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断熱範囲図の書き方 — 断熱ラインは一周して閉じる。外気・外気に通じる空間・隣接住戸・地盤で扱いが変わることを示す模式断面
Insulation Boundary Drawing

断熱範囲図の書き方
断熱ラインの決め方と、記載する項目。

断熱範囲図は、建築物省エネ法で様式が定められた図面ではありません。制度上求められているのは省エネ計画とその根拠となる図書であり、外皮の位置と仕様が図面から追えることが実質的な要件です。だからこそ、何をどこまで描くかで審査のやりとりの長さが変わります。このページでは、断熱ラインをどこで切るか、平面図と断面図の役割分担、記載すべき項目、共同住宅や非住宅での違い、そして実際に指摘されやすい点を、省エネ適合判定員である一級建築士の視点で整理しました。

この記事の対象住宅・非住宅の省エネ計算に携わる設計者の方 / 断熱範囲図をこれから作る方、指摘を受けた方
扱う範囲断熱ラインの決め方、記載項目、用途別の違い、よくある指摘 / 具体的な数値基準は各公表資料をご確認ください
監修一級建築士/省エネ適合判定員 / 一級建築基準適合判定資格者検定(建築主事)合格
作成のご依頼根拠図の作成のみでも承ります / お見積りは無料です

01 — SECTION

断熱範囲図とは何のための図面か

名称が独り歩きしがちな図面ですが、役割は明確です。外皮計算の入力の一行一行が、図面のどこを指しているのかを示すこと。この一点に絞って考えると、描くべき情報が決まります。

01

様式が決まった図面ではありません

断熱範囲図は、建築物省エネ法で様式が定められた図面ではありません。制度上求められているのは省エネ計画とその根拠となる図書であり、外皮の位置と仕様が図面から追えることが実質的な要件です。裏を返せば、何をどこまで描くかは作成する側に委ねられています。この自由度が、審査のやりとりの長さを分けます。範囲を塗り分けた一枚があるだけで、審査側は外皮の位置を目で追えるようになり、面積の拾い方についての確認が減ります。逆に、矩計図の断熱仕様だけを頼りに読み取ってもらう作り方では、質問が増えやすくなります。

02

計算の入力値と図面をつなぐための図です

外皮計算では、部位ごとに面積、熱貫流率、方位、温度差係数の区分を入力します。断熱範囲図の役割は、この入力の一行一行が図面のどこを指しているのかを示すことにあります。したがって、図の上に部位の記号を振り、計算書の行と同じ記号で対応させておくと、確認の手間が大きく減ります。設計変更が入ったときにも、どの行を直せばよいかが図から逆引きできるようになりますので、作成の目的を意匠表現ではなく突合のための索引と考えておくと、描くべき情報が自然に決まります。

03

審査で最初に見られるのは範囲が閉じているかどうかです

断熱ラインは、暖冷房する空間を外側から包む一周の線です。平面と断面の両方で閉じていなければ、どこかに評価されていない部位が残っていることになります。実務でよく途切れるのは、階が変わる部分、セットバックした外壁の下、ピロティやオーバーハングの上下、屋上に出る階段室やエレベーター機械室の周囲です。作図の段階で、鉛筆を紙から離さずに一周できるかを確かめる、という見方をしておくと、抜けに気づきやすくなります。

04

省エネ適合性判定だけの図面ではありません

同じ図は、BELS、住宅性能評価、住宅金融支援機構の技術基準、各種の補助事業でも根拠として使えます。東京都建築物環境計画書制度では、断熱材の発泡剤に関する取組を示す資料として断熱範囲図を用いる場面もあります。手続ごとに一から作り直すのは非効率ですので、最初に作る一枚を、複数の提出先で通用する情報量に整えておくのが結果的に早くなります。どの制度に出す可能性があるのかを着手前に伺っているのは、この見込みを立てるためです。

02 — SECTION

断熱ラインをどこで切るか

断熱ラインは、暖冷房する空間を外側から包む一周の線です。迷いが生じるのは、外気でも室内でもない中間の空間に接する部分と、地盤に接する部分です。

01

外気に直接接する部分

外壁、屋根、外気に接する床が該当します。判断に迷うことは少ない部分ですが、屋根と天井のどちらで断熱するのかによって、範囲に含める面積と勾配の扱いが変わります。屋根断熱であれば小屋裏は室内側、天井断熱であれば小屋裏は室外側になりますので、断面図でどちらを採用しているかを明示しておきます。パラペットの立ち上がりや、屋上に設けた設備基礎の周囲は、断熱の連続が途切れやすい箇所です。

02

外気に通じる空間に接する部分

小屋裏、天井裏、床裏、共同住宅の開放廊下や外部階段、パイプスペースやEPSのように外気に通じている空間に接する部分は、外気に直接接する部分とは温度差係数の区分が変わります。同じ厚さの壁でも、反対側に何があるかで扱いが変わるということです。図の上では、この区分ごとにハッチや色を変えておくと、計算書の入力と照らし合わせたときに食い違いがすぐ分かります。係数の値そのものは、国立研究開発法人建築研究所が公表している評価に関する技術情報でご確認ください。

03

隣接住戸や隣接する室に接する部分

共同住宅では、隣接する住戸との界壁や界床の扱いが、住戸単位で評価するのか住棟として評価するのかで変わります。評価の単位を決めないまま作図に入ると、後から範囲を引き直すことになります。非住宅でも、空調する室と空調しない室が隣り合う場合には、その間仕切りをどう扱うかを決めておく必要があります。倉庫、駐車場、機械室のように空調しない用途が建物の一部に入る計画では、この線引きが外皮面積に効いてきます。

04

地盤に接する部分と基礎まわり

土間床、基礎の立ち上がり、地下に接する壁が該当します。基礎断熱とするか床断熱とするかで断熱ラインの位置が変わりますので、採用する方式を図の上で明示します。基礎断熱の場合は、立ち上がり部分の断熱材と、底盤側へ水平に折り返す断熱材の位置と寸法が計算の前提になりますので、部分詳細で示しておきます。土間床等の外周部の熱損失と基礎壁の熱損失の扱いには技術基準上の定めがありますので、採用する評価方法にあわせて図の表現を決めます。

05

浴室の下部や玄関土間など扱いが分かれる箇所

浴室の下部、玄関土間、勝手口まわりは、断熱の連続をどこで確保するかの判断が分かれやすい箇所です。ユニットバスの断熱を前提にするのか、基礎側で断熱するのかによって、図の描き方も計算の入力も変わります。こうした箇所は、判断の根拠を図中の注記として一行残しておくと、審査で問われたときにその場で答えられます。後から思い出して説明を組み立てるより、作図の時点で書いておくほうが、結局は速く終わります。

06

ピロティ、オーバーハング、エキスパンションジョイント

ピロティやオーバーハングの上にある居室の床は、外気に接する床として扱う必要があります。平面図の上では床の存在が見えにくいため、抜けやすい部位の代表格です。エキスパンションジョイントで分かれている場合や、既存棟に増築する場合は、どこまでを評価の対象とするのかを最初に決めます。範囲の境界は、図中に線種を変えて明示しておくと、見落としを防げるうえに、審査側の理解も早くなります。

07

開口部は別に拾います

窓や玄関ドアなどの開口部は、外皮計算では壁とは別に、建具ごとの熱貫流率と日射熱取得率で評価します。断熱範囲図では、開口部の位置と符号を示すにとどめ、性能値は建具表で管理するのが混乱の少ない分担です。そのうえで、建具表の符号と図の符号が一致していることを確認します。ここがずれていると、面積の合計は合っているのに個別の性能値が違う、という発見しにくい不整合が生まれます。

03 — SECTION

図面に記載する項目

様式が決まっていないぶん、記載項目は目的から逆算して決めます。審査側が外皮の位置と仕様を追えること、そして自分たちが変更に追随できること。この二つを満たす最小限が目安です。

01

断熱材の種類、厚さ、熱伝導率

部位ごとに、断熱材の種類、厚さ、熱伝導率を記載します。熱伝導率は製品によって差がありますので、メーカーと品名まで特定できる形にしておくと、計算の根拠として説明しやすくなります。同じ厚さでも品種が変われば性能が変わりますので、施工段階での差し替えが起きたときに、どの数値に影響するかがすぐ分かる状態にしておくことが大切です。

02

区分ごとの塗り分けと凡例

外気に接する部分、外気に通じる空間に接する部分、隣接住戸に接する部分、地盤に接する部分を、ハッチや色で塗り分け、凡例を必ず添えます。凡例のない塗り分けは、作成者以外には読み取れません。色数は増やしすぎず、白黒で印刷しても区別できるパターンを併用しておくと、紙で審査される場合にも耐えます。

03

部位記号と計算書の対応

図の上に振った部位記号を、外皮計算書の行に対応させます。この一手間があるかどうかで、審査のやりとりの回数が変わります。記号の付け方は、階、方位、部位種別が読み取れる規則にしておくと、変更が入ったときの追跡が容易になります。

04

方位と真北

外皮計算では方位が日射の評価に効きますので、図には真北を明示します。意匠図の見かけ上の北と真北が異なる計画では、この一点で計算結果が変わります。真北の根拠がどこにあるのかも、あわせて示しておくと安全です。

05

断面図での上下方向の連続

平面図で各階の範囲を示し、断面図で上下の連続を示します。断面は建物の代表的な位置に一本、断熱ラインが折れる部分にもう一本、という程度でも効果があります。屋根と外壁の取り合い、最下階の床と基礎の取り合い、階段室やシャフトが階を貫く部分は、断面で示さないと連続が確認できません。

06

変更履歴と作成日

設計変更のたびに図を更新し、版と作成日を記載します。省エネ計算の根拠図は、適合性判定のあとも、軽微な変更の判断や完了検査の場面で参照されます。どの時点の設計に対応する図なのかが分からない状態は、後々の説明を難しくします。

04 — SECTION

審査で指摘されやすい点

実際に手戻りが起きるのは、難しい判断を誤ったときよりも、図と計算のどちらか一方だけを直したときです。よく出る指摘を先回りしておくと、やりとりの回数が減ります。

01

平面と断面で断熱ラインが合っていません

最も多い指摘です。平面図では断熱範囲に含めているのに、断面図では断熱材が描かれていない、あるいはその逆、という食い違いです。両方を別々のタイミングで作図すると起こりやすいので、平面を確定させてから断面を起こす、という順序を守るだけでも減らせます。

02

区分が図から読み取れません

塗り分けはしてあるものの凡例がない、あるいは外気に接する部分と外気に通じる空間に接する部分が同じ表現になっている、というケースです。計算書では温度差係数の区分が分かれているのに、図では区別がつかないと、面積の内訳を確認するために追加の説明を求められます。

03

図の断熱厚さと計算の入力値が違います

設計の途中で断熱厚さを見直したときに、計算書だけ、あるいは図面だけを直してしまうことで生じます。断熱範囲図を計算書との索引として扱っていれば、どちらか一方だけを直すことは起こりにくくなります。変更が入った時点で、影響する図書を一覧にして確認する運用にしておくのが確実です。

04

基礎まわりの表現がありません

基礎断熱を採用しているのに、立ち上がりと折り返しの寸法が図に現れていない、という指摘です。部分詳細を一つ添えるだけで解消しますので、作図の段階で入れておくことをお勧めします。

05

最新版でない図が提出されています

版の管理が曖昧なまま提出され、審査の途中で設計が進んでしまうケースです。図に版と日付を入れ、提出したものと手元のものが同じであることを確認してから出す、という基本が効きます。断熱範囲図を含む根拠資料の整備は、省エネ計算の代行の業務範囲に含まれます。

05 — FAQ

よくあるご質問

断熱範囲図は、省エネ適合性判定で必ず提出しなければならない図面ですか。

断熱範囲図という名称の図面は、建築物省エネ法で様式が定められたものではありません。提出が求められるのは省エネ計画とその根拠となる図書であり、外皮の位置と仕様が図面から追えることが実質的な要件になります。そのため、意匠図の矩計図や平面詳細図に断熱仕様が十分に描き込まれていれば、別に一枚を起こさずに済むこともあります。一方で、共同住宅や複合用途のように断熱ラインが階ごとに入り組む計画では、専用の一枚を用意したほうが審査のやりとりが明らかに短くなります。審査機関や所管行政庁によって求められる資料の粒度は異なりますので、計画の複雑さと提出先の運用の両面から判断しています。

断熱ラインは、どこで切るのが正しいのでしょうか。

断熱ラインは、暖冷房する空間を外側から包む一周の線として考えます。判断が分かれるのは中間の空間です。外気に直接接する部分のほかに、小屋裏や天井裏、床裏、開放廊下、パイプスペースのように外気に通じている空間に接する部分があり、さらに共同住宅では隣接する住戸に接する部分があります。これらは外皮計算上の温度差係数の区分が変わりますので、同じ壁でもどちら側に何があるかで扱いが変わるということです。値そのものは、国立研究開発法人建築研究所が公表している評価に関する技術情報でご確認いただくのが確実です。図面上は、この区分ごとに塗り分けておくと、計算書との突合が一目でできる状態になります。

平面図だけで断熱範囲図を作ってもよいですか。

平面図だけでは足りない場面が多いというのが実感です。断熱ラインは立体として閉じている必要があり、階が変わる部分、セットバック、ピロティやオーバーハングの上下、屋上に出る階段室の周囲では、平面図の上では線が途切れて見えます。平面図で各階の範囲を示し、断面図で上下方向の連続を示す、という役割分担にしておくと、閉じていない箇所が自分でも見つけやすくなります。審査で最初に確認されるのも、範囲が閉じているかどうかである場合が多いです。断面は建物の代表的な位置で一本、加えて断熱ラインが折れる部分でもう一本、という程度でも効果があります。

基礎まわりは、どのように描いておけばよいですか。

基礎断熱とするのか床断熱とするのかで、断熱ラインの位置が土間側に来るか床側に来るかが変わりますので、まずどちらを採用するのかを図の上ではっきりさせます。基礎断熱の場合は、立ち上がり部分の断熱材と、底盤側へ水平に折り返す断熱材の位置と寸法が計算の前提になりますので、部分詳細で示しておくと後の説明が楽になります。土間床等の外周部の熱損失と基礎壁の熱損失の扱いには技術基準上の定めがありますので、採用する評価方法にあわせて図の表現を決めます。浴室の下部や玄関土間のように、扱いが分かれやすい箇所は、判断の根拠を図中の注記として残しておくことをお勧めします。

共同住宅と非住宅では、断熱範囲図の作り方は変わりますか。

変わります。共同住宅では、住戸ごとに外皮性能を評価するのか、住棟として評価するのかで、隣接住戸との界壁や界床を範囲に含めるかどうかが変わります。住戸タイプが多い計画では、タイプごとの断熱範囲を別に示したほうが、後の指摘対応まで含めて早く終わります。非住宅では、標準入力法を用いる場合に室ごとの用途と空調の有無が入力の前提になりますので、断熱の範囲に加えて空調室と非空調室の区分を同じ図の上で示しておくと有効です。モデル建物法では入力の粒度が粗くなりますが、外皮の仕様と面積の根拠が問われる点は変わりません。

断熱範囲図の作成だけをお願いすることはできますか。

はい、承っております。省エネ計算を他社で進めている案件について、根拠図だけをお預かりすることも可能です。ただ、図と計算の前提がずれていると、図を整えたことがかえって指摘のきっかけになることがありますので、計算書と入力条件もあわせてご提供いただき、突合したうえで作成しています。意匠図から断熱仕様を拾い直す作業からお引き受けすることもできます。お見積りは無料ですので、図面一式と現在の進み具合をお知らせください。範囲を段階に分けたご提案も可能です。

06 — RELATED

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