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ニュージーランドの断熱基準H1の改正。住宅の参照建物の壁のR値は2.0から1.6に下がった。壁の熱抵抗は枠材の比率を38%以上と仮定して計算するルールに変わり、国は求める水準は変わらないと説明している。旧版を使えるのは2026年11月26日まで
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ニュージーランドが断熱基準を改正|
参照建物の壁のR値は2.0→1.6、それでも「水準は変わらない」理由

ニュージーランドは2025年11月27日、建築基準の断熱・省エネの規定(H1)に適合させるための文書4本を改正しました。部位ごとの仕様表(スケジュール法)を廃止して計算法とモデリング法に絞り、住宅の簡易計算で比べる相手=参照建物の壁のR値を2.0から1.6に下げました。 数字だけ見ると基準が緩んだように見えますが、所管のMBIE(ビジネス・イノベーション・雇用省)は「求める省エネ・断熱の全体の水準は変わらない」と書いています。 鍵は、同時に入った「壁の枠材の比率を38%以上と仮定して熱橋を数える」ルールです。旧版を使えるのは2026年11月26日まで。原典の新旧を読み比べ、日本の外皮計算と何が同じで何が違うのかを整理しました。

この記事の要点

① 改正されたのは H1/AS1・VM1(住宅と300㎡以下の建物)と H1/AS2・VM2(300㎡超の住宅以外の建物)の4本。新版は2025年11月27日から有効で、旧版は2026年11月26日まで、2026年11月27日より前の申請に使える。空調設備の H1/VM3 は今回の改正の対象外。 ② 部位ごとの最低R値の表で適合させるスケジュール法(日本の仕様基準に近い方法)を廃止。理由は「画一的な表は、他の方法より費用がかかることがある」(2025年7月の発表)。 ③ 住宅の簡易計算(AS1)の参照建物の壁のR値は、全気候区分で2.0→1.6。屋根・床・窓の値は変わらない。 ④ 壁の熱抵抗は枠材比率38%以上と仮定して計算するルールに変わった(旧版では、まぐさ・窓台や出隅の追加の縦枠などを計算から除いてよかった)。MBIEは、この変更に伴って参照建物の壁のR値も下げたと説明している。 ⑤ 屋根・壁・床の面積は室内側の仕上げ面で測った内法寸法(内部の間仕切りの厚さを含む)で測る。共同住宅は建物全体で1つの外皮としても、住戸ごととしても計算してよい。 ⑥ シミュレーション(VM1)では、住宅のプラグ負荷の既定の発熱密度を24.5→13.5 W/㎡に下げるなど、計算の仮定も直した。

01何が、いつ変わったか

ニュージーランドの建築基準(Building Code)は性能規定で、H1 は「省エネルギー」の条項です。その適合を示す方法として、国が適合みなし解(Acceptable Solution=AS)と検証方法(Verification Method=VM)を発行しています。AS・VMは建築法2004の第22条(1)に基づく文書で、これに従えば H1 の該当部分に適合したものとして扱われます。AS・VM以外の方法で適合を示す道(代替の方法)も残っています。

2025年11月27日に改正されたのは、次の4本です。どの文書も、序文で「新版はそれより前に出された建築確認(building consent)の申請には適用しない」「旧版は2026年11月26日まで使え、2026年11月27日より前に出された申請に使える」と書いています。

表1|改正された H1 の文書と、旧版を使える期限

文書対象方法新版(有効日)旧版が使える期限
H1/AS1すべての住宅と、在室空間が300㎡以下の住宅以外の建物簡易計算(外皮の熱損失を参照建物と比べる)第6版(2025年11月27日)第5版改正1:2026年11月26日まで
H1/VM1同上シミュレーション(年間の暖房負荷+冷房負荷を比べる)第6版(同)第5版改正1:同上
H1/AS2在室空間が300㎡を超える住宅以外の建物簡易計算(外皮)+給湯・照明第2版(同)第1版改正1:同上
H1/VM2在室空間が300㎡を超える住宅以外の建物シミュレーション(外皮)第2版(同)第1版改正1:同上
H1/VM3商業建築の空調設備設備の設計の検証第1版改正1(2025年7月28日)今回の改正の対象外

出典:MBIE「H1 Energy efficiency」のページ、各文書の序文(Document status)と適用範囲(1.1)。対象は主なものを示しました。住宅以外は用途(共同居住・集会(介護)・商業など)の条件があり、箔断熱の建物には AS1・VM1・AS2・VM2 を使えないなどの適用除外もあります。H1/VM3 は2025年7月28日の改正版が現行で、旧第1版は2026年7月31日まで使えるとされていました。

大事なのは、経過措置が申請日で区切られていることです。AS・VMを使って適合を示す場合、2026年11月27日より前に申請した案件は旧版を適合の確認に使えますが、11月27日以後の申請には新版を使います。設計の途中で年をまたぐ案件は、どちらの版で計算するかを申請時期から逆算しておく必要があります。

02経緯:仕様表(スケジュール法)をやめた

改正の出発点は、2024年に行われた H1 の見直しです。MBIEは、建物を建てるときの初期費用と長期の便益の釣り合いを取り直す余地があると判断し、2024年12月から2025年2月まで意見募集を行いました。

そのうえで2025年7月3日、スケジュール法を適合ルートから外すと発表しました。スケジュール法は、屋根・壁・床・窓などの部位ごとに、気候区分別の最低R値を表で示す方法です。MBIEはこれを「画一的(one-size-fits-all)なやり方で、他の適合方法より費用がかかることがある」と説明し、計算法とモデリング法のほうが「効果的で安く、1棟ごとに合わせやすい」、新築住宅1棟で最大1万5,000ドル(NZドル)の節約になったとしています。同じ発表には「建築基準の省エネ・断熱の全体の要求は変わらない」とも書かれています。

2025年11月27日の改正の発表では、変更点として次の5つが挙げられました。

この発表も「求める省エネ・断熱の全体の水準は変わらない」と明記し、12か月の移行期間を2026年11月26日までとしています。なお2025年7月の発表では、温暖な最北部(Far North)を断熱基準上の別の気候区分にすることも検討するとしていましたが、新しい AS1 の気候区分の表では、Far North 地区は気候区分1のままです。

03壁のR値が2.0から1.6に下がった理由

住宅の簡易計算(AS1 の計算法)は、計画している建物の外皮の熱損失(W/K)を、同じ屋根・床の面積をもつ参照建物の熱損失と比べ、それ以下であれば適合とする方法です。参照建物の熱損失は、部位ごとに「面積÷R値」を足し合わせる式で決まっていて、壁の面積の70%を壁、30%を窓として扱います。この式の分母のR値を新旧で並べると、次のようになります。

表2|住宅の簡易計算(AS1)の参照建物のR値:旧版と新版(単位:㎡K/W)

気候区分屋根+天窓壁(壁面積の70%)土間床その他の床窓(壁面積の30%)
1・2・36.6 → 6.62.0 → 1.61.5 → 1.52.5 → 2.50.46 → 0.46
46.6 → 6.62.0 → 1.61.5 → 1.52.8 → 2.80.46 → 0.46
56.6 → 6.62.0 → 1.61.6 → 1.63.0 → 3.00.50 → 0.50
66.6 → 6.62.0 → 1.61.7 → 1.73.0 → 3.00.50 → 0.50

出典:H1/AS1 第5版改正1 表2.1.3.4A(p11)、第6版 表2.1.2.7(p10)。気候区分の例は、オークランドが1、ウェリントン市は3、クライストチャーチ市は5、クイーンズタウン・レイクス地区は6です(第6版 附属書C 表C.1.1.2)。R値は表面熱抵抗を含む部位全体の熱抵抗で、熱貫流率に直すとR2.0は0.50、R1.6は約0.63 W/㎡K です(当社の換算)。

変わったのは壁だけです。ではなぜ壁だけ下げたのか。答えは、壁のR値の出し方の変更にあります。

旧版(第5版改正1)は、枠組壁のR値について「縦枠・胴つなぎ・上枠・下枠の影響は含めるが、まぐさ・窓台、それを支える追加の縦枠、出隅や取り合い部の追加の縦枠は除いてよい」としていました(2.1.4.3)。開口まわりや角に集まる枠材の熱橋は、計算に入れなくてよかったわけです。

新版(第6版)は、枠組壁のR値を求めるときに枠材比率(wall framing fraction)を38%以上と仮定するよう求めています。これより低いことを示せる場合だけ、低い比率を使えます(2.1.3.1)。枠材比率は「断熱材と同じ面にある枠材が、壁の正味面積に占める割合」と定義されています。あわせて、熱橋を含む部位の熱抵抗の計算に使うニュージーランドの規格 NZS 4214 の一部(熱橋部分の範囲の取り方)を、AS1 の中で書き換えています(2.1.3.2)。

枠材を多めに数えれば、同じ断熱材を入れた同じ壁でも、計算上のR値は多くの場合下がります。MBIEは AS1 第6版の「この版の主な変更」で、枠材による典型的な熱橋をより適切に扱うよう枠組壁の熱抵抗の出し方を改め、その結果として参照建物の壁のR値も下げたと説明しています。参照建物を2.0のままにしておけば、出し方の変更だけで同じ壁が不利になる場面が増えると考えられます(当社の読みです)。たとえるなら、物差し(壁のR値の出し方)を変えたのに合わせて、目盛り(参照建物の値)も動かした改正です。ただし、影響が建物ごとにちょうど打ち消し合うとまでは、MBIEは書いていません。

「1.6」を日本の数値と並べるときの注意

R1.6(熱貫流率で約0.63)は、壁の最低値ではなく、参照建物の熱損失を計算する式の中の値です。屋根や窓との足し引きで外皮全体を比べるための値なので、部位ごとの基準値とは性格が違います。日本の住宅の仕様基準では、4〜7地域の木造・鉄骨造の戸建住宅の壁の熱貫流率は0.53(省エネ基準)、0.44(誘導基準)ですが(国交省「住宅の仕様基準・誘導仕様基準について」p7)、気候も熱橋の数え方も違うので、どちらが厳しいかを数字だけで判断することはできません。

04簡易計算のルールの新旧

壁のR値以外にも、簡易計算(AS1)のルールはいくつか変わっています。原典の新旧を並べます。

表3|住宅の簡易計算(AS1)のルール:旧版と新版

項目旧版(第5版改正1・2022年8月4日)新版(第6版・2025年11月27日)
適合の方法スケジュール法/計算法/VM1計算法/VM1(スケジュール法は削除)
窓の面積の上限計算法は窓が壁の面積の40%以下のとき同じく40%以下
部位ごとの最低R値屋根・壁・床は、参照建物の式の該当部位のR値の50%以上屋根R2.6・壁R1.0・土間床以外の床R1.3と数値で規定。土間床の最低値はなくなった
枠組壁の熱橋まぐさ・窓台・追加の縦枠などは計算から除いてよい枠材比率38%以上と仮定(低いことを示せる場合を除く)
面積の測り方(計算法の本文に、屋根・壁・床の面積の測り方の一般的な規定は見当たらない)屋根・床・壁とも室内側の仕上げ面で測った内法寸法。内部の間仕切りの厚さも含めて測る
共同住宅・複合用途(1つの外皮か複数の外皮かを選ぶ明文の規定は見当たらない)1つの外皮でも、住戸ごと・用途ごとの複数の外皮でもよい
床暖房などの部位最低R値の表を適用同じ値を適用。ただし浴室・シャワー室・便所だけに設ける場合は適用しない

出典:H1/AS1 第5版改正1 2.1.1・2.1.3.2・2.1.3.8・2.1.4.3(p8〜p13)、第6版「この版の主な変更」(p3)・2.1.2.2〜2.1.2.12・2.1.3.1(p8〜p12)。旧版で面積の取り方を定めているのは、当社が確認した範囲では土間床の附属書F(面積と周長の比を、内法寸法で求める方法と外法寸法から求める方法がある)だけです。

最低R値は、旧版では「参照建物の値の50%」という相対値でした。当社の計算では、屋根は6.6の半分のR3.3、壁は2.0の半分のR1.0、土間床以外の床は気候区分1〜3で2.5の半分のR1.25です。新版は屋根R2.6・壁R1.0・土間床以外の床R1.3と直接書いたので、屋根の下限が下がり、土間床の下限はなくなり、壁は変わっていません。部位どうしの足し引きは旧版でもできましたが、その下限が変わったことになり、MBIEの言う「断熱の要求に融通を持たせる」の中身の一つです。

面積の測り方を内法にそろえたことも、実務では効きます。外法で測るか内法で測るかで外皮面積が変わり、熱損失の合計も変わるからです。MBIEは、この変更の狙いを「測り方の一貫性を高めるため」と説明しています。

05共同住宅は「1つの外皮」でも「住戸ごと」でもよい

新しい AS1 は、共同住宅について「建物全体を1つの外皮として扱っても、住戸ごとに別の外皮として扱ってもよい」と書きました(2.1.2.3)。複数の外皮として扱う場合は、外皮ごとに別の建物とみなして計算します。さらに、空調される空間どうしを仕切る壁・床(住戸と住戸の間、用途と用途の間)は外皮に含めないと定め、これらは断熱の要求がなく、熱損失の計算にも入れないとしています(2.1.2.4)。シミュレーションの VM1 にも、外皮の取り方について同じ趣旨の規定があります(2.2.1.5・2.2.1.6)。ただし VM1 では、住戸ごとに少なくとも1つの熱ゾーンを設け、ゾーン間の熱の移動もモデル化します(2.2.6.1・2.2.6.6)。

日本の現行ルールとは向きが逆です。日本では2022年11月7日の改正で、それまで単位住戸の外皮基準と並んで選べた共同住宅の住棟単位(全住戸平均)の外皮基準が廃止され、単位住戸の外皮基準に統一されました(国交省「共同住宅等の外皮性能の評価単位の見直し及び住宅の誘導基準の水準の仕様基準(誘導仕様基準)の新設について」p3)。日本ではいま、妻側の住戸や最上階・最下階の住戸も、それぞれ単独で基準を満たす必要があります(詳しくは「共同住宅の外皮|仕様基準と性能基準」)。ニュージーランドは、日本が改正前に持っていた選択肢に近い形を、今回新たに明文化したことになります。ニュージーランドの簡易計算(AS1)で建物全体を1つの外皮として計算すれば、条件の厳しい住戸の不利を、条件のよい住戸の余裕で埋める計算になると考えられます(当社の読みです。原典が定めているのは、1つの外皮として評価してよいというところまでです)。

06シミュレーション(VM1)は計算の仮定を直した

VM1 は、計画建物と参照建物の年間の暖房負荷と冷房負荷の和をシミュレーションで比べる方法です。設備の効率は評価に入りません。今回の改正では、参照建物の壁のR値を AS1 と同じ1.6に下げたうえで、シミュレーションの仮定がいくつも見直されました。

表4|住宅のシミュレーション(VM1)の主な仮定:旧版と新版

項目旧版(第5版改正1)新版(第6版)
参照建物の壁のR値2.01.6
参照建物の窓の日射熱取得率数値の規定なし0.55(計画建物は計画どおり)
気象データ敷地の気候を最もよく代表する観測所の、10年以上の期間にもとづく平均年国立水・大気研究所(NIWA)の標準年データ(またはその変換データ)に限定
住宅の通風(冷房の前)室温24℃で自然換気(外気が室温より低いとき)室温が22℃から上限(25℃以下)の間で、室温が外気温より高いときは、開閉できる窓などによる通風を計算
住宅のプラグ負荷の内部発熱24.5 W/㎡13.5 W/㎡
住宅の在室者の内部発熱150W(床面積50㎡まで)+50㎡を超える部分に3 W/㎡2.5 W/㎡
住宅の在室者の発熱にかける係数(平日0〜8時)1.0(100%)0.7
既定の仮定を変える場合計画建物・参照建物の両方に同じく適用同じく適用したうえで、変えた項目と理由を解析の報告書に書く

出典:H1/VM1 第5版改正1 D.1.5.1(p21)・D.3.1.1(p23)・表D.5.1.1・表D.5.1.2A(p25)、第6版 2.2.4.1(p11)・2.2.5.1(p12)・表2.3.1.2(p14)・2.3.3.4(p15)・2.4.1.1(p16)・表2.5.3.1・表2.5.3.1A(p18)。暖房18℃以上・冷房25℃以下、換気0.5回/h(住宅)などは新旧で同じです。

とくに大きいのは室内で出る熱(内部発熱)の見直しです。住宅のプラグ負荷(家電などの発熱)の既定の発熱密度は24.5から13.5 W/㎡へ、4割以上小さくなりました。この値に時間帯別の係数を掛けて、計算に使う内部発熱を求めます。内部発熱が小さくなれば、一般に冬の暖房負荷は大きく、夏の冷房負荷は小さく出ます。計画建物と参照建物の両方に同じ値を入れるので判定は相対的ですが、計算の前提が変わるため、断熱性能の違いが暖冷房負荷に与える影響も変わり得ます。

「基準値は同じでも、計算の仮定を変えれば結果は変わる」という点は、日本の住宅の一次エネルギー消費量の計算でも同じで、計算の前提が見直されれば同じ住宅の値が動きます。

07300㎡を超える建物(AS2・VM2)も同じ方向

在室空間が300㎡を超える住宅以外の建物(事務所・店舗など)を対象にする AS2・VM2 も、同じ日に同じ方向へ改正されました。参照建物の壁のR値は、気候区分ごとに次のように下がっています。AS2 と VM2 で同じ値です。

表5|300㎡を超える建物(AS2・VM2)の参照建物の壁のR値(単位:㎡K/W)

気候区分123456
旧版2.22.42.73.03.03.2
新版1.92.02.12.32.32.4

出典:H1/AS2 第1版改正1 表2.1.2.2B(p8)、第2版 表2.1.2.8(p10)。H1/VM2 第2版 表2.3.1.2(p14)も同じ値です。屋根・床・窓とドアの値は新旧で変わっていません。

AS2 では、スケジュール法の廃止に加えて、計算法で足し引きできる部位が広がりました。旧版の計算法は壁・窓・ドアの間でしか融通がきかず、屋根・床・天窓は最低R値で縛られていましたが、新版は屋根・壁・床・窓・ドア・天窓の全部を1本の熱損失の式で比べ、屋根と床の最低R値を撤廃しました(床暖房などの部位の最低値は残ります)。

VM2 では、参照建物の窓を日射熱取得率0.35とし、照明は計画建物と同じ負荷と使用時間を参照建物にも入れることにしました。旧版は、参照建物の照明を規格(NZS 4243 Part 2)の許容値とするか、それより小さい計画建物の照明負荷とするかを選べたので、許容値を選べば省エネ照明の分だけ参照建物との差が生まれました。新版では、照明の入力条件で両者に差を設けません。さらに、空調設備をシミュレーションでモデル化する必要がなくなり、年間の暖冷房負荷だけで判定します。空調設備の効率は VM3 で、給湯・照明は AS2 の別の章などで、それぞれ別に確かめる仕組みです。

日本の非住宅の省エネ基準への適合(適合義務)は、一次エネルギー消費量の基準(BEI)で判定し、外皮の性能は空調のエネルギーを通じて反映されます(「非住宅建築物の省エネ基準と省エネ計算」)。ニュージーランドの VM2 は、外皮は負荷で、設備は別の文書でと、確かめる対象を文書ごとに分けています。

08日本の実務から見て、何が参考になるか

1. 熱橋の数え方は、そのまま部位の数字を動かす。日本の木造住宅の外皮計算でも、面積比率法を使う場合は熱橋部分の面積比率が工法ごとに決められていて、外壁は軸組構法の柱・間柱間に断熱する場合が0.17、枠組壁工法のたて枠間に断熱する場合が0.23です(建築研究所「住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラムに関する技術情報」3-3 Ver.27・表4)。ニュージーランドの38%とは数え方の定義が同じではないので、数字を直接比べることはできません。ただ、熱橋の見積り方の取り決めが変われば、同じ壁でも計算結果が変わるという構図は同じです。外皮計算の結果が想定と違うときは、断熱材より先に、熱橋の扱いと計算方法の前提を確かめるのが近道です。

2. 仕様基準をなくす国と、残す国。ニュージーランドは、部位ごとの仕様表を「費用がかかることがある」として適合みなし解から外し、計算法とモデリング法を残しました。日本は、住宅の省エネ基準とZEH水準の両方に仕様基準(計算しないで部位の仕様で確かめる方法)を用意しています(国交省「住宅の仕様基準・誘導仕様基準について」)。計算すれば部位ごとの配分に自由が生まれる点は日本でも同じで、当社の共同住宅の検討例でも、性能基準なら必要な断熱厚さが住戸の位置によって変わりました(「共同住宅の外皮」)。

3. 版の切り替えは、申請日で区切られる。ニュージーランドは、新版の公表から12か月の移行期間を置き、申請日で新旧を分けました。日本でも計算プログラムの版が改定されるたびに、どの版で審査されるかが実務の論点になります(「省エネ計算プログラム Ver.3.11.0 の公開」)。今回のニュージーランドの改正でも、計算方法の変更と、移行期間・「どの日で区切るか」がセットで示されています。

テトでは、住宅・非住宅の外皮計算と一次エネルギー消費量の計算を、図面からお引き受けしています。断熱の配分を変えた案の比較や、熱橋の扱いを含めた外皮計算の見直しもご相談ください(省エネ計算 代行)。

09よくあるご質問(FAQ)

壁のR値が2.0から1.6に下がったのは、基準が緩くなったということですか。

ニュージーランドのビジネス・イノベーション・雇用省(MBIE)は、求める省エネ・断熱の全体の水準は変わらないと説明しています。下がったのは、簡易計算で比べる相手(参照建物)の壁のR値です。同時に、壁の熱抵抗を計算するときに枠材の比率を38%以上と仮定するルールが入りました。MBIEは、枠材による典型的な熱橋をより適切に扱うよう壁の熱抵抗の出し方を改め、その結果として参照建物の壁のR値も下げたと説明しています。ただし、影響が建物ごとにちょうど打ち消し合うとまでは書いていません。

旧版はいつまで使えますか。

AS1・VM1・AS2・VM2 の旧版は2026年11月26日まで適合の証明に使え、2026年11月27日より前に出した建築確認(building consent)の申請に使えます。新版は2025年11月27日から有効で、それより前に出された申請には適用されません。これらの文書を使って適合を示す場合、経過措置は工事の時期ではなく申請日で区切られています。

スケジュール法とは何ですか。なぜ廃止されたのですか。

部位ごと(屋根・壁・床・窓など)に気候区分別の最低R値を表で定め、それを満たせば適合とする方法で、日本でいう仕様基準に近いものです。MBIEは2025年7月の発表で、表に合わせる画一的なやり方は、他の方法より費用がかかることがあると説明し、廃止を決めました。同じ発表では、計算法とモデリング(シミュレーション)法を使うと新築住宅1棟で最大1万5,000ドル(NZドル)の節約になったとしています。

「枠材比率38%」とは何ですか。

壁の正味面積のうち、断熱材と同じ面にある枠材(木や鋼の柱・横架材など)が占める割合です。新しいAS1は、枠組壁の熱抵抗を求めるとき、これより低いことを示せる場合を除いて、38%以上と仮定するよう求めています。旧版では、まぐさ・窓台や、それを支える追加の縦枠、出隅・取り合い部の追加の縦枠を計算から除いてよいとされていました。

共同住宅は、住戸ごとに計算しなければなりませんか。

新しいAS1とVM1では、共同住宅は建物全体を1つの外皮として計算しても、住戸ごとに別の外皮として計算してもよいとされています。空調される住戸どうしを仕切る壁・床は外皮に含めず、H1の外皮の評価では所定の熱抵抗を求めず、AS1の熱損失の計算にも入れません。シミュレーションのVM1では、住戸ごとに少なくとも1つの熱ゾーンを設け、ゾーン間の熱の移動もモデル化します。日本では2022年11月7日の改正で、それまで単位住戸の基準と並んで選べた住棟単位(全住戸平均)の外皮基準が廃止され、単位住戸の外皮基準に統一されました(国交省「共同住宅等の外皮性能の評価単位の見直し…について」)。今回のニュージーランドの改正は、日本が改正前に持っていた選択肢に近い形を新たに設けたことになります。

日本の外皮計算にも影響がありますか。

ニュージーランドの改正が日本の基準や計算方法を直接変えることはありません。ただ、日本の木造住宅の外皮計算でも、面積比率法では熱橋部分の面積比率が工法ごとに決められていて(軸組構法の柱・間柱間断熱で0.17、枠組壁工法のたて枠間断熱で0.23。建築研究所の技術情報 Ver.27)、この取り決めがそのまま壁の熱貫流率を左右します。熱橋の数え方を変えると同じ壁の数字が変わる、という点は日本の実務でも同じです。

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Sources — 出典・参考資料

MBIE(ニュージーランド ビジネス・イノベーション・雇用省)「Increasing the flexibility of H1 energy efficiency」(2025年11月27日)
MBIE「Making buildings more affordable by changing Building Code insulation requirements」(2025年7月3日)
MBIE「H1 Energy efficiency」(現行文書と旧版の有効期間の一覧)
MBIE「Acceptable Solution H1/AS1 Sixth Edition」(p2・p3・p8〜p12・p21)/同 Fifth Edition Amendment 1(p8〜p13)
MBIE「Verification Method H1/VM1 Sixth Edition」(p10〜p18)/同 Fifth Edition Amendment 1(p23・p25)
MBIE「Acceptable Solution H1/AS2 Second Edition」(p3・p6〜p11)/同 First Edition Amendment 1(p7〜p10)
MBIE「Verification Method H1/VM2 Second Edition」(p3・p14〜p18)/同 First Edition Amendment 1
MBIE「Verification Method H1/VM3 First Edition Amendment 1」(2025年7月28日)
建築研究所「住宅に関する省エネルギー基準に準拠したプログラムに関する技術情報 3-3 一般部位の熱貫流率」Ver.27(2026年10月)表4
国土交通省「住宅の仕様基準・誘導仕様基準について」(p7)
国土交通省「共同住宅等の外皮性能の評価単位の見直し及び住宅の誘導基準の水準の仕様基準(誘導仕様基準)の新設について」(令和4年11月7日公布・施行。p3)
※ MBIE のサイト(building.govt.nz)は自動取得ができないため、当社は Internet Archive に保存された同じURLの版で原文を確認しました。熱貫流率への換算、旧版の最低R値の計算、共同住宅の1外皮計算の読み、第8節の整理は当社によるものです。

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