EUの改正建築物エネルギー性能指令(EPBD)は、新築のゼロエミッション化、既存の非住宅の最低性能基準、ライフサイクルのCO2の開示などを定めた法律です。当社は2026年8月の記事で、その国内法化の期限が2026年5月だと書きました。 期限は5月29日でした。その答えは、7月15日に出ています。欧州委員会は、指令を完全には国内法化していないとして27加盟国すべてに、違反手続の第1段階となる「正式通知」を送りました。さらに10月1日には、先に期限が来ていた国家建物改修計画の案を出していない9か国に、第2段階の「理由を付した意見」を送っています。 制度が決まっても、各国の法律が追いつくには時間がかかります。違反手続がどう進むのか、先に期限が来た2つのエネルギーの指令ではどうだったのかを、欧州委員会とEU官報の原典で整理しました。最後に、日本の省エネ基準の決まり方と比べ、義務化の日付をどう読むかをまとめます。
① 改正EPBD(指令 (EU) 2024/1275)の国内法化の期限は2026年5月29日(第35条)。化石燃料ボイラーへの補助の禁止(第17条(15))だけは2025年1月1日が期限だった。
② 欧州委員会は2026年7月15日、指令を完全には国内法化していないとして27加盟国すべてに正式通知(letter of formal notice)を送った。回答期限は2か月。
③ 国家建物改修計画(NBRP)の最初の案の提出期限は2025年12月31日(第3条)。3月11日に19か国へ正式通知、10月1日にはなお出していない9か国(ベルギー・チェコ・アイルランド・イタリア・ルクセンブルク・ハンガリー・マルタ・ポーランド・スロバキア)に、第2段階の「理由を付した意見」を送った。
④ 違反手続は正式通知→理由を付した意見→EU司法裁判所への付託の3段階。指令を取り込む措置を期限内に通知しなかった場合、委員会は付託の段階で、加盟国に対する金銭的な制裁を裁判所に求めることができる。
⑤ 先行するエネルギー効率指令では、正式通知を受けた26か国のうち、期限から約1年後の2026年10月1日に第2段階へ進んだのは4か国だった。比べた2つの指令では、手続は年単位で進み、第2段階に進む国は正式通知より少なかった(残りの国の完了状況は未確認)。
⑥ 指令の日付(新築ゼロエミッションの2028年・2030年など)は、加盟国が要件を確保すべき期限。個々の建物への適用は各国法で確かめる。日本では国の省令・告示の施行日と経過措置がそれに当たる。「方針の年」と「施行日」を分けて読むのが実務の要点(当社の整理)。
欧州委員会エネルギー総局は2026年7月15日、27加盟国すべてに正式通知(letter of formal notice)を送り、違反手続を開始したと発表しました。理由は、改正EPBD(指令 (EU) 2024/1275)の規定を完全には国内法に取り込んでいないことです。
発表は短いものです。指令は2024年に採択され、加盟国は2026年5月29日までに国内法化を通知することになっていた。ただし第17条(15)の化石燃料ボイラーへの資金的な優遇の禁止は、それより早い2025年1月1日が期限だった。各国は2か月以内に回答し、国内法化を終えて委員会に通知する必要があり、満足のいく回答がなければ委員会は理由を付した意見を出すことがある、という内容です。
発表は、建築物を欧州で最大のエネルギー消費者と位置づけ、EUの省エネ改修の年率がまだ約1%と低いことを挙げて、国内法化と実施の重要性を説明しています。
注意したいのは「完全には(fully)」という言葉です。発表は「27か国がまったく何もしていない」とは言っていません。完全な国内法化が行われていないとしているだけで、一部の規定を取り込んだ国があることを否定していません。また正式通知は手続の入口で、EU司法裁判所が違反を確定したわけではありません。
表1|2026年7月15日の発表の要点
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 発表 | 欧州委員会 エネルギー総局「The Commission calls on EU countries to transpose the reinforced rules on the energy performance of buildings」(2026年7月15日) |
| 対象国 | 27加盟国すべて |
| 理由 | 改正EPBD(指令 (EU) 2024/1275)の規定を完全には国内法に取り込んでいない |
| 期限 | 国内法化の通知は2026年5月29日。第17条(15)(化石燃料ボイラーへの資金的な優遇の禁止)は2025年1月1日 |
| 段階 | 違反手続の第1段階=正式通知。回答期限は2か月 |
| 次の段階 | 満足のいく回答がなければ、理由を付した意見を出すことがある |
出典:欧州委員会 エネルギー総局 ニュース(2026年7月15日)。
EUの「指令(directive)」は、加盟国にあてて定める法律です。改正EPBDの第38条も「この指令は加盟国にあてる」と書いています。加盟国は、指令に従うための法令を自国で定め(国内法化)、指令の日付から要件を確保する義務を負います。設計者や建築主が実際に従うのは、そうして定められた各国の法令です。
国内法化の期限を定めたのは第35条です。加盟国は、第1条〜第3条、第5条〜第29条、第32条と附属書I〜III・V〜Xに従うために必要な法令を2026年5月29日までに施行し、その本文と対照表を直ちに委員会へ通知する、とされています。第17条(15)だけは2025年1月1日です。旧指令(2010/31/EU)は2026年5月30日に廃止されました(第36条)。
ただ、5月29日は「最後の期限」ではありません。指令の中には、国内法化の後に順に効いてくる日付がいくつも書かれています。設計の実務に関係しそうなものを抜き出すと、表2のとおりです。
表2|改正EPBDに書かれている主な期限(加盟国にあてたもの)
| 期限 | 条文 | 加盟国が確保すること(要旨) |
|---|---|---|
| 2025年1月1日 | 第17条(15) | 化石燃料を使う単体のボイラーの設置に資金的な優遇を与えない(2025年より前に、所定のEU規則に基づき投資対象に選ばれたものは除く) |
| 2025年12月31日 | 第3条 | 国家建物改修計画(NBRP)の最初の案を委員会に提出 |
| 2026年5月29日 | 第35条・第9条 | 国内法化の期限。あわせて、住宅ストックの段階的な改修の国の道筋(trajectory)を定める |
| 2026年12月31日 | 第3条・第10条 | NBRPの最初の確定版を提出。有効床面積(useful floor area)250㎡超の新築の公共・非住宅に、技術的・経済的に可能な場合の太陽エネルギー設備 |
| 2027年1月1日 | 第7条(5) | 新築のライフサイクルGWP(地球温暖化係数)の上限値の導入の道筋を公表・通知 |
| 2028年1月1日 | 第7条(1)(2) | 公的機関が所有する新築をゼロエミッション建築物に。有効床面積1,000㎡超の新築で、ライフサイクルGWPを算定しエネルギー性能証明書で開示 |
| 2029年12月31日 | 第10条 | すべての新築住宅と、建物に隣接する新築の屋根付き駐車場に太陽エネルギー設備(可能な場合) |
| 2030年1月1日 | 第7条(1)(2) | すべての新築をゼロエミッション建築物に。すべての新築でライフサイクルGWPを算定・開示 |
| 2030年/2033年 | 第9条(1) | 既存の非住宅を、性能の悪い側から16%(2030年から)・26%(2033年から)を区切る閾値より良くする(最低性能基準) |
| 2030年/2035年 | 第9条(2) | 住宅ストック全体の床面積あたりの平均一次エネルギー消費量〔kWh/(㎡・年)〕を、2020年比で16%以上(2030年まで)・20〜22%以上(2035年まで)減らす。減少分の55%以上を、性能の悪い43%の住宅の改修で |
出典:指令 (EU) 2024/1275(EU官報 L series、2024年5月8日掲載)第3条・第7条・第9条・第10条・第17条(15)・第35条・第36条。要旨は当社の訳です。第10条の太陽エネルギー設備は「技術的に適し、経済的・機能的に可能な場合」の条件つき。既存の公共建築物の太陽エネルギー設備(2027〜2030年に規模順)などは省略しています。第9条(2)には、住宅のエネルギー使用に占める化石燃料の平均割合が15%未満の国は、2030年・2035年の削減の水準を調整できる規定があります(ただし、2030年とその後5年ごとの平均一次エネルギー消費量を、2020年から2050年への直線的な減少から導いた国の値以下にすることが条件です)。
表2の日付は、どれも加盟国が確保すべき期限です。たとえば第7条は「2030年1月1日からすべての新築をゼロエミッション建築物にすることを、加盟国が確保する」と書いています。同じ第7条(4)は、第7条(1)(2)の各日付までに建築許可または用途変更を含む同等の申請がすでに出ている建物について、(1)(2)の要件を適用しないことを加盟国が決められる、と定めています。個々の建物にいつから何がかかるかは、こうした扱いも含めて各国の法令で確かめることになります。
2026年8月21日の記事「海外の省エネ規制と環境認証の動き」では、EPBD改正が「2026年5月に国内法化期限を迎える」と書きました。期限は5月29日で、本記事はその後の経過の続報です。ライフサイクルGWPの計算方法(第7条・附属書III)は「EUのライフサイクルGWPの算定枠組み」で、ゼロエミッション建築物と化石燃料ボイラーの関係はフランスの例で「フランスの新築ボイラー規制」で詳しく書いています。
国内法化の手続とは別に、EPBDではもう一つの期限が先に来ていました。第3条の国家建物改修計画(NBRP)です。各国は2050年までに建物のストックを高性能・脱炭素の状態に変えるための計画を5年ごとに作り、その案を委員会に提出します。最初の案だけは特別に2025年12月31日が期限で、確定版は2026年12月31日が期限です。第3条は、案を出す前に公衆からの意見募集を行うことも求めています。
欧州委員会は2026年3月11日、この案を期限までに出さなかった19か国に正式通知を送りました。そして10月1日、そのうちなお出していない9か国に、違反手続の第2段階である理由を付した意見(reasoned opinion)を送りました。
3月に通知を受けた19か国のうち10か国は、10月の第2段階の対象に含まれていません(この10か国が案を出したかどうかは、2つの発表には書かれていません)。9か国には、2か月以内に回答して案を出さなければ、EU司法裁判所への付託を決めることがある、と伝えられています。
表3|国家建物改修計画(NBRP)の案をめぐる違反手続
| 段階・日付 | 国の数 | 対象国 |
|---|---|---|
| 提出期限 2025年12月31日 | — | 第3条:最初のNBRPの案の提出期限 |
| 正式通知 2026年3月11日 | 19か国 | ベルギー、チェコ、ドイツ、エストニア、アイルランド、ギリシャ、フランス、イタリア、キプロス、ラトビア、ルクセンブルク、ハンガリー、マルタ、オランダ、オーストリア、ポーランド、ポルトガル、スロバキア、スウェーデン |
| 理由を付した意見 2026年10月1日 | 9か国 | ベルギー、チェコ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、ハンガリー、マルタ、ポーランド、スロバキア |
| (差し引き) | 10か国 | 3月に通知を受け、10月の第2段階には含まれなかった国=ドイツ、エストニア、ギリシャ、フランス、キプロス、ラトビア、オランダ、オーストリア、ポルトガル、スウェーデン |
出典:欧州委員会 エネルギー総局「March infringements package: key decisions on energy」(2026年3月11日)、「October infringements package: key decisions on energy」(2026年10月1日)、指令 (EU) 2024/1275 第3条。10月の発表は9か国について「なお案を提出していない」と書いており、差し引きの10か国は当社が2つの発表を突き合わせて出したものです。10か国の案の内容や提出日は、本記事では確認していません。
違反手続(infringement procedure)は、EU法を実施しない加盟国に対して、欧州委員会が取る法的な措置です。欧州委員会の解説ページによると、手続は条約に定めた段階を順に進み、各段階が正式な決定で区切られます。
表4|違反手続の流れ(欧州委員会の説明)
| 段階 | 内容 | EPBDでの現在地 |
|---|---|---|
| 1. 正式通知 (letter of formal notice) | 委員会が加盟国に情報を求める。加盟国は所定の期間(通常2か月)内に詳しく回答する | 国内法化:27か国(7月15日) |
| 2. 理由を付した意見 (reasoned opinion) | EU法に従うよう求める正式な要請。違反と考える理由を説明し、取った措置を所定の期間(通常2か月)内に知らせるよう求める | NBRPの案:9か国(10月1日) |
| 3. 司法裁判所への付託 | それでも従わなければ、EU司法裁判所に付託することがある。多くの事案は付託の前に決着する。指令を取り込む措置を期限内に通知しなかった場合は、裁判所に制裁を求めることができる | (まだない) |
| 判決の後 | 判決に従わなければ、委員会は再び付託できる。2度目の付託では、一時金、日額の制裁金、またはその両方を裁判所に提案する(額は違反の重大さ・期間・支払能力を考えて委員会が提案し、裁判所が決める) | — |
出典:欧州委員会「Infringement procedure」解説ページ、エネルギー総局のニュース(2026年7月15日・10月1日)。「EPBDでの現在地」は、この2つの発表と、2026年11月2日に当社が見たエネルギー総局のニュース一覧(10月30日掲載分まで)の範囲です。
表4で大事なのは、回答の期間が「通常2か月」で、委員会が次の段階に進むかどうかはその都度の決定だということです。7月15日の正式通知の2か月は、発表日から数えると9月中旬に当たります。ただ、10月1日の発表にEPBDの国内法化についての第2段階は含まれておらず、2026年11月2日に当社が見たエネルギー総局のニュース一覧(10月30日掲載分まで)にも見当たりません。
違反手続がどのくらいの速さで進むかは、先に国内法化の期限が来たエネルギー分野の指令を見ると見当がつきます。10月1日の発表には、改正エネルギー効率指令(EED・(EU) 2023/1791)と改正再生可能エネルギー指令(RED III・(EU) 2023/2413)の第2段階も入っていました。
表5|エネルギー分野の3つの指令の違反手続の進み方
| 指令 | 国内法化の期限 | 正式通知 | 理由を付した意見 |
|---|---|---|---|
| 改正再生可能エネルギー指令 (RED III・2023/2413) | 2025年5月21日(許認可の一部は2024年7月1日) | 2025年7月・26か国 | 2026年10月1日・1か国(クロアチア) |
| 改正エネルギー効率指令 (EED・2023/1791) | 2025年10月11日(一部の規定は別の期限) | 2025年11月・26か国 | 2026年10月1日・4か国(ギリシャ、スペイン、イタリア、マルタ) |
| 改正建築物エネルギー性能指令 (EPBD・2024/1275) | 2026年5月29日(第17条(15)は2025年1月1日) | 2026年7月15日・27か国 | 国内法化についての第2段階は、当社の確認範囲では見当たらない(NBRPの案は2026年10月1日・9か国) |
出典:欧州委員会 エネルギー総局「October infringements package: key decisions on energy」(2026年10月1日)、同 2026年7月15日のニュース。EPBDの行の「当社の確認範囲」は、この2つの発表と、2026年11月2日に当社が見たエネルギー総局のニュース一覧(10月30日掲載分まで)の範囲です。RED IIIの第2段階は「第2の国内法化の期限」に係る規定についてのもの。EEDとRED IIIの「1か国」「4か国」は、10月1日の発表で第2段階に進んだ国の数で、残りの国の国内法化が完了したと委員会が認めたことを示すものではありません。
2つの指令に共通するのは、期限から数か月以内に、26か国が正式通知を受けていること、そして2026年10月1日に第2段階へ進んだのは、そのうち一部の国だけということです。期限からの経過は、EEDが約1年、RED IIIが約1年4か月です。第2段階に進んだ国の数は、EEDで26か国中4か国、RED IIIで26か国中1か国でした(残りの国が国内法化を完了したかどうかは、この発表には書かれていません)。
EPBDの27か国への正式通知は、比べた2つの指令と同じ出だしです。「27か国すべて」という数字は目を引きますが、EEDやRED IIIでも多数の加盟国が正式通知の対象になっていたことを踏まえて読むのが落ち着いた見方です(2つの先例からの当社の見立てで、委員会がEPBDの今後の手続を予告したものではありません)。一方で、NBRPの案のように期限から9か月たっても9か国が出していない項目もあり、項目ごとに温度差があることも分かります。
各国が委員会に通知した国内法の措置は、EUの法令データベースEUR-Lexの「National transposition measures」に国別に載ります(毎週更新)。2026年11月2日に当社が見た時点の件数を、期限の欄と一緒にまとめると表6のとおりです。
表6|EUR-Lexに載っている改正EPBDの国内法の措置(2026年11月2日 閲覧)
| 区分(期限の欄の表示) | 国(措置の件数) |
|---|---|
| 措置の掲載なし | デンマーク(0)、マルタ(0) |
| 2025年1月1日の期限の欄だけ | エストニア(6)、ギリシャ(1)、イタリア(1)、ポルトガル(2)、ルーマニア(1) |
| 2026年5月29日の期限の欄だけ | スペイン(8)、クロアチア(1)、オランダ(3)、フィンランド(22)、スウェーデン(17) |
| 両方の期限の欄 | ベルギー(18)、ブルガリア(36)、チェコ(42)、ドイツ(1)、アイルランド(4)、フランス(20)、キプロス(1)、ラトビア(59)、リトアニア(63)、ルクセンブルク(12)、ハンガリー(50)、オーストリア(58)、ポーランド(35)、スロベニア(10)、スロバキア(6) |
出典:EUR-Lex「National transposition measures communicated by the Member States concerning: Directive (EU) 2024/1275」(2026年11月2日に当社が閲覧)。区分は、同ページの国ごとの「Transposition deadline(s)」欄の表示で当社が分けたものです。EUR-Lexは、掲載情報は加盟国が単独で責任を負うもので、委員会による完全性・正確性の検証の結果を予断するものではないと注記しています。
この表は国内法化の進み具合の順位表ではありません。件数は掲載された措置の数で、国内法化の完全さを示す指標ではありません。委員会が「完全に取り込んだ」と認めたかどうかは、この表からは分かりません。読めるのは、閲覧した時点で措置の掲載件数が0の国があること、そして5月29日の期限の欄に措置が載っていない国があること、の2点です。
たとえば、ゼロエミッション建築物の定義やエネルギー性能証明書の様式など、実務に効く規定を各国がどう書いたかは、その国の法令そのものを読まないと分かりません。欧州の個別の国の制度に関わる案件では、EUの指令ではなく、その国の法令の本文と施行日を確かめるのが確実です。
日本の省エネ基準には、EUの国内法化に当たる段階がありません。建築物省エネ法は省エネ基準を「経済産業省令・国土交通省令で定める基準」とし(第2条第1項第3号)、実際の基準は経済産業省・国土交通省の共同の省令(建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令)です。一次エネルギー消費量や外皮の算出方法は、その省令の中で「国土交通大臣が定める方法」とされ、告示で定められています。改正された省令・告示は、それぞれに定められた対象・適用の起点・経過措置に従って適用されます。
そのかわり日本で気をつけたいのは、「方針の年」と「施行日」の区別です。住宅を含む省エネ基準を遅くとも2030年度までにZEH・ZEB水準へ引き上げるという方針は、2025年2月18日の閣議決定に書かれています。一方、住宅の施行日や経過措置を定めた省令・告示の案は、当社の記事「住宅の省エネ基準のZEH水準への引き上げ」で2026年10月19日時点で見当たらないとし、その後も当社の日々の確認(10月30日まで)で公表を確認していません。国は「少なくとも2年前に義務基準適合・引上げを決定し、その旨の周知を行うこととしている」と審議会資料に書いています。
表7|EUと日本:建物にかかる日付が決まるまで
| 項目 | EU(改正EPBD) | 日本(建築物省エネ法) |
|---|---|---|
| 目標・期限を書く文書 | 指令(加盟国にあてたもの・加盟国に確保の義務)。例:すべての新築をゼロエミッションに=2030年1月1日 | 閣議決定の計画。例:省エネ基準の段階的な引上げを遅くとも2030年度までに実施 |
| 設計者が実際に従う文書 | 各国の法令(国内法化した法令) | 経済産業省・国土交通省の共同省令(建築物省エネ法 第2条第1項第3号)と、算出方法を定める国土交通大臣の告示 |
| 間に挟まる段階 | 国内法化(期限:2026年5月29日)。遅れれば違反手続 | なし(国が省令・告示を改正する) |
| 期限までの期間・周知 | 指令の採択から国内法化期限まで約2年(2024年4月→2026年5月)。各国の法令の公布から施行までの期間を示すものではない | 「少なくとも2年前に…決定し、その旨の周知を行う」(国の説明。「決定」が何を指すかは資料に書かれていない)。参考:中規模非住宅の引上げは、改正省令の公布2024年10月16日→施行2026年4月1日(約1年5か月) |
| 申請済みの建物の扱い | 第7条(4):第7条(1)(2)の日付までに建築許可等の申請が出ている建物には(1)(2)を適用しないことを、各国が決められる | 改正ごとの経過措置で決まる(例:中規模非住宅は、施行日以後に省エネ適判を申請する建築物から) |
| 地域ごとの差 | 27か国で法令も施行日も別々になり得る | 全国一律の基準。地方公共団体は条例で必要な事項を付加できる(建築物省エネ法 第2条第2項)。ほかに東京都の建築物環境計画書制度など自治体の制度 |
出典:EU側は指令 (EU) 2024/1275 第7条・第35条・第38条。日本側は、当社の記事「住宅の省エネ基準のZEH水準への引き上げ」に示した一次資料(エネルギー基本計画・地球温暖化対策計画〔2025年2月18日閣議決定〕、社会資本整備審議会 建築分科会 第26回建築環境部会 資料2 p45、国交省住宅局 事務連絡)と、e-Gov法令検索の建築物省エネ法 第2条・建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令。表の整理は当社によるものです。
ここからは、EUの今回の経過を日本の実務に引き寄せた当社の実務上の提案です。
1. 「方針の年」だけで個別の案件の適用を判断せず、「施行日」と「経過措置」を早めに押さえる。EUでも、指令に書かれた日付と、各国の法令が個々の建物に何をいつから求めるかは、分けて確かめる必要がありました。日本の「遅くとも2030年度まで」も、建物にかかる日は省令・告示の施行日と経過措置で決まります。建築主には、公表資料で確認できること(方針・目標の値)と、当社の確認範囲ではまだ示されていないこと(住宅の施行日・適用の起点)を分けて説明するのが誠実だと当社は考えています。
2. 長く使う建物は、施行日より先の基準で比べておく。欧州のゼロエミッション建築物も日本のZEH・ZEB水準も、現時点で示されている方向です。日本では長期優良住宅や低炭素建築物の認定基準がすでにZEH水準になっており、認定の条件として先に求められる場面もあります。竣工後に何十年も使う建物では、義務化を待たずにZEH・ZEB水準との差を一度計算しておくと、建築主が仕様を判断しやすくなります。前倒しを勧めるのではなく、判断の材料をそろえるという意味です。
テトでは、住宅・非住宅の省エネ計算を、現行の省エネ基準に加えて誘導基準(ZEH・ZEB水準)との比較も含めて、図面からお引き受けしています(省エネ計算 代行/東京都 建築物環境計画書 代行)。
改正EPBDの第7条は、加盟国に対し、公的機関が所有する新築は2028年1月1日から、すべての新築は2030年1月1日からゼロエミッション建築物とすることを求めています。加盟国は、指令に定めた日付からこの要件を確保する義務を負います。そのうえで同じ第7条(4)は、第7条(1)(2)の各日付までに建築許可または用途変更を含む同等の申請がすでに出ている建物について、(1)(2)の要件を適用しないことを加盟国が決められる、と定めています。個々の建物にいつから何が求められるかは、その扱いを含めて各国の国内法で確かめる必要があります。
EUの「指令(directive)」は、達成すべき結果と期限を加盟国に示し、具体的な規定は各国が自国の法令で定める形の法律です。改正EPBDの第35条は、加盟国が必要な法令を2026年5月29日までに施行し、その本文と対照表を欧州委員会に直ちに通知するよう定めています。この作業が国内法化(transposition)です。化石燃料ボイラーへの資金的な優遇の禁止(第17条(15))だけは、先に2025年1月1日が期限でした。
すぐには科されません。欧州委員会の説明では、手続は正式通知、理由を付した意見、EU司法裁判所への付託の順に進み、正式通知と理由を付した意見への回答の期間は、それぞれ通常2か月です。指令を取り込む措置を期限内に通知しなかった場合、委員会は付託の段階で、加盟国に対する金銭的な制裁を裁判所に求めることができます。また委員会は、多くの事案は裁判所に付託される前に決着するとしています。
国ごとに国内法化を完了したと委員会が認めたかどうかの結論は、2026年11月2日時点で当社が確認した範囲では公表されていません。EUの法令データベース(EUR-Lex)には各国の国内法の措置が載っており、2026年11月2日に当社が見た時点では、デンマークとマルタは掲載件数が0件でした。ただしEUR-Lexは、この情報は加盟国が単独で責任を負うもので、委員会による完全性・正確性の検証の結果を予断するものではないと注記しています。件数の多さは、国内法化の完了を意味しません。
日本の省エネ基準には、EUの国内法化に当たる段階はありません。省エネ基準は、建築物省エネ法に基づき経済産業省・国土交通省の共同の省令で国が定め、一次エネルギー消費量などの算出方法は国土交通大臣が定める方法(告示)とされています。改正された省令・告示は、それぞれに定められた対象・適用の起点・経過措置に従って適用されます。注意したいのは、閣議決定の方針(遅くとも2030年度までの引上げなど)と、施行日の入った省令・告示とを区別して読むことです。
日本の建物に直接の義務はありません。ただ、改正EPBDの第7条は、新築のライフサイクルGWPの算定とエネルギー性能証明書(EPC)での開示を加盟国に求めており、欧州の国の制度に関わる案件では、こうした要件がその国の法律でいつから、どの建物に求められるかを確かめることになります(当社の考えです)。日本の案件では、国の省令・告示の施行日と経過措置を一次資料で確かめることが基本になります。
EPBD改正の期限、欧州のエンボディドカーボン規制、各国の新築規制。
EPBD第7条の開示のための計算方法(委任規則・附属書III)。
EPBDのゼロエミッション建築物を、国内の政令でどう書いたか。
国の方針と、まだ示されていない施行日・経過措置。
部位別のU値、評価の枠組み、義務化の範囲の違い。
住宅・非住宅の省エネ計算を、図面からお引き受けします。
Sources — 出典・参考資料
欧州委員会 エネルギー総局「The Commission calls on EU countries to transpose the reinforced rules on the energy performance of buildings」(2026年7月15日)
欧州委員会 エネルギー総局「October infringements package: key decisions on energy」(2026年10月1日)
欧州委員会 エネルギー総局「March infringements package: key decisions on energy」(2026年3月11日)
「Directive (EU) 2024/1275 of the European Parliament and of the Council of 24 April 2024 on the energy performance of buildings (recast)」(EU官報 L series、2024年5月8日)
EUR-Lex「National transposition measures communicated by the Member States concerning Directive (EU) 2024/1275」(2026年11月2日 閲覧)
欧州委員会「Infringement procedure」(違反手続の解説ページ)
欧州委員会 エネルギー総局「Energy Performance of Buildings Directive」
e-Gov法令検索「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」(平成27年法律第53号)/「建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令」(平成28年経済産業省・国土交通省令第1号)
日本側の資料(閣議決定・審議会資料・事務連絡)は、当社の記事「住宅の省エネ基準のZEH水準への引き上げ」の出典欄に示しています。
※ 条文と発表の訳、表2〜表7の整理、第5節の先例からの見立て、第7節の実務の整理は当社によるものです。各国の国内法化が完了したかどうかについての委員会の判断は、2026年11月2日時点で当社が確認した範囲では公表されていません。