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英国のClean Heat Market Mechanism=ボイラーを売るメーカーに、販売台数の一定割合のヒートポンプ設置を求める制度。目標は2025/26年度の6%から、2030/31年度に18%へ上げる案
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英国は、ボイラーを売るメーカーにヒートポンプの普及目標を課しています|
2030/31年度に18%へ上げる案と、日本の給湯器の新制度との違い

英国のエネルギー安全保障・ネットゼロ省(DESNZ)は2026年10月12日、「Clean Heat Market Mechanism(クリーン熱市場メカニズム。以下 CHMM)」の見直し案を公表し、11月8日まで意見を募集しています。 CHMMは、ガスや石油のボイラーを売るメーカーに、ボイラーの販売台数に応じた数の「ヒートポンプの設置クレジット」を確保させる制度で、2025年4月に始まりました。 今回の案は、目標をボイラー販売台数の9%(2027/28年度)から18%(2030/31年度)まで4年分まとめて決め、これまで数えなかった新築住宅のヒートポンプも数えるというものです。 日本でも、給湯器のメーカーに化石エネルギー消費量の目標を課す制度が2027年4月1日に施行されます。根拠の規則と意見募集の資料を読み、英国の制度の仕組みと、日本の制度との違いを整理しました。

この記事の要点

① CHMMで義務を負うのは、英国でガスボイラーを年2万台以上、または石油ボイラーを年1,000台以上売る一定規模以上のメーカー。住宅をつくる側(建築主・設計者)には義務はない。 ② 目標は「ボイラー販売台数(ガスは19,999台、石油は999台を超える分)×比率」で決まる。比率は2025/26年度が6%、2026年4月からは8%(規則を改めない限り8%のまま)。足りない分は1単位500ポンドを支払う。 ③ 今回の案は、比率を9%→12%→15%→18%(2027/28〜2030/31年度)とし、制度の期間を2029年3月末から2032年3月末まで延ばすもの。ヒートポンプの設置台数に換算すると、各年度の上限の目安は約11.8万〜23.6万台。 ④ これまでは既存の建物への設置だけを数え、新築向けのボイラーも分母から除いていた。案は2027/28年度から新築住宅へのヒートポンプ(MCS認証)も数える。ただし目標値は改修だけで達成できる水準に置いたとしている。 ⑤ 数えるのは暖房をまかなう温水式のヒートポンプだけ。空気-空気ヒートポンプ(ルームエアコンと同じ方式)は対象外のままとする案。 ⑥ 日本では給湯器の新制度の政令(政令第321号)が2027年4月1日に施行される。ワーキンググループの取りまとめでは、メーカーが2034年度の化石エネルギー消費量の目標を自ら立てて公表する仕組みが示されており、英国の「国が比率を決め、不足分を支払う」仕組みとは違う。対象機器も、日本は給湯器、英国は暖房用のヒートポンプ。

01何が公表されたのか

2026年10月12日(月)、DESNZは意見募集「Clean Heat Market Mechanism: revisions ahead of the 2027/28 scheme year(2027/28制度年度に向けたCHMMの見直し)」を公表しました。資料は全17頁で、締切は11月8日(日)、対象地域は英国全体(イングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランド)です。質問は24問あります。

背景にあるのは、2026年1月に公表された住宅の改修計画「Warm Homes Plan」です。資料によると、この計画は2030年までにヒートポンプの設置を年45万台超に増やすことを掲げており、そのうち約25万台を既存住宅の改修で見込んでいます。CHMMは、補助金(Boiler Upgrade Scheme)と並んで、この目標を市場の側から支える制度と位置づけられています。

CHMMの目標はこれまで1年ずつ決めてきました。今回は、メーカーが投資の計画を立てやすいように、2027/28年度から2030/31年度までの4年分の目標をまとめて決めることを提案しています。英国の制度年度は4月1日から翌年3月31日までで、日本の年度と同じ区切りです。

02CHMMの仕組み:だれに、何を求めるのか

CHMMの根拠は、2023年エネルギー法(Energy Act 2023)に基づく「The Clean Heat Market Mechanism Regulations 2025(S.I. 2025/81)」です。2025年4月1日に施行され、英国全体に適用されます。規則は制度の目的を「制度参加者に低炭素熱の目標を課すことで、英国内でのヒートポンプの設置を促す」と書いています。

ここでいう「制度参加者」は、ボイラーのメーカーです。規則の「supplier」は、ボイラーを製造した(または製造させた)事業者で、英国内で販売するときのブランド名や商標を持つ事業者を指します。工務店や設置業者、住宅の建築主ではありません。

表1|CHMMの主な決まり(現行の規則)

項目内容
義務を負う者制度年度中にガスボイラーを2万台以上、または石油ボイラーを1,000台以上販売するメーカー(企業グループ単位でも判定)。あわせて、制度年度の開始前に終わった直近の事業年度(企業グループは責任事業者の事業年度)に、売上高・貸借対照表の合計額・従業員数のうち2つ以上が会社法(Companies Act 2006)の小会社の基準(単独の事業者は第382条(3)、企業グループは第383条(4)の合計値)を超えていることが条件
対象のボイラー天然ガス・LPGを燃やすボイラー、または灯油など所定の暖房用油を燃やすボイラーで、出力70kW以下のもの。国外で設置されるものと、設置の前に使用・居住されていない建物(新築)に設置されるものは、販売台数に数えない
目標の計算(ガスボイラーの販売台数のうち19,999台を超える分)×比率+(石油ボイラーの販売台数のうち999台を超える分)×比率。合計の端数は、0.5未満を切り捨て、0.5以上を切り上げて整数にする。比率は2025/26年度が6%。2026年4月1日以降の制度年度は、規則を改めない限り8%
クレジットメーカーは、自社のヒートポンプが既存の建物に設置されるごとに1クレジットを得る(ボイラーと組み合わせるハイブリッドは0.5)。設置の記録は認証制度 MCS(Microgeneration Certification Scheme)の登録情報による。ボイラーを売らないヒートポンプメーカーもクレジットを得て、他社に譲渡できる
提出と支払い制度年度の終了後、10月1日までに目標と同じ数のクレジットを管理者(環境庁 Environment Agency)に提出。足りない分は1単位500ポンドを11月30日までに支払う
繰越し達成できなかった目標の一部を翌年度に繰り越せる。上限は「目標の35%」と「300単位(ガスボイラーの参加者)または50単位(石油ボイラーだけの参加者)」の大きい方。現行の最終年度(2028/29年度)からは繰り越せない。繰り越した分は、その翌年度に満たす必要があり、その翌年度から繰り越せる35%の計算には含めない
持越し繰越しや支払いを使わずに目標を満たしてなお余ったクレジットは、提出義務の直前に登録簿上で保有していた数の10%まで翌年度以降に持ち越せる(制度参加者ではないヒートポンプの供給者は、その年度に得た数の10%まで)。ただし、現行の最終年度(2028/29年度)に提出されなかったクレジットは失効する
制度の期間2025年4月1日〜2029年3月31日の4制度年度

出典:The Clean Heat Market Mechanism Regulations 2025(S.I. 2025/81)の第2条(定義)・第3条〜第5条・第9条・第12条・第13条・第25条〜第28条、同 (Amendment) Regulations 2025(S.I. 2025/1208)第8条(比率6%→8%・2026年4月1日施行)。年間2万台・1,000台に少し届かない事業者(ガス15,000〜19,999台、石油750〜999台)には登録の義務があります(第10条・第14条)。規模の判定に使う「直近の事業年度」は、監査済みの決算書(監査が不要なら決算書)がある直近の年度で、規模の判定が変わった場合は、変更後の判定が2制度年度連続したときに反映されます(第9条(3)〜(5))。表は当社の要約で、細かい条件は原文をご確認ください。

仕組みを一言でいえば、「ボイラーを売った台数に比例して、ヒートポンプの設置を数で求める」ものです。自社でヒートポンプを売って設置を増やしてもよいし、他社からクレジットを買ってもよいし、足りない分を500ポンドで払ってもよい。比率と単価を国が決めることで、ボイラーを売り続けるほど負担が増える形になっています。

03目標の推移と、今回の案

今回の意見募集の中心は、2027/28年度以降の比率です。これまでの2年と、提案された4年を並べます。

表2|CHMMの目標(ボイラー販売台数に対する比率)

制度年度比率ヒートポンプの設置台数に換算した目安・根拠
Year 1(2025/26年度)6%S.I. 2025/81(施行時の規則)
Year 2(2026/27年度)8%S.I. 2025/1208 で改正(2026年4月1日施行。規則を改めなければ2027/28年度以降も8%)
Year 3(2027/28年度)9%(案)最大 約118,000台
Year 4(2028/29年度)12%(案)最大 約157,000台
Year 5(2029/30年度)15%(案)最大 約197,000台
Year 6(2030/31年度)18%(案)最大 約236,000台

出典:意見募集の資料 p7「Proposed trajectory of low-carbon targets」、S.I. 2025/1208。台数は資料の「up to」の値で、各年度の対象ボイラーの販売台数と、メーカーが使う柔軟措置(繰越しなど)によって変わると書かれています。

あわせて、制度の期間を2029年3月31日から2032年3月31日まで3年延ばす案が示されています。目標を決めるのは2030/31年度までで、最後の2031/32年度の目標は「しかるべき時期に設定しうる」とされています。

メーカーの負担を和らげる措置は、ほぼ今のまま続ける案です。

新しい提案として、英国内のヒートポンプ製造への投資をクレジットに結びつける案(SCRIP:供給網の強靭化・投資計画)も示されました。今の検討では、1,000万ポンド以上の新規投資の約束、または科学に基づく削減目標の枠組み(SBTi)への加入とその維持を条件に、適格な計画を提出した参加者に1社1回限りで1万クレジットを与え、そのクレジットは特定の年度にひも付けず、複数の年度に分けて使えるとしています。背景には、Warm Homes Plan が掲げる「英国で設置されるヒートポンプの70%に向けて、国内のヒートポンプと部品の製造を大きく広げる」という目標があります。条件や代わりの方法も意見募集の質問になっています。

04新築住宅のヒートポンプも数える案

建築に携わる立場から見て、いちばん関係が深いのはこの提案です。

現行の規則では、クレジットになるのは「設置の前に使用・居住されていた建物」へのヒートポンプの設置だけです。つまり新築住宅に入れたヒートポンプは数えない。その代わり、新築に設置されるボイラーも販売台数に数えないので、新築向けの販売は目標にも実績にも入らない形になっています。

意見募集の資料は、その理由を「イングランドのFuture Homes Standard/Future Buildings Standardと、各地域の政府が独自の日程で導入する同様の規制が、新築の市場の伸びを十分に後押しすると考えたため」と説明しています。新築の普及は建物の基準に任せ、CHMMは既存住宅の暖房の入れ替えに集中させる、という役割の分け方です。

今回の案は、この線を一部動かします。

表3|新築住宅の扱い:現行と今回の案

項目現行の規則今回の案(2027/28年度から)
新築住宅へのヒートポンプクレジットにならないMCS認証の設置ならクレジットになる
新築向けのボイラー販売台数(目標の分母)に数えない引き続き数えない(新築市場からボイラーが段階的になくなっていくため、入れると計画が複雑になる)
目標値の考え方—新築からの上積みを前提にせず、改修だけで達成できる水準に設定したとしている

出典:意見募集の資料 p9〜p10「Extending the awarding of credits to heat pump installations in new buildings」、S.I. 2025/81 第2条(excluded sale の定義)・第5条。

政府は、成長の速い新築の分野に力を入れるメーカーもあることから、目標を達成する道を増やすための措置だと説明しています。あわせて、新築住宅のヒートポンプはMCS認証を受けていないものが一定の割合あるとし、クレジットが認証を受ける動機になれば、施工の品質と、住まい手の信頼を高める効果も期待できるとしています。

英国の新築住宅の基準そのものは、当社の別記事「英国は計算プログラムの切替をこう決めた」「英国は住宅の太陽光の設置量を棟ごとの計算式で定めました」で整理しています。今回の案は、建物の基準で新築からボイラーを減らしながら、機器メーカーへの目標でも新築のヒートポンプを数えるという、両方からの後押しに近づくものです(この整理は当社の読み方で、資料にそう書かれているわけではありません)。

05クレジットの対象になる機器、ならない機器

日本の読者がいちばん驚くのは、たぶんここです。英国の規則は、単独で設置するヒートポンプ(stand-alone heat pump)について、次の条件をすべて満たすことを求めています(S.I. 2025/81 第3条)。

ボイラーと組み合わせるハイブリッドの場合は、ヒートポンプの部分が上の箇条のうち最初の5つ(燃やせない・液体に熱を移す・45kW以下で電気の圧縮機・液体で暖房・新品)を満たし、液体で暖房するボイラーなどを含むシステム全体で、建物の暖房と給湯の需要の全部をまかなえることが条件です(第4条。単独型の「合計70kW以下」の条件はかかりません)。さらに、設置の側にも、英国内の既存の建物への設置であること、法令に合った工事であること、MCSに所定の情報が登録されていることが求められます(第5条)。

つまり数えるのは、温水をつくって放熱器(ラジエーター)や床暖房に送る、温水式の暖房用ヒートポンプだけです。意見募集の資料は、英国の既存住宅の約89%が温水式の暖房設備を持っていることを理由に、既存の建物の脱炭素の要になる技術はこの方式だとしています。

表4|CHMMでの扱い(今回の案)

機器扱い意見募集の資料での説明
空気-水・地中-水のヒートポンプ(家庭規模)対象(出力などの条件と設置の要件を満たすもの)既存住宅の脱炭素の要になる技術。CHMMは主にこの市場を育てることに集中する
ハイブリッド(ボイラー+ヒートポンプ)対象(0.5)規則上、1台あたり0.5クレジット(今回の資料では見直しの対象になっていない)
空気-空気ヒートポンプ対象外のまま今後数年の暖房の入れ替えに占める割合は小さいと見込まれる。英国内での製造もごく限られ、CHMMの参加者に大きな計画があるとは把握していない
蓄熱機能を持つ電気式の温水暖房機器(heat battery)対象外のまま空気-空気と同じく、普及に占める割合は小さいと見込む
熱供給網につなぐ住戸ユニット(HIU)対象外のままCHMMが熱供給網の方が向く建物で住戸ごとのヒートポンプを促すおそれへの懸念はあるが、今のところそうした証拠は見ていない

出典:意見募集の資料 p11〜p12「Qualifying heat pump installations」、S.I. 2025/81 第3条・第4条・第13条。空気-空気・heat battery・HIUの扱いは意見募集の質問(問14〜問20)になっており、確定ではありません。ハイブリッドの0.5は現行の規則の決まりです。

一方で、住宅の改修補助金(Boiler Upgrade Scheme)は、MCSの基準が整い次第、空気-空気ヒートポンプと、一部の heat battery(蓄熱機能を持つ電気式の温水暖房機器)にも対象を広げることが決まったと資料は書いています。補助金は広げ、メーカーへの目標は温水式に絞る、という使い分けです。

日本の住宅では、ルームエアコン、つまり空気-空気ヒートポンプで暖房する例が多く見られます(当社の実務上の印象です)。日本の住宅で暖房によく使われているルームエアコンは、英国のこの制度ではクレジットの対象になりません。「ヒートポンプ」という同じ言葉でも、国によって指している機器が違うことは、海外の数字を読むときに注意が要る点です。

06日本の給湯器の新制度と比べる

日本でも、機器メーカーに目標を課して家庭の設備を入れ替えていく制度が始まります。省エネ法の施行令を改正する政令第321号が2026年10月7日に公布され、2027年4月1日に施行されます。家庭用のガス温水機器と電気温水機器(給湯器)について、メーカーが化石エネルギー消費量の目標を立てる制度です。制度の中身は、当社の別記事「給湯器の省エネ規制が見直されます」で詳しく整理しています。

どちらも「建物ではなく機器メーカーに目標を課す」点は同じですが、目標の立て方も、対象の機器も違います。なお、日本の制度のうち政令で定められたのは、対象機器の範囲、勧告に関係する生産量・輸入量の要件、施行日で、目標年度・目安の値・対象外の機器などはワーキンググループの取りまとめの内容です。2026年9月29日に公表された意見募集の結果では、省令・告示の改正について別途意見募集を実施する予定とされています。

表5|英国のCHMMと、日本の給湯器の新制度

項目英国 CHMM日本 給湯器の新制度
根拠Energy Act 2023 に基づく規則(S.I. 2025/81)。2025年4月1日施行省エネ法の施行令(政令第321号で改正)。2027年4月1日施行
義務を負う者ガスボイラーを年2万台以上、または石油ボイラーを年1,000台以上販売する一定規模以上のメーカー家庭用の給湯器を製造・輸入する事業者(国の勧告の対象になる要件は、国内向けに出荷する生産量・輸入量で年3,000台)
目標の形国が比率を決める。対象のボイラー販売台数のうち所定の台数(ガス19,999台・石油999台)を超える分に比率を掛け、整数に丸めて必要なクレジットの単位数を出す(ハイブリッドは1台0.5なので、単位数と台数は一致しない)WG取りまとめでは、メーカーが自ら目標を立てて公表する。出荷する給湯器の化石エネルギー消費量(所定の係数で算定し、出荷台数で加重平均)。国の目安は1台・1人あたり5,605MJ
時間軸毎年度の目標(今回の案で2030/31年度まで)WG取りまとめでは、目標年度は2034年度(以後も毎年度守り続ける)。目標と取組の方針の公表は2027年度中
数える機器暖房をまかなう温水式のヒートポンプ(給湯だけの機器や空気-空気は数えない)給湯器(主な対象はガス・燃料電池・ハイブリッド・CO2冷媒のヒートポンプ・電気ヒーター。機器ごとに除外の条件があり、ヒートポンプ温水機器は暖房用を除く)
達成できないとき不足1単位につき500ポンドを支払う判断の基準に照らして必要があると認めるとき、国が勧告などを行う場合がある
新築の扱い現行は対象外。2027/28年度から新築のヒートポンプも数える案WG取りまとめでは、新築の戸建住宅・新築の共同住宅は、効率が十分に発揮される気候、一定の設置空間を要する給湯器を置ける可能性が高いこと、導入の経済合理性が認められる給湯需要の3つの要件をすべて満たせば「高効率給湯器の導入可能性が高い環境」に当たる

英国欄の出典:S.I. 2025/81、意見募集の資料。日本欄の出典:官報 令和8年10月7日(本紙第1803号)の政令第321号、家庭用温水機器判断基準ワーキンググループ取りまとめ(令和8年5月)、e-Gov 意見募集の結果(案件番号620126015)。日本の省令・告示の改正は、意見募集の結果(2026年9月29日)で「別途意見募集を実施する予定」とされています。

違いをまとめると、英国は「設置のクレジットの数」、日本は「化石エネルギー消費量の平均値」で目標を立てています。英国は、ボイラーの販売台数に比例した数のヒートポンプの設置(クレジット)を求め、クレジットの売り買い・繰越し・不足分の支払いで調整できます。日本は、ガス・電気をまたいで化石エネルギー消費量という一つの物差しで給湯器を比べ、出荷台数で加重平均した値の目標を立てて守ることを求めます。高効率給湯器(ヒートポンプ・燃料電池・ハイブリッド)の出荷が増えれば平均値が下がるので、結果として同じ方向に働きます(この比較は当社の整理です)。

もう一つの違いは暖房と給湯です。英国の既存住宅の約89%は温水式の暖房設備を持っており、CHMMは、温水で暖房するヒートポンプを数えます(単独型はそれ自体で、または化石燃料を使わない他の機器との組み合わせで、ハイブリッドはボイラーを含むシステム全体で、建物の暖房と給湯の需要の全部をまかなえることが条件)。日本の新制度は給湯に絞り、暖房は計算に含めません。住宅の設備の構成が違うので、同じ「ヒートポンプへの転換」でも、対象にする機器が違ってきます。

07設計者・建築主にとっての読みどころ

英国のCHMMは、英国でボイラーを販売するメーカーを対象とする制度です。そのうえで、日本の実務の目で見て役に立ちそうな点を3つ挙げます。

1. 設備は「建物の基準」と「機器の規制」の両方から決まっていく
英国では、新築は Future Homes Standard などの建物の基準で、既存住宅はCHMMや補助金で、それぞれボイラーからヒートポンプへの転換を進めています。日本でも、2027年4月から、給湯器のメーカーに目標を課す制度が始まります。設備を選ぶときに、建物の基準だけでなく、メーカー側の制度がどちらを向いているかを知っておくと、数年先の提案の傾向を読みやすくなります(当社の見通しです)。

2. 日本の新築は、メーカーの出荷先として「高効率給湯器」の対象に入っている
日本の新制度では、WG取りまとめの国の目安が、①高効率給湯器の効率が十分に発揮される気候の地域で、②設置に一定の空間を要する給湯器を置ける可能性が高い住宅(新築・既築の戸建住宅、または新築の共同住宅)で、③導入の経済合理性が認められる給湯需要が見込まれる世帯、という3つの要件をすべて満たす環境を「高効率給湯器の導入可能性が高い環境」とし、そこへは高効率給湯器を出荷するよう求めています。英国は新築を当初CHMMの外に置き、今回の案で数え始める段階ですが、日本は最初から新築を出荷の重点の候補に含めている点が違います。新築の計画では、貯湯タンクやヒートポンプユニットの置き場所を早い段階で確保しておくことが、これまで以上に大事になると当社は考えています。

3. 「ヒートポンプ」の中身を確かめてから比べる
海外のヒートポンプの普及の数字や制度を引くとき、英国の数字は温水式の暖房用、日本の給湯器の制度はエコキュートなどの給湯用、ルームエアコンはそのどちらでもない、というように、同じ言葉で別の機器を数えていることがあります。建築主に海外の事例を説明するときは、どの機器を数えた数字かを確かめておく必要があります。

なお、日本の住宅の省エネ計算で、仕様基準の給湯・温水暖房一体型の扱いは「仕様基準でも給湯・温水暖房一体型が使えます」で、共同住宅の一次エネルギーの組み立ては「共同住宅の一次エネルギー消費量」で整理しています。

08今後の日程と、まだ決まっていないこと

今回の資料は意見募集の段階の案で、比率・新築の扱い・対象機器・500ポンドの据え置き・SCRIPは、どれも確定していません。分かっている日程と、資料からは分からないことを分けておきます。

改正規則が公布されたら、この記事に追記します。

09よくあるご質問(FAQ)

英国のCHMMは、日本の住宅の省エネ計算に影響しますか。

CHMMは、英国でボイラーを販売するメーカーを対象とする英国の制度です。本記事で参照した資料には、日本の省エネ計算・省エネ適判・BELSの手順や基準値の変更に関する記載はありません。当社がこの記事で取り上げたのは、日本でも2027年4月から給湯器のメーカーに化石エネルギー消費量の目標を課す制度が始まるためです。建物の基準と機器メーカーへの規制の二本立てで設備を変えていくという流れを、英国の例で先に見ておくことができます。

メーカーが目標を達成できないと、どうなりますか。

根拠の規則(S.I. 2025/81)では、メーカーは制度年度ごとに、目標と同じ数のクレジット(規則上の名称は certificate)を管理者の環境庁に提出します。足りない分は、1単位あたり500ポンドを支払います(制度年度が終わった後の11月30日まで)。上限の範囲で、目標の一部を翌年度に繰り越すこともできます。今回の意見募集は、この500ポンドを2027/28年度から2030/31年度まで据え置く案です。

ルームエアコンのような空気-空気ヒートポンプも、クレジットの対象になりますか。

対象になりません。英国の制度でクレジットの対象になるのは、空気や地中の熱を水などの液体に移し、その液体で暖房する方式(温水式)のヒートポンプです。政府は今回も、空気-空気ヒートポンプと、蓄熱機能を持つ電気式の温水暖房機器(heat battery)を対象外とし続ける案を示し、その是非を意見募集の質問にしています。理由として、英国の既存住宅の約89%が温水式の暖房設備を持っていることと、空気-空気ヒートポンプの英国内での製造がごく限られていることが挙げられています。

新築住宅のヒートポンプは、なぜこれまで対象外だったのですか。

根拠の規則は、クレジットの対象を「設置の前に使用・居住されていた建物」への設置に限っています。意見募集の資料は、イングランドの Future Homes Standard/Future Buildings Standard や他地域の同様の規制が新築の普及を後押しすると考えたため、と説明しています。今回は、2027/28年度から新築住宅へのMCS認証の設置もクレジットを生む案ですが、目標値は改修だけで達成できる水準に置いたとしています。

日本の給湯器の新制度は、英国の制度と同じものですか。

メーカーに目標を課して設備の入れ替えを後押しする点は共通していますが、仕組みは違います。日本では政令第321号が2027年4月1日に施行されます。ワーキンググループの取りまとめでは、メーカーが2034年度に出荷する給湯器の化石エネルギー消費量(出荷台数で加重平均した値)の目標を自ら立てて公表し、国が達成を判定するとされています。省令・告示の改正は、2026年9月29日公表の意見募集の結果で、別途意見募集を実施する予定とされています。英国の制度は、国がボイラーの販売台数に対する比率を定めて必要なクレジットの数を決め、足りない分を1単位500ポンドで払う仕組みです。対象の機器も、日本はエコキュートなどの給湯器、英国は暖房をまかなう温水式のヒートポンプと異なります。

見直しの内容は、いつ決まりますか。

意見募集の締切は2026年11月8日です。資料には、寄せられた意見の概要を GOV.UK で公表すると書かれていますが、結論を出す時期は示されていません。制度の期間を延ばしたり目標を変えたりするには規則の改正が必要で、当社は改正規則が出た時点でこの記事に追記する予定です。

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Sources — 出典・参考資料

英 Department for Energy Security and Net Zero「Clean Heat Market Mechanism: revisions ahead of the 2027/28 scheme year」(2026年10月12日公表・締切 2026年11月8日)と、本文「consultation document」(全17頁。表2〜表4と第1節・第3節・第4節・第5節の記述はこの資料によります)
legislation.gov.uk「The Clean Heat Market Mechanism Regulations 2025」(S.I. 2025/81・2025年4月1日施行。表1はこの規則によります)
legislation.gov.uk「The Clean Heat Market Mechanism (Amendment) Regulations 2025」(S.I. 2025/1208・2025年11月18日制定。比率を6%から8%に改める規定は2026年4月1日施行)
官報 令和8年10月7日(本紙第1803号)「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律施行令の一部を改正する政令」(政令第321号・令和9年4月1日施行)
総合資源エネルギー調査会 省エネルギー小委員会「家庭用温水機器判断基準ワーキンググループ 取りまとめ」(表紙の日付 令和8年5月。表5の日本欄はこの資料と政令によります)
※英国の通貨はポンド(£)です。本記事では円に換算していません。

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