2026年5月4日、EUの官報に委任規則 (EU) 2026/52 が公示されました。建築物のエネルギー性能指令(EPBD)の附属書IIIを全面的に差し替えるもので、決まったのは目標値ではなく「数え方」です。参照期間は50年で固定、単位は kgCO2eq/㎡。再利用・リサイクルの便益まで必須に入りました。日本は「国が統一の算定ルールを策定する」ところまでが法律で決まった段階です。条文を直接読んで、いま日本でいちばん使われている J-CAT の公表仕様と並べました。
① 委任規則 (EU) 2026/52 は2025年12月16日に委員会が採択、2026年5月4日にEU官報で公示され、公示の20日後に発効した。② 中身はEPBD附属書IIIの全面差し替えで、加盟国が国内の算定ルールを作るときに従う共通枠組み。③ 参照期間は50年で固定。条文は「建物の想定耐用年数ではなく、比較のための便宜上の基準」と明記している。④ 単位は kgCO2eq/㎡(有効床面積あたり)。⑤ ライフサイクル段階は必須16・任意3で、再利用・リサイクルの便益(D1)と外部供給エネルギーの便益(D2)まで必須。⑥ GWP-total は化石・生物由来・土地利用の合計と定義され、木材に貯留された炭素も本体に入る。⑦ 義務化は2028年1月に1,000㎡超の新築、2030年1月に全ての新築。日本の国の指針はまだ公表されていない。
建物のCO2の話は、これまで「運用段階でどれだけエネルギーを使うか」が中心でした。日本の省エネ計算も、外皮性能と一次エネルギー消費量という運用段階の指標で組み立てられています。
そこに資材の製造から解体・廃棄までを通算するという考え方が加わりつつあります。ヨーロッパでは改正EPBD(指令 (EU) 2024/1275)が、新築建築物のライフサイクルGWP(地球温暖化係数)を算定してエネルギー性能証明書に記載することを義務づけました。日本でも改正建築物省エネ法で、建築物ライフサイクルカーボン評価の仕組みが法律に入りました。
ただ、この種の制度でいちばん揉めるのは目標値ではなく「数え方」です。どこからどこまでを数えるのか、何年で割るのか、データはどこから持ってくるのか。ここが揃っていないと、出てきた数値どうしを比べることができません。
EUは、その「数え方」を2025年12月16日に委任規則として採択し、2026年5月4日にEU官報で公示しました。発効は公示の20日後です。本記事は、その条文を直接読んで整理したものです。
表1|委任規則 (EU) 2026/52 の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | Commission Delegated Regulation (EU) 2026/52 of 16 December 2025 amending Annex III to Directive (EU) 2024/1275 ... as regards the Union framework for the national calculation of life-cycle global warming potential |
| 日本語の意味 | ライフサイクル地球温暖化係数(GWP)の各国算定に関するEU共通枠組みについて、指令 (EU) 2024/1275 の附属書IIIを改正する委員会委任規則(訳は当社によるもの) |
| 根拠規定 | EPBD(指令 (EU) 2024/1275)第7条(3) |
| 採択 | 2025年12月16日(欧州委員会) |
| EU官報公示 | 2026年5月4日 |
| 発効 | 公示の20日後(条文の書きぶり。日付は明示されていない) |
| やっていること | 第1条で「附属書IIIを本規則の附属書の本文で置き換える」=全面差し替え |
| 拘束力 | 規則(Regulation)なので全体として拘束力を持ち、加盟国において直接適用される |
出典:EU官報 L series 2026/52(4.5.2026)。訳語は当社によるもので、公式な日本語訳ではありません。
差し替えられたのはEPBDの附属書IIIです。EPBD本体は「新築のライフサイクルGWPを算定してエネルギー性能証明書に記載せよ」とだけ書いており、その具体的な方法は附属書IIIに委ねられていました。今回の委任規則が、その附属書IIIに中身を入れたことになります。
枠組みの性格として、条文と前文からは次の3点が読み取れます。
ここは日本の実務者にとって見どころだと思います。設計を変えられるうちに一度算定し、竣工時の実態に合わせた値を証明書に載せる。省エネ計算でいえば、設計時の計算と竣工時の軽微変更の関係に近い構造です。ライフサイクルカーボンは資材の数量に直結するため、設計変更や現場での納まりの変更が数値に効きます。制度がこの二段構えを取るのは自然な流れといえます。
附属書IIIの第2節は1行です。「ライフサイクルGWPは50年の参照研究期間(reference study period)にわたって算定するものとする」。
そして脚注に、こう書かれています。
この固定された50年の参照期間は、比較可能な結果を得る観点から適切であると考えられる。これは建物の想定される耐用年数ではなく、慣行上の基準(conventional reference)として理解されるべきである。(当社訳)
つまり50年は、「この建物は50年もつ」という想定ではありません。全部の建物を同じものさしに乗せるための共通の目盛りです。実際の建物が30年で壊されようと100年使われようと、算定上は50年で切る。実態の反映よりも比較可能性を優先した設計だと読めます。
日本のJ-CATは考え方が違います。IBECs(一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター)が公開しているFAQによれば、新築の算定では評価期間と建替周期は原則として同じ年数を入れ、その値はCASBEE-建築(新築)評価マニュアルの建物用途ごとの耐用年数を参照するとされています。同FAQには30年や60年という値が例として出てきます。さらに、長寿命化の取組みを行う前提であれば80年・100年・120年への延長も可能です。
どちらが正しいという話ではありません。長寿命化の努力を数値に反映させたいなら日本の方式、国をまたいで数値を比べたいならEUの方式が向いています。ただし実務では、この違いが効いてきます。㎡あたり年あたりに直した数値を並べても、割った年数が違えば比較になりません。
単位についても条文は明確で、附属書IIIの第4節は「ライフサイクルGWPは有効床面積1㎡あたりの kg CO2eq の単位で表す」としています。有効床面積の定義そのものは各国が定めますが、その際はIPMS(International Property Measurement Standards)または同等の規格に沿って、どの面積を使ったのかを説明することが求められています。面積の取り方で分母が変わり、数値が変わってしまうためです。
附属書IIIの第5節と表2が、算定するライフサイクル段階を必須(Required)と任意(Optional)に振り分けています。EN 15978の区分に沿ったもので、A・B・C・Dの記号で表されます。
表2|ライフサイクル段階の必須・任意(附属書III 表2より)
| 段階 | 内容 | 扱い | 条文が認めている緩和 |
|---|---|---|---|
| A1 | 原材料の供給 | 必須 | — |
| A2 | 工場への輸送 | 必須 | — |
| A3 | 製造 | 必須 | — |
| A4 | 輸送 | 必須 | 製品レベルの情報と同等のジェネリックデータ・既定値の範囲に限ってよい |
| A5 | 建設・据付 | 必須 | 着工前の解体と、作業員の現場までの往復は除外可(算入する場合は別の指標として報告) |
| B1 | 使用(B1.1 材料からの排出と炭酸化/B1.2 冷媒の漏えい) | 必須 | 製品レベルの情報と既定値の範囲に限ってよい(冷媒漏えいの影響を含む) |
| B2 | 維持 | 必須 | 同上 |
| B3 | 修繕 | 必須 | 同上 |
| B4 | 更新(構成部材の取替え) | 必須 | 更新回数の数え方のルールを加盟国が明示すること(平均の小数回数か、整数回数か等) |
| B5 | 大規模改修 | 任意 | — |
| B6 | 運用エネルギー(B6.1 規制対象設備/B6.2 規制対象外設備/B6.3 利用者活動によるその他のエネルギー) | 必須 | この指令が対象とする規制対象の設備(B6.1)に限ることができる。将来の排出係数の変化を見込む場合は、参照期間全体について正当化され一貫し明確に定義されていること |
| B7 | 運用時の水(トイレ・シャワー・加湿・灌水など) | 任意 | — |
| B8 | 建物利用者の活動(人の移動、敷地内のEV充電、什器・消耗品など) | 任意 | — |
| C1 | 解体 | 必須 | 製品レベルの情報と既定値の範囲に限ってよい |
| C2 | 廃棄物処理・処分場への輸送 | 必須 | 同上 |
| C3 | 再利用・リサイクル・回収のための廃棄物処理 | 必須 | 同上 |
| C4 | 廃棄物の処分 | 必須 | 同上 |
| D1 | システム境界の外に出る材料の正味の流れから生じる再利用・リサイクル・エネルギー回収 | 必須 | 製品レベルの情報と既定値の範囲に限ってよい |
| D2 | 外部に供給した電力・熱・上水などの便益と負荷 | 必須 | — |
必須16・任意3という数え方は、B1.1・B1.2 のような細分を数えず A1〜D2 の区分で数えた場合の当社の集計です。表の「内容」欄は EN15978:2011 と prEN15978:2025 の呼称のうち、条文に併記されているものを当社で要約しました。prEN は策定中の規格を指す記号です。
建物のLCAでは、D区分(システム境界の外側の便益と負荷)は「参考値として別枠で示す」扱いにされることが多い項目です。解体後に鉄がリサイクルされる、余った電力を系統に流す ― こうした将来の出来事を建物の成績に算入してよいのかは、議論のある論点だからです。
EUの枠組みは、D1・D2をいずれも必須としました。ただし表2の緩和にあるとおり、製品レベルで得られる情報とジェネリックデータ・既定値の範囲に限ることを加盟国が定められるため、案件ごとに詳細な将来シナリオを積み上げることまでは求めていません。「必須だが、詳細さは各国が決めてよい」という設計です。
算定結果をエネルギー性能証明書にどう載せるかも、表5で決まっています。総量ひとつではなく、段階ごとに分けて示す形です。
表3|エネルギー性能証明書(EPC)に開示する区分(附属書III 表5)
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| A1-A3 | 製品段階 |
| A4-A5 | 建設プロセス段階 |
| B1-B4 | 使用・維持・更新段階 |
| B6 | 運用エネルギー段階 |
| C1-C4 | 使用終了段階 |
| D1 | 再利用・リサイクル・回収のポテンシャル |
| D2 | 外部に供給したもの(電力・熱・上水など)による便益と負荷 |
| GWP-total | GWP-fossil(化石由来)+ GWP-biogenic(生物由来)+ GWP-land use and land use change(土地利用および土地利用変化)の合計 |
GWP-total の定義は表5の脚注に記されています。生物由来の炭素が合計の構成要素として条文に書かれている点が要点で、木造による炭素の貯留を促すことは前文でも枠組みのねらいの一つとして述べられています。
ここまでは「証明書に載せるための算定」の話です。EPBD第7条(5)に基づく限界値との適合判定については、加盟国はライフサイクル段階や部位の一部を外してよいと第1節に書かれています。条文はその例として、建物のライフサイクルのどの時点で排出されるかに応じた重み係数を掛けるやり方を挙げています。開示のための数値と、規制値をクリアしたかを判定するための数値が、同じとは限らないということです。
「どの段階を数えるか」と並んで実務に効くのが、「建物のどの部分を積むのか」です。附属書IIIの第7節と表4が、部位と設備の範囲を4つの階層(Tier)で定めています。
設備の列挙はかなり具体的で、たとえば熱源の項には「地域熱供給に接続するプレート熱交換器」や「建物のフットプリント内にある共同熱源設備はメーターまでを含み、メーターより先は配管網として扱う」といった線引きまで書かれています。給湯設備、冷媒配管の保温、支持金物、凍結防止のトレースヒーターまで対象です。
共同住宅を扱っていると必ず出てくる論点に、条文が答えを出しています(表4の脚注15)。
床面積は分母です。分子(排出量)に入るのに分母(面積)に入らないという組み合わせがあると、㎡あたりの数値は当然大きく出ます。この非対称は意図的に条文で明示されており、算定する側が知らずに扱いを揺らすと数値が動きます。
もうひとつ、建物の外にあるものの扱いも定められています。所有と維持管理の責任が建物所有者にあると加盟国が判断する部位・設備は、その建物から構造的に独立し外部にあっても算定に含める。ただしその場合、排出量は含めるが床面積は含めないとされています。脚注6は例として、建物一体型の太陽光パネル、屋上の太陽熱集熱器、共用地に設置された太陽光・太陽熱、地域熱供給の設備、地中に埋設された地中熱ヒートポンプを挙げています。
算定の精度は、突き詰めれば「どの原単位を使ったか」で決まります。附属書IIIの第3節と表1は、使えるデータを6種類に分けたうえで、優先順位を条文で固定しました。
表4|使用するデータの優先順位(附属書III 第3節・表1)
| 順位 | データの種類 | 条文の定めるところ |
|---|---|---|
| 1 | 建設製品規則に基づくデータ | 建設製品規則(規則 (EU) No 305/2011 または (EU) 2024/3110)に基づく性能・適合宣言(DoPC)から得られる気候変動影響の製品データ。入手できる場合は使用しなければならない |
| 2 | エコデザイン/エネルギーラベル法制のデータ | 指令 2009/125/EC、規則 (EU) 2017/1369、規則 (EU) 2024/1781 に基づく製品規則により発行されたデータ。1と両立する場合は、これも使用しなければならない |
| 3 | プロジェクト固有データ/製品固有データ | EN 15804 または EN 50693 等に基づいて算定されたもの。上記の規則の下で発行されたものではない。国内法が明示的に認めた場合にのみ使用できる |
| 4 | 製品グループの平均データ | 業界団体等が提供する、複数企業・複数製品の平均。国内法が明示的に認めた場合にのみ使用できる |
| 5 | ジェネリックデータ | 国または地域の製品グループ単位の一般値。加盟国が生成・算定の明確なルールを定める。そのルールは保守的な前提に基づき、製品固有データより不当に有利にならないようにすること |
| 6 | 既定値(default values) | 上記のいずれも無い場合、または計算を簡略化する必要がある場合のデータの空白を埋めるもの。部位単位でも、サブモジュール単位でも設定できる。加盟国は、固有データが一切なくても算定と開示が成立するだけの既定値のセットを用意してよい |
加盟国は、ジェネリックデータと既定値を生成・更新する明確なルールを、一貫した保守的な考え方で定めることとされています。またこれらのデータを公開して、義務が始まる日までに算定ができる状態にすることも条文に書かれています。
3〜5に共通する「国内法が明示的に認めた場合にのみ」という条件が効いています。EPDを取っているから自動的に使えるわけではなく、加盟国がその種類のデータを認めていることが前提になります。一方で条文は、市場の分断を避けるため、他の加盟国で発行された信頼できる互換性のあるデータを認めることを加盟国に奨励するとも書いています。
ライフサイクルカーボンの算定は、製品ごとの環境データが揃っていないと動きません。しかし2028年1月には義務が始まります。条文はここを、既定値のセットを加盟国が用意して、固有データが一切なくても開示ができるようにしてよいという形で処理しました。精度より、まず全件で数値が出ることを優先した設計です。そのうえで、既定値は保守的に置いて固有データを使う動機を残すこと、とも書かれています。
屋上に載せた太陽光パネルを作るときにもCO2は出ています。その分を、建物の成績にどれだけ背負わせるか。発電した電気の一部を系統に流している場合、話はさらに複雑になります。
附属書IIIの第6節と表3は、この配分について3つの方式を示し、加盟国はそのうち1つを選ばなければならないとしています。
そして蓄電設備の内包炭素は、どの方式でも全量が建物に配分されます。方式B1・B2を採る場合、加盟国は選んだ配分ルールを公開しなければなりません。
この3方式は、設計の評価を左右します。方式B2は、建材一体型の太陽光(外皮の表面そのものを構成するもの)と、屋根置き・架台載せを区別します。前者は全量が建物の負担、後者は自家消費した割合の分だけ。売電が多いほど建物の負担が軽くなるという構造です。
なお、外部に供給したエネルギーの影響はD2に報告するとされており、その配分はEN 15978に従うこととされています。運用エネルギー(B6)の算定は、EPBDの附属書Iに定める共通の一般的枠組みによる運用時温室効果ガス排出量の算定と整合させるべきだ、とも書かれています。
日本の資料③(再生可能エネルギー利用設備設置等計画書)や東京都の再エネ設置に関する議論とは、扱っている論点が異なります。EUのこれは「設備を作るときに出たCO2を誰の帳簿に付けるか」という配分の話です。
日本では、2026年7月に成立した改正建築物省エネ法(令和8年法律第75号)で、建築物ライフサイクルカーボン評価制度が創設されました。法律上の呼称は「建築物通算炭素排出量評価」です。国土交通省の説明資料には、次のように書かれています。
つまり日本は「統一の算定ルールを国が作る」ということが法律に書かれた段階で、そのルール自体はまだ出ていません。EUが今回条文で固めたのが、まさにこの「統一の算定ルール」に当たる部分です。
いま日本で実際に算定に使われているのは、J-CAT(建築物ホールライフカーボン算定ツール)です。ゼロカーボンビル推進会議のもとで開発され、IBECsが公開しています。J-CAT-建築は2024年10月の正式版、J-CAT-戸建は2025年11月の試行版という位置づけです。
次の表は、EUの法令と、日本のツールの公表仕様を並べたものです。性格が違うものを並べている点にご注意ください。日本側の「国の指針」はまだ公表されていないため、日本の制度がこの表のとおりになると決まったわけではありません。J-CATの記載は、IBECsが公開している「J-CATの特徴」およびFAQに基づく、現時点のツールの仕様です。
表5|EUの共通枠組みと日本のJ-CAT ― 公表資料で確認できる範囲の対照
| 論点 | EU|委任規則 (EU) 2026/52 | 日本|J-CAT(ツールの公表仕様) |
|---|---|---|
| 位置づけ | 加盟国の国内算定ルールが従うべき共通枠組み(法令) | 算定ツールとマニュアル。国の指針は未公表 |
| 拠り所の規格 | EN 15978(および後継規格を考慮) | ISO 21930 における表記区分に準拠した形 |
| 参照期間 | 50年で固定。耐用年数ではなく比較のための慣行上の基準 | 評価期間=建替周期。CASBEE-建築(新築)の用途ごとの耐用年数を参照(30年・60年など)。長寿命化を前提に延長も可 |
| 結果の単位 | kgCO2eq/㎡(有効床面積あたり) | ton-CO2e / kg-CO2e/㎡ / kg-CO2e/㎡年 の3種から選択 |
| D区分(再利用・リサイクル等) | D1・D2とも必須 | 「将来的に算定を検討」=現時点では対象に入っていない |
| B7(運用時の水) | 任意 | 算定できる(入力シートに上水消費量の欄がある) |
| 木材の炭素貯蔵 | GWP-biogenic として GWP-total の構成要素 | 木材の炭素貯蔵・コンクリートのCO2固定は参考情報として記載 |
| 冷媒の漏えい | B1.2として必須(製品レベル情報・既定値の範囲に限ってよい) | 国際的な算定方法と整合した方法。漏洩率は公表済の最新統計値。J-CAT-建築では削減策も反映できる枠組み |
| 製品データ | 建設製品規則の性能・適合宣言(DoPC)が最優先。EPD等は国内法が認めた場合のみ | あらかじめJ-CATに登録されたEPDに限る(バウンダリを統一的に扱うため) |
| データが無いとき | 加盟国が既定値を用意。既定値だけでも算定が成立するように | 原単位が無い資材は「一式工事分」に含めるものとし、デフォルト値20%または金額比率で算出 |
| 算定の手法 | 単一の枠組み(詳細さの一部は加盟国が選択) | 簡易・標準・詳細の3つの算定法を用途に応じて選ぶ |
EU側は委任規則 (EU) 2026/52 の附属書IIIから、日本側はIBECs「J-CATの特徴」および同FAQから、それぞれ当社が読み取ったものです。訳語は当社によるものです。
並べてみると、設計思想の違いがはっきり出ます。EUは比較可能性を最優先し、期間を固定し、必須の範囲を広く取って、足りないデータは既定値で埋める。日本のJ-CATは実態の反映と使いやすさを重視し、期間を用途と長寿命化の取組みに合わせ、算定法を3段階に分け、D区分は今後の課題としています。
どちらの考え方を採るのかは、これから国が定める指針で決まります。EUに合わせる必要があるという話ではありません。ただ、海外の投資家や親会社に数値を出す場面では、両方の枠組みの違いを説明できることが求められるようになると考えられます。この点は当社の見通しであって、公式に予告されたものではありません。
いますぐ提出書類が変わるという話ではありません。委任規則 (EU) 2026/52 はEU加盟国に向けたもので、日本の建築確認や省エネ適合性判定に直接効くものではありません。関係してくるのは、これから日本でもライフサイクルカーボンの算定が制度に入ってくるからです。改正建築物省エネ法(令和8年法律第75号)では、国が建築物ライフサイクルカーボン評価の指針(統一の算定ルール)を策定し、政令で定める規模の事務所については建築主が着工前に評価結果を国へ届け出ることとされています。その指針がどういう形になるかを考えるとき、「先に数え方を法令で固めた例」としてEUの枠組みが参照点になります。なお日本の指針の中身や公表時期は、当社が確認した限り、まだ公表されていません。
考え方が違います。委任規則2026/52は参照期間を50年に固定したうえで、脚注で「これは建物の想定耐用年数ではなく、結果を比較可能にするための便宜上の基準として理解されるべきものである」と明記しています。つまり50年は実際に何年もつかとは切り離された、共通のものさしです。一方J-CATでは、IBECsのFAQによれば評価期間は原則として建替周期と同じ年数を入れ、その値はCASBEE-建築(新築)評価マニュアルの建物用途ごとの耐用年数を参照するとされ、30年や60年といった値が使われます。長寿命化の取組みを前提に80年・100年・120年へ延長することも可能です。実態を映すという意味では日本の方式に利点がありますが、期間が案件ごとに違うと、㎡あたり年あたりに直した数値どうしを単純に比べることは難しくなります。どちらが正しいという話ではなく、比較可能性を取るか実態の反映を取るかの選び方の違いです。
GWP-totalの中に入ります。附属書IIIの表5の脚注は、GWP-totalを「GWP-fossil(化石由来)とGWP-biogenic(生物由来)とGWP-land use and land use change(土地利用および土地利用変化)の合計」と定義しています。生物由来の項目が合計の構成要素として条文に書かれている点が要点です。また前文では、木造による炭素の貯留を促すことが枠組みのねらいの一つとして述べられています。日本のJ-CATでは、IBECsのFAQによると木材の炭素貯蔵やコンクリートのCO2固定は参考情報として記載する扱いです。本記事は条文とツールの公表仕様を並べたもので、どちらの扱いが妥当かを評価するものではありません。
条文はD1(システム境界の外に出る材料の正味の流れから生じる再利用・リサイクル・エネルギー回収)とD2(外部に供給した電力・熱・上水などの便益と負荷)をいずれも必須としています。ただし同じ表の中で、加盟国は算定を「製品レベルで入手できる情報および同等のジェネリックデータまたは既定値の範囲に限ってよい」と定めることができるとされています。つまり必須ではあるものの、案件ごとに詳細な将来シナリオを積み上げることまでは求められていません。なお日本のJ-CATについては、IBECsの公表資料に「補足情報のD区分については、将来的に算定を検討することとしています」と記載されており、現時点では算定の対象に入っていません。
そのままでは通用しないとお考えください。準拠する規格が違い(EUはEN 15978、J-CATはISO 21930の表記区分に準拠)、参照期間の決め方も違い、D区分の扱いも違います。使う原単位のデータベースも別のものです。同じ「ライフサイクルCO2」という言葉でも、対象範囲と前提が違えば数値は比較できません。海外の投資家や親会社から数値を求められる場面では、どの枠組みで、どの期間で、どの段階まで数えたのかを必ず添えて示すのが安全です。この点は制度が固まるまでは変わらないと考えられます。
当社が確認した範囲では、公表されていません。改正建築物省エネ法の説明資料には「国が建築物ライフサイクルカーボン評価の指針(統一の算定ルール)を策定する」と書かれていますが、その内容も時期も示されていません。なお2026年8月に公布手続きが進んだ最初の施行令案は上位住宅トップランナー制度に関するもので、ライフサイクルカーボンの対象範囲を定める政令はこれからです。報道ではライフサイクルカーボン評価制度の導入を2028年度中とする見方が伝えられていますが、施行日は公表されていません。当社としては、数字が確定するまでは「対象になりそうな規模かどうか」と「設計段階で算定できる体制があるか」の2点を押さえておけば十分と考えています。
EPBDの違反手続の3段階と、日本の基準の決まり方・日付の読み方。
EPDの有効期限・業界平均は最悪値・1%ルールと、日本の届出制度との違い。
PUEと水の効率をA〜Gの7段階で表示。日本の電算機室の扱い・PUE1.3基準との比較。
RE2020の算定範囲と上限値の補正、日本の算定ルール案との違い。
排出量79g/kWh超のボイラーを新築時に設置禁止。住宅2027年・公共2028年・その他2030年と、日本のBEIとの違い。
停止は2027年3月まで。表題は「廃止」、処分は「停止」。日本の官庁施設はBEI0.6。
日本国内の物件・標準算定法v2.0以降という条件つき。
建築物通算炭素排出量評価と、LCCO2の計算のしかた。
LCCO2算定の義務化と省エネ性能基準の強化。日本国内でいちばん早く動く制度。
EPBDの期限、欧州9か国のエンボディドカーボン規制、認証制度の対応。
改正建築物省エネ法で最初に動く政令。ライフサイクルカーボンとの切り分け。
SAP 10.3とHEMの24か月併走。制度の移行期をどう決めるか。
東京都の環境計画書制度の届出と根拠資料の作成。
BEI・熱貫流率・一次エネルギー消費量など。
Sources — 出典・参考資料
EU官報 L series「Commission Delegated Regulation (EU) 2026/52 of 16 December 2025 amending Annex III to Directive (EU) 2024/1275 ... as regards the Union framework for the national calculation of life-cycle global warming potential」(2026年5月4日公示。本記事の表1〜表4および第02〜07節はこの条文の附属書IIIによります)
欧州委員会 エネルギー総局「Energy Performance of Buildings Directive」
同「Global warming potential of buildings」(義務化の時期と加盟国のロードマップ)
国土交通省住宅局「建築物省エネ法の改正について」(令和8年5月・法案の概要。2026年10月28日時点で、このページは国土交通省のサイトから削除されています)/同「「建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定」(令和8年3月27日 報道発表)
一般財団法人住宅・建築SDGs推進センター(IBECs)「建築物WLC算定ツール(J-CAT)J-CATの特徴」
同「J-CAT FAQ」(評価期間・表示単位・解体段階の扱い・EPDの組み込み)
※本記事の訳語はすべて当社によるもので、公式な日本語訳ではありません。数値・定義・日付を実務で用いる際は、上記の原文をご確認ください。
※日本の「建築物ライフサイクルカーボン評価の指針(統一の算定ルール)」は、当社が確認した範囲では公表されていません。本記事の表5は、EUの法令と、日本で現在使われているツール(J-CAT)の公表仕様を並べたものであり、日本の制度がこのとおりになることを示すものではありません。
※日本の届出義務の対象範囲(5,000㎡以上の事務所)は政令で定めるものとされており、その政令は本記事の時点で公布されていません。
※ライフサイクルカーボン評価制度の施行時期について、報道では2028年度中とする見方が伝えられていますが、施行日は公表されていません。本記事では年度を断定していません。
※「必須16・任意3」は、B1.1・B1.2 のような細分を数えず A1〜D2 の区分で数えた場合の当社の集計です。
※EUの委任規則の発効日は、条文に「公示の20日後」と書かれているもので、日付そのものは条文に明示されていません。