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米連邦庁舎の脱化石燃料基準の3度の停止と、日本の官庁施設の環境保全性基準の対照
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米国は連邦庁舎の省エネ基準を3度止めました|
停止は2027年3月まで、日本の官庁施設はBEI0.6

2026年9月2日、米国の官報にあたる連邦官報に、エネルギー省(DOE)の1本の告示が載りました。 表題は「Repeal of Fossil Fuel Restrictions for New Federal Buildings and Major Renovations of Federal Buildings」 ——連邦政府の新築庁舎と大規模改修に課していた化石燃料の規制を「廃止」する、という題です。 ただし中身を読むと、行われているのは廃止ではなく適用開始日を2027年3月1日まで先延ばしすることで、しかもこれが3度目でした。 同じ時期に日本は、改正建築物省エネ法でライフサイクルカーボンの届出を義務化し、2026年4月には非住宅の省エネ基準を引き上げています。 制度は必ずしも一方向に進むわけではない——その実例として、連邦官報の原文と、日本の「官庁施設の環境保全性基準」の条文を突き合わせて整理しました。

この記事の要点

① 2026年9月2日、米DOEが連邦庁舎の脱化石燃料基準(10 CFR 433 subpart B・435 subpart B)の適用開始を2027年3月1日まで停止しました(91 FR 56371)。 ② 表題は「Repeal(廃止)」ですが、処分の種類は「Notification of stay(停止の告知)」です。この告示は廃止を行うものではなく、規則本体は連邦規則集に残っています。ここを混同すると誤読になります。 ③ 停止は3度目です。2025年5月5日(1年)→2026年4月20日(2026年9月1日まで)→今回(2027年3月1日まで)。1回目は適用の起点だった2025年5月1日の4日後、3回目は前回の期限だった2026年9月1日の翌日の公示です。 ④ 止められた規則は、2007年エネルギー自立・安全保障法(EISA)が定めた削減率を連邦庁舎に課すものでした。FY2003の同種建物と比べてFY2025で90%、FY2030で100%の化石燃料由来エネルギー消費量の削減です。 ⑤ 対象はGSAの議会提出(プロスペクタス)を要する公共建築物と、それ以外で一定の工事費に達する連邦建築物です。後者の閾値は1本ではなく、所有・賃借や公共建築物かどうかで使い分けられます(本文の表3)。 ⑥ 根拠として4本の大統領令(EO 14154・14156・14262・14219)が挙げられています。 ⑦ 同じ時期に、HUD・USDA融資住宅の省エネ基準(2021年版IECC/ASHRAE 90.1-2019)の採用決定も2026年5月1日付で撤回されています。 ⑧ 日本の対応物は「官庁施設の環境保全性基準」。新築は原則BEI0.6(事務所等・学校等・工場等。それ以外の用途は0.7)、特定事務庁舎の新築はCASBEEのBEE値1.5以上。このうち一次エネルギー消費性能については、令和4年3月の改定(適用は同年4月1日から)で、それまでの事務庁舎の新築=300㎡以上でBEI0.9以下/300㎡未満でBEI1.0以下から引き上げられたものです。 ⑨ 日本の設計・申請の実務は、この件で何も変わりません。変わるのは「世界の潮流だから」という説明のしかたのほうです。

012026年9月2日に何が公示されたか

米国の官報にあたる連邦官報(Federal Register)の2026年9月2日号に、エネルギー省(DOE)の告示が1本載りました。発出部局は連邦エネルギー管理プログラム(Federal Energy Management Program=FEMP)です。

表1|2026年9月2日の官報告示の基本情報

表題Repeal of Fossil Fuel Restrictions for New Federal Buildings and Major Renovations of Federal Buildings
発出米エネルギー省(DOE)連邦エネルギー管理プログラム(FEMP)
掲載連邦官報 Vol.91, No.169(2026年9月2日水曜)pp.56371-56372(=91 FR 56371)
処分の種類Notification of stay(停止の告知) ※「廃止」ではありません
対象の規則10 CFR part 433 subpart B(連邦の業務用建築物・中高層共同住宅)および 10 CFR part 435 subpart B(連邦の低層住宅)。いずれも新築と大規模改修の両方を扱います
内容適用開始日(compliance date)を2027年3月1日までfurther stay(さらに停止)
整理番号FR Doc. 2026-17979/RIN 1904-AG17/ドケット EERE-2026-FEMP-0067
署名2026年8月31日 FEMP局長 Mary Sotos(官報受理 9月1日、公示 9月2日)

出典:連邦官報 91 FR 56371(2026年9月2日)の本文より当社作成。

一次資料の書きぶり(試訳)

「2026年9月2日をもって、89 FR 35384(2024年5月1日)で公示され、90 FR 18911(2025年5月5日)で停止され、さらに91 FR 20868(2026年4月20日)で2026年9月1日まで停止されていた 10 CFR part 433 subpart B および 10 CFR part 435 subpart B の適用開始日を、2027年3月1日までさらに停止する。」(DATES欄)

「DOEは、新築の連邦建築物および連邦建築物の大規模改修におけるクリーンエネルギー(CER)に関する新たに採択された規定の実施に係る最近のガイダンスを見直している。DOEがCERの実施ガイダンスを見直している間、DOEは連邦規則集における当該新規定の適用開始日を停止する。」(SUMMARY欄)

つまり、この告示が行っているのは「適用開始日をもう一度先に延ばす」という一点です。規則の条文そのものは連邦規則集(CFR)に残ったままで、削除も改正もされていません。

02表題は「廃止」、処分は「停止」|ここを混同しない

この告示のいちばん読み違えやすいところが、表題と処分の内容が一致していない点です。

「廃止された」と書くと事実と異なります

この規則制定手続に「廃止(Repeal)」という表題が付いていることからは、DOEが廃止へ向かう意思を持っていることが読み取れます(これは当社の解釈で、官報の本文に書かれているのは「見直しは現在も継続中」までです)。 しかし、この告示のACTION欄は「Notification of stay」=停止の告知であり、本文が行っているのは適用開始日の延期だけです。 この告示は廃止を行うものではなく、10 CFR 433 subpart B と 435 subpart B は連邦規則集に残っています(2026年9月14日時点で、当社が連邦官報を検索した範囲では、その後の廃止の告示は確認できていません)。

なぜこの違いが実務上も意味を持つかというと、停止と廃止では「元に戻る可能性」が違うからです。停止は期限が来れば原則として適用が始まります(実際にはさらに延ばされてきましたが、制度上はそうです)。一方、廃止は条文そのものを消す行為です。この一般論は当社の説明であり、今回の官報の本文に書かれているものではありません。

本告示の本文にも「この見直しは現在も継続中である(This review is still ongoing)」とあるだけで、廃止の規則案がいつ出るのか、あるいは出ないのかは書かれていません。当社はここについて予測を書きません。

03止められた規則の中身|FY2030に100%削減

では、何が止められているのか。元の規則は2024年5月1日の最終規則(89 FR 35384)です。「Clean Energy for New Federal Buildings and Major Renovations of Federal Buildings(CER)」=「新築の連邦建築物および連邦建築物の大規模改修におけるクリーンエネルギー」という名前で、2024年7月15日に発効し、2025年5月1日以降に設計を開始する一定の連邦建築物に適用されることになっていました。

この規則の根拠は、エネルギー保全・生産法(ECPA)第305条を、2007年エネルギー自立・安全保障法(EISA)第433条(a)が改正したものです(42 U.S.C. 6834(a)(3)(D)(i))。法律そのものが、次の削減率を定めています。

表2|EISAが定める化石燃料由来エネルギー消費量の削減率

会計年度(FY)削減率
2010年〜55%
2015年〜65%
2020年〜80%
2025年〜90%
2030年〜100%(=本規則の対象となる化石燃料由来エネルギー消費量を全量削減)

出典:連邦官報 89 FR 35384(2024年5月1日)Table I-1 および本文(42 U.S.C. 6834(a)(3)(D)(i)(I))より当社作成。比較の基準は「FY2003の同種建物」で、米エネルギー情報局(EIA)の商業建築物エネルギー消費調査(CBECS)または住宅エネルギー消費調査(RECS)のデータで測るとされています。削減の対象は敷地内(on-site)で使用する化石燃料に限られます。さらに、製造・産業プロセス負荷、非常用バックアップ電源のための発電、代替燃料車用の天然ガスは、いずれもこの削減率の対象から外されています(同規則 第III章A節3b)。したがって「2030年に敷地内の化石燃料がゼロになる」という意味ではありません。

止められた2024年の最終規則は、この法律上の削減率を実施するために、①化石燃料由来エネルギー消費量の削減義務 ②その算定方法 ③各省庁が下方調整を申請するための手続を新設し、さらに附属書A(Appendix A)で用途別・気候区分別の目標値を、FY2020-2024とFY2025-2029の2期に分けて定めていました。

表3|どの建物が対象だったか

対象①40 U.S.C. 3301にいう「公共建築物(public building)」のうち、GSA(一般調達庁)長官が40 U.S.C. 3307に基づき議会にプロスペクタス(事業計画書)を提出しなければならないもの
対象②プロスペクタスを要しない連邦建築物。解説部分では公共建築物でないもの=250万ドル以上(2007年ドル・物価調整後)、賃貸の公共建築物=GSAの改修閾値(FY2024で1,806,500ドル)の2本を使うとされています。ただし規則条文(§433.200・§435.200)では、所有か賃借か、新築か改修かでさらに細かく分かれますので、実際の判定は条文で確認が必要です
金額の実際250万ドル(2007年ドル)を物価調整すると、2023年10月時点で3,811,583ドル。物価調整は、設計を開始する会計年度の10月時点の値を用います。参考に、GSAのFY2024のプロスペクタス閾値は3,613,000ドル
建物の種類業務用建築物、中高層の共同住宅、低層の住宅を含む
適用の起点2025年5月1日以降に設計(design for construction)を開始するもの

出典:連邦官報 89 FR 35384(2024年5月1日)SUMMARY欄・DATES欄・第III章A節1より当社作成。第二カテゴリで2種類の閾値が使い分けられること(非公共建築物は2007年ドルの250万ドル、賃貸公共建築物はFY2024で1,806,500ドル)は、同節の明記によります。

日本との違いとして押さえておきたいのは、対象を工事費で線引きしている点です。日本の官庁施設の基準にも「延べ面積2,000㎡以上」という数字は出てきますが、それは用途条件と組み合わせた「特定事務庁舎」の定義(=新築時のCASBEEのBEE値1.5以上を求める区分)であって、BEI0.6・0.7の適用を分ける面積境界ではありません(本文の表7)。しかも閾値は1本ではなく、所有か賃借か、公共建築物かどうかで使い分けられます。円換算の目安は、為替と時点によって大きく動くため本記事では示しません。

043度の停止の時系列と、挙げられた根拠

今回が3度目です。経緯を一次資料の引用番号で並べます。

表4|規則の公示と3度の停止

日付官報内容
2024年5月1日89 FR 35384最終規則を公示。2024年7月15日発効、2025年5月1日以降に設計を開始する建物に適用
2025年1月17日—DOEが各省庁向けの実施ガイダンスを公表(下方調整の申請様式も公表されたが、その日付が同日かは官報本文からは確認できない)
2025年5月5日90 FR 189111回目の停止(1年間)。ガイダンスが現政権の方針と整合するか見直すため
2026年4月20日91 FR 208682回目の停止(2026年9月1日まで)。ガイダンスに加え最終規則そのものの見直しにも言及
2026年9月2日91 FR 563713回目の停止(今回)。2027年3月1日まで。「見直しは現在も継続中」

出典:連邦官報 91 FR 56371(2026年9月2日)本文に記載された引用による。停止中は、連邦の各省庁にこの性能基準への適合義務が生じないことが本文に明記されています。

見直しの根拠として、本文は次の4本の大統領令を挙げています。

表5|根拠として挙げられた大統領令

EO 14154Unleashing American Energy(2025年1月20日・90 FR 8353)
EO 14156Declaring a National Energy Emergency(2025年1月20日・90 FR 8433)
EO 14262米国の電力網の信頼性と安全性の強化(2025年4月8日・90 FR 15521)
EO 14219適法な統治の確保と、大統領の「政府効率化省」規制緩和イニシアチブの実施(2025年2月19日・90 FR 10583)

出典:連邦官報 91 FR 56371(2026年9月2日)脚注2・脚注3より当社作成。表題の日本語は当社の試訳です。

05同じ時期のもう1つの動き|HUD・USDA融資住宅

連邦庁舎の話と混ざりやすいので分けて書きますが、民間住宅に近いところでも、同じ方向の動きが1件あります。

米国には、HUD(住宅都市開発省)とUSDA(農務省)が融資・保証する新築住宅について、最低限の省エネ基準を定める仕組みがあります(2007年EISA第481条が1990年クランストン・ゴンザレス全国手頃住宅法第109条を改正したもの・42 U.S.C. 12709)。対象は公営住宅資本基金、HOPE VI、第202条高齢者支援住宅、第811条障害者支援住宅、FHAの戸建・共同住宅ローン保険、USDA第502条保証住宅ローンなど、多数のプログラムに及びます。

この仕組みでは、戸建と3階建てまでの低層共同住宅にはIECC、4階建て以上の共同住宅にはASHRAE 90.1が適用されます。2省は、新版が出るたびに1年以内に採用することが求められています。

表6|HUD・USDA融資住宅の省エネ基準をめぐる経緯

日付官報内容
2023年5月18日88 FR 31773予備的決定(Preliminary Determination)。2021年版IECCとASHRAE 90.1-2019は、対象住宅の入手可能性(availability)と費用負担のしやすさ(affordability)に悪影響を与えないとした
2024年4月26日89 FR 33112最終決定。経済分析を更新したうえで、同じ結論を確定
2025年7月7日90 FR 298822省が新基準について追加の意見募集を実施
2026年3月5日—連邦地裁が2024年の最終決定を取り消した(原文は「setting aside and vacating the 2024 Final Determination」)。2025年1月2日に15州と全米住宅建設業者協会が行政手続法違反を理由に提起した訴訟(State of Utah, et al. v. Secretary, US Department of Housing and Urban Development, et al. (E.D. Texas))の判断
2026年5月1日91 FR 234502省が最終決定を全部撤回(即時発効)。撤回の告示自身が「最終決定は司法により取り消され、もはや効力を有しない」と述べている。あわせて適用日延期の3告示(2025年3月10日・4月4日・11月10日)も撤回し、各プログラムは最終決定の公示直前に効力を有していた省エネ基準に従うとした

出典:連邦官報 2026年5月1日「Rescission of Final Determination: Adoption of Energy Efficiency Standards for New Construction of HUD- and USDA-Financed Housing」(FR Doc. 2026-08531・91 FR 23450-23452)SUMMARY欄・第I章・第II章A・第II章B(Litigation)・Rescissionの節より当社作成。行政による撤回より前に、司法が最終決定を取り消していた点に注意してください。2026年5月1日に初めて効力が失われたわけではありません。

混同しないための整理

今回の連邦庁舎の件(10 CFR 433/435)と、このHUD・USDAの件は別の制度です。 前者は連邦政府が自分の庁舎に課す基準、後者は連邦が融資・保証する住宅に課す基準です。 どちらも州が民間建築物に適用するモデルコード(各州が採用するIECC・ASHRAE 90.1)そのものを変えるものではありません。 なお、ASHRAE 90.1-2025に対するDOEの判定(determination)については、当社は一次資料で確認できていません。

06日本の対応物|官庁施設の環境保全性基準はBEI0.6

では、日本で「政府が自分の建物に課している基準」は何か。「官庁施設の環境保全性基準」です。国土交通省大臣官房官庁営繕部が定め、各府省庁が共通して使う「統一基準」として位置づけられています。

現行版は令和7年(2025年)改定。制定は平成23年3月31日(国営環第5号)、最終改正が令和7年3月14日(国営環第1号)です。

表7|官庁施設の環境保全性基準が求める水準(2.3)

項目対象水準
建築環境総合性能特定事務庁舎の新築CASBEEによる建築物の環境効率(BEE値)が1.5以上
上記以外CASBEEによる建築物の環境効率(BEE値)が1.0以上
エネルギー消費性能
(新築する場合)
事務所等、学校等、工場等原則として、設計一次エネルギー消費量が、基準一次エネルギー消費量に0.6を乗じて得た値以下
上記以外原則として、同じく0.7を乗じて得た値以下
同(新築以外)—省エネ性能向上のための措置を講じること

出典:国土交通省大臣官房官庁営繕部「官庁施設の環境保全性基準(令和7年改定)」2.3より当社作成。エネルギー消費性能の判定では、いずれも「その他一次エネルギー消費量」を除き、かつ「再生可能エネルギーに伴う一次エネルギー消費量の削減分を含めない」とされています。「特定事務庁舎」とは、建築物省エネ法第11条第1項の用途区分が「事務所」または「税務署、警察署、保健所又は消防署その他これらに類するもの」のみに該当する延べ面積2,000㎡以上の官庁施設をいいます(同基準 1.2(3))。なお同基準2.3には「建築物省エネ法第20条各号のいずれかに該当する官庁施設については、この限りではない」というただし書きがあり、附則では「修繕又は模様替においては、2.3の規定は適用しない」とされています。表の「新築以外」の行は、既存施設の工事すべてに2.3が及ぶという意味ではありません。

このBEI0.6という水準は、2022年(令和4年)3月の改定で引き上げられたものです。国土交通省の当時の報道発表によれば、それ以前の基準は次のとおりでした。

表8|官庁施設の求める省エネ水準の変化

時期対象水準
令和4年3月改定前事務庁舎の新築・300㎡以上低炭素基準(BEI≦0.9)を満足
事務庁舎の新築・300㎡未満省エネ基準(BEI≦1.0)を満足
令和4年4月1日〜新築原則ZEB Oriented相当以上(事務所等・学校等・工場等はBEI≦0.6、それ以外はBEI≦0.7。いずれも再エネによる削減量を含めない)

出典:国土交通省「脱炭素社会の実現に向け、官庁施設整備においてZEB化を推進!~『官庁施設の環境保全性基準』を改定しました~」(令和4年3月28日・大臣官房官庁営繕部設備・環境課営繕環境対策室)より当社作成。改定の根拠は政府実行計画とされています(同省のZEB化推進ページは、現行の政府実行計画を令和7年2月閣議決定のものとしています)。

令和7年3月の改定は「水準の変更」ではありません

国土交通省の基準ページによれば、令和7年3月の改定は「建築物省エネ法の改正に伴い、法令名称の変更及び条ずれが生じるため、所要の改定を行いました」という内容です。 エネルギー消費性能の水準(BEI0.6・0.7)は、令和4年3月改定で入ったものが維持されています。なおCASBEEのBEE値1.5・1.0については、当社は現行版の条文で水準を確認しているだけで、いつ導入されたかまでは一次資料で確認していません。

あわせて押さえておきたいのが、この基準の2.3(3)です。運用エネルギー・運用CO2に加えて、ライフサイクル二酸化炭素排出量(LCCO2)、ライフサイクル廃棄物最終処分量(LCW)、ライフサイクル資源投入量(LCR)を算出する方法などで環境保全性を確認する場合の規定が、すでに条文に置かれています。

そして、当社が国のライフサイクルカーボンの届出義務の記事で扱ったロードマップには、第1ステップ(〜2027年)の措置として「官庁施設の環境保全性基準改定によるLCCO2算定(2027予定)」が挙げられています。これはロードマップ上の予定であって、改定の内容も時期も確定したものではありませんが、日本側は自分の庁舎の基準をさらに一段進める工程の途中にあるということです。

07では日本の実務は変わるのか

結論から書きます。変わりません。

今回止まったのは米国の連邦政府が自分の庁舎に課している基準です。日本の建築物省エネ法にも、省エネ適合性判定の手続にも、WEBプログラムの計算にも、BELSにも、CASBEEにも、東京都の建築物環境計画書制度にも、直接の影響はありません。設計・申請を進めている案件で、今日から変わることは何ひとつありません。

そのうえで、日本側で実際に動いていることを並べておきます。こちらが実務に効く話です。

表9|日本側で進行中の関連制度(いずれも当社の既存記事で詳述)

時期内容詳しくは
2026年4月非住宅の省エネ基準(BEI)の引き上げが施行済み非住宅の省エネ計算
2026年10月1日住宅の省エネ計算プログラムがVer.3.11.0へ。窓の付属部材の評価が冷房期・暖房期で分かれる等Ver.3.11.0の改定
2027年4月1日上位住宅トップランナー制度の施行上位トップランナー
2028年度めど改正建築物省エネ法による建築物通算炭素排出量評価(ライフサイクルカーボン)の届出義務LCCカーボンの届出
令和10年度東京都の建築物環境計画書制度の強化(LCCO2算定の義務化等・改正案の段階)東京都の制度改正

表中の各制度の詳細と一次資料は、リンク先の各記事に記載しています。2028年度・令和10年度という時期は、いずれも「目途」または改正案の段階の数字で、確定した施行日ではありません。

08この件の読み方|「世界の潮流」で制度を説明しない

それでもこの件を記事にしたのは、説明のしかたに関わるからです。

建築主に省エネ計算やライフサイクルカーボンの必要性を説明するとき、「世界的に脱炭素が進んでいるので、日本もこうなります」という言い方は便利です。実際、EUは2026年5月に建物のライフサイクルGWPの算定枠組みを法令で定め(委任規則2026/52)、英国は計算エンジンの切替を決め(SAPからHEMへ)、日本も改正建築物省エネ法でライフサイクルカーボンの届出を義務化しました。

しかし、同じ時期に、米国は自分の庁舎の脱炭素基準を3回止めています。「世界はひとつの方向に進んでいる」という前提は、事実として一枚岩ではありません。

当社が実務でおすすめしている説明のしかた

海外の動向を理由にするのではなく、日本の法令と告示に何がいつから書かれているかで説明することです。 2026年4月の非住宅BEIの引き上げも、2026年10月1日のVer.3.11.0も、2027年4月1日の上位住宅トップランナーも、 すべて日本の一次資料に日付入りで書かれています。そちらのほうが、建築主に説明するときの根拠として確かです。 海外動向は「参考」として添えるにとどめるほうが、説明として安全です。

もうひとつ、実務に近い教訓があります。見出しだけで判断しないことです。今回の告示は表題が「Repeal(廃止)」で、ACTION欄が「Notification of stay(停止)」でした。日本の資料でも、通知の標題と本文の表題が食い違っていた例を当社は何度か記事に書いています。一次資料は、見出しではなく本文まで読む。それだけで防げる誤解は少なくありません。

当社では、省エネ計算・BELS・CASBEE・建築物環境計画書の代行とあわせて、こうした制度の動きを継続して追っています。案件の前提が変わりそうかどうかも含めてご相談いただけますので、概算お見積りからお気軽にお知らせください。

09よくあるご質問(FAQ)

米国の連邦庁舎の話は、日本の省エネ適合性判定に影響しますか。

影響しません。今回止まったのは米国の連邦政府が自分の庁舎に課している基準(10 CFR 433・435)で、日本の建築物省エネ法にも、省エネ適判の手続にも、WEBプログラムの計算にも一切関係しません。日本で設計・申請を進めている案件は、今日から何も変わりません。この記事を書いたのは、実務が変わるからではなく、「世界が脱炭素に向かっているから日本も厳しくなる」という説明のしかたが、事実として正しくない場面があることを一次資料で示しておきたかったからです。

報道では「廃止」と書かれているものもあります。結局どちらですか。

官報の表題は確かに「Repeal of Fossil Fuel Restrictions for New Federal Buildings and Major Renovations of Federal Buildings」で、直訳すれば「廃止」です。ただし同じ文書のACTION欄は「Notification of stay」=停止の告知で、本文が行っているのは適用開始日(compliance date)を2027年3月1日まで先延ばしすることだけです。規則そのものは10 CFRに残っています。この規則制定手続に「廃止」という表題が付いていることから、DOEが廃止へ向かう意思を持っていると読むことはできます(これは当社の解釈です)が、官報の本文に書かれているのは「見直しは現在も継続中」までで、この告示は廃止を行うものではありません。「この告示で廃止された」と書くと事実と異なります(その後に別の処分が出ていないかどうかは、当社が確認した範囲=2026年9月14日時点の連邦官報の検索結果によります)。

2027年3月1日を過ぎたらどうなりますか。

分かりません。官報の本文には「見直しは現在も継続中(This review is still ongoing)」とあるだけで、その後どうするかは書かれていません。過去の経緯を見ると、2025年5月に1年、2026年4月に約4か月、今回さらに約6か月と3回にわたって延長されてきました(1回目は適用の起点だった2025年5月1日の4日後、3回目は前回の期限だった2026年9月1日の翌日の公示です)。4回目の延長があるのか、廃止の規則案が出るのか、あるいは適用が始まるのかは、現時点では予測にすぎません。本記事は予測を書いていません。

ASHRAE 90.1やIECCも止まったのですか。

別の話です。今回止まったのは連邦政府が自分の庁舎に課す基準で、民間建築物が各州で適用を受けるモデルコード(ASHRAE 90.1・IECC)とは系統が違います。ただし、HUD(住宅都市開発省)とUSDA(農務省)が融資する住宅については、2024年4月26日にこの2省が行った「2021年版IECCとASHRAE 90.1-2019を採用する」という最終決定が、2026年5月1日付で撤回されています(本文の第05節)。なおASHRAE 90.1-2025に対するDOEの判定(determination)については、当社は一次資料で確認できていません。

日本の官庁施設の基準は、今後も厳しくなる方向ですか。

少なくとも現時点の基準は、米国とは逆方向に動いてきました。令和4年3月28日の改定(適用は同年4月1日から)で、事務庁舎の新築に求める水準がZEB Oriented相当以上(事務所等・学校等・工場等でBEI0.6、それ以外は0.7)へ引き上げられています。改定前は延べ面積300㎡以上がBEI0.9以下(低炭素基準)、300㎡未満がBEI1.0以下(省エネ基準)でした。今後については、国のライフサイクルカーボン制度の中間とりまとめが示したロードマップに「官庁施設の環境保全性基準改定によるLCCO2算定(2027予定)」という項目が入っています。ただしこれはロードマップ上の予定であって、改定の内容も時期も確定したものではありません。

こうした海外の動きは、どこを見れば分かりますか。

米国の制度改正については連邦官報(Federal Register)が一次資料です。無償のAPIが公開されていて、省庁・期間・キーワードで検索でき、全文テキストのURLまで取得できます(これは当社が実際に使って確認した範囲の説明です)。解説記事ではなく原文に当たれるのが利点です。当社は毎週、EU・英国・ドイツ・フランス・米国・韓国・シンガポール・オーストラリアなどの一次資料を巡回しており、その中で拾った項目を記事にしています。日本の制度については国土交通省と建築研究所の公表資料を平日ごとに確認しています。

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法律が基準の効力を住宅都市開発省の採用に結びつけた。日本の仕組みとの比較。

米国の省エネ基準と「費用の物差し」

DOEの費用対効果の計算方法の見直しと、IECCの基本版・上乗せ版への分割。

フランスは新築のガスを「79g/kWh」で止めます

排出量79g/kWh超のボイラーを新築時に設置禁止。住宅2027年・公共2028年・その他2030年と、日本のBEIとの違い。

EUは建物のCO2の数え方を法令で決めました

委任規則2026/52。参照期間50年、必須16・任意3のモジュール、日本のJ-CATとの違い。

ライフサイクルカーボンの届出が義務になります

建築物通算炭素排出量評価の中身と、J-CATでのLCCO2の計算のしかた。

海外の省エネ計算とLEED・CASBEEの最新動向

EPBDの期限、欧州9か国のエンボディドカーボン規制、米ASHRAE・IECC、認証制度の対応。

日本と海外の省エネ基準を比較する

窓のU値・BEIの基準年・気候区分・義務化範囲。評価の枠組みがどこで違うか。

英国は計算プログラムの切替をこう決めた

SAP 10.3とHEMの24か月併走、6か月前予告。版が変わるときの決め方。

非住宅の省エネ計算

2026年4月のBEI引き上げと、3つの計算方法の選び方。

Sources — 出典

米連邦官報「Repeal of Fossil Fuel Restrictions for New Federal Buildings and Major Renovations of Federal Buildings」(2026年9月2日・91 FR 56371・FR Doc. 2026-17979)。表1、表4の2026年9月2日の行、表5、第01節・第02節・第04節の記述は、この資料の本文によります。
米連邦官報「Clean Energy for New Federal Buildings and Major Renovations of Federal Buildings」(2024年5月1日・89 FR 35384・FR Doc. 2024-08196)。表2、表3、第03節の記述は、この資料のSUMMARY欄・DATES欄・第I章A節のTable I-1、および第III章A節1(Federal Buildings)・同節3b(Exemptions and Exceptions)・規則条文 §433.200・§435.200 によります。
米連邦官報「Rescission of Final Determination: Adoption of Energy Efficiency Standards for New Construction of HUD- and USDA-Financed Housing」(2026年5月1日・FR Doc. 2026-08531)。表6と第05節の記述は、この資料のSUMMARY欄・第I章・第II章A・第II章B(Litigation)・第III章のRescissionの節によります。
国土交通省大臣官房官庁営繕部「官庁施設の環境保全性基準」(令和7年改定・平成23年3月31日 国営環第5号/最終改正 令和7年3月14日 国営環第1号)。表7と第06節の水準・LCCO2等の規定は同基準2.3、「特定事務庁舎」の用語の定義は1.2(3)、修繕・模様替への不適用は附則1によります。
国土交通省「脱炭素社会の実現に向け、官庁施設整備においてZEB化を推進!~「官庁施設の環境保全性基準」を改定しました~」(令和4年3月28日・報道発表資料)。表8の改定前後の水準と、ZEB Oriented相当以上の算式は、この報道発表資料によります。
国土交通省 官庁営繕「ZEB化の推進」。現行の政府実行計画を「令和7年2月閣議決定」としているのは、このページの記載によります。
※本記事の英文資料の訳(表1の引用、表5の大統領令の表題、第01節の「一次資料の書きぶり」)はすべて当社の試訳であり、公式の日本語訳ではありません。原文の確認が必要な場合は上記の連邦官報のリンクをご参照ください。
※この告示は「廃止(Repeal)」ではなく「停止(stay)」です。Repeal の語が使われているのは表題で(RIN 1904-AG17 は識別番号そのものです)、ACTION欄は Notification of stay、本文が行っているのは適用開始日の延期で、10 CFR 433 subpart B・435 subpart B は連邦規則集に残っています。なお「その後に廃止の告示が出ていない」ことは、当社が2026年9月14日時点で連邦官報を検索した範囲の確認であり、収録した一次資料そのものが示す事実ではありません。
※2027年3月1日以降にどうなるかは、一次資料に書かれていません。本記事は予測を書いていません。
※ASHRAE 90.1-2025に対するDOEの判定(determination)については、当社は一次資料で確認できていません。本記事はこの点について何も述べていません。
※2024年の最終規則の附属書A(用途別・気候区分別の目標値)の個別の数値は、本記事では扱っていません。本記事が表2に示したのは、法律(42 U.S.C. 6834)が定める会計年度ごとの削減率です。
※第06節の「官庁施設の環境保全性基準改定によるLCCO2算定(2027予定)」は、国のライフサイクルカーボン制度の中間とりまとめが示したロードマップ上の予定であり、改定の内容も時期も確定したものではありません。出典は当社の2026年9月3日の記事に記載しています。
※表9の各制度の一次資料は、それぞれのリンク先の記事に記載しています。2028年度・令和10年度はいずれも「目途」または改正案の段階の数字で、確定した施行日ではありません。
※第07節・第08節は当社の実務判断による整理であり、一次資料にそのまま書かれているものではありません。
※10 CFR part 433 は連邦の業務用建築物・中高層共同住宅、part 435 は連邦の低層住宅を対象とする規則で、いずれも新築と大規模改修の両方を扱います(89 FR 35384 第III章)。
※本記事は2026年9月14日時点で確認できた内容です。

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