評価 申請代行/東京都 建築物環境計画書 代行)。
国の建築基準(NCC)では義務ではありません。ABCBの手引きは、NCCにはエンボディドカーボンについての要求事項・規定・適合義務が今はないこと、手引きは新しい要求事項や義務を設けるものではないことを明記しています。ただし手引きの付録Cは、州・準州が自らの規制や政策に取り込めば、その地域では特定の建物の種類について義務になり得ると書いています。どの州で適用されるかは、各州・準州の当局に確認するよう求めています。
2025年10月22日の建築大臣会合の声明は、NCC 2025では、安全と品質に欠かせない変更を除いて住宅関係の変更をこれ以上行わないことで合意し、「これにより、任意のエンボディドカーボンの規定はABCBの手引きとして公表する」と書いています。同じ声明は、EV充電の規定と住宅の省エネの変更も今回は導入しないとしています。2024年6月の会合では、NCC 2025に商業建築物の任意の算定・報告ルートを入れ、NCC 2028での最低基準の導入を調べるよう求めていました。
手引きによると、EPDには日付があり、有効期間は発行から最長5年です。NABERSのエンボディドカーボンの評価で使うには、有効な登録番号と有効期限があり、現場に搬入された時点で有効であること、搬入された製品と一致することが条件です。国際規格(ISO 14025と、EN 15804またはISO 21930)への適合の明記、第三者検証、EPDプログラムでのオンライン公表も求められます。
数えられません。手引きは、カーボンニュートラル認証を受けた製品も、もとの化石由来の排出量で算入し、オフセットは除外すると書いています。木材に貯蔵された炭素などの除去量は、NABERSの証書に「炭素除去の指標」として別に表示されますが、星の格付けや排出量の値には影響しません。
制度としての詳しい条件は、2026年10月28日時点では検討中です。ただし、中間とりまとめの別添2(原単位整備の当面の方針)は、製品データを少なくとも5年ごとに更新することが望ましいとし、業界代表データは業界平均値を原則としつつ、個社データの作成を促すために平均より大きく設定してもよいとしています。使える原単位の詳しい条件は、2026年11月9日の第9回検討会以降に議論される予定です。
対象は政令で決まりますが、国の資料では5,000㎡以上の事務所の新築・増改築が例として示されています。オーストラリアの条件が示すとおり、原単位は「どの製品の、いつ時点の、誰が確かめた数字か」が問われます。主要な建材のEPDやCFPの有無、第三者の検証やレビューの有無、発行日をメーカーに確認しておくこと、納入した製品と数量の記録を残せるようにしておくことが、どの算定ルールになっても役に立ちます(当社の考えです)。
改正建築物省エネ法の条文と、J-CATでの計算のしかた。
日本の算定ツールを海外の認証が受け入れる条件。
参照期間50年と、日本のJ-CATとの違い。
RE2020の算定範囲と、日本の算定ルールの骨子案。
LCCO2算定の義務化と省エネ性能基準の強化。
自治体版CASBEEの届出とCASBEE評価認証の取得。
Sources — 出典・参考資料
Australian Building Codes Board「Embodied carbon handbook」(Print version 1.0、2026年7月。PDF 全51頁。本文の頁は紙面に印刷された番号)
Australian Building Codes Board「Understanding embodied carbon: New handbook for practitioners」(2026年7月22日)
The Treasury「Meeting communiqué: Building Ministers' Meeting, October 2025」(2025年10月22日)
Department of Industry, Science and Resources「Building Ministers' Meeting: Communiqué June 2024」(2024年6月21日。オーストラリア国立図書館 Trove の保存版〔2024年9月13日〕。財務省の「Building Ministers' Meeting」のページからリンク)
国土交通省「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会」第8回(2026年10月5日)資料2 検討事項と検討スケジュール(案)・資料3 各検討事項における検討の骨子と方向性(案)
同 中間とりまとめ 別添2「建築物のライフサイクルカーボン評価のための建材・設備CO2等排出量原単位整備に係る当面の方針」(2026年1月28日)
※ 表3の要約、表5の整理、第2節・第4節・第6節の読み、第7節の整理は当社によるものです。手引きは任意で、NCCの要求事項ではありません。日本側は、改正法の規定、原単位整備に係る当面の方針、検討会の骨子案に基づいています。対象・算定方法・運用の詳細には、今後、政令・省令・告示などで定めるために検討中の内容を含みます。