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共同住宅の外皮 — 仕様基準と性能基準の比較。性能基準は住戸ごとに断熱厚さを配分し、仕様基準は全住戸が同じ仕様になることを示す模式図
解説 共同住宅 外皮

共同住宅の外皮
仕様基準と性能基準のメリット・デメリット

共同住宅の外皮性能を、仕様基準で確かめるか、性能基準(標準計算)で確かめるか。どちらでも基準は満たせますが、断熱材の総量も、工事が始まってからの自由度も、まったく違うものになります。2022年11月に住棟単位の外皮基準が廃止され、住戸ごとの評価に一本化されたことで、妻側住戸と中住戸の有利不利がはっきり分かれました。本記事では住戸分類の整理から、実際の検討例での断熱厚さの差、そして仕様基準では避けられない納まりの制約までを扱います。

この記事で扱う範囲

外皮(断熱・開口部)に絞って整理しています。一次エネルギー消費量の側の比較は含みません。数値は6地域・鉄筋コンクリート造の共同住宅を前提としています。

01前提:共同住宅の外皮は住戸ごとに評価する

この判断を考えるうえで、まず押さえておく必要があるのが2022年11月7日に施行された共同住宅の外皮評価の見直しです。ここで二つのことが同時に起きました。

一つは、隣接する空間が住戸である場合の温度差係数が0になったことです。従来は住戸間でやり取りされる熱が単に失われる評価になっており、実態より断熱性能が低く評価されていました。改正前は1〜3地域で0.05、4〜8地域で0.15とされていた係数が、一定の要件を満たせば0として扱えるようになっています。

もう一つは、住棟単位(全住戸平均)の外皮基準が廃止されたことです。住戸間の熱損失の評価が適正化されることに伴い、住戸単位で一定の外皮性能を確保する観点から、単位住戸の外皮基準のみに統一されました。フロア入力法による場合も、改正後は単位住戸の外皮基準への適合を求める扱いになっています。

実務にとっての意味は明快です。条件のよい中住戸で平均を引き上げて、条件の悪い妻側住戸を救う、という組み立てができなくなりました。いちばん厳しい住戸が単独で基準を満たせるかどうかが、計画全体の断熱仕様を決めます。

表1|単位住戸の外皮基準(2022年11月7日改正後)

地域の区分12345678
UA(省エネ基準)0.460.460.560.750.870.870.87
ηAC(省エネ基準)3.02.82.76.7
UA(ZEH水準)6地域の場合 0.60(誘導基準)

出典:国土交通省「共同住宅等の外皮性能の評価単位の見直し及び住宅の誘導基準の水準の仕様基準(誘導仕様基準)の新設について」(令和4年11月7日公布・施行)。住棟単位(全住戸平均)の外皮基準(UA 0.41/0.41/0.44/0.69/0.75…)は廃止されました。

そしてもう一点、評価方法の選択肢にも制約があります。共同住宅で使える簡素な評価方法はフロア入力法ですが、これはZEH水準(誘導基準)には対応していません。

表2|住宅の評価方法と、選べる水準

評価方法対象省エネ基準
UA≦0.87(6地域)
ZEH水準(誘導基準)
UA≦0.60(6地域)
標準計算戸建住宅・共同住宅
モデル住宅法戸建住宅×
フロア入力法共同住宅×
仕様ルート(仕様基準)戸建住宅・共同住宅○(誘導仕様基準)

出典:同上。共同住宅でZEH水準を狙う場合、フロア入力法は使えません。実質的に、標準計算(性能基準)か誘導仕様基準の二択になります。誘導仕様基準は令和4年国土交通省告示第1106号に定められています。

02住戸分類表 — どの住戸が厳しくなるのか

外皮平均熱貫流率UAは、部位の面積に熱貫流率と温度差係数を掛けて合計し、外皮面積の合計で割って求めます。ここで効いてくるのが、隣接住戸に接する部位は分母(外皮面積の合計)には算入されるのに、温度差係数が0なら分子(熱損失)にはほとんど寄与しないという構造です。

両側を住戸に挟まれた中住戸は、界壁と上下の界床が大きな面積を占めるため、この効果を最大限に受けます。外気に接するのは前後の外壁と開口部だけです。対して妻側住戸は、妻壁が外気に接するうえに、隣接住戸に接する面が片側しかありません。同じ断熱仕様なら、妻側住戸のUAは中住戸より大きく出ます。

ここに最上階(屋根)と最下階(外気に接する床)の条件が重なり、住戸は6つに分かれます。標準計算では、この位置の違いごとに計算住戸を立てて評価します。

住戸の位置による6区分(表3の①〜⑥に対応)最上階妻側住戸中住戸中住戸中住戸妻側住戸中間階妻側住戸中住戸中住戸中住戸妻側住戸最下階妻側住戸中住戸中住戸中住戸妻側住戸屋根1階共用部・店舗・ピロティ等妻壁(外気に接する)濃い色ほど外皮の負担が大きく、性能基準では断熱が厚くなります。仕様基準では、①〜⑥のすべてが同じ仕様になります。
図1|住戸の位置による区分。妻側住戸は妻壁が外気に接し、隣接住戸に接する面が片側しかありません。

表3|住戸分類表 — 位置によって外皮の負担がどう変わるか

区分住戸の位置外気等に接する主な部位隣接住戸に接する部位
(温度差係数0にできる)
外皮の負担性能基準での傾向
妻側・最上階妻壁/前後の外壁・開口部/屋根片側の界壁/下階の界床最大最も厚くなる。屋根と妻壁の両方が効く
妻側・中間階妻壁/前後の外壁・開口部片側の界壁/上下の界床外壁を厚くして対応
妻側・最下階妻壁/前後の外壁・開口部/外気に接する床片側の界壁/上階の界床床の断熱厚さが支配的になりやすい
中住戸・最上階前後の外壁・開口部/屋根両側の界壁/下階の界床屋根で決まる。壁は薄くできる
中住戸・中間階前後の外壁・開口部のみ両側の界壁/上下の界床最小最も薄くできる
中住戸・最下階前後の外壁・開口部/外気に接する床両側の界壁/上階の界床床が効く。壁は薄くできる

最下階の住戸は、その下が1階共用部・別用途(店舗等)・ピロティのいずれかによって、外気に接する床かその他の床かが変わります。このほか、屋上の機械基礎の下、エレベーターシャフトやパイプスペースに接する住戸、階段室に面する住戸なども、個別に区分が必要になります。標準計算では、こうした位置の違いごとに計算住戸を立てて評価します。

温度差係数0は「住棟の全住戸」が要件を満たして初めて使える

隣接住戸との温度差係数を0として扱うには、住棟を構成するすべての住戸について、熱的境界を構成する各部位で、施工上やむを得ない部分を除き、外気に接する壁および開口部の熱貫流率が仕様基準等で定める部位ごとの基準以下であり、その他の外気等に接する部位を無断熱としないことが求められます(8地域については問いません)。1住戸でも無断熱の部位があると、住棟全体でこの扱いが使えなくなります。性能基準を選んだ場合でも、梁底や梁側面といった断熱の回りにくい箇所を放置できないのはこのためです。

表4|温度差係数を0として扱うための要件(開口部の熱貫流率の上限)

地域の区分1〜3地域4地域5〜7地域8地域
熱貫流率の最大値の上限
[W/(m²・K)]
2.33.54.7問わない

出典:国土交通省「住宅の省エネルギー基準と外皮性能の評価方法 2026 鉄筋コンクリート造 共同住宅版」(令和8年3月版)ほか。改正前の温度差係数は、隣接住戸が1〜3地域で0.05、4〜8地域で0.15とされていました。

03仕様基準のメリット・デメリット

仕様基準は、部位ごとの仕様が基準表を満たしているかを照合する方法です。外皮計算書を作らずに適合を示せますので、計算と図書の手間は明らかに軽くなります。住戸数が多いほど、この差は効きます。ZEH水準についても、2022年11月に誘導仕様基準が新設され、計算によらずに確認できるようになりました。

一方で、仕様基準には住戸位置という概念がありません。全住戸が同じ仕様になります。これが利点にも欠点にもなります。妻側住戸から見れば、性能計算なら厚くしなければならないところを一律の仕様で済ませられます。逆に中住戸から見れば、性能計算なら薄くできたはずのところを一律の仕様まで引き上げることになります。

そして実務上いちばん重いのが、決めた仕様を下回れないことです。各部位の断熱材の厚さそのものが要件ですから、原則としてそれを薄くする変更はできません。一部でも断熱を欠損させることもできません。納まりの都合で数ミリ調整したい、という現場でよく起きる場面で、その一手が使えないということです。

基準に合わない変更が生じた場合は、性能基準で改めて適合を確認し直すことになります。ただしその時点では他の部位の仕様がすでに動かせない状態になっていることが多く、結果として断熱を厚くする方向での調整になり、コストが上がることがあります。

04性能基準のメリット・デメリット

性能基準(標準計算)は、住戸ごとにUAとηACを計算して基準値と比べる方法です。計算住戸ごとの計算書と根拠図が必要になりますので、図書の手間は仕様基準より確実に重くなります

その代わりに得られるのが、配分の自由です。妻側住戸は厚く、中住戸は薄く。最上階は屋根で、最下階は床で。必要なところに必要なだけ入れる、という設計ができます。開口部も同様で、住戸位置に応じてガラス仕様を変えて最適化できます。後述の検討例では、同じ計画で外壁がt40〜50、床がt45〜90と、住戸によって幅を持たせています。

そして工事が始まってからの強さがあります。計算に余裕がある部位であれば、変更を吸収できます。吸収できない場合でも、どの部位をどれだけ変えれば成立するのかを数値で示せますので、代替案を出しながら現場と話ができます。仕様基準では、この会話そのものが成立しません。

注意点は、自由に見えて縛りが残ることです。前述のとおり、隣接住戸との温度差係数を0として扱うには、住棟の全住戸で外気に接する壁・開口部が基準以下であり、その他の外気等に接する部位が無断熱でないことが求められます。性能基準を選んでも、無断熱の部位はつくれません。屋根、外壁(外壁に付く梁を含む)、床(床を支える梁を含む)は、最低限の断熱を回しておく必要があります。特に梁の底と側面が抜けやすい箇所です。

表7|仕様基準と性能基準の比較(外皮)

観点仕様基準(仕様ルート)性能基準(標準計算)
適合の確かめ方部位ごとの仕様が基準表を満たすかを照合する住戸ごとにUA・ηACを計算して基準値と比べる
計算・図書の手間軽い。外皮計算書が不要重い。計算住戸ごとの計算書と根拠図が要る
住戸位置ごとの作り分けできない。全住戸が同じ仕様できる。妻側は厚く、中住戸は薄く配分できる
妻側住戸一律の仕様で済む(性能計算より薄いことがある)外気に接する面が多く、厚くなりやすい
中住戸性能計算なら薄くできる住戸も一律の仕様に引き上げられる最も薄くできる
断熱の欠損認められない。一部でも欠損させられない無断熱部をつくると住棟全体で温度差係数0が使えなくなる
熱橋補強必要必要
工事中の変更薄くする変更は原則できない。外れた時点で計算し直し余裕があれば吸収できる。影響範囲を計算で示せる
開口部基準値以下の製品を選ぶだけ住戸位置ごとにガラス仕様を変えて最適化できる
現場での管理全住戸が同じ仕様なので分かりやすい住戸ごとに厚さが変わるため、切り替え位置の周知が要る
ZEH水準誘導仕様基準で対応可能対応可能
向いている計画整形で中住戸が大半、変更が少ない見込みの計画住戸位置のばらつきが大きい計画、開口部が大きい計画、変更が見込まれる計画

05検討例:断熱厚さはどれだけ変わるか

6地域・鉄筋コンクリート造・地上14階・46戸・二重床の共同住宅を想定し、性能基準と仕様基準の両方で外皮の仕様を組んだ検討例です。同じ建物、同じ水準でも、部位ごとの厚さはこれだけ動きます。

表5|検討例A:省エネ基準(断熱等性能等級4相当)レベルでの断熱厚さ

部位性能基準(標準計算)仕様基準備考
屋根t30〜35t25硬質ウレタンフォーム保温板2種1号
天井(屋上機械基礎下 t20)(屋上機械基礎下 t25)基礎下の有効寸法に注意
外壁t25〜35t25吹付硬質ウレタンフォームA種1H。性能基準は住戸位置で変わるため幅がある
窓(サッシ+ガラス)U=4.18U=4.181重アルミサッシ+普通複層ガラスA6
外気に接する床t45t30押出法ポリスチレンフォーム3種。下階梁下の有効寸法に注意
その他の床t25t15同上
熱橋補強t20(L=450)t20(L=450)どちらも必要

6地域・RC造・地上14階・46戸・二重床の共同住宅を想定した検討例です。単位はmm。数値は当該計画の条件によるもので、他の計画にそのまま当てはまるものではありません。

表6|検討例B:ZEH-Oriented(UA≦0.60)レベルでの断熱厚さ

部位性能基準(標準計算)誘導仕様基準備考
屋根t50t40硬質ウレタンフォーム保温板2種1号
天井全面 t20〜35全面なし
(屋上機械基礎下 t45)
性能基準では天井の全面断熱が必要になった
外壁t40〜50t35吹付硬質ウレタンフォームA種1H
窓(サッシ+ガラス)U=2.97〜2.65U=2.89性能基準は住戸位置でガラス仕様を変えている
外気に接する床t90t60押出法ポリスチレンフォーム3種
その他の床t75t35差が最も大きく出た部位
熱橋補強t20(L=450)t20(L=450)どちらも必要

検討例Aと同じ計画で、水準だけZEH-Orientedに上げた場合です。単位はmm。水準が上がるほど、性能基準側で住戸位置による作り分けの幅(t40〜50など)が広がります。

この検討例から読み取れること

06仕様基準では薄くできない納まり

仕様基準を選んだ計画で実際に問題になるのは、基準値そのものではなく納まりです。断熱材の厚さが要件になっている以上、納まらないから薄くする、という逃げ道がありません。下の箇所は、設計段階で断熱厚さを織り込んでおかないと、現場で必ず衝突します。

表8|仕様基準で断熱材を薄くできず、納まりでつまずく箇所

No.箇所何が起きるか
最下階住戸の床を支える梁の側面・底面梁底と梁側面まで断熱を回す必要があります。スラブ上での断熱に切り替える方法もありますが、上階が玄関たたきの場合はスラブ上に断熱を置けません。梁底・側面に断熱できない場合は、スラブ上で欠損処理をする必要があります。
設備配管用の段スラブ(−150など)の梁の頭段差の生じる部分でも断熱材を薄くできません。ユニットバスの設置時に、断熱材の厚さが納まりの支障になることが多い箇所です。
③-1レンジフードまわりダクトを通すために断熱材が薄くなる納まりは認められません。
③-2ユニットバスの梁欠き部梁を欠き込む部分で断熱材が薄くなる納まりは認められません。
③-3カーテンボックスまわりカーテンボックスを納めるために断熱材が薄くなる納まりは認められません。

いずれも、意匠・設備の納まりを決める段階で断熱厚さを織り込んでおけば避けられるものです。逆に、断熱厚さを後から決めると、これらの箇所で必ず衝突します。

梁底・梁側面に断熱を回せないとき

最下階住戸の床を支える梁は、側面と底面に断熱を回すのが原則です。スラブ上での断熱に切り替える方法もありますが、上階が玄関たたきの場合はスラブ上に断熱を置けません。梁底・側面に断熱できない場合は、スラブ上で欠損処理をする必要があります。この判断は構造・意匠・設備の三者に関わりますので、断熱厚さが決まった段階で早めに詰めておくことをお勧めします。

07性能基準と仕様基準を混在させるとき

住棟のなかで、住戸によって使い分けるという考え方もあります。外気に接する面が多い妻側住戸や最上階・最下階の住戸は性能基準で必要量を計算して配分し、条件のそろった中間階の中住戸は仕様基準で一律に決める、という組み方です。図書の量を抑えながら、厳しい住戸だけ計算で最適化できる、という発想としては合理的に見えます。

ただし、現場での管理は確実に重くなります。設計上のきれいさと、現場での運用しやすさは別物です。混在させる場合、少なくとも次の負担が生じます。

混在させたときに現場で起きること

混在させるのであれば、住戸分類表にどちらの基準で確認した住戸かを明記し、平面図に色分けで落として現場に配るところまでを設計側の仕事と考えたほうが安全です。手間の総量で見ると、全住戸を性能基準で通したほうが結局は楽だった、という結論になることも少なくありません。

なお、隣接住戸との温度差係数を0として扱う要件は住棟のすべての住戸に及びますので、混在させてもこの縛りは外れません。また、混在させた場合の図書の整え方は審査機関によって求められ方が変わることがありますので、事前に相談しておくことをお勧めします。

08どちらを選ぶかの判断

結論から言えば、住戸構成と、設計がどこまで固まっているかで決まります

妻側住戸や最上階・最下階の割合が小さく、中住戸が大半を占める整形な計画であれば、仕様基準の一律仕様による無駄は小さく済みます。竣工までの変更が少ない見込みであれば、計算と図書が軽くなる利点がそのまま残ります。板状で住戸数が多く、プランの繰り返しが効く計画は、仕様基準が向いています。

逆に、妻側住戸や角住戸の比率が高い計画、階数が少なくて最上階・最下階の割合が大きい計画、開口部が大きい計画では、住戸ごとに配分できる性能基準のほうが総量を抑えられる可能性が高くなります。テナントや設備の仕様が後から動く計画、工期が長く変更が見込まれる計画も同様です。

そして最後に、迷ったら両方組んで断熱物量で比べるのが確実です。検討例で見たとおり、どちらが得かは建物の形状と開口部の条件で逆転します。当社では、この比較検討からお引き受けしています。設計の早い段階であれば、断熱厚さを前提にした納まりの検討まで含めてご提案できます。

09よくあるご質問(FAQ)

共同住宅でも仕様基準は使えますか。

使えます。公表資料では、住宅の評価方法として標準計算、モデル住宅法(戸建住宅)、フロア入力法(共同住宅)、仕様ルート(戸建住宅・共同住宅)が整理されており、仕様ルートは共同住宅でも選べる位置づけです。また2022年11月7日の改正で、外皮の仕様基準は建て方別に設定されました。それまでは鉄筋コンクリート造等の基準が共同住宅等を想定して定められ、木造・鉄骨造の基準が戸建住宅を想定して定められていましたが、改正後は木造・鉄骨造の共同住宅等、鉄筋コンクリート造等の戸建住宅にも、それぞれの基準が用意されています。ZEH水準についても誘導仕様基準が新設され、計算によらずに適合を確認できるようになりました。

なぜ妻側住戸だけ断熱材が厚くなるのですか。

外皮平均熱貫流率UAが住戸ごとに評価されるためです。UAは、部位の面積に熱貫流率と温度差係数を掛けて合計し、外皮面積の合計で割って求めます。隣接する住戸に接する部位は、要件を満たせば温度差係数を0として扱えますので、分母である外皮面積には算入されるのに、分子である熱損失にはほとんど寄与しません。両側を住戸に挟まれた中住戸はこの効果が大きく、外気に接する面が前後だけになるため、UAが小さく出ます。一方、妻側住戸は妻壁が外気に接するうえ、隣接住戸に接する面が片側しかありません。同じ断熱仕様なら妻側住戸のほうがUAは大きくなりますので、住戸単独で基準を満たすには断熱を厚くすることになります。

住棟の平均で外皮性能を満たすことはできませんか。

できません。2022年11月7日施行の改正で、住棟単位(全住戸平均)で外皮性能を評価する基準は廃止され、単位住戸の外皮基準のみに統一されました。フロア入力法による場合も、改正前は住棟単位への適合を求めていましたが、改正後は単位住戸の外皮基準への適合を求める扱いに変わっています。つまり、条件のよい中住戸で平均を引き上げて妻側住戸を救う、という組み立てはできません。妻側住戸や最上階・最下階の住戸が単独で基準を満たせるかどうかが、計画全体の断熱仕様を決めることになります。

仕様基準を選ぶと、工事中の変更はどこまでできなくなりますか。

仕様基準は各部位の断熱材の厚さや開口部の性能そのものが要件ですので、原則としてそれを下回る変更はできません。一部でも断熱を欠損させることもできません。納まりの都合で数ミリ薄くしたい、という現場でよくある調整が効かない、という意味です。基準に合わない変更が生じた場合は、性能基準(標準計算)で改めて適合を確認し直すことになりますが、その時点では他の部位の仕様がすでに決まっているため、断熱を厚くする方向での調整になり、コストが上がることがあります。変更の手続き上の区分については、軽微な変更のページもあわせてご覧ください。

性能基準(標準計算)なら断熱の欠損があってもよいのですか。

いいえ。隣接する住戸との間の温度差係数を0として扱うためには、住棟を構成するすべての住戸について、熱的境界を構成する各部位で、施工上やむを得ない部分を除き、外気に接する壁および開口部の熱貫流率が仕様基準等で定める部位ごとの基準以下であり、その他の外気等に接する部位を無断熱としないことが求められます(8地域については問いません)。つまり性能基準を選んだ場合でも、無断熱の部位をつくると住棟全体でこの扱いが使えなくなります。梁の底や側面、段差スラブの梁の頭など、断熱が回りにくい箇所は特に注意が必要です。

住戸によって仕様基準と性能基準を使い分けることはできますか。

考え方としては成り立ちます。妻側住戸や最上階・最下階の住戸だけ性能基準で計算して配分し、条件のそろった中間階の中住戸は仕様基準で一律に決める、という組み方です。ただし現場での管理の負担が大きく増えます。同じ階で隣り合う住戸の断熱厚さが違う状態になり、吹付の切り替え位置を施工計画の段階で決めて現場に伝える必要があります。さらに、納まりの都合でも薄くできない住戸と、余裕の範囲で調整できる住戸が混在しますので、この二重のルールを現場が正確に把握していないと判断を誤ります。検査も是正も住戸単位で根拠を追うことになり、変更が生じたときの判断も住戸ごとに変わります。混在させる場合は、どちらの基準で確認した住戸かを住戸分類表に明記し、平面図に色分けで落として現場に配るところまで用意しておくのが安全です。なお、隣接住戸との温度差係数を0として扱う要件は住棟のすべての住戸に及びますので、混在させてもこの縛りは外れません。図書の整え方は審査機関によって求められ方が変わることがありますので、事前にご相談ください。

結局、どちらを選べばよいのでしょうか。

住戸の構成と、設計がどこまで固まっているかで決まります。妻側住戸や最上階・最下階の割合が小さく、中住戸が大半を占める整形な計画で、竣工までの変更が少ない見込みであれば、計算も図書も軽くなる仕様基準の利点が大きくなります。逆に、住戸位置のばらつきが大きい計画や、開口部が大きい計画、テナントや設備の仕様が後から動く計画では、住戸ごとに断熱を配分できる性能基準のほうが総量を抑えられ、変更にも耐えます。判断が難しい場合は、両方の仕様を並べて断熱物量を比較してからお決めいただくのが確実です。その比較検討からお手伝いできますので、お気軽にご相談ください。

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