2026年9月12日付で、フランスの1本の政令が世に出ました。 décret n° 2026-863——建築物における暖房・冷房・給湯の設備の設置に関する環境性能の要求事項を定める政令です。 フランス都市・住宅省は9月14日に、これを「新築のガスの終わり(fin du gaz dans la construction neuve)」として公表しました。 ところが省が紹介している禁止規定は、「ガス」を名指ししていません。書かれているのは「温室効果ガスの排出量の閾値が79g/kWhを超えるかたちで稼働するボイラー」を建築物の建設に際して設置することの禁止です。 燃料の名前は出てきません。 同じ目的でも、条文の書き方には型がある——日本の建築物省エネ法がとっているBEI(一次エネルギー消費量の比)による相対評価と並べて、一次資料で整理しました。
① décret n° 2026-863 du 12 septembre 2026(2026年9月12日付の政令)。所管省の公表は2026年9月14日です。 ② 中身は3つ。(1) 既存建物の工事で油(fioul)ハイブリッドボイラーを設置する余地をなくす、(2) 新築時に排出量の閾値が79g/kWh超となるボイラーの設置を禁じる、(3) (2)に4つの免除を置く。 ③ 省の説明する禁止規定に、燃料の名前は出てきません。省は79g/kWhが「電気の規制上の排出量の閾値に相当する」と説明しています。つまり電気と同じ水準まで排出量を下げられないボイラーが、この閾値では禁止側に入る書き方です。 ④ 施行は3段階。住宅の建設=2027年1月1日/公共建築物の建設=2028年1月1日/それ以外の建設=2030年1月1日。既存建物向けの(1)も2027年1月1日です。 ⑤ 免除は非常用として使用される設備/熱供給ネットワークに接続された技術設備/特別な地役権により措置の実施が不可能となる建築物/小規模な増築(150㎡未満または既存床面積の30%未満で、かつ既存のエネルギー設備に接続されるもの)の4つ。 ⑥ (2)と(3)はCCH(建設・住居法典)のR.172-14条に条文化されます。この条は、規則編 第I巻 第VII編 第II章に新設される第3節の中に置かれます。 ⑦ 前提として、RE2020によって主暖房としてのガスボイラーは新築では既に事実上使えません(戸建は2022年から、共同住宅は2025年から)。今回塞がれたのは残っていた補助(appoint)の分です。 ⑧ 日程の根拠はEPBD(指令(EU)2024/1275)第7条(1)(公共団体所有の新築2028年・すべての新築2030年)と第11条(1)(ゼロエミッション建築物は敷地内で化石燃料による炭素排出を生じさせない)。住宅の2027年は、EPBDの期限より早い前倒しです(EPBDでは、公共団体が所有する住宅は2028年、それ以外の住宅は「すべての新築建築物」として2030年)。ただしEPBDのゼロエミッション建築物の要求と、今回のボイラーの設置禁止は同じ義務ではありません。 ⑨ 日本の建築物省エネ法は一次エネルギー消費量基準と外皮基準で構成され、前者はBEI=一次エネルギー消費量の比で評価します。この評価の手順に、燃料の種類そのものを理由に設置を禁じるという段階は出てきません。ただし住宅の外皮基準は一次エネルギー消費量の削減では代替できません。 ⑩ これはフランス国内の政令であり、日本の制度を変更する資料ではありません。日本の設計・申請の実務がこの件で変わる要素は、当社が確認した範囲では見当たりません。
フランスの都市・住宅省(ministère de la Ville et du Logement)が所管する RE2020の公式ポータルに、2026年9月14日付で「新築のガスの終わり」と題した記事が掲載されました。 内容は、その2日前の日付をもつ2026年9月12日付の政令の紹介です。
表1|政令の基本情報
| 名称 | décret n° 2026-863 du 12 septembre 2026 relatif aux exigences de performance environnementale concernant l'installation d'un équipement de chauffage, de refroidissement ou de production d'eau chaude sanitaire dans un bâtiment (建築物における暖房・冷房・給湯の設備の設置に関する環境性能の要求事項に係る政令) |
|---|---|
| 政令の日付 | 2026年9月12日(政令名に付された日付) |
| 所管省の公表 | 2026年9月14日(RE2020公式ポータルの記事) |
| 中心となる規定 | 建築物の建設時に、温室効果ガスの排出量の閾値が79g/kWhを超えるかたちで稼働するボイラー(chaudière)を設置することの禁止(免除4項目あり・表4) |
| 条文化される場所 | CCH(建設・住居法典)R.172-14条。規則編 第I巻 第VII編 第II章の新設の第3節 |
| あわせて行う改正 | 既存建築物の工事における油(fioul)ハイブリッドボイラーの設置の余地をなくす(CCH R.171-13条の改正) |
| 官報の識別子 | Légifrance の JORFTEXT000054834875 |
出所:フランス都市・住宅省 RE2020公式ポータル「Fin du gaz dans la construction neuve」(2026年9月14日公表)。当社は同ページの記載に基づいて本記事を書いており、Légifrance の政令本文そのものは確認できていません(当社の環境から同サイトへアクセスできないため)。条文の文言を引用する必要がある場合は、原文に当たってください。
まず押さえておきたいのは、これが「いきなりガスを止めた」話ではないということです。省の説明によれば、新築における主暖房としてのガスボイラーは、 環境規制RE2020によって既に事実上禁止されています。 時期は戸建住宅(maisons individuelles)が2022年から、共同住宅(logements collectifs)が2025年からです。
では何が残っていたのか。補助(appoint)としてのガスです。暖房の補助にせよ、給湯の補助にせよ、 主たる熱源でなければガスを使う余地がありました。今回の政令は、この残っていた部分を塞ぐものです。 省がこれを「新築のガスの終わり」と題しているのは、主暖房の禁止(RE2020)と、今回の政令による新築時のボイラーの設置禁止が揃うからです。 ただし今回の禁止には4つの免除があり(表4)、新築のあらゆる場面からガスが直ちに無くなると読むのは行き過ぎです。
この政令でいちばん面白いのは、省が紹介している禁止規定に「ガスを禁止する」という書き方が出てこないことです。 省の説明にある禁止規定の書き方は、次のようなものです。
建築物の建設に際して、温室効果ガスの排出量の閾値が79g/kWhを超えるかたちで稼働するボイラーの設置を禁止する。 この79g/kWhは、電気の規制上の排出量の閾値に相当する。
※ フランス都市・住宅省の公表文の記述にもとづく要約です。政令の条文そのものの文言ではありません。
燃料の名前が出てきません。出てくるのは数値の閾値だけです。この書き方には、実務から見ると次の性質があります。
表2|「燃料名で書く」場合と「排出量の閾値で書く」場合の違い
| 観点 | 燃料名で書く場合(例:「ガスボイラーを禁止する」) | 閾値で書く場合(今回のフランス) |
|---|---|---|
| 対象の決まり方 | 列挙した燃料だけが対象。書き漏らした燃料は規制されない | 閾値を超えるかどうかで自動的に決まる |
| 新しい燃料・機器が出たとき | 列挙に無い燃料を使うものは、列挙を増やす改正をしないと対象にならない | その機器がこの規定にいうボイラーに当たるなら、同じ閾値との比較で判定できる(免除に当たるかどうかは別に判断する) |
| 燃料側が改善したとき | 禁止されたままになる | 閾値を超えなくなれば、この禁止の対象から外れる(禁止されるのは「79g/kWhを超える」ものなので、79g/kWhちょうどは対象外と読めます) |
| 判定に必要なもの | 機器の燃料種別 | 機器ごとの排出量の値と、その根拠 |
| 設計者から見た見通し | 分かりやすい | 数値を確認する手間がかかる |
この表は、2つの書き方を対比するために当社が作った模式的な整理です。フランス政府が「こういう意図でこう書いた」と説明したものではなく、また原典は算定方法・根拠資料の提出・将来の改正の要否については何も述べていません。この表が述べているのは、いずれも「この閾値だけを見たときにどうなるか」であって、他の規定を含めた適法性ではありません。「分かりやすい」「手間がかかる」も当社の評価です。
閾値を電気の排出量の水準に置いたという点も重要です。 電気と同じところに線を引けば、そこまで排出量を下げられないボイラーは閾値を超えることになります。 あわせて省の説明では、免除の1つとして熱供給ネットワーク(réseaux de chaleur)に接続された技術設備が挙げられています。 この2つを合わせると、新築で選べる熱源は狭まる方向に働くと読めます(当社の読み取りです)。
なお注意していただきたいのは、省の公表文で禁止の対象として書かれているのは「ボイラー(chaudière)」である点です。 政令の名称は暖房・冷房・給湯の設備を対象としていますが、禁止規定として説明されているのはボイラーです。 「あらゆる熱源機器が排出量で縛られた」と読むと、範囲を広く取りすぎることになります。 本記事でも、以下「対象となるボイラー」と書いている箇所は、この禁止規定の対象を指しています。
禁止規定と免除規定(=CCH R.172-14条)の施行日は、建てる建物の種類によって3つに分かれています。
表3|施行日の3段階
| 対象 | 施行日 | 備考 |
|---|---|---|
| 住宅(logements)の建設 | 2027年1月1日 | いちばん早い |
| 公共建築物(bâtiments publics)の建設 | 2028年1月1日 | EPBD第7条(1)(a)と同じ日 |
| 上記以外の建設 | 2030年1月1日 | EPBD第7条(1)(b)と同じ日。住宅にも公共建築物にも当たらないものはここ |
| (参考)既存建物での油ハイブリッドボイラー | 2027年1月1日 | CCH R.171-13条の改正分。新築の話ではない |
出所:フランス都市・住宅省 RE2020公式ポータル(2026年9月14日公表)。EPBDとの対応関係の注記は当社が付したものです。日付が一致することと、対象の定義(フランスの「公共建築物」とEPBDの「公共団体が所有する建築物」)が一致することは別の話です。
順序に注目してください。住宅がいちばん早く、住宅にも公共建築物にも当たらないものがいちばん遅いという並びです。 この順序の理由について、省の公表文は説明していません。
省は、この日程が国の電化計画(plan d'électrification)の措置5——住宅は2027年、その他の建築物は2030年までに新築のガスを終わらせる——と、 EPBDの期限(第06節)に整合させたものだと説明しています。
禁止には4つの免除が置かれています。条文の本体だけを見て判断すると実態を取り違えるので、あわせて押さえておきます。
表4|4つの免除
| 免除 | 内容 | 実務での意味 |
|---|---|---|
| ① | 非常用(secours)として使用される設備 | 「非常用として使用される」ことが条件です。常用でないというだけでは足りないと読めます |
| ② | 熱供給ネットワーク(réseaux de chaleur)に接続された技術設備 | 実際に接続されていることが条件です。地域熱供給が敷地の近くにある、というだけでは条件を満たしません |
| ③ | 土地または所有権の特別な地役権(servitudes)により、措置の実施が不可能となる建築物 | 条件は「当該措置の実施が不可能になること」です。どのような場合がこれに当たるかは、省の公表文には書かれていません |
| ④ | 小規模な増築——150㎡未満、または既存建築物の床面積の30%未満で、かつ既存のエネルギー設備に接続されるもの | 規模の条件(150㎡または30%のいずれか)と、既存のエネルギー設備に接続されるという条件の、両方が必要です |
出所:フランス都市・住宅省 RE2020公式ポータル(2026年9月14日公表)の記載にもとづきます。「実務での意味」欄は当社の読み取りです。免除の細かな適用条件については、当社は政令本文を確認していません。
④の150㎡未満「または」30%未満という書き方は、日本の増改築の扱いを見慣れた目には親しみやすいはずです。 「または」なので、絶対値と比率のどちらか緩いほうまで認められることになります。 既存建築物が小さいほど30%の値は小さくなるので150㎡のほうが効き、既存建築物が大きいほど30%のほうが大きくなるのでそちらが効きます。 ただし「既存のエネルギー設備に接続されるもの」という条件が別に付いている点は読み落とさないでください。 規模の条件を満たしても、増築部分が既存のエネルギー設備に接続されないのであれば、この免除には乗れないと読めます。
この政令は新築の話が中心ですが、既存建築物に関わる規定が1つだけあります。
既存建築物の工事において、油(fioul)のハイブリッドボイラーを設置する可能性を削除するというものです。 これは2022年1月5日の政令(décret n° 2022-8)に由来するCCH R.171-13条の改正で行われ、2027年1月1日に施行されます。
省の公表文は、この改正を「油ハイブリッドボイラーを設置する可能性を削除する」と説明しています。 つまり2027年1月1日より前の時点では、既存建築物の工事において、この種の機器を設置する余地が残っていたことになります。 ハイブリッドボイラーがどのような機器を指すのか、また2022年の政令がどのような線引きをしていたのかについては、省の公表文に説明はありません。 当社もその点は確認していません。
この政令は、既存建物にすでにあるガス設備の使用を止めるものではありません。 既存に関する規定は、上記の油ハイブリッドボイラーを「新たに設置できなくする」1点だけです。 「フランスが既存住宅のガスを止めた」と読むと誤りになります。
2028年と2030年という日付は、フランスが独自に決めたものではありません。 EPBD=建築物のエネルギー性能に関する指令(EU)2024/1275の期限です。当社でEU官報の英語版本文を確認しました。
フランス都市・住宅省の公表文は、この指令を「du 24 mai 2024」(2024年5月24日)と書いています。 しかしEU官報に掲載された指令の正式題名は「of 24 April 2024」(2024年4月24日)で、 官報(OJ L series 2024/1275)への掲載日は2024年5月8日です。 本記事はEU官報の表記(2024年4月24日)を採用しています。
表5|EPBD(指令(EU)2024/1275)の該当条文
| 条 | 内容 |
|---|---|
| 第7条(1) | 加盟国は、新築建築物が第11条に従ってゼロエミッション建築物であることを確保する。 (a) 2028年1月1日から、公共団体が所有する新築建築物 (b) 2030年1月1日から、すべての新築建築物 これらの要求が適用されるまでの間は、すべての新築建築物が少なくとも「ニアリー・ゼロエネルギー建築物」であり、かつ第5条に従って定められる最低エネルギー性能要件を満たすことを確保する |
| 第11条(1) | ゼロエミッション建築物は、敷地内で化石燃料による炭素排出を生じさせてはならない(shall not cause any on-site carbon emissions from fossil fuels) |
| 第2条(2)(定義) | 「ゼロエミッション建築物」=附属書Iに従って判定されるきわめて高いエネルギー性能を有し、必要とするエネルギーがゼロまたは極めて少なく、化石燃料による敷地内の炭素排出がゼロで、運用時の温室効果ガス排出がゼロまたは極めて少ない建築物(第11条に従う) |
| 第7条(2)(参考) | ライフサイクルGWPを附属書IIIに従って算定し、エネルギー性能証明書で開示することを、2028年1月1日から有効床面積(useful floor area)1,000㎡超の新築、2030年1月1日からすべての新築に義務づける |
| 第7条(4)(参考) | 加盟国は、上記の期日までに建築許可の申請等がすでに提出されている建築物について、第1項・第2項を適用しないことを選択できる |
出所:EU官報掲載の指令(EU)2024/1275 の英語版本文(当社にて確認)。日本語は当社による試訳・要約です。原語は「useful floor area」です(日本の延べ面積と同じ用語ではないため、原語を併記しています)。第7条(2)のライフサイクルGWPについては別記事で詳しく扱っています。
並べると、フランスの政令の日程はEPBDに素直に乗っていることが分かります。
ただし、日付が並ぶことと、義務の中身が同じであることは別です。 EPBDが求めているのは建築物をゼロエミッション建築物にすることで、第11条(1)の 「敷地内で化石燃料による炭素排出を生じさせないこと」に加え、第11条(2)ではエネルギー需要の上限も定められています。 これに対し今回のフランスの政令が定めたのは一定の排出量を超えるボイラーを建設時に設置しないことです。 後者は前者を実現するための一手段であって、両者は同じ義務ではありません。 第7条・第11条は達成すべき状態を定めるもので、加盟国がどの機器をどう規制するかまでは指定していません。 フランスがとったのが「排出量の閾値で書く」という形だった——今回の政令は、その一例として読むことができます(この読み方は当社の整理です)。
では日本はどう書いているのか。建築物省エネ法の基準は、一次エネルギー消費量基準と外皮基準で構成されています。 この評価の手順の中に、熱源機器の燃料の種類そのものを理由に設置を禁じるという段階は出てきません。
省エネ計算では、建築設備が消費するエネルギー(電気・熱)をいったん熱量(MJ)に換算したうえで合計します。 電気については、消費した電気そのものの熱量ではなく、発電・送電ロスまで考慮した一次エネルギーに換算した熱量を用います。 そのうえで、BEIで評価します。BEIは正確には 設計一次エネルギー消費量(その他の設計一次エネルギー消費量を除く)を、基準一次エネルギー消費量(その他の基準一次エネルギー消費量を除く)で除した値です。 住宅の場合、この「その他」にあたるのが家電・調理のエネルギー消費量で、BEIの計算からは外れます (以下この節の日本側の説明は、当社が確認した資料の範囲にあわせて住宅を前提としています)。
一次エネルギー消費量の基準を満たしたからといって、それだけで適合になるわけではありません。 住宅には外皮基準(外皮平均熱貫流率 UA値など)が別に置かれており、これは設備を高効率にして一次エネルギー消費量を減らしても代替できません。 本節で「燃料を選べる」と書いているのは、一次エネルギー消費量の側の話です。
表6|フランスの新政令と日本の建築物省エネ法|縛り方の対照
| 観点 | フランス(décret n° 2026-863) | 日本(建築物省エネ法) |
|---|---|---|
| 縛る対象 | 個々の機器(建設時に設置する対象のボイラー) | 評価単位ごとの一次エネルギー消費量(住宅では住戸等) |
| 指標の単位 | g/kWh(温室効果ガスの排出量) | MJに換算した一次エネルギー消費量と、その比(BEI) |
| 判定の形 | 免除に当たらない対象ボイラーは、閾値を超えたら設置不可(可否の判定) | 基準との比が基準値以下か(合計での判定。省エネ基準はBEI≦1.0)+住宅は外皮基準 |
| 燃料の選択 | 免除に当たらない場合、閾値を超える対象ボイラーは選べない | 一次エネルギー消費量の側では、他で削って合計で満たせばよい |
| 他の部位との交換 | できない(機器単位の可否なので、外皮を良くしても覆せない) | 一次エネルギー消費量の中ではできる(住宅では暖冷房・換気・照明・給湯の合算で調整できる)。ただし外皮基準そのものは設備では代替できない |
| 設計の自由度 | 熱源の選択肢が狭まる | 選択肢は広いが、計算しないと適合が分からない |
フランス側はRE2020公式ポータルの記載、日本側は建築物省エネ法の基準の構成と、建築研究所「エネルギー消費性能の評価に関する技術情報(住宅)」第二章第一節に示されたBEIの定義にもとづきます。この対照表は制度の性格を並べた当社の整理であり、どちらが優れているかを示すものではありません。「設計の自由度」の欄は当社の評価です。BEIの基準値(1.0)は用途や制度によって異なります。
実務で言えば、こういうことです。日本ではガス給湯器を選んでも、断熱を強化したり高効率の設備を組み合わせたりしてBEIを基準以下にすることはできます(外皮基準は別に満たす必要があります)。 フランスの新しい政令の下では、2027年以降に住宅を建てる場合、外皮をどれだけ良くしても、対象となるボイラーの可否は覆りません。 機器の可否と建物の性能が、別々の判定として並んでいるからです。
日本で燃料の選択に効いてくるのは、法の基準そのものよりも、その上に乗る仕組みの側だと当社は考えています。 ZEH・ZEB水準や補助事業の要件、自治体の制度(東京都の環境計画書制度など)がそれにあたります。 ただしこれは当社の実務上の見方であって、本記事はこれらの制度における燃料の扱いを網羅的に調べたものではありません。
最後に、この記事をどう使っていただきたいかを書いておきます。
これはフランス国内の政令であり、日本の制度を変更する資料ではありません。 日本の省エネ適判の手続やWEBプログラムの計算、提出図書が、この政令によって変わる要素は、当社が確認した範囲では見当たりません。
意味があるとすれば、「脱炭素を制度にするときの書き方には型がある」と知っておくことです。 同じ目的に対して、少なくとも3つの型が実在します。
表7|「脱炭素」を制度にするときの3つの型
| 型 | 書き方 | 実例 |
|---|---|---|
| 性能型 | 性能の水準を数値で定め、そこに至る設備の組み合わせは個別に指定しない | 日本の建築物省エネ法(一次エネルギー消費量基準・外皮基準) |
| 閾値型 | 機器に数値の閾値を置き、超えるものの設置を不可とする | 今回のフランスの政令(温室効果ガス排出量79g/kWh) |
| 結果型 | 達成すべき状態を定め、そこに至る国内措置は条文に書かない | EPBD第11条(1)(敷地内で化石燃料による炭素排出を生じさせない) |
この分類は、3つの制度を並べて説明するために当社が作ったものです。公式の分類ではなく、それぞれの制度が他の型の要素を含まないという意味でもありません(たとえばEPBD第11条(2)はエネルギー需要の上限も定めています)。
建築主から「海外ではガスが禁止されているそうですね」と聞かれることが、今後は増えるかもしれません。 そのときに「フランスは、一定の排出量を超えるボイラーを新築時に設置することを禁じる政令を出しました。施行は2027年から順次です。ただし燃料を名指ししたのではなく、温室効果ガスの排出量の閾値で書かれていて、免除も4つあります。日本の基準は一次エネルギー消費量と外皮で見る仕組みです」と答えられれば、 話の解像度が一段上がります。
逆に気をつけたいのは、「海外がこうだから日本もこうなる」という説明です。 同じ2026年に、米国は連邦庁舎の脱化石燃料基準を3度止めています(別記事)。 制度は国ごとに別々の論理で動いており、揃って一方向に進んでいるわけではありません。 海外の事例は予測の根拠ではなく、設計と制度設計の引き出しとして見るのが妥当だと考えます。
合同会社テトは、住宅・非住宅の省エネ計算(外皮計算・一次エネルギー消費量計算)、 省エネ適合性判定・BELS・低炭素・ZEH/ZEB、東京都の建築物環境計画書、CASBEEの各種届出を代行しています。 海外制度そのものの申請は扱っていませんが、国内制度の計算と届出については、根拠資料の作成から審査対応まで一貫してお引き受けします。 まずはお気軽にお問い合わせください。
これはフランス国内の建設・住居法典(CCH)の規則編を改正する政令であり、日本の制度を変更する資料ではありません。日本の建築物省エネ法、省エネ適合性判定の手続、WEBプログラムの計算について、この政令によって変わる要素は、当社が確認した範囲では見当たりません。この記事を読む意味があるとすれば、「制度で燃料を絞るときに、条文をどう書くか」の実例としてです。フランスの規定は、省の説明を読むかぎり燃料の名前ではなく温室効果ガスの排出量の閾値で書かれています。日本は一次エネルギー消費量とその比(BEI)、および外皮の性能で評価しています。同じ「脱炭素」でも、設計者が向き合う制約の形がまったく違います。
半分は正しく、半分は不正確です。所管省の説明にある規定は「建築物の建設に際して、温室効果ガスの排出量の閾値が79g/kWhを超えるかたちで稼働するボイラーを設置することを禁止する」というもので、燃料の名前は出てきません。対象として書かれているのはボイラー(chaudière)です。禁止されているのは「新築での設置」であって、既存建物にすでにあるガス設備の話ではありません。また①非常用として使用される設備、②熱供給ネットワークに接続された技術設備、③特別な地役権により措置の実施が不可能となる建築物、④小規模な増築(150㎡未満または既存床面積の30%未満で、かつ既存のエネルギー設備に接続されるもの)は免除されます(本文の表4)。なお既存建物に関わる部分は、油(fioul)のハイブリッドボイラーを設置できなくする1点だけです。
当社は政令の立案理由書を読んでいないので、立法者の意図を断定することはできません。そのうえで条文の形から言えるのは、閾値で書くと、燃料の名前を列挙しなくても対象が決まるということです。フランス都市・住宅省は、この79g/kWhが「電気の規制上の排出量の閾値に相当する」と説明しています。つまり電気と同じ水準まで排出量を下げられないボイラーは、この閾値では禁止側に入る、という書き方になっています。この形だと、将来に新しい燃料や機器が出てきても、それがこの規定にいうボイラーに当たるかぎりは、同じ閾値との比較で判定できます(免除に当たるかどうかは別に判断することになります)。ここは当社が規定の構造から読み取った説明であって、省が「そういう意図で書いた」と述べたものではありません。また当社は政令の条文本体を確認していません。
住宅の建設が2027年1月1日、公共建築物の建設が2028年1月1日、それ以外の建設が2030年1月1日です。住宅がいちばん早く、住宅にも公共建築物にも当たらないものがいちばん遅くなります(省の公表文は「先に挙げたもの以外の建設」と書いており、所有や使用の形態による区分は示していません)。フランス都市・住宅省は、この日程を国の電化計画(plan d'électrification)の措置5と、EPBD=指令(EU)2024/1275の期限に整合させたものだと説明しています。EPBD側は第7条(1)で公共団体が所有する新築は2028年1月1日から、すべての新築は2030年1月1日からゼロエミッション建築物にすることを求めており、第11条(1)でゼロエミッション建築物は敷地内で化石燃料による炭素排出を生じさせてはならないと定めています。公共建築物の2028年とその他の2030年は、この2つの日付と一致します。これに対し住宅には、EPBDに住宅だけの期限がありません。公共団体が所有する住宅は(a)の2028年、それ以外の住宅は(b)の「すべての新築建築物」として2030年にあたるので、フランスの2027年は、前者に対して1年、後者に対して3年の前倒しということになります。ただしEPBDが求めるゼロエミッション建築物と、今回の政令のボイラーの設置禁止は、同じ要求ではありません。日付が並ぶことと、義務の中身が同じであることは別です。
建築物省エネ法の基準は一次エネルギー消費量基準と外皮基準で構成されています。一次エネルギー消費量の側では、電気もガスもいったん熱量(MJ)に換算したうえで合計します。BEIは、その他の一次エネルギー消費量(住宅では家電・調理)を除いた設計値を、同じく除いた基準値で除した値です。この評価の仕組みの中に、熱源機器の燃料の種類そのものを理由に設置を禁じるという手順は出てきません。つまりガス給湯器を選んでも、他で削って一次エネルギー消費量の基準を満たすことはできます。これが「相対評価」と呼ばれる所以です。ただし住宅には別に外皮基準(外皮平均熱貫流率 UA値など)があり、これは一次エネルギー消費量の削減では代替できません。なお当社は日本の法令全体に燃料別の設置禁止規定が存在しないことを網羅的に確認したわけではありません。ここで述べているのは、建築物省エネ法の適合性の評価がこういう仕組みで行われている、という範囲の話です。
そう読むのは飛躍だと考えます。日本の直近の制度改正を見ると、2026年4月の非住宅BEIの引き上げは性能の水準を上げるもの、ライフサイクルカーボンの届出義務化(改正建築物省エネ法)は算定と届出を求めるもので、性質が異なります。ただしいずれも、特定の燃料を使う機器を名指しで設置できなくする形ではありません。また同じ時期に米国は連邦庁舎の脱化石燃料基準を3度止めています。これらは当社が別記事で一次資料をもとに扱った内容で、本記事の出典には含まれていません。制度は国ごとに別々の論理で動いていて、一方向に揃って進んでいるわけではありません。海外の事例は「日本もこうなる」の根拠ではなく、「こういう書き方もある」という設計の引き出しとして見るのが妥当だと考えます。
EPBDの違反手続の3段階と、日本の基準の決まり方・日付の読み方。
建物を変えずに評価が変わる仕組みと、日本の9.76MJ/kWh。
2030/31年度に18%へ上げる案と、日本の給湯器の新制度との違い。
RE2020の算定範囲と上限値の補正、日本の算定ルール案との違い。
地上階床面積の40%×0.22kWp/㎡の年間発電量。東京都の総量方式との違い。
停止は2027年3月まで。表題はRepealでも処分はstay。日本の官庁施設はBEI0.6。
委任規則2026/52。参照期間50年、必須16・任意3のモジュール、日本のJ-CATとの違い。
窓のU値・BEIの基準年・気候区分・義務化範囲。評価の枠組みがどこで違うか。
SAP 10.3とHEMの24か月併走、6か月前予告。版が変わるときの決め方。
EPBDの期限、欧州9か国のエンボディドカーボン規制、認証制度の対応。
2026年4月のBEI引き上げと、3つの計算方法の選び方。
Sources — 出典
フランス都市・住宅省 RE2020公式ポータル「Fin du gaz dans la construction neuve」(2026年9月14日公表)。政令番号と日付・省の公表日・79g/kWhの閾値とその説明・禁止の対象(ボイラー)・4つの免除・3段階の施行日・CCH R.172-14条およびR.171-13条・décret n° 2022-8・RE2020による主暖房ガスボイラーの禁止時期・電化計画の措置5は、この資料の記載によります。これらは表1・表3・表4と、第01節から第05節までの制度の説明に対応します。同じ節に含まれる表2の比較、書き方についての評価、実務上の読み取りは、出典の記載ではなく当社の整理です。
Légifrance「Décret n° 2026-863 du 12 septembre 2026」(政令本文)。当社は本文を確認できていません。上記の省の公表ページからリンクされている官報の識別子として掲げます。
EU官報「Directive (EU) 2024/1275 of the European Parliament and of the Council of 24 April 2024 on the energy performance of buildings (recast)」(OJ L series 2024/1275・2024年5月8日掲載)。表5と第06節の記述は、この指令の第2条(1)(2)、第7条(1)(2)(4)、第11条(1)(2) の英語版本文によります。指令の日付(2024年4月24日)と官報掲載日(2024年5月8日)も同資料の表記によります。
国立研究開発法人建築研究所「平成28年省エネルギー基準に準拠したエネルギー消費性能の評価に関する技術情報(住宅)」第二章 住宅部分の一次エネルギー消費量 第一節 全般。第07節のBEIの定義(その他の一次エネルギー消費量を除いた設計値を、同じく除いた基準値で除する)と、「その他」が家電・調理であることは、同節 3.1・3.2・3.9・3.10・3.11・3.17 によります。
国土交通省 社会資本整備審議会 建築分科会 建築環境部会 資料「(1)省エネ法改正に伴う対応について」。第07節の「電気・熱を熱量(MJ)に換算して算出する」「電気は一次エネルギーに換算した熱量により算出する」という省エネ計算の構造の説明は、この資料の記述によります。なお同資料には電気の一次エネルギー換算係数の見直しの方針が記載されていますが、本記事は現時点の係数の数値には触れていません(当社が現行値を一次資料で確認できていないため)。