2026年7月、改正建築物省エネ法(令和8年法律第75号)が成立・公布されました。法律の名前が「建築物のエネルギー消費性能の向上及び脱炭素化の促進に関する法律」に変わり、建築物のライフサイクルカーボンの評価が条文になっています。法律上の呼び名は「建築物通算炭素排出量評価」。この記事では、新しく入った第64条の2〜第64条の9を条文単位で読み、誰に何の義務がかかるのかを整理します。そのうえで、多くの方が知りたいであろう「で、どうやって計算するのか」を、J-CATの算定区分・3つの算定法・数量の拾い方まで具体的に書きました。
① 改正法は2026年7月に成立・公布(令和8年法律第75号)。施行は公布の日から起算して2年を超えない範囲内で政令で定める日。② 一定の建築物の建築主に、工事に着手する日の14日前までに削減計画と評価結果を国土交通大臣へ届け出る義務がかかります(第64条の6)。③ 届出をせず、または虚偽の届出をして着工すると20万円以下の過料。内容が著しく不十分なら勧告。④ 対象の用途・規模は政令待ち。検討会のロードマップでは例として5,000㎡以上の事務所の新築等(=着工棟数の0.03%・年約200棟)。⑤ それ以外の建築物は建築主の努力義務。建築士は説明が努力義務ですが、建築主が評価を行うときの協力は「行うものとする」。国等の機関の長には通知義務があります。⑥ 制度開始の目途は2028年度(内閣官房の関係省庁連絡会議による基本構想)。⑦ 計算はA1〜A5・B1〜B7・C1〜C4という区分で積み上げ、J-CATには簡易/標準/詳細の3つの算定法があります。⑧ 新築の運用エネルギー(B6)はCASBEE-建築(新築)のライフサイクルCO2計算シートの「運用」行から転記します(水・廃棄物のB7は別途入力)。
建築物省エネ法が改正されました。国土交通省住宅局がパブリックコメントに付した施行令改正案の概要(令和8年8月)には、こう書かれています。
「建築物の使用段階における省エネ性能の向上の取組をさらに進めるとともに、新たに建築物の建設から解体までのライフサイクル全体の脱炭素化を促進するため、建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律の一部を改正する法律(令和8年法律第75号。〔中略〕)が本年7月に成立、公布されたところ。」
これまでの建築物省エネ法が見ていたのは建物を使っている間のエネルギーだけでした。外皮の性能を上げ、設備の効率を上げ、BEIを下げる。そこに、建材をつくるとき・運ぶとき・建てるとき・壊すときに出るCO2が加わります。国内の温室効果ガス排出量のうち、建築物の使用による排出が約3割、資材製造・施工・解体による排出が約1割。合わせて約4割が建築分野だ、というのが制度の出発点です。
法律の題名も変わります。「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」から「建築物のエネルギー消費性能の向上及び脱炭素化の促進に関する法律」へ。第一条の目的にも「建築物通算炭素排出量評価その他の措置を講ずることにより、建築物の脱炭素化の促進を図ること」が加わりました。
国土交通省の説明資料や報道は「建築物ライフサイクルカーボン評価制度」と呼びますが、法律の条文にこの言葉はありません。条文上の用語は「建築物通算炭素排出量評価」です。法律案要綱は「建築生産等の各段階において排出される炭素量を通算した量」を建築物通算炭素排出量と定義し、これを算定して当該算定に係る建築物の環境への負荷について評価することを建築物通算炭素排出量評価と定義しています(第2条第1項関係)。検索するとき、通知を読むときは、両方の言葉を頭に入れておいてください。
改正法は第6章として「建築物通算炭素排出量評価に係る措置等」を新設し、第64条の2から第64条の9までを置きました。さらに第7章として「建築物環境性能の認証」(第64条の10〜)、第8章として「登録建築物環境性能認証機関」(第64条の13〜)が続きます。関係者ごとに整理すると次のようになります。
表1|新設された条文と、誰に何が課されるか
| 条 | 誰に | 内容 | 性質 |
|---|---|---|---|
| 第64条の2第1項 | 建築主/所有者・管理者・占有者 | 建築物通算炭素排出量の削減を図ること | 努力義務 |
| 同 第2項 | 建築士 | 設計を行うときに、委託をした建築主へ削減に資する事項を説明すること | 努力義務 |
| 同 第3項 | 建設業者 | 請負契約の締結を行うときに、相手方である建築主へ削減に資する事項を説明すること | 努力義務 |
| 同 第4項 | 建築材料等製造等事業者 | 製造等を行う建材等について炭素排出量原単位を表示すること | 努力義務 |
| 第64条の3 | 国土交通大臣/主務大臣 | 削減のため特に必要があるときの指導・助言 | ― |
| 第64条の4 | 主務大臣 | 建築物通算炭素排出量評価指針(=国の統一の算定ルール)を定め、公表する | ― |
| 第64条の5第1項 | 建築主 | 建築(環境への負荷が少ないものを除く)をしようとするとき、指針に従い設計時の評価を行うこと | 努力義務 |
| 同 第2項 | 建築士 | 設計の委託を受けたとき、建築主に対し評価の実施に必要な事項の説明その他の協力を行う | ― |
| 第64条の6 | 建築主(国等の機関の長を除く) | 政令で定める用途・規模の新築・増改築について、削減計画の作成+評価+着工14日前までの届出 | 義務 |
| 第64条の7 | 国・都道府県等の機関の長 | 同じ内容を国土交通大臣に通知 | 義務 |
| 第64条の8 | ― | 適用除外(排出量が著しく少ない建築物・保存措置等で削減が困難な建築物・仮設建築物。いずれも政令で定めるもの) | ― |
| 第64条の9 | 建築材料等製造等事業者 | 指針に従い主務大臣が定める方法で算定したときの原単位の表示。紛らわしい表示をした者には指示→従わなければ公表→さらに要件を満たせば命令 | 任意+禁止 |
| 第64条の10〜 | 建築主等 | 登録建築物環境性能認証機関への認証の申請。認証書と標章の交付 | 任意 |
出典:改正法本文および法律案要綱(国土交通省・令和8年3月27日 閣議決定時の公表資料)。「性質」欄は条文の文言(「努めなければならない」「しなければならない」等)に基づく当社の整理です。
ひとつは第64条の2第2項で、設計を行うときに建築主へ「削減に資する事項」を説明する努力義務。もうひとつは第64条の5第2項で、建築主が設計時評価を行おうとするとき、設計の委託を受けた建築士は「評価の実施に必要な事項の説明その他の協力を行うものとする」という規定です。後者は「努めなければならない」ではなく「行うものとする」と書かれています。建築主が評価をやると言ったら、設計者は数字を出す側にまわる——条文はそう読めます。
指針を定める主務大臣は国土交通大臣・農林水産大臣・経済産業大臣・環境大臣の4大臣です(第64条の19第2項)。国土交通省だけでなく農林水産・経済産業・環境の各大臣が並ぶこと自体が、この制度が建築だけで完結しないことを示しています(各大臣が加わる理由は条文に書かれていないため、当社の読み方です)。指針に定める事項は3つです。
2番目の「建築主の判断の基準となるべき事項」は、あとで出てくる勧告のものさしになります。ここがまだ公表されていないことが、いま予測を書けない最大の理由です。
実務にいちばん直接効くのが第64条の6です。骨格を表にします。
表2|届出制度(第64条の6)の骨格
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 誰が | 建築主(国等の機関の長を除く) |
| 何を | 設計時建築物通算炭素排出量削減計画と設計時建築物通算炭素排出量評価の結果 |
| いつまでに | その工事に着手する日の14日前まで |
| 誰に | 国土交通大臣 |
| 対象行為 | 政令で定める用途の建築物の新築/増築・改築で、政令で定める規模以上のもの |
| 変更のとき | 削減計画を変更しようとするときも同様(国土交通省令で定める軽微な変更を除く) |
| 勧告 | 評価結果の内容が判断の基準に照らして著しく不十分と認めるときは、届出を受理した日から14日以内に限り、計画の変更その他必要な措置をとるべき旨の勧告ができる |
| 認証がある場合 | 登録建築物環境性能認証機関の認証等を受けているときは、書面を提出することで 「14日前」→「3日以上14日未満の範囲内で国土交通省令で定める日数前」 「14日以内」→「同じ日数以内」に短縮される |
| 罰則 | 届出をせず、又は虚偽の届出をして着工した者は20万円以下の過料(第76条) |
出典:改正法本文 第64条の6、第76条の改正規定。過料の額は現行の建築物省エネ法(平成27年法律第53号)第76条「次の各号のいずれかに該当する者は、二十万円以下の過料に処する」(e-Gov法令検索)に、改正法が第三号として届出違反を加えていることによります。
ここは見落としやすいところです。第64条の6第3項は、登録建築物環境性能認証機関の認証を受けている建築物について、届出の期限も、大臣が勧告できる期間も短縮すると定めています。第三者のチェックが済んでいる分だけ行政の審査期間を縮める、という趣旨と読めます。認証は任意の制度ですが、工程上の実利がある——制度としてはそう組まれています。具体的な日数(3日以上14日未満の範囲)は国土交通省令で定められます。
もうひとつ、届け出るのは「評価結果」だけではありません。削減計画もセットです。条文は削減計画を「設計段階における建築物通算炭素排出量の削減のための建築物(増築又は改築をする場合にあっては、当該増築又は改築をする建築物の部分)の構造方法及び当該建築物における建築材料等の使用又は設置に関する計画」と定義しています。数字を出して終わりではなく、どういう構造方法にして、どういう建材を使うから減るのかを書いて出す、という建て付けです。
条文は用途も規模も政令に委ねています。その政令はまだありません。2026年8月にパブリックコメントにかかった施行令改正案は、上位住宅トップランナー制度に関するもので、ライフサイクルカーボン関係は入っていません。ですから現時点で「あなたの物件は対象です」と言い切れる資料は存在しません。
ただし、目安はすでに公表されています。国土交通省の「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会」が令和8年1月28日にまとめた中間とりまとめと、その別添のロードマップです。
表3|検討会が示した措置と対象の「例」
| 措置 | 対象の例 | 着工棟数に占める割合 | 新築の総排出量に占める割合 |
|---|---|---|---|
| 建築主の国への届出制度 | 5,000㎡以上の事務所の新築等 (国が建設する庁舎等は2,000㎡以上の事務所) | 0.03% (約200棟/年) | 5% |
| 建築士の建築主への説明制度 | 2,000㎡以上の非住宅建築物の新築等 | 0.66% (約3,300棟/年) | 30% |
| 第三者認証・表示制度 | 住宅・建築物の新築・改修等 | ― | ― |
| 届出対象の拡充 (検討) | 制度開始後概ね5年以内(例:対象用途・規模の拡充) | ― | ― |
出典:国土交通省 建築物LCA制度検討会「建築物のライフサイクルカーボンの削減に向けた制度のあり方(中間とりまとめ)」別添1 ロードマップ、および同 概要(令和8年1月28日)。いずれも資料上「例」として示されたもので、政令で確定した内容ではありません。
中間とりまとめ本文の書きぶりは「例えば、5,000㎡以上の大規模事務所を対象にすることが考えられるが、より幅広い建築関係の有識者等に意見を聞きつつ、検討すべきである」です。断定ではありません。当社としても、政令が公布されるまでは対象範囲を確定として扱いません。なお東京都の建築物環境計画書制度でもLCCO2算定の義務化が改正案として示されていますが、こちらは都の条例に基づく別の制度です。国の届出と都の届出を混ぜないでください(→東京都の環境計画書制度が2028年度に変わります)。
もうひとつ押さえておきたいのは、住宅が慎重に扱われていることです。中間とりまとめは、戸建住宅について「その一戸一戸のCO2等排出量が小さい一方、年間の新築着工件数が多く、その一戸一戸の住宅についてLCCO2評価を求めることは事業者の負担が極めて大きい」とし、住宅取得のアフォーダビリティへの配慮が必要だと明記しています。資料が住宅を対象にすると書いているわけではありませんが、初期の対象に住宅は入りにくいと当社は読んでいます。
施行日はまだ公表されていません。条文で分かるのは次の2点です。
制度開始の目途としては2028年度という数字が繰り返し出てきます。出どころは内閣官房に設置された「建築物のライフサイクルカーボン削減に関する関係省庁連絡会議」が2025年4月に策定・公表した基本構想で、「2028年度を目途に建築物LCCO2評価の実施を促す制度の開始を目指す」とされました。ロードマップも2028年を第2ステップの起点に置いています。
表4|ロードマップの3ステップ
| ステップ | 時期 | 位置づけ | 主な措置 |
|---|---|---|---|
| 第1ステップ | 〜2027 | 準備期間 | 国の指針策定(算定・評価のルール、原単位整備等)/主要建材の原単位(EPD・CFP)整備は2027年度まで/官庁施設の環境保全性基準改定によるLCCO2算定(2027予定) |
| 第2ステップ | 2028〜2030年代 | LCCO2評価の実施、自主的削減 | 建築主の国への届出制度/建築士の建築主への説明制度/第三者認証・表示制度/届出対象拡充(制度開始後概ね5年以内) |
| 第3ステップ | 2040年代〜2050 | LCCO2評価の一般化、削減策の措置 | LCCO2削減策の段階的強化・措置(制度開始後3年以内を目途に検討開始) |
出典:同 別添1「建築物のライフサイクルカーボン(LCCO2)の削減に向けたロードマップ」。第2ステップの起点年は資料上「2028」と表示されています。
改正法の附則第4条は、主務大臣は施行日前であっても第64条の4の規定の例により建築物通算炭素排出量評価指針を定め、公表することができる、と定めています。つまり算定ルールは施行を待たずに公表される見込みです。同様に、登録建築物環境性能認証機関の登録の申請も施行日前から準備行為ができます(附則第6条)。当社が今後いちばん注意して見ているのはこの指針の公表です。
ここからが本題です。ライフサイクルカーボンは、建物の一生を区分に切って、区分ごとに積み上げて出します。区分の切り方はISO 21930の表記に沿ったもので、日本のJ-CATもこれに準拠しています。
表5|ライフサイクルの区分と、J-CATでの扱い
| 区分 | 段階 | J-CATでの扱い(算定の中身) |
|---|---|---|
| A1〜A5 | 原材料の調達から施工まで (=アップフロントカーボン) | 資材の数量×排出量原単位で積み上げる。数量を拾えないものは金額比率で計上。工事用エネルギーや工事用水も含む |
| B1〜B5 | 使用段階のうち資材関係 (修繕・更新・冷媒漏洩など) | 資材ごとの更新周期と修繕率で更新回数を計算。冷媒のフロン漏洩は国際的な算定方法と整合した方法で、漏洩率は公表済の最新統計値を使用 |
| B6・B7 | 使用段階の運用エネルギーと水 | 既存は実績値を入力。新築は電力・ガス・石油の運用時CO2をCASBEE-建築(新築)のライフサイクルCO2計算シートの「運用」行から転記し、上水・下水・一般廃棄物量はマニュアルの参考値から入力(→第08節) |
| C1〜C4 | 解体・撤去から廃棄物の処理まで | 資材を廃棄物発生品目に分類し、リサイクル率を乗じて廃棄処分とリサイクル処理に分け、①輸送に係るCO2と②解体処理に係るCO2(廃棄物量×電気・軽油の消費量×排出原単位)を合算 |
| D | 再利用・リサイクル・エネルギー回収等 | 算定対象外。将来的に算定を検討。消費エネルギーがマイナスとなる場合はB6・B7を0とし、参考情報としてモジュールDを記載 |
出典:IBECs「J-CATの特徴」および「J-CAT FAQ」(最終更新2026年8月24日)。段階の呼称はISO 21930における表記区分によります。区分ごとの内訳は当社がFAQの記述から整理したものです。
IBECsはモジュールDを算定対象から外している理由を、「リユースやリサイクルの算定・評価方法が現段階では未確立であること、また、モジュールDは他国でも算定・評価対象外としている事例があること」と説明しています。ここは国際的な枠組みと差が出るところで、たとえばEUが2026年5月に公示した委任規則ではD1・D2まで算定必須とされています(→EUは建物のCO2の数え方を法令で決めました)。海外の親会社や投資家に数字を出すときは、どの区分まで入っているかを必ず添えてください。
結果の単位も1つではありません。J-CATは次の3つで表示できます。①総GHG排出量(ton-CO2e)、②延床面積で除したもの(kg-CO2e/㎡)、③さらに評価年数で除したもの(kg-CO2e/㎡年)。中間とりまとめは、国が定める評価基準(ものさし)の例として「建築用途別の単位床面積・年あたりのLCCO2基準値」を挙げていますので、③の形が制度の土俵になる可能性があります。
J-CATはExcelのツールで、IBECsのサイトで使用登録すれば無料でダウンロードできます。一般建築物・集合住宅向けのJ-CAT-建築と、戸建住宅向けのJ-CAT-戸建(試行版)があります。J-CAT-建築には算定法が3つ用意されています。
表6|J-CAT-建築の3つの算定法
| 算定法 | 使う場面 | 中身と精度 |
|---|---|---|
| 簡易算定法 | 設計初期段階の概算 | 主要資材の数量から、その他の資材数量を係数で推定する。この係数は安全側(不利側)に割増してあるため、一般に、標準算定法より大きな値が出るとされている |
| 標準算定法 | 設計から竣工まで (最も標準的な利用) | 広範囲の資材について数量を計上する。手間はかかるが正確性が増し、値は小さくなる傾向。詳細算定法と10%程度の差異(統計に基づく設備工事工種別標準値と実数量との差による) |
| 詳細算定法 | 竣工段階の精算等 | 日本建築学会の「建築物のLCAツール」(AIJ-LCA_LCW)を使う。J-CAT側は入力を支援する仕訳表・集計表と、結果表示ソフトを用意 |
出典:IBECs「J-CATの特徴」および「J-CAT FAQ」Q2-1・Q2-2。
実務でいちばん迷うのが数量の拾い方です。IBECsのFAQは明快に答えています。「図面を元に積算基準(公共建築数量積算基準)に従って拾った設計数量を入力することを推奨します」。したがって、施工現場の歩留まりを見込んだ発注数量ではなく、設計数量です。積算基準外で現場に余分に発生した分は、原則として入力対象外とされています。
すべての資材にコードがあるわけではありません。原単位がない資材、数量が特定できない資材は、「一式工事分(数量算定以外の工事分)」に含まれるものとして金額比率で計上します。デフォルト値は20%です。ただしFAQは「実態に合わせてください。50%となった場合にはその数値に入力しなおしてください」としており、20%は逃げ道ではなく初期値だという扱いです。金額比率は基礎・躯体・外装・内装それぞれの工事費に対する割合で出します。
一式工事分のデフォルト20%は安全側に置かれた値なので、数量を丁寧に拾うと一式工事分の比率を下げられる可能性があります。IBECsが具体例として挙げているのが型枠です。簡易・標準算定法では型枠は原則として数量入力の対象外ですが、RC造の場合は数量入力を推奨とされています。理由は「RC造は他の構造形式に比べて型枠によるGHG排出量の全体に占める割合が大きく、数量入力することで、数量入力以外の躯体一式工事分の比率、デフォルト値20%を低減できる可能性が高いため」。設計の工夫が数字に効く前に、拾い方が数字に効くという段階です。
掛ける側の原単位は、J-CATでは産業連関表に基づく日本建築学会の「AIJ-LCA原単位データベース」を基本とし、2024.10正式版から2015年産業連関表ベースに入れ替わっています。これに加えて、実際の製品のEPD(ISO 14025に基づくタイプIII環境宣言)を組み込めます。2026年5月11日公開の更新版で、EPDは400データから587データ(2026年3月31日時点)に増えました。ただしJ-CATにあらかじめ登録されたEPD以外は取り込めません(バウンダリを統一的に扱うため)。
国の制度側でも、使える原単位を次の3層で整理する方向が中間とりまとめに書かれています。
そして「国が定めるデフォルト値のみを使って計算を行うと設計者や建材・設備製造事業者の削減努力が適切に評価されない」として、主要建材では個社データ・業界代表データの整備と活用を促すべきだ、としています。デフォルト値だけで計算すると、設計者や建材・設備製造事業者の削減努力が適切に評価されない——ここが原単位整備を急いでいる理由です。
ツールとしてのJ-CATにも、未整備の部分が正直に書かれています。ただし扱いは項目ごとに違います。鉄骨の工場加工分(リブプレート・ガセットプレート加工等)のエネルギー由来のGHG排出量は「本来は見込むべき値」としつつ、適切な数値がないため当面の間はゼロ。免震ゴムや弾性すべり支承などの免震装置は原単位が無いため、躯体一式工事分に含めてデフォルト値20%または金額比率で算定します(ゼロではありません)。太陽光発電設備の設置により追加となるケーブル等は原単位が未整備のため算定対象外です。数字を提示するときは、この前提を一緒に伝えるのが誠実だと考えています。
J-CAT-建築は2024年10月に正式版が公開されたあと、2025年8月1日にv2.2、2026年5月11日にv2.3と更新され、2026年8月24日には標準算定法v2.3.1のEPD組込みデータの誤記が訂正され、v2.3.2が配布されています。訂正の対象はEPDの単位表記、発生品目データ・名称、流通段階における発生値、更新周期等でした。算定をやり直すときは、まず手元のファイル名の版数を確認してください。
当社のような省エネ計算の実務者にとって、いちばん実感があるのがこの節です。運用エネルギー(B6・B7)の出し方が、既存の省エネ計算・CASBEEと地続きになっています。
J-CATの入力シート(B6,7)では、まず「新築」か「既存」かを選びます。IBECsのFAQによる線引きはこうです。
そして新築の場合の手順が具体的に示されています。CASBEE-建築(新築)の評価ソフトの「ライフサイクルCO2計算シート(標準計算用)」の「4.ライフサイクルCO2の計算(標準計算)」表で、最終行(合計行)の1つ上にある「運用」行の「評価対象」列のCO2排出量を、消費エネルギー量集計表の「(新築)電力、ガス、石油合計」に転記する——これがB6の入口です。
「Webプロ(エネルギー消費性能計算プログラム)の結果を使ってよいか」という質問に対して、IBECsは「WebプロとCASBEEを併用してください。実績値がない場合は、Webプロの算定結果をCASBEE-建築(新築)に入力して、得られた排出量を転記してください」と答えています。理由も明記されていて、Webプロの算定結果は一次エネルギー消費量であり、GHG換算がされておらず、コンセント負荷なども含まれていないから。つまり実務の流れはWebプロ → CASBEE-建築(新築) → J-CATの3段になります。CASBEEの評価を通っている物件は、そのまま次の工程に乗れるということでもあります。
上水・下水・一般廃棄物量(B7)は、実績値がなければマニュアルの参考値をもとに想定して入力します。特段の理由がなければ「上水消費量=下水排水量」でよい、とされています。
制度側でも、この「つなぎ目」を広げる方向が示されています。中間とりまとめは算定ルールについて「シンプルな算定ルールとすることを基本」としたうえで、「建築物エネルギー消費性能適合性判定にあたって算出した数値や数量を活用するなどの算定手間削減のための工夫についても検討を行うべきである」と書いています。省エネ適判で作った数字がLCCO2算定の入口で使える形になれば、実務の負担はかなり変わります。
指針も政令も出ていない段階で「今すぐ全物件でLCCO2を出しましょう」とは申しません。ただ、施行までに効いてくる準備はあります。
当社は省エネ計算と省エネ適合性判定の申請代行、CASBEE評価、東京都の建築物環境計画書を日常的に扱っています。この制度は、いま作っている図面と数字の延長線上にあります。「うちの物件は対象になりそうか」「いまの図面でどこまで算定できるか」といった段階のご相談も承っていますので、お見積り・ご相談からお気軽にお声がけください。
対象となる用途と規模は、改正法では「政令で定める用途」「政令で定める規模」とされていて、その政令はまだ公布されていません。したがって現時点で確定的なことは言えません。手がかりになるのは国土交通省の検討会が令和8年1月28日にまとめた中間とりまとめとロードマップで、建築主の国への届出制度の例として「5,000㎡以上の事務所の新築等」が挙げられています。中間とりまとめの参考資料では、5,000㎡以上のオフィスビルの新築・増改築は着工棟数の0.03%=年約200棟、新築建築物の総排出量の5%と見込まれています。あくまで「例」として示された数字ですが、初回の対象はかなり絞られる見込みです。なお同じロードマップに「届出対象拡充(制度開始後概ね5年以内)」とも書かれていますので、いったん外れても永久に無関係というわけではありません。
あります。改正法は現行法の第76条に一号を加えていて、加えられたのは「第六十四条の六第一項の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をして、同項に規定する工事に着手した者」です。第76条は「次の各号のいずれかに該当する者は、二十万円以下の過料に処する」と定めていますので、届出をせずに着工した場合、または虚偽の届出をして着工した場合は20万円以下の過料ということになります。条文が定めているのは「罰金」ではなく「過料」です。これとは別に、届け出た評価結果の内容が判断の基準に照らして著しく不十分だと国土交通大臣が認めたときは、届出を受理した日から14日以内に限り、計画の変更その他必要な措置をとるべき旨の勧告を受けることがあります。
別の手続です。省エネ適合性判定は所管行政庁または登録省エネ判定機関に対して行い、外皮性能とBEIが基準に適合しているかを判定してもらうものです。一方の建築物通算炭素排出量評価の届出は、国土交通大臣に対して、着工の14日前までに、削減計画と評価結果を届け出るものです。相手も時期も中身も違います。ただし完全に無関係でもありません。中間とりまとめには「建築物エネルギー消費性能適合性判定にあたって算出した数値や数量を活用するなどの算定手間削減のための工夫についても検討を行うべきである」と書かれています。省エネ計算で作った数字が算定の入口で使える方向で検討されている、という段階です。
そうとは書かれていません。法律が求めているのは「建築物通算炭素排出量評価指針に従い」評価することで、この指針(国の統一の算定ルール)はまだ公表されていません。J-CATは、ゼロカーボンビル推進会議のもとで開発されIBECsが配布している算定ツールで、使用登録をすれば無料でダウンロードできます。国土交通省のヒアリング調査によると、実務ではJ-CATのほか、不動産協会の建設時GHG排出量算定マニュアル、One Click LCA、各社の自社開発ツールが使われています。中間とりまとめも「LCCO2算定ツールは民間企業ベースですでに開発・運用されているところ」として、国の算定ルールに適合した形で算定できる使い勝手のよいツールの開発が促進されることに留意して算定ルールを構築することが望ましい、としています。現時点でJ-CATを制度上の指定ツールと理解するのは早すぎます。
「木材が貯めている炭素の分だけ数字が減る」という理解は、少なくとも現時点のJ-CATでは正確ではありません。J-CATでは木材の炭素貯蔵量とコンクリートのCO2固定量は、ホールライフカーボンの本体には含めず、参考値として別に表示する扱いになっています。IBECsのFAQも「現時点では、炭素固定量は参考値扱いとして、ホールライフカーボンには含まないこととしています。今後の扱いについては未定です」と明記しています。一方で、木材を使うことで鉄やコンクリートなど排出量の大きい資材の数量が減れば、その分はA1〜A3の排出量として素直に効きます。効き方の経路が違う、と考えてください。なお、木材の炭素固定量を算定結果に出したい場合は、内外装であっても「新_木材」の欄に入力する必要があります。
出せます。J-CATが3つの算定法を用意しているのはまさにそのためで、簡易算定法が設計初期段階の概算用、標準算定法が設計から竣工までの標準的な利用、詳細算定法が竣工段階の精算等用と位置づけられています。ただし段階が早いほど数字は安全側(大きめ)に出ます。IBECsのFAQは「一般に、同一建物のWLCを算定した場合、簡易算定法の算定値は標準算定法の算定値より大きくなります」としていて、これは簡易算定法がその他資材数量を推定する係数を安全側に割り増しているためです。また中間とりまとめは、同一の建築プロジェクトで着工前と竣工時など複数の段階で算定するケースを想定し、段階ごとに評価方法が大きく異なることによる手間が発生しないよう配慮が必要だとしています。
EPDの有効期限・業界平均は最悪値・1%ルールと、日本の届出制度との違い。
太陽光の自家消費分は「正」で入力。取り違えると収支が有利にずれます。
RE2020の算定範囲と上限値の補正、日本の算定ルール案との違い。
省エネ適判への開始時からの実装は「今後協議」。基本構想で決まったこと。
法第30条の2「同等性の認定」。誘導基準に「同等以上」で性能向上計画認定と容積率の特例。
停止は2027年3月まで。表題は「廃止」、処分は「停止」。日本の官庁施設はBEI0.6。
日本国内の物件・標準算定法v2.0以降という条件つき。
UA値0.8・BEI0.85、意見募集は10月9日まで。
LCCO2算定の義務化と省エネ性能基準の強化。
参照期間50年と、日本のJ-CATとの違い。
同じ改正法で先に動く制度。2027年4月施行。
運用エネルギーからホールライフカーボンへ。
自治体版CASBEEの届出とCASBEE評価認証の取得。
BEIと3つの計算方法を1ページで。
Sources — 出典・参考資料
国土交通省「「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定」(令和8年3月27日 報道発表)および同報道発表の添付資料法律案要綱(全4頁)・法律案(全52頁)・新旧対照条文(全48頁)。本記事の第02節・第03節・第05節の条文の記述は、この法律案本文と要綱によります。
e-Gov パブリック・コメント「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律施行令の一部を改正する政令案について(概要)」(令和8年8月・国土交通省住宅局)。法律番号(令和8年法律第75号)と2026年7月の成立・公布はこの資料の記載によります。
e-Gov法令検索「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律」(平成27年法律第53号)第76条。過料の額はこの現行条文によります
国土交通省「建築物のライフサイクルカーボンの算定・評価等を促進する制度に関する検討会」/建築物のライフサイクルカーボンの削減に向けた制度のあり方(中間とりまとめ)(令和8年1月28日・全30頁)/別添1 ロードマップ/別添2 建材・設備CO2等排出量原単位整備に係る当面の方針(全14頁)/中間とりまとめ概要(全3頁)。第04節の対象の例・棟数・排出割合、第05節のロードマップ、第07節の原単位の3層はこれらの資料によります。
一般財団法人 住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)「J-CATの特徴」/「J-CAT FAQ」(最終更新2026年8月24日)/「建築物ホールライフカーボン算定ツール(J-CAT)」。第06節・第07節・第08節のJ-CATに関する記述はこれらによります。
同「J-CAT-建築(更新版)の公開のお知らせ」(2026年5月11日。EPDが400→587データ)/「J-CAT-建築における訂正のお詫びと改訂版配布のお知らせ」(2026年8月24日。標準算定法v2.3.2)
※建築物通算炭素排出量評価指針(国の統一の算定ルール)は、当社が2026年9月3日時点で確認した限り公表されていません。本記事は指針の中身を予測していません。
※届出の対象となる用途・規模は政令で定められることとされており、その政令はまだ公布されていません。本記事に出てくる「5,000㎡以上の事務所」「2,000㎡以上の非住宅建築物」は、いずれも検討会資料に例として示されたものです。
※施行日は公表されていません。「2028年度」は基本構想(2025年4月)で示された制度開始の目途であり、施行日として告示されたものではありません。本記事は附則の「公布の日から起算して2年を超えない範囲内」という条文上の上限と、この目途を区別して書いています。
※J-CATは制度上の指定ツールではありません。国の指針が未公表であるため、制度でどのツール・どの算定法が使えるかは決まっていません。
※過料の額(20万円以下)は、改正法が第76条に一号を加えていることと、現行第76条の法定額から導いた当社の読み方です。
※表1の「性質」欄、表5の区分ごとの内訳、第09節の準備事項は当社の整理・実務判断であり、一次資料にそのまま書かれているものではありません。
※本記事は2026年9月3日時点で確認できた内容です。政令・省令・指針の内容は今後変更される場合があります。