非住宅の一次エネルギー消費量の計算には、標準入力法とモデル建物法という二つのルートがあります。どちらも建築物省エネ法の基準省令に根拠を持つ正式な方法で、背後で動く計算エンジンも同一とされています。違うのは、入力する情報の詳細さと、それに伴う手間、そして結果の出方です。モデル建物法は少ない労力で評価できる一方、計算に反映されない範囲があり、控えめな結果になりやすい場面もあります。ここでは公的資料の記載に沿って、二つの違いと選び方の判断軸を整理します。
01 — SECTION
標準入力法とモデル建物法は、どちらか一方が正式でもう一方が簡易版という関係ではありません。いずれも基準省令に根拠を持つ計算方法で、審査で扱う指標の呼び方まで区別されています。まず制度上の位置づけを押さえます。
標準入力法は基準省令第1条第1項第1号イ、モデル建物法は同号ロによる方法として定められています。いずれも法令上の正式な計算ルートであり、省エネ適合性判定に使用できます。結果を示す指標も区別されており、標準入力法ではBEI、モデル建物法ではBEImという表記が用いられます。申請図書や審査でのやり取りの中で、どちらの指標を指しているのかが曖昧になりやすい部分です。どのルートで進めるのかを初期段階で関係者間で共有しておくと、後の手戻りを防ぎやすくなります。
非住宅の計算プログラムは、標準入力法、モデル建物法、モデル建物法(小規模版)の三つが公開されていますが、いずれも背後で動く計算エンジンは同一とされています。違いは入力する情報の詳細さで、公的な手続きマニュアルでは、標準入力法が最も精度が高く、次にモデル建物法、さらにモデル建物法(小規模版)が続くと整理されています。つまり簡易なルートを選ぶほど、実際の設計内容が結果に反映される範囲は狭くなるという構造になっています。
モデル建物法(小規模版)は、適用できる範囲が床面積300平方メートル未満の非住宅に限られています。入力事項をさらに絞っているため簡易に適否を確認できますが、外皮性能に係る計算を行うことはできず、外皮基準への適否判断には使えないとされています。従前の説明義務制度に対応していた小規模版を廃止し改編したうえで、小規模非住宅の省エネ適合性判定に対応する形で整備されたものです。小規模でも外皮性能を示す必要がある場合は、別のルートを検討することになります。
床面積300平方メートル以上2,000平方メートル未満の中規模非住宅は、2026年4月1日以降に省エネ適合性判定を申請するものから、基準値が用途別に引き上げられました。国土交通省の資料では、工場等がBEI0.75、事務所等、学校等、ホテル等、百貨店等が0.80、病院等、飲食店等、集会所等が0.85とされ、大規模非住宅と同じ水準となりました。施行日前に申請したものと、その計画に関する変更申請については、改正前の基準が適用される扱いです。用途区分の判断で基準値が変わるため、計画の初期に確認しておくと安全です。
適合義務として適用される省エネ基準では、非住宅の外皮性能に関する基準は設定されていません。ただし一次エネルギー消費量を計算するうえで外皮仕様の入力は必須であり、外皮の情報を省略できるわけではありません。一方、性能向上計画認定で適用される誘導基準には外皮性能に関する基準が定められており、認定に係る審査では外皮性能の確認が行われます。認定や表示制度まで見据えるかどうかで、必要になる計算の範囲が変わる場合があります。
02 — SECTION
モデル建物法は、用途ごとに建物形状や室用途構成を仮定したモデル建物に、評価対象建築物の代表的な仕様を当てはめて基準適否を判断する方法です。入力量が少ない反面、結果に反映されない情報があることを前提に使う必要があります。
モデル建物法では、室単位ではなく建築物全体としての外皮性能や主たる設備機器などの情報を入力します。建物形状や室用途構成は評価対象建築物のものではなく、モデル建物のもので評価するため、これらの情報を入力する必要がありません。その結果、標準入力法に比べて少ない労力で評価を行うことができるとされています。規模と設備の大枠が固まった段階から検討に入れるため、基本設計の途中でも見通しを立てやすいという実務上の利点があります。
モデル建物法の通常版には、適用可能な面積の制限が設けられていません。公的な手続きマニュアルでは、中規模以上の非住宅用途を対象としたこれまでの適合義務制度において、省エネ適合性判定で最も利用された計算法と説明されています。したがって、大規模だから標準入力法でなければならないという決まりはありません。規模そのものではなく、狙う水準や建物の性格から選ぶ問題だと捉えるほうが実態に近いといえます。
モデル建物法では、対象建築物にあるすべての外皮と設備を入力するわけではありません。外皮は外気に接する部位が対象で、地盤に接する部分は入力しません。機械換気設備は機械室、便所、厨房、駐車場のために設置されたものが対象で、照明設備は各モデル建物の主たる居室にある器具が対象です。給湯設備は洗面手洗いと厨房、多くのモデルでは浴室のためのものが対象になります。工場モデルではコージェネレーション設備を評価できないなど、モデルごとの制約もあります。
入力対象が限られているため、対象外となる室や設備で高効率化を図っても、その効果は計算結果に表れません。制御機能の扱いにも幅があり、照明の在室検知制御やタイムスケジュール制御、初期照度補正機能は、消費電力ベースで8割以上の器具が該当しなければ「無」として入力する扱いになっています。こうした仕組みから、実際の設計内容に比べて控えめな結果になりやすい傾向が指摘されます。ただし建物形状や設備構成によって差の出方は変わるため、一律に不利と決めつけることはできません。
モデル建物法の結果はBPImとBEImで示され、PAL*や一次エネルギー消費量の値そのものは表示されません。プログラム内部では算出されていますが、それはあくまで想定したモデル建物における値であり、実際の評価対象建築物の値とは異なるためです。標準入力法による結果との混同を避けるため、指標に添え字のmを付けて区別されています。一次エネルギー消費量の絶対値を求められる場面では、この点が制約になる場合があります。
モデル建物法では、モデル建物の外皮面積に対して、評価対象建築物の床面積あたりの外皮面積に応じた補正率がかかる仕組みになっています。補正の基準となる比率はモデルごとに設定されており、事務所モデルとビジネスホテルモデルでは異なる値が用いられています。外皮の量が多い形状の建物では、この補正を通じて結果に影響が及ぶことがあります。形状が特徴的な計画では、早めに試算して傾向をつかんでおくと判断しやすくなります。
モデル建物法は、非住宅建築物の一次エネルギー消費量とBEIを求めるための簡易な計算方法です。室ごとの用途や面積を一つずつ入力していく標準入力法に対して、モデル建物法では用途ごとにあらかじめ定められたモデル建物に、その計画の外皮と設備の仕様を当てはめて評価します。つまり、建物の形や室構成そのものではなく、採用する仕様のほうを入力していく考え方です。入力する情報が少ないぶん作業は軽くなりますが、実際の計画がモデルより有利な条件を持っていても、その有利さは結果に反映されにくくなります。
モデル建物法で入力するのは、建物用途、外皮の仕様、空調、換気、照明、給湯、昇降機といった主要設備の仕様です。室単位の細かな条件や、個別の運用条件は入力しません。外皮についてはPAL*に相当する評価も行えますので、外皮基準への適否もあわせて確認できます。ただしモデル建物法(小規模版)では外皮性能に係る計算を行うことができず、外皮基準への適否は確認できませんので、どのルートを使うかで確認できる範囲が変わる点にご注意ください。
03 — SECTION
標準入力法は、建築物に設けるすべての室単位で床面積、外皮性能、設置設備機器の情報をもとに計算する、最も詳細な計算法です。手間はかかりますが、設計の工夫を結果に乗せやすく、使える場面も広くなります。
標準入力法は、建築物内にあるすべての室単位で床面積や設置設備機器等の入力が必要です。室名と室用途の対応、面積の拾い方、機器表との整合まで含めて情報を揃える必要があり、図面の作り込みが一定まで進んでいることが前提になります。逆にいえば、室構成が固まっていない段階では着手しにくい方法です。設計スケジュールのどの時点で計算に入るのかを、あらかじめ設計者と共有しておくことが実務上の要になります。
室ごとに用途と仕様を入力するため、部分的な高効率化や制御の採用も評価に反映されやすくなります。PAL*や一次エネルギー消費量の値も表示されるため、どの設備がどれだけ効いているのかを設備別に確認しながら計画を詰められます。基準に対する余裕が小さい計画や、削減の内訳を建築主へ説明する必要がある計画では、この情報量そのものが判断材料として役立ちます。
住宅共用部分のエネルギー消費性能の評価は標準入力法を用いて行うこととされており、モデル建物法では住宅共用部分の評価はできないと明記されています。共同住宅で共用部を評価に含める場合は、この時点でルートが決まります。住宅部分と非住宅部分が混在する計画では、どの部分をどの方法で扱うのかを最初に整理しておくことが重要です。判断に迷う場合は、認証機関、自治体への事前相談が有効です。
誘導基準や表示制度で高い水準を目指す計画では、評価に反映される情報の多さが有利に働く場面があります。目標とする値に近づくほど、計算方法の違いによる差が結果を左右しやすくなるためです。ただし、制度や補助事業によって求められる計算方法や指標が異なる場合があります。どの計算法が使えるのか、どの指標での提出が必要になるのかは、対象となる制度の要件を個別にご確認ください。
入力量が多いため、作業期間も根拠図書の量も増えます。室構成や設備機器の変更が生じると影響が計算全体に及ぶことがあり、変更のたびに確認の手間が発生します。審査は、Webプログラムからの出力シートの記載内容が図面等と整合していることを確認することにより行われるため、図面側の更新漏れがそのまま指摘につながります。変更が多く見込まれる案件では、この維持コストも含めて選択を考える必要があります。
04 — SECTION
どちらが優れているという話ではなく、計画の性格に合うルートを早く決めることが実務上の要点です。ここでは、私たちが案件の初期に確認している判断軸を挙げます。個別の運用は所管により異なる場合もあるため、計画地の制度もあわせてご確認ください。
標準入力法からモデル建物法への変更、またはその逆の変更は軽微な変更の対象から除かれており、再度の適合性判定が必要になります。モデル建物法からモデル建物法(小規模版)への変更、またはその逆についても同様の扱いです。つまり計算方法の選択は、あとから軽い手続きで差し替えられるものではありません。着工までの工程を考えるうえでも、方針を早い段階で固めておくことが最も効きます。
義務基準に適合させるだけでよいのか、誘導基準や表示制度でより高い水準を狙うのかで、選ぶルートは変わります。基準までの余裕が十分に見込める計画であれば、入力量の少ないモデル建物法で足りることが多くあります。一方、余裕が小さい計画では、反映される情報が多い標準入力法のほうが計画の自由度を保ちやすい場合があります。まずは概算の試算で、どの程度の余裕があるのかを見ておくと判断しやすくなります。
モデル建物法では、用途区分コードに応じた適用モデルを選ぶことが基本とされ、建物の使われ方を加味して使われ方の近しいモデルを選ぶことも認められています。一方で、その他に区分される用途などで判断に迷う場合は、事前に省エネ適合性判定を行う機関へ確認し協議することとされています。用途構成が独特な計画や複数用途が入り組む計画では、モデルへの当てはめ自体が論点になり得ます。ここで無理が生じるようなら、標準入力法を検討する場面です。
共同住宅の共用部を評価に含める場合は標準入力法を用いることになります。住宅部分と非住宅部分が混在する複合建築物では、部分ごとの扱いと、共用する設備の整理が必要です。共用する設備をどちらの部分の設備として入力するかにも考え方が定められており、方針を誤ると計算全体を組み替えることになります。用途構成が複雑な案件は、計算に入る前の切り分けが結果と工数の両方を左右します。
変更が多く見込まれる案件では、入力量の少ないモデル建物法が扱いやすい面があります。加えて、軽微な変更のうち一定の範囲でエネルギー消費性能を低下させる変更については、変更前の設計一次エネルギー消費量が基準一次エネルギー消費量に比べて10パーセント以上少ないことが要件とされています。ぎりぎりで適合させるのではなく、あらかじめ余裕を確保しておくことが、後の変更対応のしやすさにつながります。
費用や期間は、計算方法そのものよりも、入力量と根拠図書の量、そして変更対応の回数で決まります。標準入力法は室単位の情報整理が必要になるため、一般に作業量は多くなります。当社では、案件規模や難易度に応じて個別にお見積りしていますので、図面の揃い具合と目標とする水準をお知らせいただければ、どちらのルートが適するかを含めてご提案します。用途別の費用の目安と納期の目安は、省エネ計算の代行のページに掲載しています。
05 — FAQ
入力対象が限られていることが最大の制約です。外皮は外気に接する部位が対象で、機械換気設備は機械室や便所などのために設置されたもの、照明設備は主たる居室にある器具が対象とされているため、それ以外の部分で高効率化を図っても結果には表れません。制御機能も、消費電力ベースで8割以上の器具が該当しなければ「無」として扱われます。また結果はBPImとBEImで示され、一次エネルギー消費量の絶対値は表示されません。実際の設計内容に比べて控えめな結果になりやすい傾向があるため、狙う水準が高い計画では不利に働く場合があります。
モデル建物法の通常版には、適用可能な面積の制限が設けられていません。公的な手続きマニュアルでも、中規模以上の非住宅用途を対象としたこれまでの適合義務制度において、省エネ適合性判定で最も利用された計算法と説明されています。したがって、規模の大きさだけで標準入力法が必要になるわけではありません。ただし、床面積300平方メートル以上2,000平方メートル未満の中規模非住宅は2026年4月1日以降に省エネ適合性判定を申請するものから基準値が引き上げられているため、余裕の取り方には注意が必要です。
評価方法の変更は軽微な変更の対象から除かれており、標準入力法からモデル建物法への変更、またはその逆の変更を行う場合は、再度の適合性判定が必要になります。モデル建物法とモデル建物法(小規模版)の間の変更についても同様の扱いです。手続きの追加や工程への影響が生じるため、計算方法は着手前に決めておくことをお勧めします。判断に迷う場合は、図面の揃い具合と目標とする水準をお知らせいただければ、想定される手続きの流れも含めてご説明します。
住宅共用部分のエネルギー消費性能の評価は標準入力法を用いて行うこととされており、モデル建物法では住宅共用部分の評価はできないと明記されています。共用部を評価に含める計画では、この点で計算方法が決まります。住宅部分と非住宅部分が混在する複合建築物では、部分ごとの基準の適用と、共用する設備をどちらの部分の設備として入力するかの整理が必要です。最初の切り分けを誤ると計算をやり直すことになるため、計画の初期段階でご相談ください。
適用できる範囲は床面積300平方メートル未満の非住宅に限られています。入力事項をさらに絞っているため簡易に適否を確認できますが、外皮性能に係る計算を行うことはできず、外皮基準への適否判断には使えないとされています。性能向上計画認定で適用される誘導基準には外皮性能に関する基準が定められているため、認定まで視野に入れる場合は別のルートを検討することになります。300平方メートル未満であっても、目的によって選択が変わる点にご注意ください。
費用は計算方法の違いだけでは決まりません。入力する情報の量、根拠図書の整備範囲、変更対応の回数によって作業量が変わるため、案件規模や難易度に応じて個別にお見積りしています。ご相談の際に、用途と規模、図面の揃い具合、目標とする水準、想定している制度の申請予定をお知らせいただけますと、必要な作業の範囲を具体的にお示しできます。全国の案件にオンライン中心で対応しています。
非住宅建築物の一次エネルギー消費量とBEIを求めるための簡易な計算方法です。用途ごとにあらかじめ定められたモデル建物に、その計画の外皮と設備の仕様を当てはめて評価します。室ごとの用途と面積を入力していく標準入力法と比べると、入力する情報が大幅に少なくなるため、作業期間と根拠図書の量を抑えられます。一方で、実際の計画が持っている有利な条件は結果に反映されにくく、評価は安全側に出やすい傾向があります。BEIに余裕がない計画では、同じ設計でも標準入力法なら適合する、ということが起こり得ます。
非住宅部分について用いることができます。判断の軸は、BEIにどれだけ余裕があるかと、変更がどれだけ見込まれるかの二つです。余裕があり、設備仕様が固まっていて変更も少ない計画であれば、作業が軽いモデル建物法が向きます。逆に基準ぎりぎりの計画や、高効率機器の効果をきちんと評価に乗せたい計画では、標準入力法のほうが有利になります。なお、床面積300平方メートル未満の非住宅にはモデル建物法(小規模版)という選択肢もありますが、外皮性能に係る計算は行えません。着手後に評価方法を変えると再適判が必要になる場合がありますので、計算ルートは着手前に決めておくことをお勧めします。