省エネ基準を上げるとき、「その分の建設費は、光熱費の削減で取り戻せるのか」を、どんな計算で判断するのか。米国ではいま、この判断の物差しそのものの見直しが、国と民間の両方で進んでいます。 ひとつは米国エネルギー省(DOE)です。2026年5月4日、省エネ基準の費用対効果の計算方法について意見募集(情報提供の求め)を出し、割引率と回収年数の閾値そのものを論点にしました。もうひとつは、モデルコードのIECCを作るICC(国際コード評議会)です。2030年版から省エネ基準を、基本の「IECC」と上乗せの「IECC Stretch(IECCS)」の2冊に分けると決めました。2026年1月の案の目的文では、基本版は初期の建設費と運用時の省エネ性能に焦点を当て、上乗せ版はライフサイクルの費用対効果を掲げています。 DOEは「上げてよいと判断する計算のしかた」を問い、ICCは、最低限の本に置く要求と、自治体が選ぶ上乗せの本に置く要求を分けました。日本の省エネ基準や東京都の上乗せ基準が、公開資料でどんな理由づけをしているかと並べると、違いがはっきりします。原典を読んで整理しました。
① DOEは2026年5月4日、省エネ基準の費用対効果の計算方法について情報提供の求め(RFI)を官報に出した(91 FR 23982)。意見の受付は2026年8月3日に終了。計算方法を変える決定ではない。2026年10月27日時点で、同じドケットに公開された意見は164件、DOEの結果は未公表(当社確認)。
② 論点は12。費用データの出所、地域差、試算に使う建物モデル(小さい戸建・データセンターの追加)、そして「適切な割引率」と「回収年数の閾値」(Q08)。例として「5年回収」を置く方式にも触れている。
③ DOEの今の方法は、住宅で30年・住宅ローン金利5%・頭金10%、非住宅で3つの立場(公的所有・民間所有・ASHRAE 90.1のスカラー比法)を使い分ける。ASHRAE 90.1-2022の分析条件では、寿命40年の対策の単純回収年の限界値が暖房(化石燃料)で25.1年、冷房(電気)で22.0年とされた。
④ ICCは2030年版から、省エネ基準を基本のIECCと上乗せのIECCSに分ける(2026年4月30日に春の理事会の決定を公表、6月29日に名称の確定を発表)。1月の案では、基本は初期の建設費と運用時のエネルギー性能に焦点、上乗せはライフサイクルの費用対効果を目的に掲げ、温室効果ガスの削減やゼロエネルギー建築の規定も入れられる。IECCSの初版は2030年で、まだ存在しない。
⑤ 2027年版のIECCは、最終ドラフト(Final Draft)の公表目標が2026年12月1日(ICCの委員会ページ。目標の日付)。
⑥ 日本では、国の資料は適合率と目標年度で、東京都の改正案は達成割合で、基準の水準を説明している。回収年数の閾値を公開の論点にした例は、当社が調べた範囲では見当たらない。
米国で2026年に動いたのは、立場の違う2つの組織です。ひとつは連邦政府のエネルギー省(DOE)、もうひとつはモデルコードを作る民間の非営利団体ICCです。
DOEのRFI(Request for information=情報提供の求め)は、冒頭の要約で「建築物の省エネ基準は、住宅の建設費を大きく押し上げ、消費者が投資を回収するまでの平均的な期間を長くしてきた」と書き、住宅を買いやすく保つこと(affordability)を優先課題に掲げています。背景には、2026年3月13日の大統領令14394「手頃な住宅の建設を妨げる規制の撤廃」があります。
ICCの分割は、これとは別の手続きで決まりました。2026年1月に案を示して意見を募り、2026年春の理事会が分割の維持を決め(4月30日に公表)、6月29日に上乗せ版の名称を「IECC Stretch」に確定したと発表しています。
表1|2つの動きの比較
| 項目 | DOE(エネルギー省) | ICC(国際コード評議会) |
|---|---|---|
| 立場 | 連邦政府。モデルコードの技術的・経済的な根拠を定期的に見直し、その策定手続きに参加する(法42 U.S.C. 6836(b)) | 民間の非営利団体。住宅・非住宅の省エネのモデルコード「IECC」を作る |
| 何をしたか | 費用対効果の計算方法についての意見募集(RFI) | 2030年版から、省エネ基準を基本のIECCと上乗せのIECCSの2冊に分ける |
| 日付 | 2026年5月4日 官報掲載(91 FR 23982)/意見の受付は8月3日まで | 2026年1月15日 案の意見募集/4月30日 春の理事会の決定を公表/6月29日 名称の確定を発表/10月22日 2030年版の暫定スケジュール掲出 |
| 費用の扱い | 割引率・回収年数の閾値・評価期間・費用データの出所を論点にした | 1月の案の目的文で、基本は初期の建設費と運用時のエネルギー性能に焦点、上乗せはライフサイクルの費用対効果と投資の回収を掲げる |
| 状態 | 意見募集が終わった段階。RFIは変更を決めるものではなく、同じドケットに変更を示す文書はない(2026年10月27日、当社確認) | 枠組みは決定。IECCSの初版は2030年発行の予定 |
出典:DOE「Updating and Improving the Methodology for Assessing Affordability and Cost-Effectiveness of Building Energy Codes」(91 FR 23982〜23987、2026年5月4日)、ICC Building Safety Journal(2026年1月15日・4月30日・6月29日)、ICC 委員会ページ。
2つの動きの意味は、米国の基準の作られ方を知っておくと見えてきます。米国の一般の建物の省エネ基準は、日本のように国が告示で全国一律の基準値を決める形ではありません。基準の「ひな形」になるのは、民間の団体が作るモデルコードです。DOEのRFIは、住宅(戸建・二世帯・タウンハウス、地上3階以下の共同住宅)はIECC、それ以外の建物はANSI/ASHRAE/IES Standard 90.1とIECCの非住宅の規定で扱う、と整理しています。
実際に法令として使うかどうかは、州や自治体が決めます。DOEの役割は、新しい版が出たときに「前の版より省エネになるか」を判定(determination)することで、肯定の判定が出ると、州は自らの基準を見直したことを証明(certify)しなければなりません。energycodes.govによれば、非住宅は「90.1に合わせて更新したこと」の証明、住宅は「IECCに合わせて改めるのが適切かを判断したこと」の証明で、求める中身が違います。
2026年10月27日時点の判定は、非住宅が90.1-2022(2024年3月6日)、住宅が2024年版IECC(2024年12月20日)です。2024年版IECCについての州の証明の期限は2026年12月30日です。
つまりDOEは、モデルコードを書く立場ではなく、省エネ量と費用対効果を計算して、判定と提案の根拠を出す立場です。その計算方法を変えれば、州が基準を採るかどうかの判断材料が変わります。今回のRFIが「計算のしかた」を対象にしているのは、そのためです。
DOEの現在の方法は、2024年12月の2つの報告書(太平洋北西国立研究所=PNNLが作成)にまとめられています。RFIは、この2本を「現在の方法」として示しています。
指標は、増分費用(省エネのための初期費用の純増)、年間の光熱費削減額、単純回収年(増分費用÷年間の光熱費削減額)、ライフサイクルコスト(通常30年)の4つで、これにキャッシュフロー分析が加わります。キャッシュフロー分析は、住宅ローンの返済の増加分と光熱費の削減額を毎年比べ、頭金などの初期の支出も含めた累積で「何年目から手元のお金がプラスになるか」を出すもので、RFIはこれを「世帯や事業者にとって一番の関心事」と書いています。
表2|住宅の計算条件(DOEの現在の方法)
| 項目 | 現在の値と考え方 |
|---|---|
| 想定する買い手 | 30年の住宅ローンを組む中所得の住宅購入者(新築住宅の94%がローンで購入されているため) |
| 分析期間 | 30年(典型的な住宅ローンの期間に合わせる) |
| 住宅ローン金利 | 5%(直近1年の平均6.84%×0.2+5年の平均4.59%×0.8=5.04%) |
| 頭金 | 10%(初めて住宅を買う人を代表する値として) |
| ローン手数料 | 借入額の0.9% |
| 割引率 | 住宅ローン金利と同じ(名目)。繰上げ返済が買い手にとっての代わりの投資になる、という考え方 |
| 固定資産税・所得税 | 住宅価値に対する固定資産税率0.86%、連邦所得税の限界税率22%(州の所得税は州の資料で別に扱う) |
| インフレ率 | 2.2%(OMBの30年の名目割引率4.2%と実質割引率2.0%の差) |
| 対策の寿命 | 多くの対策は住宅の寿命と同じ60年とみる。分析の終わり(30年後)に残る寿命に応じて、定額法で残存価値を計算 |
出典:PNNL-37098「Methodology for Evaluating Residential Energy Code Updates」(2024年12月)p14〜p19。金利・頭金などの値は報告書の作成時点(2024年)のもので、DOEは定期的に見直すとしています。
非住宅は、建物の持ち主の立場で経済計算が変わるとして、3つのシナリオを用意しています。
表3|非住宅の3つのシナリオ(DOEの現在の方法)
| シナリオ | 立場 | 割引率 | 分析期間 |
|---|---|---|---|
| 1 公的所有法 | 借入も税もない政府・公的な所有者 | 実質(連邦のFEMPの値。2022年は下限の3.0%) | 30年 |
| 2 民間所有法 | 融資を受ける民間・事業の所有者 | 名目8.0%(税引後) | 30年 |
| 3 ASHRAE 90.1スカラー比法 | 税引前の民間投資 | 名目8.1%(ローン金利5.0%) | 40年。スカラー比の限界値は暖房(化石燃料)25.1・冷房(電気)22.0 |
出典:PNNL-37133「Methodology for Evaluating Commercial Energy Code Updates」(2024年12月)p.ii・p17・p19・p24・p26・p27・p29(表9は90.1-2022の分析に使われた値)。
表3のいちばん下のスカラー比は、ASHRAE 90.1の委員会が使う判定方法です。報告書によると、限界値は「表9の経済条件のもとで、寿命40年の対策がライフサイクルコストで見て得になる(正味の節約がプラスになる)単純回収年」を表します。言い換えると、90.1-2022の分析条件では、断熱のような寿命40年の対策なら、単純回収年が暖房(化石燃料)で25.1年、冷房(電気)で22.0年を下回れば「費用対効果あり」と判定されたということです。電気と化石燃料の削減が混ざる場合は削減額の比率で限界値を加重し、複数の対策をまとめて評価するときは更新費の現在価値や維持費の増分も計算に入れます。限界値は版ごとの経済条件(金利・燃料価格など)で変わります。
この「25年」という長さが、次の節の論点につながります。
RFIは、意見を求める論点をQ01〜Q12の12に分けています。
表4|RFIの12の論点
| 番号 | 論点(要約) |
|---|---|
| Q01 | 買い手が実際に払う市場価格を反映する費用データ(出所によって施工者の仕入値に近いものが混ざる) |
| Q02 | 省エネ措置の費用の公開データベースを作るべきか |
| Q03 | 材料・労務の地域差の扱い |
| Q04 | 耐久性・快適性・生産性・災害への強さなど、光熱費以外の便益の評価(業界全体で十分に確立・受容された統一的な方法がない) |
| Q05 | 光熱費の単価(全国平均では地域差が消える)。フルフューエルサイクルのエネルギーの追加、戸建と共同住宅の分離 |
| Q06 | 試算に使う建物モデル(戸建は2階建て2,376平方フィート。小さい戸建やデータセンターの追加を検討) |
| Q07 | 手頃さの指標の追加(初めての住宅購入者、新しい事業者など) |
| Q08 | 適切な割引率と、回収年数の閾値。既存の方法の更新や新しい方法 |
| Q09 | 対策の評価に使う期間の長さ |
| Q10 | 基準策定手続きの透明性と消費者の参加。IECCと90.1に代わる選択肢 |
| Q11 | 許可の遅れや地域の規制が生む費用 |
| Q12 | 新築の費用を押し上げる要因全般(工場生産・モジュール住宅など費用を下げる手法を含む) |
出典:91 FR 23984〜23986(III. Issues on Which DOE Is Seeking Feedback、E. Summary)。要約は当社によります。
中心はQ08とQ09です。RFIは、業界の委員会が使う方法として、単純回収年、回収年数の閾値(例として5年)を置く方式、ASHRAE 90.1のスカラー比法、OMB通達A-94が定めるライフサイクルコスト法を並べ、DOEはこれらすべてを使ってきたと書いたうえで、「適切な割引率と回収期間、回収期間の閾値の可能性」について意見を求めています。
評価期間(Q09)については、90.1のスカラー比法が屋上型の空調機を18年、断熱や窓などの外皮を30〜40年で見ていること、住宅の30年は回収期間ではなく分析期間であることを説明したうえで、「米国の住宅所有者の平均保有期間は12年」という民間の調査も引いています。
前の節の数字と並べると、論点の大きさがわかります。90.1-2022の分析条件では、外皮の対策の限界値は単純回収年で22〜25年程度でした。仮に単純回収年で合否を決める方式をとり、ほかの条件を同じにして閾値を短くすれば、同じ断熱の強化でも「費用対効果なし」と判定される範囲が広がることになります。RFIの5年はQ08で示された方式の例、12年はQ09で引かれた住宅の平均保有期間で、種類の違う数字です(当社の読みです。RFIは閾値を何年にするかを提案していません)。
DOE自身は、RFIで「連邦・州・地方の幅広い法令の要求に応えるため、上のすべての計算を含めることが望ましい」とも書いています。現時点で言えるのは、判断の物差しを公開の場で問い直しているというところまでです。
RFIは意見募集で、規則案でも決定でもありません。受付は2026年8月3日に終わり、regulations.govのドケット(EERE-2026-BT-BC-0034)には、2026年10月27日時点で164件の意見が公開されています。一方、DOEが意見を踏まえた結果や新しい計算方法を示した文書は、当社が確認した範囲ではまだありません。DOEは2013年・2014年・2015年にも計算方法についての意見募集を行っており、意見募集そのものは初めてではありません。
ICCの分割は、費用の考え方の重点を本ごとに分けたものと読めます。2026年1月15日にICCが意見募集にかけた範囲と目的の案の説明は、次のとおりです。
6月29日の発表は、IECCSに入る例として、より高い性能、再生可能エネルギー、蓄電池、デマンドレスポンス、ネットゼロの目標、EV充電、温室効果ガスの削減と炭素ベースの測定方法を挙げ、IECCSの初版は2030年に発行するとしています。ICCの委員会ページは「採用する自治体が道を選ぶ(Jurisdictions Choose their Pathway)」と書いています。
4月30日に公表された春の理事会の決定は、分割を案どおり維持するとしたうえで、ICCの職員に対し、改正提案に求める費用便益分析(CBA)について、ICCの費用影響の手引き(Cost Impact Guide)での詳しい説明と例を出すこと、提案者が必要な情報をそろえるためのツールを作ることを指示しています。
表5|IECCの2030年版に向けた経過
| 日付 | 内容 |
|---|---|
| 2026年1月15日 | 2030年版以降の範囲と目的(scope and intent)の案を示し、意見募集(2月15日まで)。基本のIECCと上乗せのIECC Expandedに分ける枠組み |
| 2026年4月30日 | 春の理事会の決定を公表=分割の維持。費用便益分析の説明と例、提案者向けツールの作成、上乗せ版の名称の再検討を指示 |
| 2026年6月29日 | 上乗せ版の名称をIECC Stretch(IECCS)に確定したと発表。初版は2030年発行 |
| 2026年7月20日 | 2027年版IECCの住宅の規定と、国際住宅コード(IRC)第11章の策定手続きの完了を掲出 |
| 2026年10月22日 | 2030年版のIECC/IECCSの暫定の策定スケジュールを掲出 |
| 2026年12月1日(目標) | 2027年版IECCの最終ドラフト(Final Draft)の公表目標 |
出典:ICC「I-Codes Code Development Committees - Energy」(委員会ページ)、Building Safety Journal(2026年1月15日・4月30日・6月29日)。2027年版の非住宅の規定の手続きの状況は、委員会ページの掲出からは確認していません。暫定スケジュールの中身(PDF)は未確認です。
DOEのRFIと並べると、構図が見えてきます。DOEは「費用対効果をどう計算するか」を問い直し、ICCは目的文の上で、最低限の基準は初期の建設費と運用時の省エネ性能に焦点を当て、ライフサイクルの費用対効果を掲げる上乗せの要求は自治体が選んで採る別の本に置く、と重点を分けました。どちらも、建設費の増加に対する説明の責任を、計算の物差しで整理し直す動きだと当社は見ています(2つは別々の手続きで、互いに連動して決まったものではありません)。
日本には、米国の「基本と上乗せ」に近い構造がすでにあります。全国一律の省エネ基準(2025年4月から原則すべての新築に適合義務)と、低炭素建築物・長期優良住宅などの認定で使う誘導基準(住宅は省エネ基準から一次エネルギー消費量を20%削減=ZEH水準、非住宅は30〜40%削減=ZEB水準)、さらに東京都の建築物環境計画書制度のような自治体の上乗せです。
違うのは、水準の説明のしかたです。国土交通省の第四次答申の参考資料(全163頁)は、令和5年度の新築の適合率を、住宅の省エネ基準で89.9%、ZEH水準で46.1%、非住宅のZEB水準で37.4%と示し、2030年度以降の新築でZEH・ZEB水準の確保を目指すという目標と並べています。当社がこの資料の全頁のテキストを検索した範囲では、基準を引き上げる根拠として回収年数や割引率を示した頁は見当たりませんでした。
東京都の建築物環境計画書制度の改正案(令和8年9月)は、さらにはっきりしています。住宅のBEIの義務基準0.85以下について「2024年度実績で69%が達成している水準」「改正後基準の適用の2年程度前には8割程度に達する見込み」と書き、3段階評価は「達成割合が6割程度であるBEI0.8以下を段階2、4割程度であるBEI0.75以下を段階3とする」としています(別紙1 p32)。
表6|基準の水準の説明のしかた(公開資料での軸)
| 主体 | 公開資料での説明の軸 | 例 |
|---|---|---|
| 米国 DOE・ASHRAE | 費用対効果(回収年、ライフサイクルコスト、スカラー比) | 90.1-2022の分析条件では、寿命40年の対策の限界値が単純回収年で暖房(化石燃料)25.1年・冷房(電気)22.0年。DOEは割引率と閾値を意見募集 |
| 米国 ICC(2030年版) | 1月の案の目的文で、基本は初期の建設費と運用時の性能、上乗せはライフサイクルの費用対効果 | 基本のIECCと上乗せのIECCSに分け、採るかどうかは自治体が選ぶ |
| 日本(国) | 適合率と目標年度 | 令和5年度のZEH水準の適合率46.1%。2030年度以降の新築でZEH・ZEB水準の確保を目指す |
| 東京都(改正案) | 達成割合 | 住宅のBEIの段階2は達成割合6割程度、段階3は4割程度の水準 |
出典:91 FR 23982〜23987、PNNL-37133 p26〜p27、ICC Building Safety Journal(2026年1月15日・6月29日)、国土交通省「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方(第四次答申)」参考資料 p102・p112、東京都環境局「建築物環境計画書制度の改正(案)について」(別紙1)p32。「説明の軸」の整理は当社によるもので、各主体が費用やその他の要素を考えていないという意味ではありません。
費用の話が日本の資料にまったくないわけではありません。同じ参考資料は、エンボディドカーボン(建設時のCO2)の削減をどこまで求めるかについて、「他の分野との費用対効果の比較等も踏まえ」検討すべきと書いています(p51)。また、省エネ性能表示の「目安光熱費」は、設計上のエネルギー消費量と全国統一の燃料単価で計算すると説明しています(p72)。DOEのRFIのQ05が「全国平均の単価では地域差が消える」と問題にしているのと、同じ論点の入口です。
米国の議論が日本の実務に教えてくれるのは、「基準の引き上げで増える建設費が、何年で戻るのか」という問いへの答えは、計算の前提(期間・金利・光熱費単価)しだいで大きく変わるということです。90.1-2022の分析条件での22〜25年程度という限界値と、RFIが方式の例に挙げた5年では、同じ断熱でも結論が逆になり得ます。
表7|米国と日本の関係する日程
| 時期 | 国・地域 | 内容 |
|---|---|---|
| 未定 | 米国 | DOEのRFIの結果(意見の受付は2026年8月3日に終了) |
| 2026年12月1日(目標) | 米国 | 2027年版IECCの最終ドラフト(Final Draft)の公表目標 |
| 2026年12月30日 | 米国 | 2024年版IECCについての州の証明の期限 |
| 2028年4月(予定) | 東京都 | 建築物環境計画書制度の改正後の省エネ性能基準の施行(改正案) |
| 遅くとも2030年度まで | 日本 | 省エネ基準のZEH・ZEB水準への段階的な引き上げ(国の方針) |
| 2030年 | 米国 | IECCSの初版の発行予定(基本のIECCとの2冊立て) |
出典:ICC 委員会ページ・Building Safety Journal(2026年6月29日)、DOE energycodes.gov「Model Energy Code Determinations」、東京都環境局 別紙1 p12・p18、国土交通省 第四次答申 参考資料 p8・p24・p112。日本の国の引き上げの時期は、当社の記事「住宅の省エネ基準のZEH水準への引き上げ」で一次資料とともに整理しています。
米国の議論が日本の基準を直接動かすことはありません。それでも、建築主への説明や計画の進め方では、次の点が効いてきます。
1. 「何年で元が取れるか」には、前提を必ず添える。省エネの仕様を上げる提案で、建築主から回収年を聞かれることは少なくありません。DOEの方法でも、分析期間(30年か40年か)、金利・割引率、光熱費の単価で結論が変わります。回収年を示すときは、計算の前提と、それが変わったときにどう動くかをいっしょに伝えるのが誠実です(当社の考えです)。
2. 「義務の基準」と「上乗せの基準」を案件ごとに分けて整理する。日本でも、国の省エネ基準(適合義務)、誘導基準・ZEH水準(認定や補助・税制の要件)、東京都など自治体の上乗せが重なっています。都内で延べ面積2,000㎡以上の建物を計画する場合は、東京都の改正案(住宅はUA値0.8以下〔地域区分5〜7〕・BEI0.85以下〔再エネを除く値〕、2028年4月施行予定)も視野に入ります。どの基準を満たす必要があり、どれを選んで採るのかを、設計の初期に整理しておくことが、手戻りを減らします。
3. 米国の案件や、外資の建築主が関わる案件では、採用されている版を確かめる。米国では、州や自治体ごとに採用しているIECC・90.1の版が違い、2030年からは基本版と上乗せ版のどちらを採るかも分かれます。LEEDなどの認証と組み合わせる場合も、まず地域の基準の版を確認するのが出発点です。
テトでは、住宅・非住宅の省エネ計算と、東京都の建築物環境計画書の手続きを、図面からお引き受けしています。義務の基準と上乗せの基準の整理もご相談ください(省エネ計算 代行/東京都 建築物環境計画書 代行)。
今回のRFIによって基準が緩められたわけではありません。DOEが2026年5月4日に出したのは情報提供の求め(意見募集)で、計算方法を変える決定ではありません。意見の受付は2026年8月3日に終わり、regulations.govの同じドケットには、2026年10月27日時点で164件の意見が公開されていますが、DOEが結果や新しい計算方法を示した文書は、当社が確認した範囲ではまだ出ていません。
省エネ基準の新しい版や改正案について、建築主が負担する初期費用の増加と、光熱費の削減額を比べる計算です。DOEは、単純回収年、30年のライフサイクルコスト、住宅ローンを組んだときの年ごとの資金の出入り(キャッシュフロー)、ASHRAE 90.1のスカラー比法などを併用してきました。今回の意見募集では、割引率と回収年数の閾値そのものを論点にしています。
使えません。ICCによると、IECCSの初版は2030年に発行される予定です。2026年10月27日時点で進んでいるのは2027年版のIECCで、ICCの委員会ページには、その最終ドラフト(Final Draft)の公表目標が2026年12月1日と書かれています。これも目標の日付で、公表済みではありません。
ICCが2026年1月に意見募集にかけた範囲と目的の案では、基本のIECCは、初期の建設費と建物の運用時のエネルギー性能に焦点を当てた最低限の要求です。IECCS(当時の名称はIECC Expanded)は、IECCに上乗せする要求で、ライフサイクルで費用対効果があることや投資の回収を考えた水準を目的に掲げ、温室効果ガスの削減やゼロエネルギー建築につながる規定も入れられるとされています。理事会はその後、この分割を維持すると決めました。どちらを採るかは、採用する州や自治体が選びます。
米国の省エネ基準のもとになるのは、民間の団体が作るモデルコード(住宅はICCのIECC、非住宅はASHRAE 90.1が中心)で、実際に法令として使うかどうかは州や自治体が決めます。DOEは、新しい版が省エネになるかを判定し(determination)、州に自らの基準の見直しを求める役割を持っています。日本のように、国が告示で全国の基準値を決める仕組みとは違います。
国土交通省の第四次答申の参考資料(全163頁)の本文を当社が検索した範囲では、基準を引き上げる根拠として回収年数や割引率を示した頁は見当たりませんでした。資料は、令和5年度の適合率(住宅のZEH水準は46.1%)や、2030年度以降の新築でZEH・ZEB水準を目指すという目標で説明しています。東京都の建築物環境計画書制度の改正案も、住宅のBEIの段階を「達成割合が6割程度」「4割程度」の水準に置くと書いています。費用を一切考えていないという意味ではなく、公開資料での説明の軸が違う、ということです。
法律が基準の効力を住宅都市開発省の採用に結びつけた。日本の仕組みとの比較。
ASHRAE 90.1・IECCの版と、各国の義務化・認証制度。
DOEが連邦の庁舎に課す基準と、その停止の経緯。
部位別のU値、評価の枠組み、義務化の範囲の違い。
国の方針と、まだ示されていない施行日・経過措置。
建築物環境計画書制度の改正案のUA値0.8・BEI0.85。
住宅・非住宅の省エネ計算を、図面からお引き受けします。
Sources — 出典・参考資料
米国エネルギー省(DOE)「Updating and Improving the Methodology for Assessing Affordability and Cost-Effectiveness of Building Energy Codes」Request for information(Federal Register Vol.91 No.85、pp.23982〜23987、2026年5月4日、FR Doc. 2026-08646)
regulations.gov「Docket EERE-2026-BT-BC-0034」(公開意見の件数は2026年10月27日に当社が確認)
Pacific Northwest National Laboratory「Methodology for Evaluating Residential Energy Code Updates」PNNL-37098(2024年12月。p14〜p19)
Pacific Northwest National Laboratory「Methodology for Evaluating Commercial Energy Code Updates」PNNL-37133(2024年12月。p.ii・p17・p19・p24・p26・p27・p29)
DOE Building Energy Codes Program「Model Energy Code Determinations」
International Code Council「I-Codes Code Development Committees - Energy」
ICC Building Safety Journal「Public Comments Requested on the 2030 International Energy Conservation Code」(2026年1月15日)/「2030 Energy Code Final Board of Directors' Decisions」(2026年4月30日)/「The International Code Council Finalizes Titles of 2030 International Energy Conservation Code」(2026年6月29日)
国土交通省「今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方(第四次答申)参考資料」(2026年1月。p51・p72・p102・p112)
東京都環境局「別紙1 建築物環境計画書制度の改正(案)について」(令和8年9月。p12・p14・p18・p32)
※ 本文・表の注に示したページは、各資料の紙面に印刷されたページ番号です。表4の要約、表6の整理、第4節・第5節の読み、第8節の整理は当社によるものです。DOEのRFIは意見募集であり、計算方法の変更を決めたものではありません。IECCSは2030年版から発行される予定で、2026年10月27日時点では存在しません。